FREENANCE MAG

フリーランスを応援するメディア「フリーナンスマグ」

『稼ぐが勝ち』をきっかけにフリーランスへ 里咲りさ“社長”が目指す日本一のホワイト企業とは?

里咲りさ

フリーランスのアイドルとして活動、現在は株式会社フローエンタテイメントの代表もつとめる、里咲りささん。自身の活動から蓄積してきたノウハウをシェアし、会社はもちろん、所属アーティストにとってもプラスとなるよう事業を行っている里咲さんに、目指すゴールについて伺いました。

profile
里咲りさ(さとさき りさ)
フローエンタテイメント代表兼シンガー・ソングライター。芸能事務所・音楽レーベルを起業するために21歳で独立。ユニットでのデビューを経て、自社でのソロ活動とグループ活動を開始。2016年に全国デビューすると、手焼きしたCD-Rがオリコンにランクインし話題となり、バラエティ番組にも多数出演。2017年に無所属の個人事業主としては初めてZepp DiverCity TOKYOをレンタル契約し、ワンマンライブを開催。法人化ののち、映像制作・スタジオ経営・CM制作・コピーライティングなど事業の幅を広げ、近年は楽曲提供も多数行っている。愛称は「さとりさ」「社長」。
Twitter / Instagram / TikTok
https://flowentertainment.tokyo/

「自分でやったほうがいい時代」の到来

フローエンタテイメント発足の2014年にさかのぼって、まずはフリーランスになった理由を伺えますか?

当時わたしは早稲田大学に通いながら、いろいろな事務所に「預かり」で登録していただいてアイドル活動をしていたんですが、人気はさっぱりでした。仕切り直しの必要性を感じたんです。そこで大学をやめ、いったん芸能活動もやめようと登録先の事務所にあいさつ回りに行ったとき、“家電量販店で働く”というコンセプトのアイドルグループに誘っていただいて、参加することになりました。

歌って踊って、店頭にも立っていたんですね。

実際に働いていました(笑)。ある日「手取りが少ないな」と思って調べたら、中間手数料が思っていたより高かったんですね。「誰かが間に入るとこんなにお金を抜かれてしまうんだ」と思い込んでしまって。何をするにもマネージャーさんの許可が必要だったこともストレスに感じて「これなら自分でやったほうがいい」とフリーランスとして独立することにしたんです。

そもそも自立心が強かったんですね。

母が確定申告や売上計算をするのを見ていて、フリーランスや個人事業主のイメージはもともとありましたし、中学生のときにたまたま家にあった堀江貴文さんの『稼ぐが勝ち ゼロから100億、ボクのやり方』(光文社)を読んで感化された経験もあり、自分でもやれるかもしれないと思ったんです。

あと、スマホが普及して、YouTuberが出始めた時期だったんですよ。わたしみたいに小さい規模感でチャンスや隙間を狙っている人にとっては、「フリーランスとして自分でやったほうがいい時代」になってきているなという感触もありました。

「これからみんなフリーランスになるのなら、早いほうがいいぞ」と動き出したんですけど、武器になる何かを学んでからのほうが……とモヤモヤ考えてしまって。また受験して、今度は慶應大学に受かったんです。ところが入学金を実際に目にしたら「もったいないな」と(笑)。

ブレが生まれてしまったんですね(笑)。

わたし自身が時給換算で働いて稼いだお金だったから、親に出世払いで借りた早稲田のときとは重みが違ったこともあります。ATMの前まで行ったんですが、振り込みのボタンをどうしても押せなくて。その足で税務署に行って、開業届を出しました(笑)。

ブレブレだったし、フリーランスでやっていける自信があったわけではないんですけど。「時代の流れもこうだから、やるしかない」と始めた感じですね。

里咲りさ

フローエンタテイメントの成り立ち・現在

お金については、フリーランスのころからシビアな感覚をお持ちだったんですね。

はい。同級生はまだ学校に通っているし、学生で起業している人たちとは競争なので、早くちゃんとしたかったんですよね。こちらが支払う側の場合も、小額でも範囲を明確にしないとトラブルの原因になる。条件面はしっかり伝えつつ「これが売れたら、これぐらい払えます」といったことも話していました。権利関係や利益配分など、メジャーの会社のやり方を学んだことが、今も生きている気がします。

フローエンタテイメントは個人の屋号として始まり、何段階かを経て、現在に至ると。

フローエンタテイメントは、今まで運営していた株式会社の子会社なんです。2018年に個人事業を法人成りして、その中の芸能部門だったフローエンタテイメントの事業を拡大したので今年2月に子会社化、という流れですね。

