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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~ 第11話 新人サラリーマンのブルース~ドキュメントオブ天真爛漫ショー~

こう見えて元タカラジェンヌです~遅れてきた社会人篇~

私のゼロ

こうしてディナーショーの出演オファーを受けた私は、早速準備に取りかかった

……のだが、

大前提中の大前提である、「どんなコンセプトにするか」がまったく思いつかず、始めの一歩も踏み出せない状況に陥ってしまった。

どんな歌を歌えば良いのか、演奏はどうしたら良いのか、ダンスは踊るのか…。コンセプトが決まらないので、具体的な内容も決まらない。悩みに悩めど、企画書は真っ白のまま時が過ぎていった。

私は真っ白な企画書を見つめながら、自分は今までどれほど「受け身」でいたのか、と罪悪感に囚われた。

タカラヅカ在団時、稽古中は自身に与えられた役の背景を掘り下げてきたつもりだった。

ときには演出家の意図を汲みつつも、「自分ならこう作りたい」と思う場面を、同じ場面に出演するメンバーを導き、自主稽古しながら作ってきた……つもりだった。

でも、こうして自分自身で作ったモノは、演出家の先生が作った「脚本」があるから生まれるモノであって、ゼロから生み出されたモノではない。

私が生み出してきたと思っていたものは、二次創作に過ぎなかったのだ。

「ゼロから何かを生み出したい」という思いで宝塚を卒業したはずなのに、それを披露する時が来た瞬間、何の持ち物もないことに気づくという、このタイミングで気が付くか?という、なんとも間抜けで情けない状況になっていた。

「私は一体、何をしたいんだろう……」

その答えは見つからず、その間にサラリーマンになり、恐怖の議事録作成や、朗読劇の脚本作成など、初めて対峙する業務に押しつぶされ、より迷宮の奥深くへのまれていった。

「私は一体、何をしたいんだろう……」

来る日も来る日も思考回路がその疑問だけに支配されていた。

そして、一つの考えが頭をよぎった。

「そもそも私の人生そのものが二次創作なのではないか」

4人兄弟の私は、幼いころから姉がどう動くか、妹がどう動くか、弟に親がなんて言うのか、それらを受けてから行動することが多かった。

宝塚に入団してからも、トップスターさんはどう思われているのか?上級生の方はどう思われているのか?演出家の先生の意図は?劇団は私にどんな存在になってほしいのか……?と、常に誰かのアクションを受けてから考えて行動していた(そうじゃない時も多々あるが)。

私はずっとリアクションしか取っていなかったのだ。

「自分が何をしたいか」ではなく、「ど真ん中が何をしているか」を見て行動する。

そんな二次的リアクションジェンヌの私が、果たしてゼロから一を生み出すことが出来るのだろうか……?

「ど真ん中」……即ち「ゼロ」
見つけたい 私の「ゼロ」
Where is my ZERO?
Where is my ZERO?
空っぽのカバンを手に探しに行こう
 journey to find yourself
探しても見つからない時もあるさ
そんな時は浴びる程酒飲めばいい
何を探してたのかさえforget it
ジョッキ片手にさあgo for it

よし出来た

……ポエムが。(by日常)

……誤解して欲しくないのだが、こちらは本気で悩んでいる。
本気で悩んでいたら、思考回路が脇道に逸れてしまったのだ。

でも……

脇に逸れる……これが私……なのかもしれない。

脇……そういや私は在団中、「脇役のトップスター」を目指していたんじゃなかったっけ……?

「脇役のトップスターの……ディナーショー……」

ぼやけにぼやけてポエムがかっていた視界がクリアになっていった。

……今の自分には、これしかない。
というか、これ以外もう思いつかない。

こうして、自分もよくわからないうちに、初ディナーショーのコンセプトが決まったのだった。

脇役のトップスターのディナーショー

そこからは信じられないくらいスルスルと内容が固まっていった。

オープニングは、在団中に宴会で披露し、大いに盛り上がった美女と野獣の「ビーアワーゲスト」に始まり、
音楽学校時代に伴奏を担当していた宝塚音楽学校校歌を弾き語り、
自身が歌ってきた、10小節にも満たない通称「チビソロ」の数々を、「たそヒストリー」としてメドレーにし、
途中のエピソードトーク中には、当時の写真などをスクリーンに映し、
衣装チェンジの際には動画を作成し、
エピローグに、これまた余興でタンバリン芸の次に鉄板だった、ミュージカルレミゼラブルの「ワンデイモア」の全キャストを一人で歌う。

すべてが、今まで自分が脇役として表現してきたものだった。

……それと、余興で表現してきたものだった。

自分の中で鉄板だと思えるネタがいくつかあるということが、こんなにありがたいと思える日が来ようとは。

構成表を作りながら、「いやぁ~余興やってきて良かったなあ」としみじみ思った。

そして迎えた本番。
ドキドキしながら宴会場の扉を開く……。

そこには、とてもありがたいことに沢山のお客様が駆けつけてくださっていた。中には……花組の同期や上級生の方、そして下級生も(涙)。

タカラヅカを卒業しても、こうして会いに来てくださる方々がいることがとても嬉しかった。

憧れのタカラヅカの扉を叩いてから、自分の意志で卒業するまでの、15年間の想いをメドレーに込めて歌った。

歌いながら、今まで「チビソロ」だと思っていたものは、とても壮大なメロディーだったんだということに気が付いた。

一人ひとりに私の脇役としてのすべてを、これでもか!というくらいお届けした。

お客様は私の表現を受け入れ、喜んでいらっしゃるように見えた。

最初は自分だけで埋められるか不安だったのに、歌って踊ってタンバリンかき鳴らして、そして笑って。

気づけばあっという間の90分だった。

終演後、お客様をお見送りすると、

「またやってね!」「また会いましょう」と、とても優しいお言葉をかけてくださった。

また……やっていいんだ。
自分自身の背中を押してもらえたような気がした。

「脇役として、主役になる」

今までに得たことのないほどの達成感に包まれながら、私はそう、強く決意した。

次回予告
次回、遅れてきた社会人篇
「新人サラリーマンのブルース~Word・Excel・PowerPoint みんなちがって、みんないいこともない~」

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