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インボイスは様子見でOK!? 大河内薫税理士&あんじゅ先生『フリーランス税本』インタビュー

インボイスは様子見でOK!? 大河内薫税理士&あんじゅ先生『フリーランス税本』インタビュー

インボイス制度は基本、「様子見」でいい

『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(『フリーランス税本』)
引用:『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが
税金で損しない方法を教えてください!

肝心の内容の方でも、ずっとフリーランスが知りたいと思っていたこと――例えば、確定申告でどこまでが経費になるのか?なんてことも、非常に納得できる説明がされていて感動しました。ネット記事だと綺麗事で逃げているものが大半ですから。

大河内 他の税理士だと書けないんでしょうね。でも、僕はYouTubeでも全く同じことを言っていますし、それで僕の税理士生命に何の影響もないですから。

とはいえ、結局どこまでを経費と認めるか?を決めるのは本人と、最終的には税務署なので、その他の人間の意見なんて参考にしかならないんですよ。だから、経費に迷うもの一覧表とかも載せてますけど、断定できることはない。あくまでも、僕が税務でやっている判断基準を書いただけなんです。

それでも“どれだけ売上に貢献しているか?”“その仕事をしていなくても必要なものなのか?”という指標は、大変参考になりました。そうやって既存の本にはない、本当に欲しい情報や考え方が書かれているのもヒットの要因だと思うんです。

大河内 ありがとうございます。ただ、100%ではないんですよ。この本を読めば、ある程度の理解をして、確定申告ができるようにはなるけれど、税金やお金について、すべてが納得できるわけではない。でも、だったら全部を書いてある通りにやらなくてもいい。

だから、100点を取れなくてもいいんですよ。どの本を読んでも100点は取れないし、そもそも素人が100点を取れるわけがない。とりあえず、この本に書いてある通りにやれば確定申告はできるし。

あんじゅ おかげで私も、ちゃんと確定申告できるようになりました。ちゃんとe-taxで青色申告しております(笑)。

若林杏樹(あんじゅ先生)

他にも年金基金だったり、iDeCoだったり。聞いたことはあっても、よくわかっていなかったものについても簡潔に説明されていますよね。しかも重版のたびに、情報が細かく更新されているのも嬉しい。

あんじゅ だから2冊持ってる人とかもいるんですよ。紙の本とKindleとか、インボイス前とインボイス後とか。同じ本を2冊買うことなんて普通はないのに、すごく有り難い。

大河内 最初に出版してから6年ほど経って、今、42刷までいってるんですけど、そのうち20回くらいはデータの数字を最新のものにしたり、年表の年号を令和に変えたり、何かしら情報を変更しています。確定申告書のフォーマットも毎年変わっているので、その図版を入れ替えたりもしてますね。まぁ、大きく変わったのは消費税の税率が上がったときと、去年秋のインボイスが導入されたときくらいかな。

あんじゅ 特にインボイスに関しては、情報を追加して新たに改定版を出し直そうか?という案もあったんですけど、別物として出すとAmazonのレビューとかが消えちゃうんですよ。それはもったいないねという話から、通常の重版として扱うという形に落ち着きました。

インボイスに登録するか否かという、売上1,000万円以下のフリーランスなら全員が持っているであろう悩みに、これまた納得のいく答えを出してくださっていて助かりました。インボイスに関するほとんどの記事が登録一択のなか、この本では基本、様子見でいいと言ってくれていて。

あんじゅ よかったですよね。

大河内 まず売上1,000万円以上の課税事業者に関しては、登録しないメリットはないので全員登録する。で、免税の人は本に載っているフローチャートを見て判断してもらうのが一番なんですが、結局、自分のクライアントがどうするのか?というところに尽きるんですよね。クライアントも自分も両者損をしないというのは無理で、片方だけが損をするか、両方少しずつ損をするかの二択。そこで納得のいくようにクライアントと話し合うしかないわけで、だからインボイスって本当に難しいんです。それぞれの立場に立って話を聞かないと、正しい答えなんて出せないですし、紙面上での一方的な発信で解決することは本来無理なんですよ。

ただ、ひとつ言っておきたいのは「インボイス制度が始まったので、インボイス登録していないあなたには消費税分支払いません」という一方的な通告は、法律違反になるということ。そんなことを言ってくるクライアントがいたら、ちゃんと指摘したほうがいいですし、そもそも積極的に法律違反をしようとしてるクライアントなんて、こちらから切っていいと思いますよ。もう取引自体を考えた方がいい。

なるほど! そこは聞きたいところだったので安心しました。もし「消費税分カットします」と言われたら「それは法律違反です」と返していいってことなんですね。

大河内 そうです。最初の年は未登録業者との取引でも消費税の負担は2割だけなので、例えば消費税合わせて1万1,000円払っていたのを1万800円にします……とかも勝手にはできないんです。そうしたければ、両者が交渉のテーブルについて合意しなければいけない。一方的に通告することは法律違反なので。

