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仕事も料理も「自分にとっての”心地いい”を大切に」料理家・今井真実の仕事術

今井真実 小沢あや

独立4年目の小沢あやが、さまざまな業種のフリーランスに話を聞く連載『フリーランスな私たち』。今回のゲストは、レシピ発信をきっかけに人気がうなぎ上りとなった料理家・今井真実さんです。

「(材料は)もし、あれば、ね。無理しないで下さいね」と、優しい口調が特徴の今井さん。彼女を人気料理家に押し上げた、ひときわ人気のメニューが「オーブンまかせ!燻さないベーコンの詳しい作り方」と「30年間作り続けてやっと辿り着いた最後のカルボナーラレシピ。」です。

レッドオーシャンであるレシピの情報発信が話題になったきっかけや、今井さんが仕事の軸として大切にしていることを伺いました。

今井真実 profile
料理家。東京都世田谷区で料理教室「nanamidori」を開催していたが、コロナ禍でお休みに(現在は不定期開催)。フォトグラファーで夫の今井裕治が撮影した料理の写真とともに、レシピの情報発信を始める。著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」のひとさじ』(KADOKAWA)、『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』(左右社)。
小沢あや profile
コンテンツプランナー/編集者。企業や経営者の発信支援や、ミュージシャンのオウンドメディア編集を手掛ける。「つんく♂の超プロデューサー視点!」 編集長も担当。2021年にピース株式会社を設立。

コロナ禍の「毎日料理がしんどい」に応えたくて

小沢:以前から今井さんのTwitterをフォローしていたので、約2年の間にすごい勢いで人気となる様子を見ていました。あっという間でしたね。Twitterはもともと、プライベートで使っていたんですか?

今井:Twitterはやっていました。noteはアカウントだけもっていて。お仕事として活用してから、よく投稿するようになったんです。ちなみに、Instagramは今も使いこなせていません(笑)。

小沢:noteでは、最初に投稿したベーコンとカルボナーラのレシピがバズりましたね。広く届けるために、どんな工夫をしたんですか?

今井:自分でもバズった理由があんまりわからなくて。当時は「やったるぞ」という気概もなかったんです。料理教室がコロナ禍で開催できなくて、世間からは「毎食準備するのがしんどい」っていう声が聞こえて、何かできないかなと思ってレシピの投稿を始めました。

今井真実「30年間作り続けてやっと辿り着いた最後のカルボナーラレシピ。」
「30年間作り続けてやっと辿り着いた最後のカルボナーラレシピ。」(今井さんのnoteより)

小沢:子どもたちの学校が休校になったりして、保護者の負担が増えましたよね。プラットフォームとしてnoteを選んだ理由は?

今井:文字制限がなく、写真もたくさん貼れて、使いやすかったからです。夫もフリーランスでフォトグラファーをしているので、当時はこの先どうなるのか不安でした。でも、悩んでいるよりは、お互いずっと家にいるんだし、できることをしようかと。それで、「料理の写真を撮ってくれない?」と夫に頼みました。快諾してくれたので、それからは夫に料理の手順を教えるイメージで作って撮影してもらって、レシピを書くようになったんです。

小沢:夫婦の料理教室が始まったんですね。

今井:「これは、こう作るんだよ」って、口頭で夫に教えるように文章化すると、長文になるんですよね。だから、140文字の制限があるTwitterに投稿するのは難しくて。その点、noteはブラッシュアップしやすかったんです。

小沢:たしかに。noteってレシピ投稿している方も多いイメージです。

今井:皆さんの目を引いた理由は、たぶん写真がすごく良かったのと、レシピを長く丁寧に書いていること。それに「オーブンで、ベーコン」という斬新さかもしれませんね。

今井真実「オーブンまかせ!燻さないベーコンの詳しい作り方」
「オーブンまかせ!燻さないベーコンの詳しい作り方」(今井さんのnoteより)

小沢:わかりやすく省略してTwitterで発信するよりも、noteで調理工程をしっかりと説明して、ストックとして長く読まれるレシピになったんですね。

自分が「びっくりするくらい」おいしいレシピにこだわる

今井真実

小沢:レシピを発信するうえで、今井さんがもっとも大切にしていることは?

