電気グルーヴはフジロックフェスティバル2021で最終日の大トリを務めました。復帰ステージになる予定だった昨年のフジロックが中止されたこともあり、観客を前にしたライブは実に2年半ぶり。石野卓球さんの「どうだ! かっこいいだろ! 電気グルーヴだ!」の雄叫びに、胸がいっぱいになったファンも多かったと思います。
その1週間前、フジロックのリハーサルを控えた卓球さんに「加齢」をテーマにインタビューしました。メジャーデビュー30周年という偉大なキャリアを誇りながらも大手事務所から独立、自由を手にしリスクを引き受けて活動を続ける電気グルーヴ。卓球さんのお話は各界のフリーランスのみなさんにも大いに参考になるでしょう。
1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース。DJ、プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動を行っている。2019年にマネジメント会社「macht(マフト)」を設立し独立、翌年には電気グルーヴの新曲「Set you Free」を配信リリースした。
https://twitter.com/TakkyuIshino
https://takkyuishino.com/
https://www.denkigroove.com/
人生のタイムリミットは近くまできてる
卓球さんは今年54歳ですよね。「N.O.」の歌詞(《先を思うと 不安になるから/今日のトコロは寝るしかないね》)じゃありませんが、以前は「先のことは怖いから考えない」とよくおっしゃっていました。いまはいかがですか?
変わんないですよ。例えば60代のことを考えたところで、そこまで生きてるかどうかもわかんないし、10年前を振り返ってみても、いまの自分の状態は想像もできなかったもんなんで、良くも悪くも。そうすると考えてもあんまりプラスのことって出てこないですよね。鬱になっちゃうっていうか。
僕も同世代なんですが、50歳を超えてからすごく死を意識するようになりました。
俺もしますよ、もちろん。コロナ禍でトイプードルを飼い始めたんですけど、けっこう長生きする犬種なんですよ。平均14年ぐらい生きるらしくて、看取れるかどうか考えちゃいましたから(笑)。前から犬は飼いたいなと思ってましたけど、若いころだったら自分と犬の寿命を照らし合わせるなんて考えもしなかったと思うんですね。やっぱりタイムリミットはそこまできてるっていうか。
うちの親はもう亡くなったんですが、とてもかわいがっていた猫が死んだときにペットロスがひどくて、「また飼ったら?」と言ったら「看取れるとは思えないから……」と言われてショックを受けたのを思い出しました。
実はうちも似たような状況で、去年の10月に、静岡でひとり暮らししてる母親がずっと連れ添ったアオっていう犬が17歳で死んだんです。母親に電話しても声のトーンが暗いし、死ぬことばっかり話すんですよ。「死にたい」とかじゃないんですけど、「もう先も長くないし、アオちゃんを看取って、あとはわたしが死ぬだけだから」とかね。それで心配になっちゃって、コロナ禍だから「帰ってくるな」って言われてたんですけど、ある日ダマテンで訪問したんですよ。
孝行息子ですね!
そしたらちょうど犬の遺品整理をしてるところで、「来るな」と言いつつやっぱり寂しかったみたいで、ウェルカムだったんです。ただとにかく元気がないから、様子だけ見てすぐ帰るつもりでしたけど、さらに心配になっちゃって。そしたらたまたま、帰りに寄ったホームセンターのペットショップでオスとメスのトイプードルを兄弟で売ってたんですよ。うちでも犬を飼おうって言ってたのを思い出して、これを買って1匹、母親に預けようって思って。うちの母親も「わたしも80過ぎて、看取れる自信がない」って言ってたんですけど、「俺の犬を1匹預かってくれ」って言って押しつけたんです。ペットロスから立ち直る真っただ中で、突然犬を当てがわれちゃったんで、呆然としてました。
いまになって「後頭部を拳銃で撃たれたみたいなショックだった」って言ってて(笑)、もっといい言い方ねえのかよって思うんですけど、それぐらいびっくりしたみたいです。結局それからは電話でも目に見えて元気になりましたね。ちなみに母親がつけた名前が「ゲンキ」で、その子が来てから元気になったっていう理由です。それまでは電話も年に何回かしかしなかったんですけど、お互いに兄弟の犬を1匹ずつ飼い始めてから、すっごく密に連絡をとるようになりました(笑)。ちょっと話がそれちゃいましたけど、そんなエピソードで人生のエンディングをすごく意識しましたね。
自分が「どう狂ってるか」は完璧に理解してる
素敵なお話です。体にガタがきたりはしていませんか?
もともと体力はあるというか体は丈夫なほうで、前は仕事も「入れられるだけ入れてくれ」って言ってて、特に不調もなかったんですけど、コロナ禍になって休みが増えると不調が目立つんですよ(笑)。ずっと回転してるからわからなかったけど、止まってみると「ここがサビついてる!」と実感するっていう。ヒマって危ねえなって思います。
卓球さんはそんなことないと思いますが、僕みたいに経済的にもギリギリだと、ヒマになると精神的にも追い詰められます。
それは俺も変わらないですよ、フリーランスだし。あと、こないだの小山田(圭吾)くんの事件みたいなことがあると、明日は我が身じゃないけど、結局人気商売だから、どこに地雷が埋まってるかわからないなって。ただ俺の場合、もともとヒール的な要素が強いから、裏切られた感もないっていう強みはありますけど(笑)。聖人君子みたいなイメージで売り出してて実はウラで……っていうんだとダメージ大きいですけど、「あいつじゃしょうがない」みたいな諦めがあるというか。あるいは「関わりたくない」とかね(笑)。
確かに「狂気」とか「邪悪」みたいなイメージも強いですが、僕がこれまで何度かお話を伺った範囲では、きわめて真っ当なことしか話していませんよね。
そうなんですよ……って自分で言うのもおかしな話ですけど(笑)。ただ狂ってる自覚もあるんです。結局、いちばん狂ってるのって、狂ってるのにその自覚がないやつじゃないですか。俺は真っ当だと言う気はさらさらないですけど、自分が狂ってることと、どういう狂い方をしてるかはめちゃくちゃわかってるつもりなんです。だからそこがコントロールできないということはいまのところないんですよ。例えばものすごく性欲が強い上にロリコンで、それをどうしても抑えられないとか(笑)。確かに変態だけど、自分が変態なのもわかってるし、その解消のし方もわかってるっていう。
若いころからそうですか? それとも加齢とともにできるようになってきた?
歳をとるにつれてですね、やっぱり。若いころってなかなか自分はこうだってことを認めたがらないじゃないですか。自分にはもっともっと可能性があって、いま表に出ているのは氷山の一角でしかないみたいな。でも実はそうでもなかったっていう(笑)。そのことにだんだんと気づき始めるんですよね。
自分に期待しなくなる?
というより、自分に失望をしなくなるっていう感じです。しょうがないか、と思えるっていうか。無理に未知なる自分探しをしようとすると、自己啓発とか宗教にハマるんでしょうけど(笑)。
卓球さんは若いころから覚醒的だったようにも思えますけどね。
どうなんだろ……ひとと比べたらそうなのかもしれないですけど、20歳を超えたあたりで「あれ? 俺やっぱ普通じゃねえんだな」って自覚し始めたと思います。それまではひとと違うってことが怖くて、自分は真っ当だって願望込みで思ってたんですけど、普通じゃないことがむしろ、特にこの仕事だといいことなんだな、っていうふうに思い始めたあたりから、徐々に変わっていったかもしれないですね。