成功者に貧乏時代に食べていた「貧乏メシ」について聞きながら、当時の思い出やブレイクのきっかけ、仕事の成功術などを聞くこの企画。
今回のゲストは、オリンピック出場経験を持ち、現在はフリーランスのトライアスロン選手として活動する山本良介選手。18歳で日本ジュニア選手権で優勝し、北京オリンピックでは30位と苦節を味わいながらも、40歳となった現在も、フリーランスアスリートとして活躍する山本さん。そんな山本さんを支えた貧乏メシや、周囲の人間を自身の〝応援者〟へと変えていく人間力について探りました。
Contents
懐かしの貧乏メシは、肉少なめ・味濃いめのお手製タコライス
フリーナンス
アスリートのお財布事情ってあまり想像できないのですが、山本さんが貧乏メシを食べていた時期はいつ頃ですか?
プロデビューする前の、クラブチームに属してた23歳の頃ですね。その頃はシドニーオリンピック直後だったこともあり、オーストラリアに強い選手が世界中から集まってくるので、毎年冬はオーストラリアに滞在してトレーニングするんです。当時はお金がなくて、四人で一軒家をシェアしていたんですが、ずっと手製の「貧乏タコライス」を食べてました(笑)。
山本さん
フリーナンス
なぜ、タコライス?
ルームメイトとスーパーに買いものに行くんですけど、何がいいか考えてるときに、「肉も野菜も摂れるし、肉の中でもひき肉って比較的安いし、いいんじゃないか」って。しかもワンプレートで手早く食えて片付けも楽だし、腹一杯になるし、美味い。
山本さん
フリーナンス
いろいろなニーズを満たしていたわけですね。
そうですね。ポイントは「肉少なめ、味濃いめ、野菜多め」。お金にちょっと余裕があるときは、トマトとアボカドをのせるんです。ほぼ毎日、昼か夜のどちらかはそれを食べてました。
山本さん
フリーナンス
トライアスロンのトレーニングをした後って、すごくお腹が空きそうですもんね。
カロリー消費量がハンパないからすぐにお腹が空くんですけど、タコライスでお米をたっぷり食べておけば腹持ちがいいんです。しかも手早く作れるから自炊時間をミニマムにして、そのぶんトレーニングに時間を使える。
山本さん
当時の年収は約300万円、経費はほぼ自腹
フリーナンス
その当時の年収って、いくらくらいだったんですか?
年収300万円くらいでしたね。
山本さん
フリーナンス
アスリートは賞金をたくさん稼げる!という華やかなイメージがありますが。
日本の大会だと優勝して15万円くらいもらえるケースが多いんですが、大会に出場するために交通費・宿泊費・エントリー費などで10万円くらいかかる可能性もあるんです。日本でトライアスロンのプロとして飯を食えている人って、一握りじゃないかな。海外に滞在していた頃は、交通費や宿泊費がほとんどかからないローカルの大会が結構あったんで、週末になるとそういう大会に出ていました。
山本さん
フリーナンス
なるほど、フリーランスのアスリートだと経費も自腹ですもんね。
はい、経費は全部自分で出すので、年収が300万円くらいだとお小遣いなんて残らないですよ。シドニーに遠征するとフライト費は約10万円、家賃が1ヶ月約4万円、コーチへの支払いが1ヶ月約2万円くらい。1ヶ月で約16万円の経費がかかるんで、食費は1日2、300円で抑えないと。しかもトライアスロンって3種競技なので、単純にユニフォーム費も3倍かかりますしね。特に高額なのは自転車で、1台100万円とか、ホイールだけで50万円とか普通ですよ。
山本さん
フリーナンス
ホイールで50万円!壊れたら大変ですね。
だから年をとってからは、体とお金、両方を考えてブレーキをかけることが多くなりました(笑)。
山本さん
「補欠でやめたら、一生後悔する」
フリーナンス
そんな時代から脱却したきっかけは?
25歳のときにアテネオリンピック(2004年)の選抜で僕は補欠だったんですけど、それを機にトライアスロンをやめようかと迷ったんです。自分は貯金もないのに、周りの同世代の人間はもっと稼いでいて、結婚する人もいるし。
山本さん
フリーナンス
いわゆる分岐点ですね。でも、やめなかった。
補欠でやめたら、一生後悔するなと思って。次の北京オリンピック(2008年)に、もう一度チャレンジしようと。そう決めたときに、ちょうどトヨタ車体という実業団から声がかかったんです。実業団に属するとその企業の社員とほぼ同じ扱いになるので、毎月固定給をもらえるので収入が安定しました。経費も会社に出してもらえるので、それで大きく経済状況が変わりました。
山本さん
フリーナンス
では、実業団から声がかかったときは「よかった!」という感じでしたか?
