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「書くか書かないかは別、できるだけいろんな風景を見ておく」“稀人ハンター”川内イオが出会った、ウルトラニッチな人々

FREENANCE 川内イオ

川内イオさんのWebサイトには《ジャンルを問わず日本全国、世界各地で活躍する「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。稀人たちの熱い想いを文字で、言葉で、映像で届けるために今日も東奔西走北飛南歩!》とあります。

「稀人ハンターは仕事というよりライフワークですね」と話す川内さんは、日夜さまざまなジャンルでワン&オンリーな道を切り開いていく「稀人(まれびと)」たちを探し出し、取材して記事を書いています。その最新刊が、個人事業主や中小企業の事務処理効率化サービスで知られるfreee株式会社が立ち上げたfreee出版の第1弾として昨年10月に発売された『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』です。

日本にひとりだけの「スプーン作家」、廃棄野菜を使った食べられるクレヨンを作るシングルマザー、外科医のための手術トレーニングマシンを開発した発明家、コーヒー豆を挽くグラインダーを作りクラウドファンディングで3.9億円を集めた元アップル社員など、登場するのはいずれ劣らぬ個性的なキャリアとエピソードの持ち主ばかり。

川内さんはいかにしてこうした「稀人」たちと出会い、そのライフストーリーを描いているのでしょうか。仕事をする上で大切にしているのはどんなことでしょうか。じっくりお話をうかがいました。

profile
川内イオ(かわうち いお)
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンターとして取材、執筆、編集、企画、イベントコーディネートなどを行う。2006年から2010年までバルセロナ在住。世界に散らばる稀人に光を当て、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。
https://twitter.com/iokawauchi
https://www.instagram.com/io.kawauchi/
http://iokawauchi.com/

稀人=これぞというものに「出会った」人々

「稀人ハンター」を名乗ったきっかけから教えてください。

2006年から2010年までバルセロナにいたときに、仕事のアテもなく住み始めたので、 日本でお世話になっていたある社長さんに「企画があれば仕事をあげるよ」と言われて、パリにいる日本人のアーティストやクリエイターのインタビューを提案したんです。その仕事がめちゃくちゃ面白かったんですよ。日本では無名だけどすごい人がいっぱいで、これはいいぞ、と手応えを得ました。

もうひとつは、バルセロナにはサッカーが好きで行ったので、その方面で食いたいなと思っていたのですが、スター選手は引っ張りだこで僕が入る隙がない。だから地味だけどいぶし銀的な選手のインタビューを企画したら、採用されて。その仕事もめちゃくちゃ刺激的だったんですよね。それで、「メジャーじゃないけど面白い人」を発掘するのが楽しくなって。

「稀人ハンター」って名前を考え出したのはだいぶ後ですけど、いま振り返るとほぼサバイバルのために編み出した感じですね。

ニッチなマーケットを見つけて開発していったという意味では『ウルトラニッチ』に登場されている方たちとも通じますね。

同じ道ではないですけど、すごく共感するところがありますね。

取材相手のことを「もうこれ以上調べようがない」ぐらいまで徹底的に調べてからインタビューに臨まれるとか。

しばしば「よくそんなことまで調べてきましたね」って驚かれます。すでに世に出ている情報をイチから確認していたらインタビュー時間が終わっちゃうじゃないですか。なので「ひと通り記事は読んできたから、そのうえで疑問に思ったことを質問します」と言いますね。そうやってその人の人生について掘り下げていくと、相手のことを好きになっちゃうんですよ。会う前からワクワクするし、「うわ、そんな秘話が」みたいにいちいち心に刺さって、「あの人マジいい人だわ……」みたいな(笑)。

徹底的に調べると好きになっちゃいますよね(笑)。本書に登場されている稀人全員に共通するのはどんなことですか?

「これ」と決めてからの猪突猛進ぶりですかね。前例のないことをやるのはすごく勇気が要ると思うし、実際に貧乏になった経験もあったりしますけど、「そんなの関係ねえ!」みたいな感じで、どんどん突き進んでいっちゃう。ただ、性格的にそうだってことではなくて、そうなってしまう対象に出会ったんだろうなと思います。なんでもいいからやって当たったとか、売れそうだからやっているみたいな人はひとりもいなくて、「これしかない」というものに出会って人生を賭けたんですよね。だから簡単にはやめないし。

理解して書くために、何よりも必要なこと

「この人の取材をしたい」と思う基準は?

