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ロマン優光(ロマンポルシェ。)が「誰よりも正しい」理由とは?

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

ソロパンクユニットPUNKUBOI(プンクボイ)、結成25周年を迎えたロマンポルシェ。で活動するミュージシャンのロマン優光さん。『ブッチNEWS』での連載「ロマン優光のさよなら、くまさん」をはじめ、『実話BUNKAタブー』や『Edit-us』などで健筆をふるう優れた文筆家でもあり、ネットユーザーの間ではむしろそのイメージのほうが強いかもしれません。

2015年の『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン)以来、時評的な新書をほぼ年1冊のペースで発表してきました。9月発売の最新刊『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』ではいわゆる陰謀論を主に扱っていますが、豪快にぶった斬るのでも意外な切り口で驚かせるのでもなく、問題に正対して懇切丁寧に「構造」を腑分けしていく手際が印象的です。

『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』書影

揺れ動きながら猛烈なスピードで流れていく時事ネタを丹念に読み解く、ロマンさんの確かな判断と粘り強い思考は、どのように培われてきたのでしょうか。「誰よりも正しいミュージシャン」(帯に記されたキャッチコピー)の文筆家としての側面に迫りました。

profile
ロマン優光(ろまんゆうこう)
プンクボイ名義で音楽活動を開始後、掟ポルシェとともにロマンポルシェ。を結成。著書として『音楽家残酷物語』(ひよこ書房)、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』『SNSは権力に忠実なバカだらけ』『90年代サブカルの呪い』『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』(コアマガジン)などを発表。
https://twitter.com/punkuboizz

はっきり言えないから、はっきり言わない

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

ロマンさんの文章を読むと、考えたことと出てくる言葉の距離を極限まで近づけているような印象を受けます。

距離はできるだけ減らすようにしてます。面白くできるところも、面白くしすぎるとなんか違ってきちゃう場合が多いので。本当に大切なことより面白いことのほうが大切になると、テーマによっては問題が生じるかなという。逆にあえて面白いことを先に出しちゃったほうがいい場合もあるんですけどね。これはまともに扱ってはいけないものですよ、とはっきりさせるために。

テーマや媒体によってアプローチを変えているんですね。

ウェブと紙では変えますよね。ウェブのほうがわかりやすくしないといけないとは思ってます。斜め読みをされてもとんでもないことを言われない程度に(笑)。「ロマン優光がこんなこと書いてた」って書いてないことを言われて、「根拠は何ですか?」って聞いても、わけのわからないことを言われることが最近は多くて。読んでないのに言ってくる人もいますから、できるだけ誤読を誘発しないような文章にはしようとは思ってます。

その文体をどのように培ってこられたのかに興味があるんですが、好きな作家は?

坂口安吾っすね。あと山田風太郎。あと、あんまり文体に過剰に遊びを入れない文章が好きです。自分が書くときにはリズム感に気をつけてます。リズムを整えて読みやすくするために、無駄な1文をあえて入れたり。

口語風の文語体だから素人文と思われがちで。「ですます」調ってだけで「何々について調べてみました!」みたいな「まとめ文体」と同じってよく言われるんですけど、言いきりだと、逆に誤読も生みやすいし、どうでもいいところで敵も作りやすいので。「落ち着いて聞いてくださいね」っていう意味で、調子は丁寧にしてます。

それは書いている内容と合っている気はしますね。どの本だったか、「カリスマになりたいなら断言すればいい」みたいな指摘もされていました。

そう思いますよ。「文体が回りくどくてわからない」「はっきり言え」みたいなことも言われますけど、はっきり言えないような事柄だからはっきり言わないわけじゃないですか。それでも「誰それが悪い」ってはっきり言ってもらいたい人にとっては、イライラする文章なんだろうなって思います。

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

でもたいていのことは「誰それ」は頭悪いだけで、悪い人でもいい人でもないんですよ。頭悪いから迷惑かけてるかといったらそうでもないけど、でもやっぱり迷惑なところもあって……(笑)って、どんなこともそういうふうになっていくから、段階ごとに切り分けをどうやってうまくしていくかでしかなくて。はっきり言われたほうが楽なのはわかるけど、できるだけ避けたいんですね。

編集さんが帯でけっこう煽っていますね。「誰よりも正しいミュージシャン」とか……。

俺のことをバカにしてるんですよ(笑)。しかもそれはもともと吉田豪さんが言い出したことで、バカにするために言ってるんで、間違いなく。「そうなんだ!」と素直に聞く人もいたりするんで、勘弁してくださいって感じです。

俺は聞かれたことはできるだけ細かく考えて、「こういうことなんじゃないですか?」って答えるようにしてるんですよ。それは正しいと思うけど、ふだんの俺は品行方正な聖人君子ではまったくないので、それが面白いっていうことでもあるんでしょうね。

実際、僕も拝読していて違和感を抱く箇所はほとんどありませんでした。同意しないことは当然ありますが、そういった異論があることも踏まえてバランスをとりながら書いていますよね。

バランスは考えてます。あと好き嫌いで語らないようにはしてますね。好き嫌いで語ると楽なんですよ。嫌いだから「死ねばいいのに」で全部終わらせちゃえば、1行で全部済むわけで。でもそういうことではないじゃないですか、世の中って。居酒屋ならそれでいいけど、人前で話すときはちゃんと考えないと。

