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スマホ向けアプリ市場の独占を抑制 中小企業・スタートアップ参入を促進「スマホソフトウェア競争促進法」とは?【弁護士が解説】

スマホ向けアプリ市場の独占を抑制 中小企業・スタートアップ参入を促進「スマホソフトウェア競争促進法」とは?

スマホソフトウェア競争促進法は、“巨大IT新法“とも呼ばれ、スマートフォン(以下、スマホ)で利用される特定ソフトウェアの競争を促進する法律です。2024年6月12日に行われた参議院本会議で可決・成立しました。

この法律は、スマホ向けアプリケーション市場におけるIT企業の独占的な市場支配を抑制し、中小企業やスタートアップの参入を促進することを目的としています。本記事では、この新法の概要や影響、そして企業や消費者・ユーザーにとっての意義について詳しく解説していきます。

スマホソフトウェア競争促進法の背景と目的

プライベートでも仕事でも、スマホが手放せない昨今。スマホ分野において絶大な影響力を誇るのがアップル社とグーグル社です。利用者がスマホにアプリをインストールする場合、アップル社やグーグル社の「アプリストア」を通して行うことになります。

有料のスマホアプリをインストールする場合や、スマホアプリで課金を行う場合、利用者はアップル社やグーグル社に料金を支払い、アップル社やグーグル社が手数料を引いてアプリ事業者に送金することになります。

このように、スマホアプリの購入や課金は、巨大IT企業の寡占状態(少数の企業が市場を支配している状態)で、競争が阻害されているとの批判、端的には、手数料が高すぎるという批判がありました。

これまでは、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(いわゆる独占禁止法)において優越的地位の濫用等が禁止されていましたが、スマホアプリに特化した規制をかけるべきと議論が上がったのです。

そこで、EUでは、2024年3月に巨大IT企業による競争阻害への規制等を目的としたデジタル市場法(Digital Matkets Act/DMA)を本格的に運用開始。また、アメリカ合衆国でも、司法省によってデジタルプラットフォーム事業者に対して反トラスト法(Antitrust Law/日本でいう独占禁止法)違反で提訴等がなされるなど、海外でも規制の動きが活発になっていました。

このような背景から、日本も2024年6月12日に、スマホアプリ等についての公正かつ自由な競争の促進を図ることを目的とする法律として、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(通称、スマホソフトウェア競争促進法)」が成立したのです。

※参照:(令和6年6月12日)「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」の成立について | 公正取引委員会

スマホソフトウェア競争促進法の主な内容

スマホソフトウェア競争促進法の具体的な規制内容を確認してみましょう。スマホソフトウェア競争促進法では、公正取引委員会が指定した事業者の禁止行為(禁止事項)として、以下を定めています。

公正取引委員会が指定した事業者の禁止事項①

  • 取得したデータの不当な使用(法5条)
想定される禁止事項の具体例
  • 指定事業者(アプリストア側)が取得した情報から、あるゲームアプリについて、どのようなガチャの売上が一番高いか情報を分析し、アプリストア側が似たようなガチャを展開すること。

公正取引委員会が指定した事業者の禁止事項②

  • アプリ事業者によるOSやアプリストアの利用条件、取引の実施についての不当に差別的な取り扱いや不公正な取り扱い(法6条)
想定される禁止事項の具体例
  • アプリストアにおいて、アプリストア独自のアプリについては広告無しでインストールできるが、他社アプリについては広告を30秒間見ないとインストールできないようにすること。

公正取引委員会が指定した事業者の禁止事項③

  1. アプリストアを自社のものに限定して他社がアプリストアを提供することを妨げること(法7条1号)
  2. OSにより制御される機能について、他の事業者が、いわゆるボイスアシスタント等について、指定事業者がアプリで利用する場合と同等の性能で利用することを妨げること(法7条2号)
想定される禁止事項の具体例
  1. アップルストアなどのアプリストアからでないとアプリをインストールできないように設定すること(いわゆるサイドローディングを制限すること)。
  2. OS事業者が、ユーザーが他社開発のSiri類似のボイスアシスタントをインストールしても、言葉を発することで起動することができないように設定すること(これにより、結果としてOS事業者側のボイスアシスタントの方が使いやすくなり得る)。

