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YouTuberやライバーも法律を知ろう! 高木啓成弁護士に聞いた、音楽・動画クリエイターの現状

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楽曲やパフォーマンス動画をWebで発表するのが当たり前の時代。「ボカロP」や「歌い手」、「YouTuber」に「ライバー」「ゲーム実況者」と、自らのクリエイティビティを世に問う選択肢が増えた一方で、知らないうちに法を犯してしまうリスクもあります。

そこで、トラブルを未然に防ぐための基礎的な法知識をクリエイターたちに共有してもらおうと刊行されたのが『弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール』(日本加除出版)です。

東京・渋谷に「渋谷カケル法律事務所」を構え弁護士として活動、作曲家としてもHKT48「Just a moment」など多数の楽曲提供を行っている著者、高木啓成さんにお話を伺いました。

profile
高木啓成(たかき ひろのり)
弁護士。第二東京弁護士会所属。作曲家としても活動しながら、映像・音楽制作会社、ゲーム制作会社、芸能事務所、アニメ関係会社、デザイン事務所といったクライアントの法律顧問を務める。テレビ出演、新聞・雑誌等のメディアへの寄稿、企業や団体の勉強会・クリエイター向けのイベント等での講演も積極的に行っている。
https://twitter.com/hirock_n
https://shibuyakakeru.com/

何よりも「わかりやすさ」に注力

まずこの本を書いた理由からお伺いできますか?

僕が弁護士として独立した2011年は、ライブやイベント出演を主な活動とする「地下アイドル」がブームだったんです。そういった事務所から契約についての依頼を受けるようになったのをきっかけに、音楽・動画クリエイターに仕事を依頼する側の企業と多く仕事をしてきました。
その一方で、自分が作曲家として活動していることもあり、クリエイターから法律相談を受けたり、クリエイターに向けた法律セミナーを行うようになったんです。
依頼する側・される側のどちらとも接してきて、もっとたくさんの人に、今のエンタテインメントにまつわる法律を知ってもらいたいと思うようになり、だったら本を書くのが早いなと。

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弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール

具体例をふんだんに挙げて文章もかみ砕いてあり、イラストも盛り込んで、とてもわかりやすく解説されています。

「わかりやすさ」は、もっとも重視した点です。原稿は、クリエイターの方々にも読んでもらって、伝わらない箇所は何度も書き直しました。セミナーでの経験から、図で説明すると興味を引いて理解度が増すことがわかっていたので、素人ですがイラストも自分で描いて(笑)。ページが文字で埋まっているよりは、親しみやすいかなと思いました。
目次も、 カバー曲の動画をYouTubeにアップしている方であれば、カバーやアレンジについて解説した部分をすぐ読めるよう、読者が興味のある箇所から拾い読みをしやすいように構成しています。

企業とクリエイター、双方の事情をよくご存じとお見受けします。

依頼のほとんどは企業側からですが、クリエイターの方が個人で相談に来られる場合もあります。音楽や動画の制作現場のことをある程度は理解していることが僕の強みかもしれませんね。
クリエイター個人から契約書作成などの依頼もあります。例えば、映像作品で流れる音楽を制作する「劇伴作家」はフリーランスの方も多いんですが、あるテレビ番組の劇伴を作ったとします。番組制作側との協議で、クリエイター自身がその劇伴音楽をCD販売や音楽配信できる場合があります。その場合、「原盤」は番組制作側から借りる形になるので、「原盤」の使用許諾契約を結んでおく必要があるんです。

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トラブルは法律についての理解度の低さから

拝読して、業界に携わっていても法律知識のない人は多いのでは?と思いました。

大きく分けて「出版」「原盤」なんていいますけど、出版は歌詞とメロディーの権利で、原盤は音源の権利ですね。そこを明確に分けるのは音楽業界では常識ですけど、じゃあ原盤権が著作権法上どういう権利を指しているのか、というところまで明快に説明できるかというと、怪しい人が多いんじゃないかと思います。

理解が及んでいないことによってトラブルが生じることは多そうですね。

そうですね。原盤を自由に利用できるようにするためには、レコード制作者だけの権利ではなくて、ギターやドラムなどといった楽器を演奏している「実演家」の権利についてもきちんと処理しておかないといけないんです。
実演家の権利は、禁止権である「狭義の著作隣接権」をはじめ、「報酬請求権」と「実演家人格権」の3つです。禁止権については「原盤の制作者に譲渡される」などと契約書に明記しておかないと、実演家から「そういう使い方はやめてくれ」と言われる可能性があります。

なるほど。今やパソコンを使って音楽を作る、いわゆる「DTM(ディーティーエム/デスクトップミュージック)」という手法が中心になっていて、「実演」の概念が変わってきていますし、いろいろと変化が起こっている最中ですよね。