あんじゅ まだ導入1年目なので、すごく難しいですよね。お付き合いのある企業さんも、どうすればいいのかわからないようですし、制度は始まったけれど判断は企業さんのお気持ち……みたいな。だからマンガでも、どっちでもいいんじゃないか的な表現になっていると思います。

企業によって、また、金額の大きさによって対応はさまざまですよね。

あんじゅ 登録してないと、企業さんが被ることになっちゃいますからね。金額が大きいと厳しいかも。

大河内 それを踏まえてクライアントとの関係性を考えたときに、自分が消費税を払ってでもインボイス登録した方がいいと判断した人は登録すればいいし、クライアントが問題なく消費税を払ってくれるなら免税事業者のままでいればいい。仕事を請け負うフリーランスの立場としては、結局、自分の損得だけを考えればいいんです。

でも、軽減措置がすべて終了する6年後はわからないですよ。支払う側が被る消費税が今は2割ですけど、6年後は10割になるので、内々にインボイスの登録番号を持っていない取引先を外していこうとする動きが、大企業を中心に当然出てくるでしょうからね。総合的な判断で……とか言いつつ、内々では登録番号を持っていないからという理由で切っていく。

フリーランスはとにかく「売上を立てる」「助けてくれる人を持つ」こと

『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(『フリーランス税本』)
引用:『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが
税金で損しない方法を教えてください!

当然、6年後には『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』のほうも、また情報が書き換えられることになると。

大河内 そうですね。まずは3年後、負担率か2割から5割になるときに変わると思います。いずれにせよ最適解は、その間に売り上げを1,000万まで伸ばすことなんですよ。そうすれば必然的に課税事業者になるんで、悩む必要はまったくない。インボイス制度の導入が決まったのが2018年末で、当時YouTubeでもそう話したところ、いくつか「あのとき頑張って4年間で1,000万いきました」っていうお便りもいただきましたから。

それがベストとわかっていても、業種によってはなかなか難しいのが悩ましいところですが(苦笑)。ちなみに『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』と、続編の『貯金すらまともにできてませんが この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』に続いて、今後またお二人で組んで本を出そうという話はあったりするんですか?

大河内 今は、まだないですね。

あんじゅ 待ってます(笑)。

大河内 フリーランスの税務や資産運用においては、この2冊で完結しているというか。さらに先に進むと、マンガの主人公に「それ、もう私には必要ないです」と言われると思うので、また0から1のステップを踏めるジャンルで僕が得意なものがあれば……という感じです。需要があるのは相続とかでしょうけど、相続は僕が得意じゃないんですよね。

残念ですね。人口の多い団塊ジュニアには、今、一番需要がある領域なのに。

大河内 相続って難しすぎて、場合によっては税理士10人いたら10通りの答えが出てくるんですよ。素人には絶対無理だから、一番お金も手間もかからないのは相続専門税理士に投げること。なので、もし本にするとしたらソコに行くまでの過程ですね。相続“税”対策は資産が多くなければ必要ないんですけど、相続対策は全員必要なので、そこで家族間が絶縁しないための方法とかなら、僕の知恵でも少しは役に立つかもしれない。本来、相続対策って当人が元気なうちから時間をかけてやっていくものなので、例えば前もって親に聞いておくべきこととか、そういった相続の前段階の本なら……って、今、話していて思いました。

若林杏樹(あんじゅ先生)

ぜひ、お待ちしております! 今日はお二人のお話をうかがって、やはりフリーランスにとって大切なのは行動力なんだなと実感しました。

あんじゅ 確かにそうですよね。私自身、他のマンガ家がやらないことをやっていたから大河内さんに声をかけてもらえたわけですし、本当にありがたい! このお仕事がなかったら、私、相当やばかったと思うんですよ。本当にわからないことばかりだったのが、大河内さんとの2冊でマンガを担当して、なんとか理解できるようになって。なので確定申告なら『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』、もう少し進んで資産運用的なことがしたい場合は続編の『貯金すらまともにできてませんが この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』を読んでいただければ、かなり役立つのではないでしょうか。

さらに、フリーランスに伝えておきたいアドバイスを付け加えるなら?

大河内 どの業界にせよ売り上げが立たないと話にならないので、税金とか資産形成とかっていうのは、その次の話なんですよ。だから、確定申告なんかに時間をかけてる場合じゃない。100点じゃなくていい、80点でいいから効率よくサッと済ませるべきもので、それを考えると『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』は最適だと思います。これを読めば100点は取れなくても十分戦えるので、それで浮いた時間を本業に使ってほしいですね。

あんじゅ 私のしくじりや損したこと、すべてそこに置いてきたので、ぜひ1冊読んで皆さんは損をしない確定申告をしてみてください(笑)。ただ、私、仕事の全然少なかった当時からアシスタントがいたんですよ。だから挿絵の予定が急にマンガになっても、なんとかこなせたんです。もし、オファーを受けた時点でアシスタントを探していたら、もう全然間に合わなかったので本当に助かって! なので、いざとなったとき助けてもらえる人を見つけておくことも、個人的には大切なんじゃないかと思ってます。