あるとき、売り上げは変わっていないのに、法人にしたことで「会社だから払えるでしょ」と急にまわりからの扱いが変わったんですよ(笑)。株式会社の何たるかも資本主義の仕組みもわからなかったので、たくさん失敗もしました。

「借金は良くない」という思い込みがあったから、銀行から資金調達する発想もなく。キャッシュアウトして初めて「資金調達できるのは信用があるってこと」と学ぶことができました。危機に直面しながら知識を得ていって、やっとわかってきた感じです。

経営しながら学ぶ、まさにたたき上げですね。

契約書とか請求書とか、書類を作るのも大好きでした(笑)。フリーランスだったからこそ、法律を破ってしまってデメリットがあるのはイヤだなと思っていましたし。わたし、法律が大好きなんですよ。六法の条文を読むのとかも。法律って興奮しませんか? 条文ってすごく美しい文章で書いてあるので、心が洗われます。

もちろん、弁護士の先生にご意見を聞くこともあります。権利とか契約についての知識を学んでおかないと事業を大きくできないと、フリーランスのころから心がけていましたね。

そんな里咲さんの目に、現在の芸能まわりのビジネス環境はどう映っていますか?

わたし個人の感触では、インディーでアイドル運営をしている方の中には、申告の存在さえ知らないような方も少なからずいらっしゃいますね。それでは事業として長く続かないのではないかな?と、心配になってしまいます。もしアイドル志望の子が「入りやすいから」という理由だけでそういうところに所属したとして、 大変な目に遭ってしまうようなことがないといいのですが…… 。

わたしたちがもっと頑張って、駆け込み寺みたいな会社になれたら。逆に、わたしたちがアーティストを消費することがあってはいけないと思っています。「ホワイト企業日本一」を目指しています(笑)。

理不尽に気づいても何も言えなくて押し流されてしまうこともあるでしょうしね。自らも演者である里咲さんが代表なのは、アーティストにとってもメリットですよね。

わたしが不祥事を起こせばわたしが身を滅ぼすだけですし。演者だからこそわかる気持ちに寄り添えたら……と、いつも気をつけています。

いろんなタイプの人がいますから。例えば「イベントを休みたい」と言われても、すぐに突っぱねるのではなく。想像力を使って寄り添って、きちんと話し合える会社にしていきたいです。

すごい。偉すぎます。

理念はあっても、実行するとなるとまだまだ大手さんみたいにはできないですけど。わたしたちらしい強みというか、大手じゃないからこそできるサービスの提供などをもっともっと頑張っていきたいですね。

里咲りさ

所属スタッフやアーティストと「考え方」を共有

フローエンタテイメントの規模は現時点でどれぐらいですか?

常駐のスタッフは業務委託やアルバイトも含めて7人です。専属所属アーティストはわたしを含めて7人。業務提携が1人、研究生が5人です。

今後、事業の規模を大きくしていくにつれて人手も必要になってくると思いますが。

理念やビジョンの共有が大事になってきますね。今は会社の色みたいなものを作っているところです。

スタッフにもアーティストにも「こういうことはこういう理由で良くないと思うからやらないようにしてきた」とか「こうなった場合にはこういうことが多いからこう対応するといいよ」と具体例を教える。わたしの考え方のエッセンスをひとつずつ伝えているところです。

どうしても里咲さんの目が届かないところも出てくるでしょうし。

スタッフもアーティストも「も~、何やってんの!」みたいなことはたまにあるんですよ。でも、そういうときに頭ごなしに言うと反射的に拒否反応しちゃうのが人だから。「おっ! そうきましたか~(ニコニコ)」とポジティブに受け止められるようにしています。キャッチボールが上手なスタッフを育てたいんです。

あくまでわたしの経験ですが、ある意味でアイドルのファンって、アイドルが何をやってもすごく上手に受け止めてくれる。そして、それが個性や魅力となるように返してくれるんです。わたしがここまで活動を続けてこられたのも、ファンのみなさんのおかげだと実感しています。だからこそ、お手本にしようと。

経験を生かすわけですね。

今はスタッフと一緒に研究している段階です。オーディションを受けにくる人は事情を抱えている場合も多いですが、上手に受け止めて、良い方向に向かえるよう返していきたいですね。

わたしの目が細かいところまで届かないのはしょうがないから、本質的にどう対応するか。ケースごとに説明していたら数が膨れ上がってしまうので、判断基準の本質を伝えて。応用はそれぞれ勝手にやってもらおうと整理しています。

里咲りさ

エージェント登録サービスという事業

専属所属契約は従来のマネジメントですよね。

そうですね。フローエンタテイメントの口座に売り上げが全額入ってきて、契約に基づいて分配しています。楽曲を作るときなど費用がかかる場合は、本人で売り上げが立っていなくても先行投資します。

業務提携というのは?

