フリーランス・個人事業主として事業を行ううえで、「売上」「収入」「所得」など、自身の「儲け」に関わる用語を意識しておくことは非常に重要です。
それぞれの正確な意味を把握することで、経理作業を正しく行えるようになり、確定申告や納税など、税務上の手続きの理解も進みます。
今回は、「売上」「収入」「所得」の意味や内容の違いだけでなく、個人事業主の具体的な税金の計算例もあわせて解説をしていきます。
売上・収入・所得の定義とは?
まずは、個人事業主として税金を計算する際に必要な、「売上」「収入」「所得」の定義を解説しましょう。
「売上」とは、一年間に、商品・製品の販売やサービス、業務受託報酬など、事業によって得られた収益のことです。なお、事業用の商品などを、事業主自らの生活のために利用した場合には、「家事消費」として販売相当額を売上に含めます。
「収入」は、売上よりも広い範囲を指す用語です。例えば、個人事業主の確定申告で計算する「事業収入」には、売上のほかに「雑収入(その他の収入)」を含みます。
雑収入とは事業に関連する収入であるものの、本業から生じる収入ではないもののことです。具体例としては、事業を行ううえで発生した空箱や作業くずの売却代金、仕入割戻、開業祝い金等が該当します。
これを計算式に表すと以下のようになります。
「事業収入 = 売上 + 雑収入」
ただし、事業の内容によっては「事業収入 = 売上」となる方も多いでしょう。
また、事業収入以外にもいろいろな種類の「収入」があります。例えば、いわゆる不労所得と呼ばれる「不動産収入」や「配当収入」などです。また、副業からの収入である「雑収入」などもあげられるでしょう。
これらの収入は税務上10種類に分類されており、収入の種類ごとに決められた方法で計算しなければなりません。
「所得」は、1年間に得られた収入から、経費や所得控除を差し引いた純額を指します。税金計算においては、所得が最終的な課税の対象です。そのため、収入が高くても経費が大きい場合には所得が低くなり、納めるべき税金が少額となるケースも考えられます。
なお、個人の税金計算において、売上、収入、所得の計算期間は1月1日~12月31日の1年間を指します。
税金と売上・収入・所得の関わりについて
税金計算においては、収入(≒ 売上)そのものではなく、事業にかかる経費を差し引いた所得が重要です。これは、いわゆる儲け(利益)に相当するものです。
さらに、ここから「所得控除」を差し引いた課税所得に対して所得税が課されます。
「課税所得 = 収入 − 必要経費 − 所得控除」
次に、課税所得の計算に必要な、売上や必要経費について詳しく解説しましょう。
売上の計上時期について
前述の通り、売上とは商品の販売や業務委託報酬のことです。ここでは売上の計上時期について解説します。
売上は「実現主義」で計上することとされています。「実現主義」とは、売上を、「代金を受け取る権利が発生したとき」に計上する方法です。計上するのが、お金を受け取ったときや請求書を発行したとき(現金主義)ではないことに注意してください。
「権利が発生した日」という表現では解釈がわかれてしまうため、国税庁から以下のような指針が出ています。指針を参考に自身の事業にあった合理的な方法を適用しましょう。なお、一度選択した基準は、毎年継続して適用しなければなりません。
取引の種類 | 計上時期 |
商品の販売 | 引き渡しがあった日。具体的には、出荷した日、船積みした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用できることとなった日から実態に合うものを選択 |
人的役務の提供 | サービス提供完了時、ただし期間の経過やサービス提供に応じて収入を得る場合、その期間やサービス提供に応じて計上 |
請負契約 | 物の引き渡しをする契約の場合、相手に引き渡した日。物の引き渡しをしない契約の場合、役務提供を完了した日 |
必要経費とは?
必要経費とは、収入を得るために必要な支出のことです。必要経費を正しく計上すれば、所得の金額を減らすことにつながり、結果的に税負担を少なくできます。
必要経費は「発生主義」で計上することとされています。発生主義とは、経費が発生したタイミングで計上することを意味しています。これも、計上するタイミングが支払時ではないことに注意が必要です。
個人事業主が必要経費にできる支出は多岐にわたります。例えば、商品や原材料の仕入、旅費交通費、広告宣伝費、消耗品費、水道光熱費などがあります。
ただし、なんでも経費計上できるわけではありません。「事業に関連する支出」であることがポイントであり、プライベートで使う洋服や、所得控除できる国民健康保険料などは必要経費にはなりません。
フリーランス・個人事業主が納める税金の額は?