「どういう基準で稀人を選んでるんですか?」ってよく聞かれるんですけど、さほど有名じゃないとか、世の中にあんまり情報が出回ってないとか、基本的な押さえるべき点はあるにせよ、最後はフィーリングですね。『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)や『情熱大陸』(TBS系)が好きで、やっぱりドラマチックな人生に惹かれるんですよ。わずかな情報から、自分好みのドラマがありそうだなと判断できるかどうかですね。

いざお会いになって、肩透かしになってしまう場合もありますか?

「ちょっとエピソードとしては弱かったな」みたいなのも昔はたまにありましたけど、最近はセンサーが働くようになったのか、そういうのは全然なくて、むしろ想像を超えるエピソードが聞けることが多いですね。

例えば、青森で「おやさいクレヨン」を作っている木村尚子さんは、クレヨンを作り始めて以降の話はたくさん出てくるんですけど、シングルマザーで虐待サバイバーで、貧困生活を送っていたみたいな話はどこにも出ていなかったんです。「あなたの人生を教えてください」と言ったら「わたしの人生、しゃべると長くなっちゃうんですよ」と言われたんですけど、「いや、その長くなるところが聞きたいんです。どんなに長くなってもいいから教えてください」って言ったら、この本に書いてあるような話をしてくれました (※) 。

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(『ウルトラニッチ』からの一部抜粋・再構成)

ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント

インタビューで2~3時間話を聞いた後に一緒に食事に行って、食べながら話を聞いたので、計5~6時間は聞いたと思います。「こんな劇的な話、どうしてどこにも書いていないんですか?」と聞いたら「聞かれたことがなかった」って言ってました。みんな「なんでクレヨンを作ろうと思ったんですか?」ってとこから始まるから。

ビジネス系の媒体だとそこの情報で足りますからね。でも川内さんのご興味は製品だけじゃなく、それを作った人間そのものに及ぶんですね。

もちろんインタビューを依頼するときは60分とか90分とか常識的な時間でいきますけど、僕はその後に予定を入れないことにしているんです。しゃべり始めたら止まらない、みたいなこともあるじゃないですか。それをさえぎって「この後、用事あるんで」って帰っちゃったら、いちばん大事な話を聞き逃すんじゃないかと思って。

手術トレーニングマシンの朴栄光さんも、2015年に一回取材していて(※)、オンラインで追加取材したんですけど、そのときに「川内さん、福島に来てくださいよ」って言われたんです。新たに建てた研究施設を見せたいし、自分が操縦する飛行機にも乗せたいと。経費なんか出ないんですけど、「もちろん行きます」と言って、10時に待ち合わせして、18時の新幹線で帰ってきました。コスパみたいなことを考え始めたら非効率そのものですけど、僕は面白い話を聞ければそれでいいんです。

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その時間と手間が記事の奥行きになって、読後感のよさにつながっているんですね。相手のホームに出向くことも意識されていますか?

それはほぼ必須ですね。現地に行かないと得られない情報がめちゃくちゃ多いんですよ。オンラインだと雑談ってほとんどしなくないですか? 時間がきたら終わりで、どうしてもビジネスライクになっちゃうというか。雑談で得るものってすごく多いのに。例えば福岡の糸島でコーヒーグラインダーを開発している元アップルエンジニアのダグラス・ウェバーさん(※)の取材には2度行きましたが、「オフィスの裏に海があるんだよ」と話だけ聞いても、それがいかにきれいな海であるかは現地に行かなきゃ実感できないじゃないですか。あと、モノづくりをしている人たちの現場に行かずに話だけ聞いても、理解できないことが多い気がするんです。

