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引き返してもいいし、立ち止まってもいい。高田ゲンキのフリーランス論

FREENANCE 高田ゲンキ

2年間の会社員生活を経て2004年にフリーランスイラストレーターとして独立し、2012年からはドイツ・ベルリンを拠点に活動されている高田ゲンキさん。2018年にWebでのマンガ連載をまとめた『フリーランスで行こう!』を、2019年には『世界一やさしい フリーランスの教科書 1年生』を出版し、現在ではブログやYouTubeといった各種SNSを通じて、フリーランスを目指す人々に丁寧な情報発信をされています。その裏にある自身の幼少期から繋がる想い、そして海外移住を決めた驚きの理由とは? 貴重な一時帰国のチャンスを捉え、語っていただきました。

profile
高田ゲンキ(たかたげんき)
ベルリン在住のイラストレーター/漫画家。1976年生、神奈川出身。2004年にフリーランスとして活動開始。以来、フルデジタルの制作環境を活かして場所や業界慣習に囚われない自由なワークスタイルを確立。2012年に夫婦でドイツ移住。仕事術、ライフハック術、人生論などをブログやSNSでも発信中。一児の父。​
https://twitter.com/Genki119
https://genki-wifi.net/
https://www.youtube.com/c/takatagenki

ブランディングの必要性

FREENANCE 高田ゲンキ

現在一時帰国中とのことですが、日本にはどれくらい滞在されるんですか?(取材は5月中旬)

1カ月弱ですね。息子が今6歳で、この夏から小学生になるんです。で、ドイツって通学義務が厳しいんで就学すると夏休みにしか帰国できなくて、気候のいい時期にゆっくり帰ってこれるのは今年で最後なので家族で一時帰国しました。

なるほど。あとは久々の日本ということで、仕事の打ち合わせとかもあったり?

そうです。予定は入れないつもりだったんですけど、ツイッターで帰国してるのが広まってしまって(笑)。でも、人に会うのは好きですし、おかげで今回インタビューのお声がかかったりもしたんで、ツイートして良かったなと。

いえ、こちらこそありがとうございます! 高田さんがフリーランスとして独立されたのが2004年ということで、その頃、私も既にフリーライターとして働いていましたが、当時はフリーランスという言葉も今ほど一般的ではなかったですよね。

今とは世の中の捉え方が違いましたね。ただ、僕らの世代だと、みんな村上春樹の小説が好きで、主人公がだいたいフリーランスなんですよ。気ままに仕事をしているから、突然、非日常的なことが起きたときに首を突っ込んでいけるっていう、そうやって毎日通勤もせずにブラブラ生きる村上春樹的人生にちょっと憧れてたんですね。特に僕はマンガ家とかイラストレーターにずっと憧れて育ってきたので、フリーランスという言葉も身近でした。

その念願が叶い、最初はイラストレーターとして活動されていたのが、なぜ、フリーランスについて発信されるように?

独立したのが27歳の頃で、10年くらいはイラストだけやってたんですよね。で、10年ほど経つと40歳が見えてくるじゃないですか。フリーランスには「40歳の壁」っていう言葉があって、これは竹熊健太郎さんが書かれた本のタイトルなんですけど(※)、技術者やフリーランスの中には40歳で食いっぱぐれちゃう人もいるぞっていうことを表しているんです。その言葉を意識し始めたときに、イラスト仕事でB to Bの企業案件をやっているだけだと〆切に追われ続けるから、自分のスキルを売っていくだけじゃなく、自分自身をブランディングしたいなと考えるようになって。じゃあ、マンガをやろう、中学生くらいまではマンガを描いてたんで、まぁ、描けるだろうとなったんです。

※竹熊健太郎『フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?

マンガならスパンも長くなるし、印税だとかロイヤリティといった収入も望めますからね。

はい。それでブログとかで描いていたら、いくつか出版社から声がかかって、Webで連載を始めたんです。ただ、最初はフリーランスネタじゃなかったんですよ。せっかくドイツにいるからとベルリンのネタを描いたり、いろんなネタをやってたんですけど、そんなにバズらなくて。そうこうしてるうちに40歳になって、その次の日に息子が生まれたんです。で、育児が始まったら取材に行けなくなっちゃったんで、取材しなくてもいいネタを描こうとなったときに、一番手っ取り早いのは自分の昔話だなと。それでフリーランスとして独立する前後の話を描いたら、それまでの10倍以上も読まれたんですよ! ちょうど働き方改革が話題になったり、その少し前には“ノマド”という言葉が出てきたりしてたんで、タイミングが良かったんでしょうね。

憧れを追いかけて

FREENANCE 高田ゲンキ

フリーランスに対する潜在的需要があったということですよね。ただ、フリーランスって始めるのに決まったメソッドがあるわけではなく、私も含め、気づいたら流れでなっていた人が多い気がするんですよ。