フリーランス・個人事業主が納める税金にはどのようなものがあるかを知っておくことも大切です。事前におおよその納税額を把握しておき、資金繰りを考えておくと安心です。
フリーランス・個人事業主が納める税金の種類
個人事業主が納める税金には、大きく以下の4種類があります。
1. 所得税
所得税とは、1年間の「所得」に対してかかる税金です。国に納める税金で、確定申告により計算・納付します。
所得税の計算式は以下の通りです。
所得税額 =(収入 – 必要経費 – 所得控除) × 税率
なお、所得控除には以下の14種類があります。「基礎控除」や「社会保険料控除」は誰でも利用できるものです。制度の内容を正しく理解し、使える控除はすべて活用して税負担を減らし、賢く納税しましょう。
①雑損控除
災害や盗難などで資産に損害を受けたときに受けられる控除
以下のいずれか多い方
- ((損害金額 + 災害等関連支出の金額 − 保険金等の額)−(総所得金額等)× 10%
- (災害関連支出の金額 − 保険金等の額)− 5万円
※参照:No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)|国税庁
②医療費控除
一定額以上の医療費を支払った場合に適用される
※生計を同じくする配偶者やその他の親族も含まれる
(支払った医療費 − 保険金などで補填される金額)− 10万円
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等 × 5%
※参照:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
③寄附金控除
一定の寄附金を支払ったときに受けられる控除
以下のいずれか低い金額
- その年に支出した特定寄附金の額の合計額
- その年の総所得金額等の40%相当額
※参照:No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
④社会保険料控除
健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料を支払った場合に適用される
※生計を同じくする配偶者やその他の親族も含まれる
1年間に支払った全金額
⑤小規模企業共済掛金控除
小規模企業共済の掛金を支払った場合に適用される
一定の方法で計算した金額(最大12万円)
⑥生命保険料控除
生命保険や介護医療保険、個人年金保険で、支払った保険料がある場合に適用される
一定の方法で計算した金額(最大12万円)
⑦地震保険料控除
地震保険料を支払った場合に適用される
一定の方法で計算した金額(15万円)
⑧障害者控除
納税者や控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合に適用される
一人につき、障害者27万円、特別障害者40万円、同居特別障害者75万円
⑨寡婦控除
納税者自身が寡婦である場合に適用される
27万円
※参照:No.1170 寡婦控除|国税庁
⑩ひとり親控除
納税者がひとり親であるときに適用される
35万円
⑪勤労学生控除
納税者自身が勤労学生である場合に適用される
27万円
⑫配偶者控除
納税者の合計所得が1,000万円以下で、配偶者の合計所得が48万円以下の場合に適用される
納税者本人の所得および控除対象配偶者の年齢により13万円~48万円
⑬配偶者特別控除
納税者の合計所得が1,000万円以下で、かつ配偶者の所得金額が48万円超133万円以下の場合に適用される
納税者本人の所得および配偶者の所得により1万円~38万円
⑭扶養控除
16歳以上のこどもや両親などを扶養している場合に適用される
扶養親族の年齢、同居の有無等により一人につき38万円~58万円
※参照:No.1180 扶養控除|国税庁
また、所得税には所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税制度」が採用されており、税率は5%~45%となっています。具体的な所得税の税率は以下「所得税の速算表」の通りです。
所得税の速算表(平成27年以後)
課税される所得金 | 税率 | 控除額 |
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
例えば、課税される所得税が200万円の場合、求める税額は以下のようになります。
200万円 × 10% − 9万7,500円 = 10万2,500円
一定の所得金額を超えた場合、所得金額全体に最も高い税率が課されるのではなく、一定の所得を超えた部分に高い税率がかかります。
2. 住民税
その年の1月1日の時点で住民票のある市区町村に納める税率です。住民税には、所得に関わらず均等に課税される「均等割」と所得に対して課税する「所得割」があります。
均等割の額は自治体により異なり、5,000円~6,200円、所得割は前年の所得に対して一律10%です。なお、住民税にも所得控除があります(基礎控除は43万円)。
住民税額は、確定申告の内容に基づいて計算され、6月頃に「住民税決定通知書」として送られてきます。同封されている納付書などにより自身で納付しましょう。
3. 消費税
商品の購入やサービスの利用時に発生する税金です。消費税の支払いは個人と同様に商品やサービスを利用する都度、利用した店などに支払います。事業者は受け取った消費税と支払った消費税の差分を計算し、納税しなければなりません。
基準期間の年間売上が1,000万円以上であれば「課税事業者」となり、1,000万円以下であれば、消費税を納める必要のない「免税事業者」となります。ただし、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の課税事業者登録をしている場合には、売上額に関わらず「課税事業者」となるため注意してください。
