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ロマン優光(ロマンポルシェ。)が「誰よりも正しい」理由とは?

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

割り切れない部分の面白さ

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

わかりにくいまま知るのっていちばん大変じゃないですか?

でもいちばん面白いですよ。人間って生き物なんで、基本的な行動パターンにはそんなに大差ないんですよね。そういうところはもうすっ飛ばしちゃっていいんですけど、それでも残るものがあるじゃないですか、これはもう、なんでそうなるのかわからない。そのわからない部分を「あの人は変わり者」で片づけたら話が終わっちゃうから、細かく見ていきたいんですよ。気になってしょうがないから。

問題を細かく切り分けて、ひとつひとつについては決めきれると思うんですよ。その作業はやってると思います、自分の本では。何々を断罪したとも、断罪しないとも言われがちですけど、その人をほめてるから好きなわけでもないし、批判してるから嫌いってことでもないんだけど、って。

この人はいいとかダメだっていう言い方ではなくて……。

行為単位ですからね。行為への評価と人格に対するそれを切り分けられない人が多いんで、切り分けようとはしてます。猪木見てりゃわかりますよね(笑)。拳銃を密輸したら捕まるべきだと思うじゃないですか。犯罪だから。そこは白黒つくけど、「それはそれとして、猪木やっぱりかっこいいな」とも思うわけで。その割り切れない部分が大切だと思うんですよ。

プロレスラーでも芸能人でもバンドマンでも、すばらしいところと最悪なところをあわせ持った人はいっぱいいるから「それはそれ、これはこれ」で切り分けていくんですけど、いいところがあるからって、悪いところを許していいのかっていうと、いけないところもある。私的には許していいけど、公的には許されないこともあるし。どんなに好きな人でも、人を殺したら「一緒に警察行こうか」って言うしかない。「いざとなったら僕も一緒に捕まるから」ぐらいの覚悟でね。そこらへんを考えながら書いてます。

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

アンビバレンスを仔細に腑分けしつつも結論は出さないでおく、というのは精神的に疲れますよね。文章化するのはもっと大変だし。

俺はアイドルオタクもやってますけど、オタクって好きなアイドルのことを全肯定するんですよ。あれ見てると「んなわけないだろ」って(笑)。俺が好きなアイドルなんて、好きな理由を人前で言えないような人もいっぱいいますからね。「この人は世間を憎んでいて、すぐ他のメンバーを妬んで悪口を言ったりして心が狭くて、いつも生きにくそうだけど、実は深いものが何もない。そういうところがいい」とか思いながら見てるわけじゃないですか、人によっては。「人間ってすごいな」と思いながらね。ある意味で全肯定してるんですけど、それがいいことだとはちっとも思ってないっていう。

前にFREENANCE MAGに出ていただいたこともある里咲りささん……。

ああ、あのお金大好きな(笑)。

彼女のことを、お金が大好きなのにビジネスセンスがないと書いていましたよね。

啖呵売というかマンツーマンのセールストークが上手だから、露天商の才能はあるんですけど、ビッグビジネスの才能がないところはあるじゃないですか。

そういうところが好きなんですよね。

あと大ボラ吹きなところ(笑)。「またホラ吹いてる!」って気になるじゃないですか。問い詰めたら「う、うん……」ってすごく目が泳いで、認めちゃってるんですよ。里咲さんとかは人前で言えるほうですよ、楽しい話で終わるから。本当に言えない人もいますもんね。例えば……いや、やっぱり言えない。

言わなくていいです(笑)。一見ほめているようには聞こえない言葉が並ぶけど、だからこそ好きだというのは、ロマンさんの物の見方の核心に触れるお話なのかもしれないとちょっと思いました。

好きってそういうことだったりするじゃないですか。「好き嫌い」と「いい悪い」は別の話なんですよ。

「勉強ができるから好き」「顔がきれいだから好き」「歌がうまいから好き」みたいな、一見もっともらしい理由があるケースよりも、よっぽど深く愛しているようにも思えますし。

俺はたぶん、自分は可愛くて勉強ができて将来安泰だと思ってひとをなめきってる人の根性を「面白いな~」と思って見てるタイプなんですよ(笑)。「すごい調子に乗ってる! しかも自分のこと実際以上に高く評価してる! でも必ずいつか限界にぶち当たる! どこまでこのままいけるんだろ?」とか思って見ちゃうんですよね。大手グループでも特に何の努力もしてないのに自分はセンターになれると思ってる人とか、たまにいるじゃないですか。そういう人を「すごいな~」と思って見ちゃうっていう。

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

理由を言えば言うほどわかりにくいと思われる愛し方ですね(笑)。

怒る人いますよね、悪口だと思って。「逆張りでしょ」って言ってくる人もいますけど、何の逆にも張ってませんから(笑)。俺はアイドルに珍しいものを見に行ってるんですよね。人間ではない人間を見に行ってるんですよ。「この人はすごい! 見たことない!」と思うと見ちゃうんです。

極端な人、過剰な人にどうしても惹かれてしまうと。

極端に過剰に欠落してる人とか、極端に過剰に平凡な人とか。テンプレに書かれたような普通の人って現実には存在しないけど、もしそういう人が目の前に現れたら気になるじゃないですか。大勢の似たようなサラリーマンの中で、本当の平凡なサラリーマンを見つけたいんですよ。そういう性癖が物事を切り分けることに結びついてる気はします。

