マグロ解体ショーよりも大事なこと
捌かれて行くマグロを見つめながら、ここでまた脳内会議が開かれた。
ファンファンファンファーン――――――――――――
正直、今日一日めちゃくちゃ楽しいな。ひろくん、一緒にいてめっちゃ楽だ。「なにか話さなきゃ……!」という気を遣う必要もなく続く会話、隣にいる居心地も悪くない、同じ「中間子」だからほっといても良い。言葉通り一緒にいて気が楽だった。
あとはなにより「心からタカラヅカが好き」という共通点がデカい。私自身も大ファンだし、なみなみならない思いで所属していた劇団を大好きだと言ってくれるのは単純にとても嬉しい。
この人とだったら、毎日気楽に生活ができる……かも。だったら……早く手を打った方が良い。
(脳内会議終わり)
その日の帰り道。
最後の最後までしっかりとご両親の作戦は続き、群馬から東京へと戻る新幹線の席を隣同士にされていた。
およそ90分間、これまた二人で話すことに。ただ、私はひろくんに話したいことは既に決まっていた。
「ワンチャン、ワイと結婚する気はあるんか?」と。
……誤解してほしくないのだが、私は普段、ここまでドストレートに人に意見を言えるタイプではない。いつもは揉まんで良い気すら揉みまくって結局何も言わずに終わる。というのがデフォだった。
でも、今回はハッキリ聞こう、そう思った。
理由はひとつ。
ひろくんと「ともだち」だから。この人となら、ともだちのまま結婚できそうな気がする。そして、仮にひろくんに「ごめんなさい」と言われても、ともだちのままでいられそうな気がする。だから聞ける。
私は覚悟を決め、ひろくんに想いを伝えることにした。……のだが、まずは少し外側からかる~くジャブを打ってみた。
天「ひろくん、昨日今日となんだかおもしろいことになっているねぇ」
ひろくん「そうだね~。なんかごめんね」
天「ぜんぜん!お父さんがめちゃくちゃ仕事を2人でするように画策したのとか楽しかった」
ひろくん「そっか☆彡」
天「ってか……我々が本当に結婚したらオモロイかもね」
ひろくん「そうだね☆彡……でも、無理しなくて良いからね☆彡」
ファンファンファンファーン――――――――――――
緊急脳内会議―――――!!!
ヤバイ!この人……ハッキリ言わないと伝わらないタイプだ!
どうする?どう伝える?膝まづいて「ドゥーユーメリーミー?」とでも言ってみるか?どうすr……
スマホ「ピロリん♪」
まさかのプロポーズ~タカラジェンヌのサブスク~
緊急脳内会議の最中、スマホにメッセージの通知が。
会議を中断し確認すると、同期の桃花(ももはな)ひなからの結婚式のお誘いの連絡だった。
天「桃ちゃんの結婚式かあー。ウエディングドレス絶対キレイだよなあ」
ひろくん「桃ちゃん?」
天「うん……同期の桃花ひなちゃんが結婚するんだって。桃ちゃんわかる?」
ひろくん「……今、なんて言った?」
天「え……?」
ひろくん「いま、な ん て い っ た の ! ! !」
これまでの朗らかな人柄からは想像がつかない程、鬼気迫る表情でひろくんが詰め寄って来た。 私は若干気圧されつつ答えた。
天「え……桃ちゃん……」
ひろくん「桃花ひなさんだよね、元雪組娘役さんの桃花ひなさんだよね!はああああああ」
ひろくんは、ここが車内だということはお構いなしに、名俳優かのごとく両手で頭を抱えて悶絶しだした。
ひろくん「雪組さんの中で(←ここ重要)一番憧れの娘役さんだったんだよ……!!」
ハチャメチャに落ち込むひろくん。
なんというか……「結婚したのか……オレ以外のヤツと……」を、リアルで見られるとは思わなんだ。この人、本当にオモロイな……。
いや、ちょっと待て、これは……チャンスなのでは……?ピィーン!と脳内に閃きが走った私は、一か八かひろくんに提案してみた。
天「てか、私と結婚したら、桃ちゃんの結婚式に身内として出られるかもよ」
ひろくん「……へ……?」
ひろくんは、教科書通りの「鳩が豆鉄砲を喰らった顔」でこちらを見た。
もう一押ししてみる。
天「どう?私と結婚してみては?」
ひろくん「……」
突然黙りこくり、口元に手を当て固まるひろくん。きっと、脳内で緊急会議が開かれていることだろう。
ひろくん「……その手があったか……」
とんでもねえ心の声が駄々漏れしているひろくん。
ひろくん「あの……ぼくは……」
駅員「間もなくー北千住ー北千住でーす」
これ、マジで盛っていないのだが、ひろくんが今まさに答えんとする、おもしろいくらい劇的なタイミングで駅についてしまった。
ひろくん「ア……ア……」
パニックになりすぎてカオナシになるひろくん。
天「とりあえず降りる準備しなよ」
アタフタしながら逃げるように電車を降りるひろくん。
北千住のホームにて、
天「まあ、今ここで返事が欲しい訳じゃないから、とりあえず連絡先を交換しようよ」
ひろくん「は……はい」
この日はひろくんの返事を聞くことなく解散した。
次の日……目が覚めると、ひろくんから連絡が来ていた。どんなもんだろうとおそるおそるメールを確認すると……。
「昨日はありがとうございました。返事なのですが、昨日まで僕たちは群馬にて、僕の両親によるマインドコントロールを受けていた可能性が高いです。よって、昨日今日で返事をするのは少し危険かと。今日から一週間、お互いの土地で冷静になって、今一度考えてみましょう。それでも結婚したいと思ったら連絡を下さい」
……想像の斜め上の内容だった。
こうして、我々の物語はまだ何も始まってないのにもかかわらず、突然の冷却期間に突入した。
「フリーランスたそのお仕事日記~たそ、結婚するってよ。で、どうする? ~」
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