いまだ終息の目処が立っていない新型コロナウイルスの感染拡大。長期化によってさまざまな業界に多大な影響が及び、スポーツクラブも例外ではありませんでした。多くの関連施設が臨時休業を経て営業を再開しましたが、休会者や退会者が増加し、業界全体が大きく売上を落としています。そのあおりを受け、フリーランスで契約しているスポーツインストラクターたちが業績悪化を理由に仕事を断られるなど、苦境に直面している実情も浮かびあがってきました。
2020年7月、渋谷に誕生した新スポット“MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)”に、高い天井と渋谷の中空を借景にしたオールブラックのワークアウトスタジオ“GRIT NATION(グリットネーション)”がオープン。こちらのスタジオで勤務するインストラクターEbaさんに、コロナ禍におけるレッスンや生活、心境の変化についてお話をうかがってきました。
体育大学卒業後、業界2位の大手スポーツクラブに入社。4年の勤務を経て独立。フリーのインストラクターとして活躍するかたわら、スポーツウェアブランドの店頭に立ち、スポーツとファッションの楽しさを伝え続けている。
https://gritnation.jp/
https://www.instagram.com/_eba____/
活動の場は自分で決める
都会のど真ん中にハイセンスなジムですね!フリーのインストラクターさんは勤務地を自由に選べると思うのですが、こちらに決めたのは何か理由があるんですか?
ここは今は渋谷と銀座なんですけど、もともとは目黒と銀座にあったジムで設立4年ほどです。大学卒業後に入ったスポーツクラブを辞めてフリーになったときに、自分の活動の場を増やしたいというのと増やさなければという気持ちがありました。
所属しているインストラクターたちがカッコ良かったので、私のキックボクササイズの師匠がこちらの一員になったときに自分も相談して入れてもらいました。自然と似たような人が集まってきていますね。
インストラクターの働き方を変えたコロナ
なるほど。最近はコロナの影響でスポーツクラブも色々と新しい試みに取り組んでいるようですね。Ebaさんの生活はコロナの前と現在で変化はありましたか?
私は大学在学中に自由が丘にあるスポーツクラブでアルバイトをしていて、卒業後にそのまま入社したんですね。その後辞めてフリーになってからは同じスポーツクラブで業務委託契約を結んでスタジオレッスンを担当していたのですが、コロナでその仕事はなくなってしまいました。
私と同じような境遇に立った人もいると思うんですけど、オンラインで家でも仕事ができるという発想の人が出てきているという変化はあると思います。
自粛期間中にピラティスのインストラクターの資格をとってオンライン中心のレッスンに切り替えた友人もいますが、私もデジタルの活かし方は検討し続けています。
たしかにオンラインフィットネスやオンラインヨガの登場は新鮮でしたね。一方で、Ebaさんが担当されるような激しい動きのあるワークアウトもオンラインで可能でしょうか? 今後取り入れていく予定はありますか?