ですよね。そういう意味では僕は割と珍しいタイプで、フリーランスに憧れて、なりたくてなった人間なんです。フリーランスになる前は地元神奈川の小さな広告会社で2年くらいDTPのデザイナーをやってたんで、都内のイケてるデザイン事務所に転職したらカッコいいんじゃないかとも思ったんですけど、デザイナーよりイラストレーターの方がなれる人が少ないじゃないですか。

確かに。ハードルは高く感じます。

だからデザイナーは後回しでいいかなっていうのと、会社員1年目に『MdN』というクリエイター向け雑誌で大寺聡さんのイラストに出会って、非常に憧れたんです。今、住まわれている鹿児島まで会いに行って、生活の様子を拝見して「こんなふうになりたい!」と思ったときに、イラストレーターという職業は99%フリーランスだから、まずはフリーランスだなって。あとは、何でもいいからMacを使う仕事をしたかったので、元々持っていた画力とDTPの技術を組み合わせるなら、イラストレーターだなということになったんです。そこから地元でデッサンの教室に通ったり、イラストレーターやフォトショップと自分の絵をどう混ぜていくのか?というところを研究して、1年くらい準備して。

今はマンガでさえデジタルで描かれる方がほとんどですけど、当時はデジタルのイラストというのも珍しかったんじゃありません?

そうですね。それこそ業界誌でも「デジタルイラストは是か非か?」みたいな議論がされてたような時代で、今で言うAIの扱い方と少し似てるかも。そこでアナログに固執してた人たちは、結局だいぶ淘汰されちゃいましたね。

今で言う「AI小説は是か非か?」みたいなものですね。そもそも海外を拠点にして仕事をするのも、当時は考えられなかったはず。

考えられないですね。やっぱり、イラストってPCのスペックがそこそこ必要なので。ただ、MacBook Airの頃に起動ディスクがHDからSSDに変わったおかげでPCが小型化して、初めてどこに行ってもできる目途がついたんです。で、ウチは奥さんもフリーランスだし、当時まだ子供もいなかったので、生活実験みたいな感じで大阪行ってみたりするうちに、海外移住もできるんじゃない?って。

FREENANCE 高田ゲンキ

いつか海外に住んでみたいとか、働きたいという憧れも、元からあったんでしょうね。

ありました。でも、一番の理由は育児ですね。当時、日本の教育には疑問があって、ここで子育てしたくないと思ったんです。あと、個人的な理由もあって……これは僕がフリーランスになりたかった深層心理にも通じるんですけど、僕、幼稚園から高校まで全部イジメに遭ってるんですよね。みんな同じような服を着て同じような髪型のなか、僕も同じにしているつもりなんですけど、必ず浮くんです。僕が何か言ったときだけシーンとしちゃうとか、いるじゃないですか?

空気読めない的な?

あ、そうです! 無意識に読み違えているというか、自分が意図しないところで誰かを傷つけたり、イラッとさせて、それがイジメに発展してしまう。まぁ、ある時点で僕にはそういう生き方しかないんだろうなと吹っ切れたし、だから協調性を必要とする会社員には向いてないんだなとわかったけれど、僕の遺伝子を受け継ぐ子どもも僕と同じような性質を持っている可能性があるじゃないですか。その子が同質性を求められやすい日本の学校で、僕と同じようにイジメに遭うのがうっすら想像ついたから、それは嫌だなぁと。だったらアメリカとかヨーロッパとか、多様性が尊重される国に行けばイジメにも遭いにくいんじゃないかと思ったんです。で、フリーランスの働き方を維持しながらビザが取れる国を探したらドイツしかなくて、行ってみたら10年経ってしまったという感じですね。

そこまで考えていたなんて、素晴らしい! そして生まれた息子さんは……いかがでした?

相当変人ですね! メチャクチャ可愛いですけど、自由奔放で子どもを対等に扱ってくれるドイツの幼稚園で育っちゃったせいか、「こんなに変な人いる?」ってくらいおかしい。去年の春、一時帰国して1カ月くらい滞在の予定が、戦争が始まっちゃって様子見で3カ月ほど日本にいたことがあったんです。その間に妻の実家近くの保育園に一時保育で受け入れてもらったんですけど、「意味の分からないルールが多すぎて腹が立つ! もう行きたくない!」って言いだして。

当時まだ5歳くらいですよね……?

そうです。お外に行きましょうってなったときに「僕、絵を描いてるから行きたくないです」って言ったら、「そんなワガママは許しません!」「じゃあ、なんで外に行かなきゃいけないんですか?」っていう会話に先生となったらしく。「みんなが行くから行くっておかしくない? パパ」って不満を3カ月言い続けてました。日本語は達者なんですけど、ちょっと性質的に日本社会は無理ですね(笑)。

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