事業の拡大を考えた際、避けては通れないのが資金調達という課題です。中小企業やスタートアップ企業の場合、従来の銀行融資やベンチャーキャピタル(※)などはハードルが高く、必ずしも最適な選択肢とは限りません。そこで近年注目されているのが「レベニュー・ベースド・ファイナンス(Revenue Based Finance/RBF)」という新しい資金調達方法です。今回は、レベニュー・ベースド・ファイナンスの仕組みと活用の注意点などを税理士である筆者が紹介します。資金調達のニーズがある企業は、選択肢のひとつとしてご参照ください。
※将来性のある未公開企業の起業・成長・発展を支援するために投資等の形で資金提供し、経営支援等も行うこと。(引用:一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会)
Contents
レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)とは?
レベニュー・ベースド・ファイナンス(以下、RBF)は、将来的に発生すると予測される売上について、その一部を現金化して資金調達を行う方法です。まだ十分な売上が計上できていない企業においても、将来的に売上が継続して発生する見込みなら利用しやすいでしょう。
このRBFは、企業が投資家から出資を受け、投資家は企業が生み出す継続的な収入から一定割合を受け取る形です。投資家は、先んじて決められた金額まで、事業収入に応じた金額が企業から支払われる仕組みになります。
柔軟な返済方法
RBFで企業から投資家へ返済する方法は、「定額型」と「変動型」の2種類があります。主な特徴は以下です。
定額型の特徴
返済方法 | 特徴 |
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変動型の特徴
返済方法 | 特徴 |
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RBFは将来債権の売却
RBFは、お金を借りるのではなく、「将来の売上を譲渡(将来債権の譲渡)」するスキームです。また、2020年4月の改正民法により、将来債権の譲渡が可能であることが明文化されました。
よって、継続的な売上がある場合はRBFを利用することができます。投資などが先行して赤字となっているスタートアップ企業などでも、RBFを利用することが可能です。
(将来債権の譲渡性)
※引用元:民法 | e-Gov 法令検索
第四百六十六条の六 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
2 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
3 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第一項)の規定を適用する。
RBFの仕組み
ここからはRBFの仕組みについて解説していきます。
資金調達プロセス
RBFによる資金調達は、基本的には以下のプロセスにおいて行われます。
なお、RBFで調達した金額は、貸借対照表(バランスシート/BS)において「負債」に計上することとなります。
かかる手数料は?
RBFの手数料は、資金提供のサービスを行う事業者ごとに定められており、料率はさまざまです。一般的には、おおむね3~12%となっています。
RBFのメリット
ここではRBFのメリットを見ていきます。
- 迅速な資金調達が可能
- 売上高に応じて返済額が変動する柔軟性
- 株式の希薄化がない
- 赤字でも利用できる可能性がある
- 担保や個人保証の必要がない
迅速な資金調達が可能
RBFは、申請から入金までの期間が早いのがメリットです。一般的に、融資や出資の場合、銀行や投資家が、返済能力や信用力などを審査します。この審査には、多くの提出書類が必要です。これに伴って審査の期間も長くなり、入金までに時間がかかることが一般的です。
一方、RBFを提供している企業においては、安定してどれだけの売上をあげられるかを示す情報などにより審査を行います。意思決定の判断に必要な材料が少ない分、スピーディーな意思決定が可能になるでしょう。
また、一般的な銀行融資とは違い、多くの場合において資料の提出や審査がオンライン化されており、手間をかけずに済むような設計がなされているのも特徴です。審査の効率化も進んでおり、早ければ数営業日で審査が完了することもあります。
売上高に応じて返済額が変動する柔軟性
返済方法を変動型にすることにより、売上高に応じて返済額が変動しますので、返済による負担感を抑えることができるでしょう。
変動型では月々の支払額が売上に連動します。売上が増加すれば該当月の支払額が増加して支払期間が縮み、売上が減少すれば支払額も減少して支払期間が延びます。
最終的に支払う必要のある金額の総額は、固定型・変動型のどちらを選択した場合でも同じです。そのため、事業の特性や事業計画に即して、自社に合う方法を選択することができ、柔軟性に優れています。
株式の希薄化がない
RBFは、資金調達しても株式が希薄化しない点がメリットとなります。「株式の希薄化」とは、企業の発行済み株式が増えることに伴い、1株あたりの価値が下がることを指します。