ロマンさんが繰り返し取り上げている90年代のサブカルでは、そういう人を嘲笑するノリもありましたよね。

ああいう人たちは観察対象を研究して発表したい人ですね。俺は単純に好きなだけなんですよ。あと俺自身、好きで見てるのとたぶん同じ側の人間だと思うし。「こいつ、俺のことヲチってるだろ」っていうやつ、いっぱいいますからね。「でもおまえが考えてるタイプじゃないんだよな、残念ながら」みたいな。見てるってことは、向こうにも見られてるってことですから。それがわからないとダメですよね。

だいたい逆張りとかすぐに決めつける人はちょっと変なんじゃないですかね。「逆張りかな? いや違うかな?」ぐらいから徐々に迫っていかないと、単に頭が悪いだけだった、という結論もあったりするじゃないですか。

当たり前の話ですが、「この人はこうだ」じゃなくて、「この人がやってる行動の中にもいろいろあるから、ひとつひとつ見ていきましょうか」と。

そうですね。単純に好き嫌いの話はそれで片づけていいけど、いい悪いの話は細かく切り分けなきゃいけないと思います。そこはすごい気になるんですよね、落ち着かないから。

家で「なんでこの人はこんなバカなことを言ってるのか」って言って、奥さんに「バカだからに決まってるじゃないの。そんなこと考えるのやめなさいよ」ってよく言われるんですよ(笑)。気になって気になってしょうがなくて、毎日そういうことを考えてるので。あと、論争とかを見ても「この人はこうすれば勝てるのに、なぜこの方法を取ってしまうのか」とか「どういう自信を持って、このやり方で勝とうと思ってるのか」とか、すごい気になるんですよね。

要するにその人の脳みその中身を見たいんです。オタ活でも同じで、そのアイドルがどういう視界で世界を見てるのかを知りたいんですよ。わかったら興味なくしたりもするんで、やっぱり推せるのはどこまで行ってもわかりきらないところのある人です。

『音楽家残酷物語』書影
『音楽家残酷物語』

技術を買われて、請われて書いている

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

最新刊『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』のテーマは陰謀論ですね。昔はネタ扱いされていた陰謀論ですが、近年は深刻な影響力を獲得しつつある気がします。

ここまで普通に信じる人が増えるとね……やっぱり生活が切迫するとそうなるんだなって。コロナストレスはでかいですよ。あれがなかったらアメリカの議事堂も占拠されてないだろうし、安倍元首相も撃たれてないと思いますよ、たぶん。

本にも書きましたけど、「コロナは嘘だ! コロナなんかない!」って言う人がいて、「いや、コロナはあるんだ!」って言う人がちゃんとしてるのかと思ったら「コロナは武漢研究所が作った殺人兵器だ!」って言ったりするわけじゃないですか(笑)。その二人が仲よく「ワクチンは効果がない! ディープステート!」って会話してて。みんな気にならないんですかね? 俺はすごい気になるんですよ。それぞれの考えてる「ディープステート」が違うから話が合わないはずなのに、なんで仲よくしてんの?って。

そこでまた構造が気になっちゃうわけですね。

でも陰謀論って結局、社会に迷惑かけるからそう言われてるんですよね。例えば三浦春馬さんの他殺説は、最初は単なる噂だったのが、迷惑をかけ始めたから陰謀論として認知されるようになったわけじゃないですか。数が少ないから誰も気にかけてないけど、一歩ハネたら陰謀論扱いされちゃうようなことって、いっぱいあると思うんですよね。

僕自身、すぐには理解できないことを適当な理屈で雑に整理しちゃったりしていますし。

政変が起きたときに芸能人の不祥事が流されると「スピン!」とか騒ぐ人もいますけど、冷静に考えたら、一般の人は政変より芸能界の話題のほうが好きだし、テレビも雑誌も数字を求めるからっていう民度の問題なんじゃないの、って思うんですよ。「コロナを隠れ蓑にして自民党が陰謀を!」とか言ってる左翼の人とか見ると、勘弁してよって思うし。

いまは右の人の数のほうが多いから目立つだけで、左にも陰謀論丸出しの人は多いし、もとから人間は陰謀論っぽいものの雛型を持ってて、自分のアイデンティティに危機が迫ると露骨に出ちゃうんだと思います。それをわかってる人が利用して焚きつける。それがいまの状況ですよね。ただ、人間って慣れるので、5年も経ったら落ち着くだろうなとは思いますけどね。

『SNSは権力に忠実なバカだらけ』書影
『SNSは権力に忠実なバカだらけ』

新書はほぼ年1ペースで出ていますよね。かつてのナンシー関さんの本のように、だんだんと時代の記録的な意味合いを帯びてきている感もありますが、今後もシリーズ的に続けていく予定ですか?

編集者次第ですね。俺はこれ(新書)に関しては「仕事」だと思ってるんですよ。好き嫌いで書いてる本じゃなくて、自分の技術を買われて、請われて書いてるものなんで。感情的なものももちろん出てはいますけど、そこが動機ではないっていう。

最後に、ロマンポルシェ。の25周年について感慨はありますか?

掟(ポルシェ)さんが「やめる」って言わない限りやめないことにしてるんで、俺からは何もないです(笑)。バンド活動はごはんを食べるように日常に組み込んで、生活の一部として淡々と続けていこうと思ってて。だから続けていくってことが重要で、何周年とか言われても「ああ、まだ続いてるな」って確認するだけみたいな。

プンクボイはオタ活とかに近い、趣味としてやるもので、執筆は仕事に近い感じ、ロマンポルシェ。は両者の中間ぐらいです。ただ執筆も書きたくて書くものもあれば、仕事だからちゃんとやる、というものもありますから、そこも自分のなかで細かく分かれてる感じですね。

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

撮影/阪本勇@sakurasou103