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コクヨのヨコクする『あしたのしごと』。老舗文具メーカーが目指す、幸せと経済の両立とは?

FREENANCE コクヨ ヨコク研究所 江藤元彦

1905年創業のコクヨ株式会社が今年発足させた「コクヨ ヨコク研究所」は、《人やモノ、環境がフラットにつながることで社会をよりよくするための協働が生まれる「自律協働社会」の実現を目指す》研究機関です。

その活動の一環として、9月には書籍『あしたのしごと アジアの実践者と考える、オルタナティブな未来』を発行。「自律」と「協働」が両立する社会を作り出す試みを実践する人たちをベトナム、インド、台湾に訪ねてレポートしつつ、得たものを持ち帰って仲間たちと語り合う研究員たちの姿がビビッドな一冊です。

あしたのしごと
アジアの実践者と考える、
オルタナティブな未来

《「コクヨ ヨコク研究所」の『ヨコク』には、自分たちを棚に上げた客観的な予測ではなく、自分たちはこうしていきたい、こうしていくべきだ、という意志を持った発信の意味が込められています》とのこと。今後の主体的な発信に期待したいところです。同研究所を代表して、研究員の江藤元彦さんにお話を聞きました。

profile
江藤元彦(えとうもとひこ)
2014年にコクヨ株式会社へ入社。オフィス家具の商品開発担当、社内メールマガジン「FORESIGHT」編集長などを経て、現在は経営企画本部、イノベーションセンター内インキュベーション推進ユニットに在籍しながらコクヨ ヨコク研究所の研究員も務める。また、多拠点サービス「ADDress」燕邸の家守として、東京で会社員を続けながら神奈川と新潟の二拠点生活を送っている。
https://yokoku.kokuyo.co.jp/
https://www.kokuyo.co.jp/
https://twitter.com/kokuyo

「自律」と「協働」の矛盾を解決

本の成り立ちからおうかがいできますか。

本当に最初からお話ししますと、弊社は2021年の2月に「長期ビジョン CCC2030」を発表したんです。1905年の創業以来ずっと掲げてきた「商品を通じて世の中の役に立つ」という企業理念を、そのタイミングで「be Unique.」(コクヨは、創造性を刺激し続け、世の中の個性を輝かせる。)に刷新しました。自分は2019年から長期ビジョン策定のプロジェクトに関わっていて、「コクヨはどういう社会を目指したいのか」みたいなところから喧々諤々、議論してきたんですが、その成果は長期ビジョンとは別に発表されていて、11月の中期経営計画のときに初めて「自律協働社会」というワードが出てきます。

この本のキーワードですね。

はい。ただその時点では、スライド1枚の抽象的なアイコンみたいなものだったので、事業を作っていくメンバーからも、経営側からも「響きはよさげだけれど、具体的にどういうものなのか」「本当にそれはいい社会なのか」「どういうところに課題があるのか」といった声があって、まだ誰も具体化できていなかったんです。僕らは「未来シナリオ」と呼んでいるんですけど、それをもっと社内外含めてちゃんと伝わる形にしようというのが、プロジェクトのきっかけでした。

具体的な事例も調べながら、社会がどんどん流動化して自動化していく軸と、個人がもっと自律性を発露していく軸を設定して四つのシナリオを作ったんですよ。そのなかでコクヨはどこへ行きたいか、どこを目指すべきかということで出てきたのが自律協働社会なんです。それはお客さんや株主まで含めての約束みたいなもので、だからいま事業を行っているし、事業以外の社会的価値みたいなことにも取り組んでいるんですよ、ということをグループ統合報告書などでもお伝えしている最中です。

企業理念の「be Unique.」とも関連が深そうですね。

なぜ自律協働社会を目指すべきと考えるかというと、「be Unique.」を企業理念として大切にしているから、ということですね。例えばコクヨが大きなプラットフォームになって「これが正解」みたいに生き方を規定するみたいなことは、あまり「be Unique.」じゃない。個人の自律がちゃんと発露されて、それを社会がちゃんと受け入れられるようなシステムやサービスがあるのが健全ですよね、と。「自律」と「協働」って矛盾して聞こえますけど、その矛盾をうまく解決できたらコクヨ的なイノベーションになるんじゃないかなと、いま投げかけているところなんです。

古いのれんから若々しいアイデアが出てくるのは新鮮です。

本当は2020年に出したかったんですが、理想ばかり語っていて、現実的な部分を詰められていなかったんですね。そこをきちんとしないと実現できないので、もう1年かけて、目指すべき方向のためにどんな体制でどうやって売上を伸ばすかという具体的な部分を詰めていきました。自律協働社会もいろんな理論や具体的な事例からロジックを立てて導き出したものではあるんですが、いくら丁寧に説いても「言ってることはわかるけど……」となってしまうというか。社内の人も社外の人も、それぞれが自分の言葉で理解できるように、と。

暮らし方、働き方、学び方を作る会社を目指して

細かく詰めるべき部分と、あえて抽象的にしておいたほうがいい部分と。本を読んだ人や江藤さんのお話を聞いた人が「なるほど。だったら自分はこういうことをしたいな」と自分に引きつけて発想できる余地も大事ですよね。

まさにそれです。三つのフィールドワークを終えて僕ら研究員で行ったディスカッションを巻末に載せたんですけど、それぞれの視点で「自律」とか「協働」についてどう思うかとか、どこが不安なのかとか、悪く言うと言いっぱなしで、まとめていないっちゃいないんですよ(笑)。でも、きれいごとばかり書くと「いや、言ってもさぁ」とか「好きな人が儲けを度外視してやってるだけなんじゃないの?」とか言われちゃうと思うんですね。それで終わらせてしまったら社会は変わっていかないし、やっぱり現実的にどことどう向き合うべきかというのは、企業として、やれているかどうかは別としても、少なくとも理解はしなきゃいけないポイントだと思っています。

すでに動き出していることもありますか?

はい。CCC2030で2030年までに売上を3,000億円から5,000億円まで伸ばすと宣言していて、すでに発表されている投資もありますし、目指すべき社会に対して自分たちが何をできるかという視点で、家具や文具にこだわらず「社会」とか「人」に着目して、サービスを広げていこうとしているところです。まだまだ動き始めたところなので、時間はかかると思いますけど。

製造業の枠をはみ出したこともやってみようかということですね。

ヨコク研究所がユニークなのが、企業のR&Dって最先端技術に取り組んでいるところが多いんですけど、コクヨって技術の会社か?と言われると何もないわけではないんですが、ちょっと違うと思うんです。文具や家具ってコクヨが持っているコアな技術と言うよりも、いろんな技術の組み合わせでできている部分が大きいので、そういう意味でコクヨは技術の会社ではないと思っていて。どっちかというと使い勝手というか、人に着目するからこそ「ここまで必要だ」という考え方をするんですね。そこを改良することでどれだけの人が新たに買ってくれるのか、という判断とは別軸でモノ作りをしている。

例えばこのオフィス(THE CAMPUS)は社内のメンバーが空間もデザインしているんですが、人の動きに着目すれば自然とデザインは家具にとどまらなくなるし、だからこそ成長してきたと思います。僕も入社する前は文具メーカーという認識でしたし、いまも一般の方からしたら文具と家具の会社というイメージだと思うんですけど、暮らし方、働き方、学び方を作る会社を目指して、少しずつ成長していこうとしているところでもあります。

本取材が行われたTHE CAMPUSは、コクヨ株式会社が運営する「働く」と「暮らす・学ぶ」の実験場。オフィスビルだった建物の一部を開放し、ラウンジなど誰でも利用できるパブリックエリアが広がる。