作曲家が作った楽曲の編成や装飾を担当する「アレンジャー(編曲家)」は譜面を書いて納品するだけで、レコーディングの現場は「レコーディングディレクター」が仕切っていたものでしたが、今はアレンジャーがどちらも担うケースも多いようです。
作曲家も、昔はメロディーと簡単なコードを譜面に書くだけだったけれど、場合によってはアレンジャーが必要ないぐらい完成形に近いものをDTMで作って納品することもあります。「変化」といえば、動画プラットフォームの分野では、YouTubeのガイドラインを見てもどんどん変わっていっていますね。

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配信を行って収入を得ているYouTuberやライバー全盛の時代に必要とされる本でもあると思います。

ライバーと所属事務所のトラブルが最近とても多いんですよ。ライバーは個人でアカウントを作って配信をすることができますが、ライバー事務所は「SHOWROOM」や「17Live」などの動画配信プラットフォームと法人契約をしているので、所属すると同じ活動内容でより多くの報酬を得られたりします。
例えば、事務所がフリーランスのライバーに「うちに所属しないか」と声をかける。ライバーは、事務所に中間手数料を取られても個人で活動するよりは多くの報酬が得られるようになり、そこまではWin-Winなんですけど、「事務所をやめて、他の事務所に移籍したい」となっても、やめさせてもらえないというトラブルが多いんです。
アカウントを削除して別に作れば?と思われるかもしれませんが、これまでの実績がポイント制のようにアカウントにひもづけられているので、それを失ってしまうわけです。実体のない事務所があったりと、とにかくトラブルが多い「界隈」ですね。

本に載せた事例はほとんど相談から?

正式な法律相談からもありますし、「仮歌」を依頼している知人から受けた相談なども題材になっています。
レコード会社などは、所属アーティストの楽曲をいろんな作曲家から募って選考していたりするんですけど、そういったコンペに応募するためのデモ音源を作る際、依頼して歌ってもらうんですね。僕も仮歌をよくお願いしている方が何人かいまして。声優の卵や地下アイドルが副業として引き受けていることが多いので、ときどき相談を受けることがあります。

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作曲家としての経験が生きる

作曲家としての活動についても伺わせてください。音楽はいつごろから始めましたか?

高校時代にはバンドを組んで、ドラムを担当していました。音楽の専門学校に行こうと思ったこともありましたが、友人の影響などもあって大学に進み、今に至るといったところです。

当時から作曲も行っていたんですか?

はい。王道のロックというか、速い8ビートの楽曲ばかり作っていました。そのころはバンドブームだったので、CDの発売に合わせて、譜面が載ったスコア本も出てたんですよ。CDはレンタルしたり友達に借りたりして、自分はスコア本だけ買って。学校の行き帰りにそれを見ながら聴いて作曲や編曲を学びました。そのうちに自分でも作曲するようになり、パソコンの得意な友人に僕の書いた譜面を打ち込んでもらって「考えてたのと違うな……?」などと試行錯誤を繰り返していましたね。弁護士になってからは音楽活動から少し離れていたんですが、アニメ『けいおん!』を見て大いに感化されまして(笑)、もう一度本気で取り組んでみよう!と。

バンドではなくて、作曲だったというのが面白いですね。

最初はバンド活動もやってみましたが、社会人同士だと予定が合いにくく、続きませんでした。それからは自分ひとりで完結できるDTMに集中しました。
学生時代を振り返っても、もともとプレイヤーというより、クリエイター志向だったのかもしれません。再開当時はパソコンを使った曲の作り方が全くわからなかったので、ためしにカルチャースクールに通ってみたのですが、そこで教えてくださった先生に「目標ができていいんじゃない?」とすすめられたことから、先にお話したようなコンペに応募し始めたんです。初めて採用されるまでに5年かかりました(笑)。

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すごい! そういった背景を考えれば、エンタメまわりでの現在のご活躍も納得です。

意図していたわけではないですが……。いつの間にかそうなっていましたね。

エンタメまわりで、特に印象に残った事件はありますか?

ある人気バンドのギタリストから依頼を受けて、かつての所属事務所に対してパワハラの慰謝料などの支払を求めて提訴した事件があって、昨年、2年がかりでようやく解決したんですね。
一時は「もう音楽なんて絶対やりたくない」とおっしゃっていたんですが、心境の変化もあり、僕が過去にドラムをやっていたこともご存じだったので「一緒にやりませんか?」とお誘いいただいて。今年3月に復活ライブで共演させてもらいました。これはうれしかったですね。
音楽業界は狭い世界なので、紛争になるとどうしても仕事をしづらくなったりすると思うんです。事件についてだけでなく、再始動も含めてサポートできた、というのは自分の中では大きかった。

本のあとがきにもある通り、企業にマネジメントを委ねないクリエイター個人の活動はさらに盛んになると思います。法律や契約の問題もますます避けて通れなくなりますよね。

契約って一度締結すると拘束されるんですよ。例えば2年契約だと、2年間はそれに縛られて自由には動けなくなります。だからこそ慎重になるべきだと思いますし、相談できる窓口を持っておくことが重要だと思いますね。また、弁護士といえども、分野によって理解度には差がありますので、その分野に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

撮影/高浦宏幸

執筆者profile
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばで育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
https://twitter.com/tapiocahiroshi
https://www.tapiocahiroshi.com/
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