今井:常にもっといいレシピを、ですね。私自身が「これでいいや」っていうレシピはあんまり出したくない。だから、発信するのは「ちょっとおいしい」じゃなくて、「びっくりするくらいおいしい」レシピと決めています。

小沢:「たくさん読まれるレシピ」ではなく、あくまで今井さんが「びっくりするくらいおいしい」と感じることが軸なんですね。

今井:あとは、失敗しにくいレシピを発信することですね。失敗すると、せっかく作ったのに落ち込んでしまうから。

小沢:今井さんのレシピは本当においしくて、私もカルボナーラを何度も作っています。カルボナーラって定番だけに、それぞれの料理家さんのキャラクターが出るから面白いですね。お酒に合う味だったり、調理ステップが手軽だったり、薄味だったり。今井さんのレシピは、少ない材料で作れるのも助かります。

今井:そうですね。私は主婦で子どもがいるので、そういう家庭的背景がレシピに影響していると思います。例えば、スープ作家の有賀薫さんは分量が2人分で、単身者やご家族の少ない方でも作りやすい量のレシピが多いです。自炊料理家の山口祐加さんのレシピも、そうです。私はファミリー向けのレシピです。そういう人がnoteにはいなかったので、ちょうどすき間に入れたんだと思います。

(今井さんのnoteより)

小沢:あえて、その需要を狙ったんですか?

今井:何も考えていなかったですね。そもそも、料理教室をしていた頃は、レシピを発信するのって、あまり良くないと思っていたくらいなんです。

小沢:なぜですか?

今井:お金を払って料理を習いに来てくれる生徒さんがいるから、レシピを発信したら意味がなくなってしまうんじゃないかと思って。でも、実際には生徒のみなさんにご連絡すると「おうちでも作れて助かる」と、よろこんでくださいました。

小沢:そうなんですね。ところで本の執筆やレシピ監修などお忙しいと思いますが、今井さんが仕事を受けるときの方針はありますか?

今井:書籍に関しては、夫と2人でできるようにお願いしています。基本的にはスケジュールが合えば受けて、合わなかったら受けない、というスタイルですね。

小沢:料理家さんの動画撮影に同席したことがあるんですけど、ベストな状態で撮影するために何度も作ることがあったり、食材調達に苦労したりと、本当にハードワークだなと感じました。ときに、クライアントから難しい要求が来ることもありそうですよね。

今井:料理の色どりを大切にする考え方もあるので、「もっとカラフルな野菜を使ってください」と言われることはあります。私の料理って、茶色とか地味な色が多いんです(笑)。「トマトを使ってください」と言われると味が変わってしまうから、難しいんですよ。

小沢:そういうときは、どう調整するんですか?

今井:クライアントの要望に添うケースもありますが、私の名前が出る仕事であれば、「こっちの食材はどうでしょう」とかいろいろ提案して、お互いにいいところに落とし込んでいければと思っています。

コロナ禍で感じた、仕事がない状況のリアルさ

小沢:結果的に上手く切り替えられたとはいえ、社会も仕事も先行きが見えないまま料理教室をお休みしたのは、つらかったのではないでしょうか。

今井:そうですね。コロナ禍じゃなくても、病気になったら仕事がなくなることもありますよね。フリーランスであれば、特に。これまで漠然と感じていた不安が、「本当にあり得るんやな」とリアルに感じられるようになりました。

小沢:本当にそうですよね。今井さんは、どうやって前向きにシフトしましたか?

今井:いろいろ考えたんです。もっと仕事を増やすか、貪欲に違うことを始めるか、オンラインレッスンを開催するか。考えた中で、一番楽だったのがレシピ投稿だったんですよ。すぐに仕事にならなくても、料理教室の生徒さんや食事作りに悩んでいる人たちがよろこんでくれるし、まあいっか、と。そこから、ありがたいことにどんどん忙しくなっていくんですけど。

今井真実

小沢:最初から欲を出さずに、レシピをシェアする精神が良かったんでしょうね。

今井:ステイホームの世の中で、「将来どうなるんやろう」とみんな金銭的に余裕がなくなっていましたよね。そういうときに自分のスキルでお金を取ろうとは、思いませんでした。

小沢:うまくいっているときも、なんだかんだで「この状況が続くかな?」とか不安になりませんか?

今井:不安は、ずっと抱えていますね。でも、今まではどちらかというと自分のことよりも「夫の仕事がなくなったらどうしよう」と思っていたんです。料理教室は開催していたけど、二馬力にも満たないくらいで、夫の収入を柱に生活していたから。

小沢:その揺らぎは、どう乗り越えたんですか?

今井:不安な状態に慣れてしまった、というのが一番ですね。自分以外の人の仕事を心配するのって、不毛なんです。パワースポットに行って、神頼みするくらいしかなくて。

小沢:確かに。相手の仕事を捻出できるわけではないですもんね。

今井:そう思うと、あれこれ考えるのも不毛だなって(笑)。

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