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あぁ、たしかに。モノだけにね。

何年か前、ある農業関係の仕事をしている人に取材したとき、「遠くまでよく来てくれましたね」「現地に行くのが好きなんです」みたいな話をしていたら、「取材の申し込みはいっぱいあるけど、電話がほとんどですよ。写真は貸してくださいって言われるし。わざわざ来る人なんかいません」って言われたんです。オフィスで話を聞くよりも、農地に連れてってもらって、雑草を抜く姿を見たほうが絶対にいいですよ。書くか書かないかは別として、できるだけいろんな風景を見ておきたいんです。

ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント

「ハンターであること」を貫く姿勢

川内さんが書いていらっしゃるのはその人の人生ですものね。

プライベートな話もしてもらいますし、それを書いていいかどうか事後の確認もしますから、ひとりの原稿に対してどれだけ時間をかけているか、わからないですね。基本的に原稿は事前に読んでもらっているんですよ。幼少期のことから話してもらうので、相手の記憶違いもあるし、自分が聞き間違えることもあるし。でもみんな事実関係のチェックだけで、「やっぱりこれは書かないで」みたいなことはほとんどないですね。

徹底的に調べて聞いて書いてくれたことがうれしいんじゃないですか?

そう思ってくれたらありがたいですね。取材した人たちとはその後も基本的にすごくいい関係です。取材するたびに友達が増えていくみたいな感じですね。取材相手とは距離を保つべきだって考え方もありますけど、僕は相手のことを好きになっちゃうので、その場合の距離感はそれとはまた違うんですよ。どっちが正しいというのは僕のなかにはなくて、好きなんだからしょうがないじゃん、みたいな(笑)。

その葛藤は最初からなかった?

提灯記事みたいになったらイヤだな、というのはありました。ただ、そうなるのは相手に意図がある場合に限られると思うんですよ。書いてもらうことでメリットがあるみたいな。僕の記事がきっかけでバズったり、モノが売れることもありますけど、それは結果であって、僕は単に自分が稀人だと思った人の話を聞きたいだけ。相手に便宜を図ったわけじゃないから、と自分のなかでは納得しています。基本的に応援したい気持ちで仕事しているので、その人の人生を酸いも甘いも丸ごと書くことで、応援になったらいいなって。

主導権が相手じゃなく自分の側にある状態を貫くということですね。

そうです。何を書くかも全部僕が取捨選択しているわけですし。

取材相手に確認してもらって「いや、ちょっとこの話は……」みたいになったら?

原稿の一部なら理由を聞いて検討しますけど、核心部分にNGを出された時は、「じゃあこの記事はなかったことにしてください」って言ったことはあります。そのときは編集部にも事情を伝えて企画自体がボツになったので経費も出なかったけど、そこはけじめをつけないと。「マジ痛え……」みたいな感じでしたね(笑)。

すごい。我々は川内さんがお聞きになった面白い話をおすそ分けしてもらっているような感じですね。

取材中は単なる観客というか「うわ、マジすか!」「すげー!」「めちゃくちゃ面白い!」ってひとりで盛り上がっています。でも、文字数的にもすべては書けないじゃないですか。すっごく面白いけど流れに合わないから外すエピソードだっていっぱいあるんですよ。だからいつも、「この人の面白さはこんなもんじゃない。俺は知ってる」と思っています(笑)。

ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』より

ひとりで一冊できそうな人ばっかりですものね。

出版社の人から「本にしませんか?」という連絡が来ることもあるんですよ。その人の名前で、いわゆるブックライティングみたいな感じで。僕はそれには興味がないので、そういう仕事が得意な友達を紹介したりしています。

川内さんの著書だから、主役は稀人というより稀人ハンターということですね。

仕事の依頼も「誰か面白い人いない?」というのが多いので、人探しから始まるんです。稀人の探し方には二つあって、ひとつは紙の新聞。『東京新聞』と『日経MJ』の2紙を、稀人の情報を集めるために購読しています。いろんな人の紹介記事を「面白い人いないかな~」って拾い読みするんです。新聞だから文字数が限られているので、うっすらとしかわからないんですけど、それでも輝いている人がいると「うわ! やべえ人見つけた」ってスマホで撮影してメモにして残していきます。取材するより情報が溜まっていくほうが全然スピードが速いので、いまは250人ぐらい溜まっていますね。