GRIT NATIONでも2020年3月末からサービスインし、私が担当することもあるのですが、熱量や感情をリアルに感じることができるという点で「オフラインの良さ」を改めて実感しているところです。
フィットネス業界も発想の転換を求められていますね。Ebaさんは数多くのお客さんに指導するうえで、何か気を付けていることなどはありますか。
私は音に合わせてみんなのテンションを上げていく系のレッスンが得意なのですが、さらにGRIT NATIONでは、アスリートパフォーマンスをベースにした人体への本質的なアプローチを学びました。伝え方で人の動きは全く変わってくるので、いかにシンプルで効果的に伝えるかということについてはいつも気を付けています。
なるほど。人気の高いインストラクターとはどんなタイプだと思いますか。
45分のセッションのために、どれだけの準備ができるインストラクターかということだと思います。
毎日いろんな人が来てくれますが、初めての人もいればずっと来てる人もいて、年齢も違います。身体能力レベルの違う人たちが同じセッションをするにあたってどういう想定の元に45分間やるかってことなのですが、インストラクターの手腕はその「想定」に現れていると思います。
どういう人が来るか分からないのに「想定」するというのも難しいですね。
その場での判断が問われることも多いのですが、私たちはよく言うんですけど、プログレッション、リグレッションですね。例えば一つの種目について、それを簡単にできる人もいれば、そうじゃない人もいます。難しそうにしているお客さんがいたら、その人に合わせてリグレッション=レベルを下げます。「じゃあ、こっちの方法でやってみましょう」という声がけをしたりなどですね。
逆に簡単にできてしまう人なら、プッシュアップ(腕立て伏せ)にしても両足をついてやるのと片足だけでやるのとは全然違うので、「片足を上げてやってみてもいいかもしれませんね」って言ってプログレッションする。
なるほど。レッスン自体はみんなと一緒でも、強度は個人によって調整するってことですね。
そうです。こういう仕事をしているとお客さんのリアクションは過剰なくらい読み取ってしまうのですが、自分の声かけ一つで、お客さんがトレーニングのモチベーションを上げてくれるのを見るときは本当にうれしいですね。
お金も大事だけど
Ebaさんのレッスンは人気があるので、コロナで担当レッスンがなくなったときは定期的に来ていたお客さんは残念がったでしょうね。収入的な変化についても教えてもらえますか。
はい。私はその時そのジム以外にもいくつか仕事をしていたので、収入面ではあまり影響はありませんでした。ただ、私がインストラクターになって初めて勤務したジムだったので、メンタル的には相当ヤバかったです。
来てくれるお客さんも常連さんばかりで期間も長かったので、最後のレッスンが終了したときは大泣きしてしまいました。ここは、場所柄お客さんは若い人たちが多いのですが、自由が丘は地元の人たちがほとんどだったので、年配の方も多くて空気感が全く違うんですよ。毎週そこに行くことが楽しみだったので、お金の心配よりも心の拠り所がなくなってかなり辛かったです。
特にそこでは、おじいちゃん、おばあちゃんたちがすごく可愛いがってくれました。私なら、ということで難しい動きのレッスンにも毎週参加してくれていたので、その姿を見ると生きるエネルギーを本気でもらっていました。
動くしかない!
いい話ですね……。
いや、おじいちゃん、おばあちゃん達のエナジーは本当にすごくて。そんな職場がなくなったのはショックでしたが、そうなったらそうなったで新しいことを始めようという気になりました。この4月からゴールドジムでも仕事をスタートさせます。
おお! この期間に! すごいですね!
以前は一週間全く休みがないくらい働いていたのですが、自由が丘の仕事がなくなって休みを一日つくるようにしたんですよ。そうすると余裕も出てきて、いろんな考えとか発想が生まれるようになった気がします。
確実にバージョンアップしましたね!
確かにコロナをきっかけとして、考え方はかなり変わりました。こんなに行動的になったのもこの2~3カ月の間です。
コロナで学んだこと
今回はコロナでしたが、仕事をしていくうえで予測不能なことは色々とあると思います。そういった見通しがつかない状況でも強いマインドをキープするコツのようなものがあればお聞かせください。
私は基本的にビビリなんで新しいことに挑戦するとかって苦手なんですけど、このコロナで仕事がなくなったことをきっかけに、周りのみんなの影響もあって挑戦するようになりました。
色んなところに出向いて、色んな人に会ってみると何か生まれるなっていうのはコロナになって分かったこと。強いマインドをキープするには行動あるのみだと思います。あと、生きていくためにはお金も必要なので、そこも以前よりしっかり考えるようになりました。
今日は貴重なお話をありがとうございました!!
取材協力:GRIT NATION(グリットネーション)
「進化を楽しむ」をコンセプトに掲げ、運動習慣の根付いたライフスタイルの実現を提唱。機能解剖学を軸に、アスリートのファンダメンタルの向上を追求したファンクショナルトレーニングプログラムが人気を集めている。
取材・文/FREENANCE MAG編集部