例えば、元SKE48の出口陽(でぐち あき)さんについては、独立されるときに「手伝ってほしい」とおっしゃってくださったことから業務提携しています。

専属所属との大きな違いは「責任者が誰なのか」。彼女のレーベル(Lotusbloom Records)の仕事をけっこう密にお手伝いをさせていただいていますが、出資は弊社ではなく陽さん、というところです。

フローエンタテイメントが展開しているエージェント登録サービスはフリーランスのクリエイターの関心を集めそうです。

オーディションで面接をしていると、すでに自走している方にもたくさんお会いするんです。正直、所属してもらったほうが会社的にはうれしいです。でも「通販だけ外注すればその悩みは解決する」とか「メールだけ委託すればスケジュール管理が楽になる」と、案が浮かぶのに所属させちゃうのは良心が痛むというか、違う。

せっかくきてくれたんだから何かできないかな、って考えたんですね。活動にまつわる業務を部分的に委託できる、エージェント登録サービスが有効だなと。わたしたちは専業でやってきたからこそ、例えばアイドルのような独特の文化にも対応した、細やかなサービスを提供できる。大変なときは「フローエンタテイメントにここだけ頼めばいい」と思い出してもらえるようにしたいです。

手に余る部分だけをお手伝いするということですね。

はい。「事務所に入りたい人」がやっぱり多いんですけど、みんなオーナーなんだし。その意識を持ったほうがいいと思います。海外ではアーティストとエージェントという関係が一般的じゃないですか。日本でももっとその考え方が浸透するよう、いろんな人の感覚に少しずつエッセンスとして入っていくようにと、始めたサービスなんです。

所属してもらったほうがもうかるのに、あえてその人のために最適な方法を提案するというのは、なかなかできることじゃないですよね。

もちろん相性もあります。求められているものと提供できるものが食い違うと、どちらにとっても良くない結果になりますよね。ニーズに応えられないときや、他の事務所のほうが合っていると思った場合には紹介したりもしていますよ。スタッフが対応できる範囲も限りがありますし。

そういうときは、うちの会社に合わないだけでご本人の魅力や才能の問題ではないので、そこをしっかり伝えた上で、なにかひとつでも役に立つアドバイスできないかな、とおせっかいながら考えてメールを送るようにしています。

里咲りさ

お世話になった業界で自分ができることをやろう

コロナ禍でフローエンタテイメントにはどんな影響がありましたか?

最大の収益源であるイベントができなくなったのがやっぱり大きいですね。売り上げが落ちても固定費はかかるので、国から給付金をもらったり、公庫からもお金を借りたり。逆に「このお金を使って事業拡大していかないと」と、エージェント登録サービスに力を入れ始めました。ちょうどコロナ関連の相談を受けることが増えたので、そういう人たちにも活用してもらえるサービスにしようと。

動画配信なども展開していますよね。

オンライン上でチケット代をいただいてトークイベントを開催したり、特典会やサイン会をやったりしています。これまでイベントは東京近郊で行うことが多かったんですけど、オンラインならどこからでも同じ条件で参加できる。平等感が強まった部分はあります。地方のファンの方が通販してくださることが増えたのも好影響です。ただ、現場で応援したい、とおっしゃる方も増えてきましたね。

お話をうかがって、フローエンタテイメントの経営理念は「事業を拡大してもうけたい」というよりは、公共目的でもあるような印象を受けました。

自分が株式会社をやってみて、経済のことを学ぶようになってから、「うちのやり方はビジネス的じゃないな、これは永遠にトントンだぞ」って気づきました(笑)。なので、ビジネスパーソンとしてはまた違う事業を考えたいなと思っています。

例えば「里咲さんが魚を売り始めたぞ!」とか、あらゆる可能性があるとも言えますよね。

そうです(笑)。やりたいことはたくさんあって、いろんな事業に興味があるんですけど、できる範囲の中から、そのときどきで模索していきたいです。目の前にあることに向き合い続けた結果、「こうなりました」みたいな形でやっていけたらいいなって。

コロナ禍の今は、大変な目に遭っている子たちがまわりに多くいます。自分がお世話になった業界でできることを、社長として一生懸命やっていこうと思っています!