株式の希薄化における問題点は、既存株主にとって1株あたり利益が減少し、既存株主の持株比率が減少するため、既存株主からの反発を招くことがあります。また、創業者の持株比率が減ることで、経営に関する意思決定がスムーズに進められなくなるケースも起こりかねません。安定した経営権の維持に影響を及ぼすことがあるため、慎重な判断が必要です。
その点、RBFは株式譲渡を伴わない資金調達手段であるため、株式の希薄化が生じる心配がなく、利用しやすくなっています。
赤字でも利用できる可能性がある
赤字の場合や利益が安定していない場合でも、将来の売上次第で資金調達が可能となる点もメリットです。銀行融資では利益も厳しく見られるのに対し、RBFでは売上高を主に審査され、金額が決まることとなります。
主にRBFの審査では、売上だけでなく、その事業における将来性や成長性、策定された事業計画の妥当性、想定できるリスクなどが判断の材料となることもあり、営業利益よりも売上高や粗利益が重要視されます。
担保や個人保証の必要がない
RBFは、担保がなくても利用できる点がメリットです。一般的に金融機関からの融資では、担保や事業者の個人資産などによる保証を求めることが多い傾向にあります。これは、金融機関が確実に資金を回収するためのもので、担保を用意することが難しい場合も少なくありません。
担保として提供できる不動産や資産がなく、資金調達を諦めているスタートアップ企業にとっては、RBFは利用しやすい資金調達の手段となります。また、個人資産を担保にすることもないので、事業者も自分の財産を他人に手渡す心配がなく、安心して資金調達をすることができるでしょう。
RBFのデメリット
一方で、RBFのデメリットとしては以下のものが挙げられます。
- コストが従来の融資よりも高くなる可能性
- 返済が売上を圧迫する可能性
- 一定の売上を必要とする
コストが従来の融資よりも高くなる可能性
RBFは、一般的に銀行融資の金利とくらべて手数料が高い点がデメリットとなります。よって、RBFを多く利用すると、企業から出ていくお金が増え、資金繰りを悪化させる場合があるため注意が必要です。資金調達方法の優先順位をあらかじめ設け、まずは銀行融資から検討したほうがよいでしょう。
例えば、企業を成長させるために設備投資したい場合に、利益が計上されず赤字の状態であれば、銀行の審査に通らず資金調達ができないことがあります。そのような場合は、次の選択肢としてRBFを検討してみてください、
なお、株式発行とくらべると、RBFのほうがコストを抑えられることがあります。株式発行でコストが高くなる主なケースは、配当金を高く設定している場合が多いためです。かかるコストと利便性を考慮し、検討してみてください。
返済が売上を圧迫する可能性
返済方法を定額型にすることにより、売上高の多寡に限らず、返済額が固定されるため、想定より売上が下回った場合に、返済額が資金繰りを圧迫する可能性があります。よって、売上高がどの程度安定して計上できるかの見極めが重要です。
一定の売上を必要とする
RBFを利用するには、一定の売上が必要です。RBFは、先述した通り将来の利益から負債を返済する仕組みのため、一定の売上が見込めないと、希望の資金額が調達できない可能性があります。
また、特に価格変動が大きい商品を扱うビジネスの場合は、予測不可能な収益変動が出資者の意思決定の判断に影響し、資金調達が難しくなる場合があり、想定した金額を調達できないという事態も起こり得るので注意が必要です。
RBFはどんな企業に向いているのか?
ここでは、RBFに向いている企業を見ていきます。具体的には以下4つの条件のどれかに当てはまる企業が適しているといえるでしょう。
- 安定した収益がある企業
- 急成長中の企業
- 短期間で資金を必要とする企業
- 従来の資金調達手段が難しい企業
安定した収益がある企業
RBFが適している業種のひとつがサブスクリプション型のSaaS(サース/サーズ)です。例えば、Microsoft365やSlack、ChatWorkなど、利用料を安定的に収受できる企業があげられます。
SaaSは、Software as a Service(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)の略称で、インターネットを経由してソフトウェアを利用できるWebサービスのことです。
サブスクリプション型のSaaSは、パッケージの商品を売り切りではありません。使いたい期間に月額利用料を支払って契約するビジネスモデルとで、安定した売上の見込みが立てやすい業種となっています。
そのほか、RBFに適している業種の例としては、月謝制の学習塾やスポーツクラブ、年間契約等でシステムや設備の運用保守を請け負う企業などで、共通点としては、月額利用料・保守料として反復継続的に売上が見込まれる業種ということとなります。
このようにRBFは、売上の予測可能性が高く、長期的な視点で事業運営する企業に適しており、安定した売上により将来の返済計画が立てやすい業種に適しているといえるでしょう。
急成長中の企業
RBFは、事業が成長中で赤字の段階でも資金調達が可能な場合があります。事業を始めたばかりの企業やJカーブを狙うスタートアップ企業においても、継続する売上が予測できれば利用でき、業歴の浅い企業でも利用しやすくなっています。