公正取引委員会が指定した事業者の禁止事項④

  1. 他社の課金システムを利用しないことを条件とするなど、他社の課金システムを利用することを妨げること(法8条1号)
  2. アプリ上に、独自のアイテム等販売用のウェブサイトに誘導するリンクを表示することを制限したり、独自のウェブサイトにおいてアイテム等を販売したりすることを妨げること(法8条2号)
  3. 自社のブラウザエンジン(GoogleChromeなど)の利用を条件とするなど、他のブラウザエンジンの利用を妨げること(法8条3号)
  4. アプリ利用時のログイン方法として、OS事業者が提供するログイン方法(SIWAなど)を選択肢として表示することをアプリ提供の条件とすること(法8条4号)

公正取引委員会が指定した事業者の禁止事項⑤

  • 検索結果の表示において、自社のサービスを、正当な理由なく、競争関係にある他社のサービスよりも優先的に取り扱うこと(法9条)
想定される禁止事項の具体例
  • グーグルで検索するとグーグル社のサービスが常にトップに表示されるようにすること。

また、スマホソフトウェア競争促進法は、指定事業者に対して、一定の措置を講ずる義務付け(遵守事項)を定めています。

指定事業者の遵守事項①

  • データの管理体制等の開示(法10条)
想定される遵守事項の具体例
  • アプリAを開発してApple Storeに提供しているアプリ事業者Bが、アップル社がアプリAについて取得しているデータをどのように使用しているかを、(アップル社内のアプリ開発等の際にどのように参考にしているかを知るため)アプリ事業者Bに開示する。

指定事業者の遵守事項②

  • データ・ポータビリティのツール提供(iPhoneとAndroidとの間でデータ移行を簡易にできるようにするなど)(法11条)

指定事業者の遵守事項③

  1. デフォルト設定(iOSにおけるSafari、AndroidにおけるChromeなど)について、一般利用者が簡易な操作により変更できるようにすること(法12条1号イ、2号イ)
  2. ブラウザや検索等について、他の同種のサービスの選択肢を示す選択画面を表示すること(法12条1号ロ、2号ロ)

指定事業者の遵守事項④

  • OS、ブラウザの仕様変更等の開示(アプリ事業者がOSのアップデートに対応できように一定の期間的猶予を設けるため等)(法13条)

公正取引委員会が規制対象となるべき事業者を指定することになりますが、指定事業者は毎年、規制の遵守状況等をまとめた報告書を提出しなければならないことになります(法14条)。

上記のような禁止事項や遵守事項に違反があった場合、公正取引委員会は、再発防止等を求める排除措置命令を発したり(法18条)、課徴金の納付を命じたりすることができます(法19条)。

スマホソフトウェア競争促進法で禁止された行為を行った場合の課徴金の金額は、売上の20%(10年以内に違反を繰り返した場合は30%)とされ、従来の独占禁止法上の課徴金の算定率(不当な取引制限で売上の10%)よりも大幅に高いものになっています。

スマホソフトウェア競争促進法がアプリ開発者に与える影響

スマホソフトウェア競争促進法が施行されると、アプリ開発者には以下のような影響が生じます。

アプリ開発側からすると、これまではOS側が指定したアプリストア以外でアプリを販売したり、課金システムを設けたりすることができませんでした。つまり、アプリストア側の厳格な審査やアプリストア側の指定する手数料負担に耐えられるアプリのみがユーザーに届いていたのです。

スマホソフトウェア競争促進法が施行されることにより、OS側が指定したアプリストア以外でアプリを販売したり、個別の課金システムの選択肢を設ける機会が拡大したりすることになります。これにより、アプリ開発者の新規参入の幅が広がるでしょう。