プロの文章だなと思います。

断言、楽なんですけどね。言い切って、訂正はしない。常に新しく言い切り続けていくことで、個々の事案について深く考えさせないっていう(笑)。根本敬さんが『因果鉄道の旅』の内田研究(※)の中で「トラブルをトラブルでうやむやにする」って書いてましたけど、インフルエンサーみたいな人たちってそんな感じじゃないですか。

自分も「こうだと思いますけど」ってある程度、言い切ってる箇所もありますけど、切り分けて積み重ねて、段階を経てそこに至るようにしてるんで、さほど爽快感はないと思うんですよ。前置きなしで言い切ったほうが受けはいいんでしょうけど、もうちょっと冷静に考えてみましょうか、っていう。個人の嗜好って意味での好き嫌いも書いてますけど、正しいとか間違ってるとかと混同されないようにはしてるつもりです。

※根本氏は大学の同級生、内田剛史氏を観察・研究し、その成果をミニコミ誌などに発表していた。

『音楽家残酷物語』書影
『音楽家残酷物語』

わかりにくいまま知りたい

『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』書影
『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』

子どものときからそういうことを考える子でした?

地元の私立の学校(高知学芸高校)が中国に修学旅行に行ったときに、上海列車事故に巻き込まれて生徒が大量に亡くなったことがあって(※)、「みんないい子でした」みたいなことがテレビから流れてくるのを聞いて、ひとの人生をそう単純化するのはどうかな、もっといろいろあるもんだろ、と思ったのは覚えてます。そうボヤいたら母親が「悪い子だって言いたいのか!」ってキレ出して、「そういう話じゃなくて! 逆! 逆!」って言い合いになりましたけど(笑)。

※JIJI.COM 上海列車事故

アントニオ猪木さんが亡くなったとき、お父さまの影響で猪木ファンだったと連載で書かれていました(※)。物事にはそう簡単に白黒つくものじゃない、グレーを見極めることが大事だということを、プロレスから学んだと言う人は多いですね。

※ブッチNEWS そして、アントニオ猪木のいない世界が始まった:ロマン優光連載223

小学校4年生のときに、木村健悟さんがなぜ負けるために出てくるのかっていうところから考え出したんですよ。「ここはドラゴン(藤波辰爾)か坂口(征二)から出てくるべきなのに、健悟出てきたら負けるじゃん! 猪木の足を引っ張るのか!」って(笑)。そうじゃない、健悟さんは負けるために出されてるんだって気づいて、仕組みがだんだんわかってくるじゃないですか。

あと例えば「ああ、これは反則で勝つけど負けたほうが強く見えるっていうパターンでしょ」みたいのも、見てればわかりますよね。ただし、どこまで本当でどこから嘘なのかはわからない。そう考えながら見てると、ある程度わかっちゃったあとで、事故を見つける楽しみもある。「あ、キレて本気でイレてる!」とか、ありましたよね。そういう物の見方というか、楽しみ方はプロレスから教わった気がします。

ロマン優光(ロマンポルシェ。)

プロレスのほかに影響を受けたものというと?

SFですね。小学校4年生ぐらいから筒井康隆とか平井和正を読んでて、メタな設定を通して「絶対はない」っていうことを覚えていったみたいな。それだけだとやばいですけど、アツい系統の読書もかなりしたんで、「それでも最後に残るものはある」っていうとこもあって、両者の兼ね合いがよかったんじゃないですかね。

相対化にハマらずに済んだわけですね。

だって結局、自分の立ってるところは残っちゃいますしね。だから相対化なんてウソだ、自分で恣意的に選んでるんだっていう自覚はありました。あと遅れてきたニューアカ世代なんで、レヴィ・ストロースとか読んで、構造のことばかり勉強したり考えてましたね。本当は民俗学か文化人類学をやりたくて、阪大の小松和彦のゼミに入ることを目標にしてたんですけど、受験で落ちて「まあいいや、早稲田受かったから」って(笑)。阪大に進んでたら違った人生だったかもしれないですね。

あとうちの中高には図書館に日本思想体系みたいなのが揃ってたんです。本居宣長と平田篤胤から大杉栄と北一輝ぐらいまでの論文の抜粋なんですけど、それを暇なので読んでて。読み比べると、大杉栄と北一輝って構造的にはモデルとする社会像はそんなに変わらない気もして。そこに天皇制を入れるかどうかの問題でしかないんですよね。あと大杉栄がエロいっていうだけ(笑)。結局、極左と極右っていうのはシステムのどこを利用するかでしかなくて、構造は似てるんだなとか。そういうことばかり考えてましたね。

小4で出会ったプロレスとSFから、ずっと構造に興味があるんですね。

構造と、それをぶち壊してしまう人間の闇雲な何かと。『荘子』に出てくる「混沌に目鼻がつくと死ぬ」っていう話が俺はいちばん好きで、常に混沌には目鼻をつけないでほしいと思ってるんですよ。混沌を細かく知りたいだけで、目鼻をつけてわかりやすくしたいとは思ってないっていう。わかりにくいまま知りたいんです。

ロマン優光(ロマンポルシェ。)
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