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「もっと売れたいし、死ぬ日まで文章を書きたい」翻訳家・エッセイスト村井理子の仕事論

「もっと売れたいし、死ぬ日まで文章を書きたい」翻訳家・エッセイスト村井理子の仕事論

小沢あやが、さまざまな業種のフリーランスに話を聞く『フリーランスな私たち』。今回のゲストは、翻訳家・エッセイストの村井理子さんです。

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室(きこ書房)』『ゼロからトースターを作ってみた結果(新潮社) 』など話題作の翻訳を手がけ、自身の家族が壊れていく過程を綴った『家族(亜紀書房)』、孤独死した兄の遺体を引き取った後の5日間を書いた『兄の終い(CCCメディアハウス)』など、話題のエッセイも多数発表。現在は琵琶湖の近くで暮らしながら、執筆活動を続けています。

仕事が思うように進まず不安を感じる日々も経て、40代になって仕事が「ドドド」と増えたという村井さんに、安定的に仕事の依頼が来るようになった要因や、エッセイを書く時に気をつけていること、今後の野望などを伺いました。

profile/村田理子
1970年静岡県生まれ。翻訳家・エッセイスト。翻訳は『消えた冒険家(亜紀書房)』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた(早川書房)』など、ノンフィクションを多く手がける。「村井さんちの生活(考える人・新潮社)」「実母と義母(よみタイ・集英社)」など、さまざまな媒体でエッセイも連載中。
https://twitter.com/Riko_Murai
profile/小沢あや
ピース株式会社 代表取締役社長 /編集者。企業のメディア・コンテンツ支援のほか、WEBマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」「いや、ほんと音楽が好き。」編集長など、ミュージシャンやアーティストの発信支援も行う。

仕事量は今がピークだと思っている

小沢:フリーランスは「40歳の壁」があるといわれていますが、村井さんはむしろ40代になってからお仕事が増えたそうですね。育児に介護に忙しい中で、どうやって機会を掴んだのか、今日はいろいろとお聞きしたいです……!

※竹熊健太郎『フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?

村井:よろしくお願いします。フリーランスが40代から大変になるといわれるのは、一緒に仕事をする担当者がどんどん若くなっていくのも一因ですよね。わたしも、これまで仕事をした編集者さんが定年に近づいていって、依頼される仕事量が減っていきますし。年間の出版点数含め、仕事量は今がピークかなと考えて、この先10年の計画を一応立てています(笑)。

小沢:村井さんは現在、翻訳の仕事もエッセイの仕事も複数同時にされています。当初は個人のブログで書いていたところから、エッセイも仕事にしていけそうだと感じたのはいつでしたか?

村井:仕事としてのスタート地点になったのは、2016年に始まった新潮社での『村井さんちの生活』という連載ですね。これが読まれるようになって、「エッセイもいけるかな」と手応えを感じたタイミングで、月刊誌や雑誌、新聞、文芸誌など、他社からもドドドド!と依頼が入るようになりました。そこから先はあれよあれよという間に増えた感じです。

安定的な依頼のカギは、膨大なインプット

小沢:そこから安定的に仕事の依頼があるのは「村井さんに頼んでよかった!」と多くの人が思っているからかと思います。その勝因はどこにあると思われますか?

村井:多分、インプットをめちゃくちゃしているからかなと思っています。編集者さんに「いつ寝てるんだ」ってびっくりされるぐらい、インプット量は多いんです。SNSもすごい見てるし、国内外を問わず本やコミックもたくさん読んでるんですよね。

小沢:なるほど……!連載の量を見ても、村井さんはアウトプットもものすごく多い印象があるのですが、書けない時もあったりするんでしょうか?

村井:年齢的に更年期の症状もあって不調だったり、感情が凪になったりしていて書けない時はあります。自分が興奮している時でないと書けないので。

小沢:忙しく働く中で、自分のメンテナンスが追いつかずに体調を崩してしまう人も40代以降は増える印象があります。村井さんは、何か心がけていることはありますか?

村井:わたしもそこが一番の悩みどころです。座り仕事が多いから、運動量が足りなくなって太るし。かといって、ハリー(※村井さんが一緒に暮らすラブラドール・レトリーバー)と散歩に行くと振り回されて、その日は1日仕事ができなくなる(笑)。だからわたしは、仲のいい女性たちとお互いに声をかけ合って、1年に1回、日を決めてみんなで検診に行くようにしています。

小沢:あぁー、それはいいことですね、すごく!

村井:あとは、結構足しげくメンタルクリニックに通ってますね。原稿を書きすぎると、興奮して絶対眠れなくなるんですよ。だから確実に眠れるように薬を処方してもらったり。最近では更年期の症状が出ている自覚もあるので、そこも相談をして。結構ね、適切にお薬に頼って調整してます。それが一番、早いしコストがかからないことも多いので。

推敲は数時間かけて何回も

小沢:村井さんは、育児や介護など、ご家族に関わるエッセイも書かれています。先ほど「興奮していないと書けない」という話がありましたが、エッセイでは書くこと・書かないことを冷静に判断することも重要かと思っています。そこはどうバランスをとっていますか?

村井:推敲はかなりしています。数時間かけることはざらにあるくらい。1つの原稿で3回、4回に分けて、どんどん内容を削っていく作業をします。エッセイでは、起きたことの9割ぐらい書いているように見えて、実際は2〜3割しか書いていないと自分では思っているんです。いかに情報を絞りながら、多くを書いているように見せるかはずっと考えていますね。

小沢:どこまで情報を出すか考える時に、大切にしていることはありますか?

村井:書かれた本人が読んで辛くなるようなものは、なるべく書かないようには気をつけていますかねえ。介護中の義理の両親についても、書くことと書かないことは自分の中で調節しています。それから、思春期の息子たちのことは、今は完全に書かないようにしています。今は自分の書く・書かないの軸がブレていないと信じてますが、もっと年をとると判断力が鈍ってくると思うので、そこは今から警戒しています。

小沢:そういう時にストッパーになってくれるのが、担当編集者だったりもしますよね。

村井:そうですね。「わたしがおかしい路線に行ったら、すぐに注意してください」と、編集者の皆さんに言っています(笑)。何人かの編集者さんとは、お互いに意見を言い合って相談できる関係なので、ちゃんと注意してもらえるんじゃないかなと思ってます。

小沢:そういう信頼できる関係性って、どうやったら築けるんでしょう?

村井:やっぱり一緒にヒットを出すと築けますよね。大きめに売れて、アップはもちろんダウンも一緒に経験しないと、深く信頼するのはなかなか難しいかなと思います。2年、3年と付き合いを続けて、その中でお互いのことがわかってくるんじゃないかな。

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