また、スマホソフトウェア競争促進法では、指定事業者のアプリ事業者に対する開示義務(法10条)も定められ、アプリ事業者は、指定事業者に対して、アプリ事業者がアプリストアに提供しているアプリについて、OSやアプリストア、ブラウザ等の利用に伴って生成されたデータの開示を求めることができます。

これにより、巨大プラットフォーム企業がアプリ事業者の情報をどのように利活用しているのかを知り得ることに。このような情報開示を活用することも、アプリ開発者にとっては有用でしょう。適切な競争が展開されることにより、アプリを取り巻くイノベーションも促進するとともに、フリーランスの方々にとっても、新たなビジネスチャンスかもしれません。

スマホソフトウェア競争促進法がユーザーに与える影響

スマホソフトウェア競争促進法が施行されることにより、ユーザー側には以下のような影響が生じます。

まず、従来は、Apple Store、Google Playといった、各OSの指定するアプリストア以外のアプリストアからアプリをインストールすることはできませんでした。このことは、このような限定されたアプリストアの審査を経たアプリ以外のアプリをインストールすることができなかったということを意味します。

スマホソフトウェア競争促進法では、アプリストアをOS側で限定することが禁じられますから、単純に、アプリの選択肢が増加することになると見込まれます。

また、ユーザー目線からすると、データ・ポータビリティのツール提供が義務付けられたことも、スマホ利便性向上の重要な一歩であるといえるでしょう。OS間、アプリストア間のデータ移行が容易になることで、乗り換えたいけれども移行が面倒だからといった理由で利用を継続していたユーザーにとっては、乗り換えのハードルが下がることになります。

他方で、大量のアプリが流通することで、不適切なコンテンツやセキュリティ上問題のあるアプリも紛れ込む可能性があります。安易なインストール等には注意をする必要があるでしょう。

スマホソフトウェア競争促進法の課題と今後の展望

スマホソフトウェア競争促進法は、2024年6月19日に公布され、一部を除いて、公布の日から起算して1年6カ月を超えない範囲内で施行されることになります。つまり、遅くとも2025年末には施行されることになります。

もっとも、公正取引委員会が適切に排除措置命令や課徴金納付命令などの権限を発動しなければ、スマホソフトウェア競争促進法は絵に描いた餅となりかねません。巨大IT企業、巨大プラットフォーム企業の動きについて、規制権限を適切に発動するには、公正取引委員会の人的リソースも重要な課題です。

また、スマホソフトウェア競争促進法は、巨大IT企業による寡占に対抗する法律として制定され、今後はスマホアプリ関連の競争が促進されることになるでしょう。しかし一方で、従来はOSの指定したアプリストアの厳格な審査をパスしたアプリのみをスマホにインストールすることができたことで保たれていたセキュリティの確保が課題となります。

さらに、スマホソフトウェア競争促進法の施行によって巨大IT企業による寡占状態に一石投じられることにはなりますが、スマホソフトウェア競争促進法施行下においても、巨大IT企業の影響力はなお絶大です。アプリストア等のシェアが果たして変わることになるのか、市場の動向を追い続ける必要があるでしょう。

スマホソフトウェア競争促進法の附則でも、スマホソフトウェア競争促進法の施行後3年を目途として、施行状況を勘案し、検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるとされています。生成AIの発展も含め、変化の激しい分野だからこそ、3年間という比較的短いスパンでの規制の見直しが求められているようです。スマホソフトウェアに関連する業務を行うフリーランスの方々も、今後の市場の動向や法規制の展開を注視し続ける必要があるでしょう。

まとめ

スマホソフトウェア競争促進法は、巨大IT企業による寡占状態だったスマホソフトウェアについて、適正な競争を促進し、スマホソフトウェアの利便性向上を目指すものです。

プライベートでも仕事でももはやスマホが手放せない昨今、スマホソフトウェア競争促進法の施行により、ユーザー側の利便性は向上すると見込まれます。また、スマホアプリへの新規参入のハードルが下がったことで、フリーランスの方々にとっても、新たなビジネスチャンスになるかもしれません。