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最終回『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~フリーランスたそのお仕事日記~たそ、結婚するってよ。で、どうする? 〜

『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~

夜のボート

……私は一番大切な事を見逃していた。

結婚とは……「生活」なのだ。

自分の再就職先としてお相手の家業などはしっかりとリサーチしていたのにもかかわらず、肝心の「お相手」のことをなにひとつ見ていなかった。

私は、自分の意志で働けるという事を望んでいる。片や、お相手の理想とする生活スタイルは「世間一般」を望んでいる。冷静に考えれば……はじめから交わることのない道だった。

まさに「夜のボート」(『エリザベート』)※だった。

※夜の海に浮かぶ2隻のボートのように、ふたりの人生がすれ違いひとつに戻れない悲しさを歌った名曲

お義母さまと仲良くなれようがなれまいが、両親が喜ぼうが喜ぶまいが、「お相手との生活」ができなければ、話は始まらないのだ。要は……「私自身がどう思うか」が大事なのだ。

そんな当たり前のことを、結婚を約束した後という、だいぶ最終段階にきて悟った。

結婚の話はいったん白紙となり、我が家は軽くお通夜状態になった。

父が物凄い剣幕で私の人格を否定し、母はなんとなくこうなると思っていたと言い(だったらもっと早く止めろや!とか思ったよね。思うよね、マジで)、もうお前にはなんの期待もしない!と告げられ、その後生活するうえで私が少しでも粗相をすれば「だから結婚が出来ないんだ」などとぼやかれる。

いくら血のつながった相手だとはいえ、流石にくるものがある……。が、CMなどでチビッ子がテレビに映るたび、孫はまだか……と楽しみにしている寂しげな父親の背中を見ていると、自分のしたことがどんだけ父親の楽しみを奪ってしまったのか……という罪悪感も生まれるわけで。

ほんと、「私だけに」とか言ってらんないよ。……まあ、言ったようなもんだけどさ。シシイはホント凄いよ。

そんなこんなで家族からの信用が0を下回ってしまった私は、その他の方法で信用を得るしかなかった。

そこで見つかったのが「家を買う」という選択肢だ(まあ、これも両親に提案されたものだが)。

「家族」ではないが、「財産」という守るべきもの。それがあることで、自分自身に何かあった時に守ってもらえる。「しっかりと自分の財産を守る」ということなら、結婚はしなくてもいいと両親は妥協してくれた。

それから両親は、将来私自身が住む予定のその家のデザインにあれこれ口を出し始めた……というかほぼデザインした。

一瞬「あれ、誰が住むんだろう?」と思ったが、両親が楽しそうだったので「まあいっか」となった。(自分で選んだのは、リビングのムーミンの壁紙と、自分の部屋のプラネタリウムみたいになる天井の壁紙だけだった)

……まあ、そんなわけで。

なんやかんやあってマイホームを購入したのだが、この経験によって私の結婚観は「私には向いていない」に変わった。

理想のお相手、とは

色んな経験を経て結婚観が変わった私だが、自分が結婚に向いていないことは、前々から薄々感じていたことでもある。

私は「愛」という言葉を信用していない。

例えば結婚するにあたって、神様の前で誓う「愛」。病める時も健やかなるときも……とか言ってるけど、この先何十年も共に生きていく際に起こるイベントを、たった十文字に要約して誓わせるなよ……といつも思う。

共同生活をするうちに現れるイヤな事。それから目を逸らすために「愛」が必要なんか?愛があれば乗り越えられるってことは……愛って「赦す」ってことなのか?だとしたらこの先許せないことばかりが起きるというんか?

そんなもんじゃねぇだろ、愛って。それら全部全部「愛」という感情一つでなんとかできると思ってんじゃないよ!……と、いささか取り乱してしまうのである。

私はこれを「愛で乗り越えなきゃいけないクエスト多すぎ問題」と名付け、そういうような状況に出くわすたびに内心取り乱している。

あと……職業柄、自分を応援してくださる方と関わっていくうちに「愛には寿命があるのではないか」と感じるようになった。

在団中から現在にいたるまで様々な方と接してきた中で、昂ぶる感情を最大温度で伝えてくる方……例えば、めちゃくちゃ分厚い手紙を毎日送ってきてくれる方や、「好きです」を連呼するような、瞬間的温度が高ければ高い人ほど、次の公演の際には自分から離れていたりする。

対照的に、逆にこっちが楽しめているか心配になるくらいアルカイック・スマイルな方……例えば、日々の徒然なることを手紙にしたためてくれたり、世間話をしてるような感覚で、静かに、でも確実に応援してくれる人の方は、15年以上の付き合いになっていたりする。

私は思う。

愛は……蝋燭のようなものなのだ(誰かが先に言ってたらごめん)。

熱く熱く燃え上がるほど、早く消えてしまう。静かな灯火は、ゆっくりと永遠に燃え続ける。決して、どっちが良いとか悪いとか言っているわけではない。なんなら、自分自身も熱しやすく冷めやすいタイプだし。

ただ、結婚は、結婚だけは、一時のアツい気持ちや勢いでしてしまうと……燃え尽きるのも早いのかなと思うのだ。このことは、何を隠そう「宝塚歌劇団で上演されてきた珠玉の作品たち」に教えてもらった。