もうひとつは取材相手の推薦です。さっき雑談が大事だって言いましたけど、そういうときに「あそこにやばい人いるよ」って教えてくれるんです。僕がすごいと思ってる人たちが認めてる人なので、だいたいやばいんですよ。ダグラスさんも、アジア人で初めて世界一のバリスタになった井崎英典さんに取材したときに「福岡に元アップルのやばい人がいる」って教えてくれたんです。

稀人は稀人を知る、と。

そう。ただ、僕から「面白い人いたら紹介してください」とは言わないようにしています。その人を利用しようとしているじゃないけど、なんとなくやりたくなくて。それに、「紹介してください」って言われてもパッとは出てこなかったりしますけど、雑談していると「そういえば」みたいに出てくるし、そうして出てきた人のほうが稀人率が高いですね。

効率がよしとされる時代ですが、非効率のなかに大きな出会いがあるみたいな。ネットより新聞、新聞より紹介、紹介ですらなく雑談という(笑)。

アナログな世界ですね。でも新聞を読んでいる人って僕のまわりにもほぼいないので、新聞に出ていた稀人の情報は自分のまわりでは僕しか知らないんですよ。そう思うと、こんなおいしい情報がこんなに安く手に入るなんて、新聞って素晴らしい!と思います。同業の若手に激推ししすぎて、僕のまわりだけで『日経MJ』をとり始めた人が3~4人いますよ。表彰してほしいぐらい(笑)。

待つのではなく、自分で突破口を開く

同業の若手の話が出ましたが、川内さんの記事や本を読んで「自分もこういうことをしてみたい」と憧れる書き手はたくさんいると思うんです。そういう人たちに何かアドバイスはありますか?

ライターは編集部から「この人に取材して」という依頼を受けることが多いと思うんですけど、特にWebメディアの編集部って、毎日記事を何本アップするとかノルマがあるじゃないですか。編集者は常にネタを探しているはずなので、提案されてイヤなことってないと思うんですよ。だから「自分が取材したい人を見つけてきて、求められていなくても勝手に提案したらいいんじゃない?」とよく話しています。面白そうなネタなら「じゃあ行ってきて」って言ってくれる人もいるかもしれないじゃないですか。本に出ている人たちにも通じますけど、「何かいい仕事こないかな」って待っているんじゃなくて、自分で突破口を開いていかないと。

というのも、僕自身がそうやってきたので。駆け出しのころはWebメディアで「この人の取材記事を書いてください。分量は2,000〜3,000字で」みたいな仕事がほとんどでした。でも自分から「こういう面白い人がいるんです」って提案して、「いいね、書いてよ」って言われて取材していったんです。でも2,000字とか3,000字じゃぜんぜん足りなくて、勝手に長く書いて「すいません! 6,000字になっちゃいました。つまんなかったら削るので、とりあえず読んでください」って送ったら、「面白いからこのまま載せちゃいますね」みたいな(笑)。僕は運よくそういう編集者たちと巡り合って、いまはこういう本を出せるようになったんですよ。

すごく実践的で有益なアドバイスだと思います。

書きたいメディアには問い合わせフォームから企画を送っていましたしね。若い子たちによく「どうしてそんなにいろんなメディアで仕事してるんですか?」って聞かれるんですけど、「問い合わせから送れば?」って話しているんですよ。そしたら何人かそれで仕事をもらっていました。

スペイン時代のサッカー選手のインタビューも、「よく受けてくれるね」って言われましたけど、普通にクラブの問い合わせフォームからメールしただけですよ。勝手にみんな敷居を高くしちゃっていますけど、それはもったいない。

最後に、人物以外でご興味のあることは?

趣味としては本を読んだり映画を見たりするのも好きなんですけど、小説を読んでいても、Netflixを見ていても、「こういう展開でこう描くと意外性が生まれるんだな。よし、次の原稿で試してみよう」って、結局すべて仕事につながっちゃうんですよね。それで推理小説を真似た原稿を書いて、編集の人に「ちょっとわかりづらいかなー」って言われて「ですよね! 書き直します」みたいな(笑)。


撮影/阪本勇@sakurasou103

執筆者profile
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばで育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
https://twitter.com/tapiocahiroshi
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