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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~第13話 新人サラリーマンのブルース~さらばサラリーマンたそ~

こう見えて元タカラジェンヌです~遅れてきた社会人篇~

サラリーマンの夢と現実

そんなこんなでなんとかイベントは終了。

企画から本番までのフルマラソンを完走しきったような、そんな達成感に包まれながら普段の業務に戻った私は、イベントの決算データを確認することになった。

にっくきエクセル(前話参照)にまとめられた、業務内容と数字の羅列。

それらを目の当たりにした瞬間、イベント当日の夢に満ちた暖かな空間から、一気に現実に引き戻された。

「これが……歌って踊れるサラリーマンの宿命か……」

この瞬間、ひとつ大人になったような気がした。

今回私は「制作」と「製作」のどちらも担っていたので、各セクションの予算をほぼすべて把握していた。

そして実際にかかった経費と売り上げを確認しながら、それぞれの業務内容のスキルとその価値がどれくらいなのかを初めて知ることとなった。

その中でたった一つ、どうしても知ることのできない内訳があった。

それは……「自分自身」の価値だった。

そもそも、このデータに私の項目があるわけがない。私に支払われるのは、サラリーマンとしての今月の月給(固定給)だからだ。

だが、データ上の細分化された項目を見ながら……なぜかモヤモヤとした気持ちが心から離れなかった。

企画構成から各資料作成、そして出演など、自身が多岐にわたって担当した業務もかなり細かい項目に分けられるはず。

「その場合、その内訳は……?」

答えの出せない疑問に思考回路を支配され、私は夢と現実の狭間で立ち尽くした。

さらばサラリーマンたそ

今までタカラヅカで培ってきた情報量の多いおじさんのスキル、タンバリン芸人としてのスキル、サラリーマンとして担うこととなった歌って踊れるサラリーマンとしてのスキル、余興芸人のスキル、そして今回の案件で対峙することとなった資料作成、企画構成、MCとしてのスキル……。

それらのスキルにどれほどの価値があるのだろう?

来る日も来る日もそのことを考えていた。

ときに上司にそれとなく聞いてみたり、友人に聞いてみたり、ネットでイベント会社の予算を見たり……だが、納得のいく答えは出なかった。

そして……その答えは、サラリーマンでいる限りは知ることはできないのでは?と思うようになっていった。

もともと、

「これからはタカラヅカという組織だけじゃなく、さまざまな環境で自分にできることが何かを知ろう」

そんな思いを胸にタカラヅカを卒業した。

そして、それを実現させるためには、もっと……自由に飛び回る必要がある……。

……自由、に……?

「それって……会社を辞める……ってこと?」

思考がここまで辿り着いた時、ふと我に返った。

気まぐれで飽きっぽい性格ながら、タカラヅカには音楽学校を含め15年在籍した。

そんな自分の心から、「辞める」という言葉がこんなにも早く発せられるとは思っていなかった。

だが……サラリーマンとなって半年とひと月、そろそろ自分が「組織に属することに向いていない人間だ」ということが嫌と言うほどわかっていた。

例えば今回のイベントでも、初めて責任者という立場になった緊張感、そして自分だけが経験者ということから業務の何もかもを一手に担い、勝手にワンオペしてしまった。

途中で手を差し伸べられても、自身の説明力のなさゆえ業務を託すことができなかった。

かといって、誰かの元でアシスタントとして務めるときには、勝手なことをして怒られるのはマズイと、「指示待ち人間」になってしまう。

その他向いてない要素は数知れず……。

それとは別に、そろそろ自分が「これからやっていきたいこと」も、なんとなくわかってきた。

例えば企画構成脚本演出について、今後はもっと自分にしかできないモノが作れるようになりたいと強く思った。

今回のイベントを通して得た「責任感」は、サラリーマンという「組織の一員」としてではなく、天真みちるという「個人」として向き合ったから生まれたものなのだと思う。

ならば、今後は天真みちる個人で案件に向き合う方が、より強固なものが作れるようになるはずだ。

サラリーマンとして働いたことでわかった、新たな進むべき道。

それを見据えた翌月末、私は会社に退職願を出した。

エピローグ、且つプロローグ

翌々月……。

サラリーマンからフリーランスとなった天真みちる。

「これを……世間では脱サラというのか……?」

それを言うにはあまりにも短すぎる期間だったかもしれない。

が、目の前に拡がる道なき道を切り拓き、責任を取りながら進もうと、深く決心したのであった……。

次回予告
次回、遅れてきた社会人篇
「新人サラリーマンのブルース~フリーランスたその誕生~」

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