「一時のアツい気持ち」代表作品といえば……『マノン』だ。

主人公のロドリゴと相手役のマノンって……マジで「生活」のことを一切考えていない。心配する親友をよそに一瞬で燃え上がって一瞬で燃え尽きている(まあ、あれは親族も結構ヒドイけれども)。

『マノン』だけではなく、タカラヅカの作品ではたびたび「愛することで破滅に追いやられる人」が主人公になる。『ロミオとジュリエット』も、『哀しみのコルドバ』のエリオとエバも、『うたかたの恋』のルドルフとマリーも、みんなみんなガっと愛してガっと散る。

そんなん……自分にはできんし。散りたくないし……(笑)。

ラブストーリーの中で「愛」と「生活」は切り離されて描かれることが多いけど、自分自身の結婚とは「生活」をすることなのだから……。

じゃあ結局どんな相手が理想なの?どんな相手となら、穏やかに過ごせるの?

そんな風に考えていた頃、偶然にも再会したのがひろくんだ。

ひろくんと半日隣同士で過ごしただけでわかった。気を遣わずとも続く会話、なにもかもが「おもしれー」と思える新鮮さ。そして育ってきた環境がほぼ一緒だから、周りには理解しづらいと思われる価値観が理解してもらえる気楽さ……。

この人となら、超弱火で長~い間一緒に過ごせると思った。

私にとっての理想の相手とは、ひろくんだったのだ。

一回、冷静になって考えましょう、の後

そんなこんなで一週間があけ、結果報告の日となった。

あれやこれや考えてみたが、やはり私はひろくんと結婚したいと思っていた。ひろくんは一体どう思っているか、気になるところではあったが、まあ、駄目でもまた友達に戻れればいっか……などと、割と気楽に約束のお店(私が予約した)へと向かった。

そこに……やたら重装備で現れたひろくん。

結構長めの旅行にでも行きそうな荷物量だったので、どこかに行くの?と聞いてみると、

ひろくん「タカラヅカの公演を観にこれから夜行バスで大阪へ向かうんだ☆彡」

とのこと。

互いに仕事終わりに約束したので時刻は20時過ぎ。夜行バスは22時に出るので21時半過ぎにはこの店を出たいらしい。これから将来の事を決定しようという、割と大事な日に、制限時間を設けるとは。

「さすがはひろくんだ」と、謎に感心してしまった。

結果報告の会、開始――――。

自分から制限時間を設けたくせに、なかなか本題に入れないモジ男ひろくん。どうでもいいような話ばかりしながら、時計をちらちらと見て焦っている。結果、私が

「で……どうする?」

とシンプルに聞く。夜行バス出ちゃうよ、と。

たっそ「え~先日のお話の続きですが、私は冷静に考えた結果、やはりひろくんと結婚できれば嬉しいという見解に至りました」

まるでただの打ち合わせのような会話だ。色気もなんもない。ただ、私の気持ちを受け取ったところで、ここまでモジモジしていたひろくんが突如、

「待って!」

と言った。

え、まさかのお断りか……?と、小さい覚悟を決めた瞬間、

ひろくん「そこから先は僕の方から言わせて☆彡……えっと、そのあの……結婚を前提にお付き合いしましょう☆彡」

物凄い勢いだった。内心「あ、そっち?」と思いつつ

「よろしくお願いします」

と答えた。

「よかったぁ。プロポーズは、僕から言いたかったから……」

と、ひろくんはホッと胸をなでおろした。

内心「いや、ここまで王手かかった状態を作ったのワイやぞ。この手柄ドロボウが」と、一瞬毒を吐きかけたが、それこそがひろくんだと思い、受け止めた。

その後、注文した鶏の唐揚げがテーブルへ。ケンタッキーで言うところの「ドラム」のような部位の唐揚げを眺めながら、

ひろくん「家族でケンタッキー食べる時ってさ、ここ(ドラム)……食べられた?」
たそ「食べられなかった~」
ひろくん「だよね~!!」

と、またもや中間子あるあるで盛り上がり、お店をあとにした。都内のオフィスビルが立ち並ぶ街灯の下、我々は固い握手を交わした。

たそ「それじゃ……色々とよろしく」

ひろくん「うん☆彡」

ひろくんは夜行バスへと向かい、雑踏に消えていった。

こうして……「ともだち」は、突如「運命の人」になったのだ。

そこから数ヶ月が経ち……私とひろくんはめでたく結婚した。おともだち婚とはいえ、我々は「新婚さん」だ。これから始まる新婚生活、さぞや楽しいに違いない……♪♪

……そう思っていたのだが、正直当時の記憶が……ほぼ無い。

なぜなら、新婚生活が始まるのとほぼ同時期に、とある公演のお稽古が始まろうとしていたから。その公演とは……

「エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート」だった……。

大切なお知らせ
今回でFREENANCE MAGでの連載は最終回となります。

そして!『こう見えて元タカラジェンヌです 遅れてきた社会人篇』書籍化が決定しました!2023年2月28日より全国書店にて発売されます。(Amazonは流通の都合により3月6日発売となります)

FREENANCE MAGでの連載の続きや書き下ろしを加えた、盛りだくさんの内容となっております。どうぞお楽しみに!!

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