4. 個人事業税
特定の事業に課される税金です。事業により税率3~5%が課税されます。なお、事業所得控除が年間290万円あるため、事業所得が290万円以下の個人事業主は、事業税は非課税です。
個人事業税の計算式は以下の通りです。
個人事業税 =(収入 − 必要経費 − 各種控除)× 税率
住民税と同様、所得税の確定申告に基づいて計算された金額が、8月、11月に「納税通知書」として送られてきます。納付書などによって自身で納付してください。
参考として、東京都の個人事業税率の一覧は以下の通りです。
区分 | 税率 | 事業の種類 | |||
第1種事業
(37業種) |
5% | 物品販売業 | 運送取扱業 | 料理店業 | 遊覧所業 |
保険業 | 船舶定係場業 | 飲食店業 | 商品取引業 | ||
金銭貸付業 | 倉庫業 | 周旋業 | 不動産売買業 | ||
物品貸付業 | 駐車場業 | 代理業 | 広告業 | ||
不動産貸付業 | 請負業 | 仲立業 | 興信所業 | ||
製造業 | 印刷業 | 問屋業 | 案内業 | ||
電気供給業 | 出版業 | 両替業 | 冠婚葬祭業 | ||
土石採取業 | 写真業 | 公衆浴場業 (むし風呂等) | - | ||
電気通信事業 | 席貸業 | 演劇興行業 | - | ||
運送業 | 旅館業 | 遊技場業 | - | ||
第2種事業
(3業種) |
4% | 畜産業 | 水産業 | 薪炭製造業 | - |
第3種事業
(30業種) |
5% | 医業 | 公証人業 | 設計監督者業 | 公衆浴場業 (銭湯) |
歯科医業 | 弁理士業 | 不動産鑑定業 | 歯科衛生士業 | ||
薬剤師業 | 税理士業 | デザイン業 | 歯科技工士業 | ||
獣医業 | 公認会計士業 | 諸芸師匠業 | 測量士業 | ||
弁護士業 | 計理士業 | 理容業 | 土地家屋調査士業 | ||
司法書士業 | 社会保険労務士業 | 美容業 | 海事代理士業 | ||
行政書士業 | コンサルタント業 | クリーニング業 | 印刷製版業 | ||
3% |
|
装蹄師業 |
売上金額別の税金額シミュレーション
次に、売上の金額別に各種税金額を簡易的に計算してみましょう。以下のように仮定した場合の計算例を掲載しますので、参考になさってください。
- 必要経費:売上の35%とする
- 社会保険料:売上の15%とする
- 所得控除:基礎控除48万円、社会保険料控除のみを使用
- 住民税所得割の課税所得:当年度の売上 × 50% − 基礎控除43万円とする
- 住民税均等割:東京都5,000円
- 個人事業税:当年度の所得 × 事業税率5%とする
1. 売上が100万円の場合
- 所得(売上 − 必要経費)= 100万円 × 65% = 65万円
- 所得控除 = 基礎控除48万円 + 社会保険料控除15万円 = 63万円
- 課税所得 = 65万円 − 63万円 = 2万円
- 所得税額 = 2万円 × 5% = 1,000円
課税所得 = 100万円 × 50% − 基礎控除43万円 = 7万円
所得割 = 7万円 × 10% = 7,000円
均等割 = 5,000円
免税事業者のため非課税
「所得 < 事業所得控除290万円」のため非課税
合計:1万3,000円
2. 売上が500万円の場合
- 所得(売上 – 必要経費)= 500万円 × 65% = 325万円
- 所得控除 = 基礎控除48万円 + 社会保険料控除75万円 = 123万円
- 課税所得 = 325万円 – 123万円 = 202万円
- 所得税額 = 202万円 × 10% – 9万7,500円 = 10万4,500円
課税所得 = 500万円 × 50% – 基礎控除43万円 = 207万円
所得割 = 207万円 × 10% = 20万7,000円
均等割 = 5,000円
免税事業者のため非課税
課税所得325万円 – 事業所得控除290万円 = 35万円
35万円 × 5% = 1万7,500円
合計:33万4,000円
3. 売上が1,000万円の場合
所得(売上 − 必要経費)= 1,000万円 × 65% = 650万円
所得控除 = 基礎控除48万円 + 社会保険料控除150万円 = 198万円
課税所得 = 650万円 − 198万円 = 452万円
所得税額 = 452万円 × 20% − 42万7,500円 = 47万6,500円
課税所得 = 1,000万円 × 50% − 基礎控除43万円 = 457万円
457万円 × 10% = 45万7,000円
均等割 = 5,000円
仮受消費税と仮払消費税の差分を納付
1,000万円 × 65% × 10% = 65万円
課税所得650万円 − 事業所得控除290万円 = 360万円
360万円 × 5% = 18万円
合計:176万8,500円
まとめ
個人事業主やフリーランスの方にとって、「売上」「収入」「所得」などの語句の理解や、支払うべき税金の計算方法に関する基礎知識は非常に重要です。
また、売上規模によって、負担すべき税金の種類や金額が変わるため、課税の仕組みも正しく理解しておかねばなりません。 正しい知識があれば、必要経費を正しく計上できるだけでなく、所得控除などをうまく活用して税負担を抑えることも期待できます。事業収入の増加を目指しながら、税金の知識も身に着けることで、さらなる事業の成長に備えましょう。
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