もちろんありがたい話だとは思いましたけど、悩みましたよ。フリーランスなら自分の好きな大会に出れるし、気になるコーチに直接アポイントをとって教わりに行けるし、自由ですから。実業団だと、事前に会社の許可がいるんです。自分にはフリーランスの方が合っている気もしたんですけど、これも何かの縁だし、環境を変えてみようと。
山本さん
フリーナンス
そして2008年北京オリンピックで、念願のオリンピック出場を達成するわけですね。
はい。ただ北京オリンピックの結果が思わしくなくて、会社と話し合った結果、「ロンドンオリンピック(2012年)までは面倒みるよ」って。つまりその時点で、出場可否に関わらず、ロンドンオリンピックまでがタイムリミットということが決まったわけです。結果、ロンドンは補欠だったのですが、そのタイミングで8年間お世話になった実業団をやめることになりました。
山本さん
フリーナンス
そのときの心境は?
窮屈さから解放された気がします。会社が窮屈だったという意味ではなく、北京に出てからは周囲が「オリンピックに出て当たり前」という雰囲気になっていたので、そのプレッシャーが自分を追い込んでいたんです。一流はそれを乗り越えるのでしょうが、自分には無理だった(笑)。だからやめるときは、気持ちよく「ありがとうございます!」って言えました。
山本さん
相手の個性やその時の空気に合わせて、柔軟にアクションを
フリーナンス
その後はアスリートのマネージメント会社の社員(1年間)を経て、33歳でフリーランスに。不安はなかったですか?
いや、なんとでもなるだろうと思ってました。ロンドンオリンピックには出れなかったけど、実力的には国内トップ3に入っているという自信がありましたし。スポンサーがつくから大丈夫だろうと。でも最初の1年はそんなにうまくいかなくて、全然スポンサーがつかなかったんです。
山本さん
フリーナンス
ピンチですね。
だから「スポンサーになってくれそうな人を紹介するよ」って言われたら、東京でも大阪でも、どこにでも会いに行きました。そのうち少しずつ、スポンサーがつくようになって。
山本さん
フリーナンス
トライアスロンのスポンサー獲得って、厳しいんですか?
トライアスロンって、スポンサーになっても費用対効果があまり良くないんですよ。僕もそれをわかった上で、「応援してください」って言わなきゃいけない。だからスポンサーには、メリット云々ではなく、山本良介という人間を好きになって応援してもらうしかないんです。
山本さん
フリーナンス
山本良介という人間を気に入ってもらう。そのメソッドみたいなものってありますか?
僕、そういうメソッドみたいなものってすごく苦手で。自分が人に教える立場になったときにも感じるんですけど、誰にでも通用するメソッドってあまり当てにならなくて、その人の個性に沿ったアドバイスじゃないとダメだと思うんです。
山本さん
フリーナンス
わかる気がします。
これまでいろいろな人と関わってきましたが、「人間関係を良好にするためにはこれが大切」というメソッドを持たず、相手の個性やその時の空気に合わせて柔軟にアクションを起こします。スポンサーとは一緒に食事に行ったり、トライアスロンをしている人なら一緒にトレーニングしたり。その人が喜びそうなことを、考えながら実行してます。
山本さん
現役を続けてきたのは「自分への証明」
フリーナンス
現在もいろいろな大会に、積極的にチャレンジしているんですね。
はい、2017年のロングディスタンストライアスロンで日本チャンピオンに、2018年ロングディスタンス世界選手権では日本代表を務めました。
山本さん
フリーナンス
40歳という年齢はアスリートとしては高い方だと思うのですが、山本さんがここまで現役を続けてきた理由はありますか?
言葉で表現するのは難しいですが……。自分がアスリートであるということを、自分自身に証明したかったというか。自分の中での、アスリートとしての誇りみたいなものですかね。特にここ5年ほどはずっと怪我に悩まされてもがき苦しんできたので、納得のいく結果を出してから終わりたいな、と。
山本さん
フリーナンス
ちなみに、今の年収ってどのくらいですか・・?
一番年収が低い時代と比較すると、約10倍になりました。元オリンピック代表ということで、テレビ出演や講演の依頼が来ますから。
山本さん
フリーナンス
10倍、すごいですね!
でも一番年収が低い時代って、バイトでなんとか食いつないでいたときですから。あくまでもそこと比較して、ですよ。
山本さん
フリーナンス
お金に余裕が生まれた今、食べてみたい!と思うメニューは?
いや、実はそんなに食に貪欲じゃないんですよ。貧乏タコライスだって、めちゃくちゃうまい!と思って食べていましたし。今は美味しいものを食べるよりも、女性にモテたいです(笑)。
山本さん
フリーナンス
ありがとうございました(笑)。
profile
山本良介:1997年、18歳の時に日本ジュニア選手権で優勝を飾る。2008年の北京オリンピックでは日本代表を務め、ITUコンチネンタルカップ(現在のアジアカップ)では優勝5回の経験を持つ。現在はフリーランスアスリートとして活躍中。
https://twitter.com/yamamotoryosuke
https://ryosukeyamamoto.amebaownd.com/
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企画/木村タカヒロ 撮影/須合智也 取材・文/FREENANCE MAG編集部
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