短期間で資金を必要とする企業
スタートアップ企業は常に競争にさらされており、スピードが重要であるスタートアップ企業にとっては、RBFを利用することで、より素早い成長を達成するために資金調達できる重要な手段となり得ます。
従来の資金調達手段が難しい企業
銀行から融資を受ける場合の多くは、ある程度の事業実績や経営者保証・担保での保全を求められ、どちらも満たせないと審査により資金調達ができないこともあります。
また、株式の希薄化を防ぎたい企業においても、出資の活用は難しい場合があることから、従来の資金調達手段が難しい企業にとっては、RBFが有効な手段となり得ます。
RBFと他の資金調達方法の違い
資金調達について、主には銀行融資等の「デットファイナンス(Debt Finance)」と、株式を発行して資金調達する「エクイティファイナンス(Equity Finance)」に分類されます。「デット(Debt)」は借金や負債の意味で、お金を借り入れて資金調達する方法を指します。一方、「エクイティ(Equity)」は株式を意味します。
デットファイナンス(銀行融資)との違い
RBFとデットファイナンス(銀行融資)の主な違いは、返済原資となります。銀行融資は、お金を借り入れて将来の利益から負債を返済しますが、RBFは売上を返済原資として返済します。
どちらも資金を返済することに変わりはありませんが、資金を提供する投資家にとっては、資金がどこから返済されるのかはとても重要です。PBFで資金提供可能かどうか判断するポイントは、営業利益ではなく、返済の原資になる売上高や粗利益にあるのです。
そのため、まだ成長段階の企業であっても、売上高や粗利益が計上できるのであれば、資金調達しやすい点が大きな特徴です。なお、調達した資金を貸借対照表で「負債」として計上する点は、RBFも銀行融資も共通しています。
エクイティファイナンス(ベンチャーキャピタルなど)との違い
エクイティファイナンス(ベンチャーキャピタルなど)とRBFの大きな違いは、出資と引き換えに株式譲渡を行わないことです。ベンチャーキャピタルでは、企業に出資する代わりに株式を受け取り、その値上がり益(キャピタルゲイン)と配当(インカムゲイン)により利益を稼ぎ出します。
一方、RBFでは株式の発行は求めません。投資を受けた企業はその代わりに、利益の何割かを投資家へ分配します。投資家には分配金が継続して支払われ、出資した額を上回る金額を受け取れる仕組みとなっています。
ファクタリングとの違い
ファクタリングとRBFは、現金化する対象が異なる点が主な違いとなります。
ファクタリングとは、企業がすでに保有している債権を、債権の支払期日前にファクタリング業者に売却することで、資金を調達する方法のことです。すでに取引が発生しており、債権としてお金がもらえることが確定した過去の債権を現金化します。
一方、RBFは、将来の売上の一部を現金化する手段であり、未来のまだ確定していない債権を先取りして現金化します。
よって、ファクタリングでは、売掛債権を少額しか保有していない場合、ファクタリングでは十分な金額を調達できません。自社で保有する売掛債権額以上の金額については、借り入れできない仕組みです。
RBFとファクタリングの共通点
RBF | ファクタリング | |
対象 | 売上債権の譲渡 | 売上債権の譲渡 |
資金使途 | 一般的には自由 | 自由 |
RBFとファクタリングの相違点
RBF | ファクタリング | |
債権の種類 | 未発生 (将来債権の譲渡) |
発生 (発生した債権の譲渡) |
利用範囲 | 将来の売上があれば利用可能 | 手許に売掛債権がなければ利用不可 |
手数料 | 融資<RBF<ファクタリング | 融資<RBF<ファクタリング |
適している企業 | スタートアップ企業 | すべての企業 |
期間 | 比較的長期 (6~12カ月) |
短期 (約1~2カ月) |
どちらの資金調達方法が適しているか
RBFとファクタリングでは、利用する企業にも違いがあります。
PBFは、安定的な将来の売上における価値に対して資金調達する仕組みなので、その特徴から、利用する企業は現状スタートアップ企業が多い傾向でしょう。
一方、ファクタリングは、スタートアップ企業に限らず広く利用されています。これは、ファクタリングで譲渡されるのが売掛債権であるため、商品の販売やサービスの提供によって発生した売掛金や未収請負金などがあればどんな企業でも利用可能だからです。
RBFを利用する際の注意点
信頼できる資金提供者選びの重要性
RBFにおいて、現在日本でRBFのサービスを提供している企業は、まだ少ないのが現状です。また、実際の導入事例についても、件数は少ないでしょう。
よって、資金提供者や導入事例が少ない現状においては、導入事例における同業者の状況分析を行うことや、複数の資金提供者に問い合わせを行うなど、さまざまな方向から資金提供者選びを慎重に行う必要があります。場合によっては、資金提供者が増えるまで静観する姿勢も必要です。
契約内容の確認
資金提供者により、条件面が相違します。
手数料については、おおむね3~12%となっており、審査においても最短1日~というサービスもあれば、1週間~2週間というサービスもあります。また、RBF以外の資金調達方法を提供しているサービスもありますので、コストだけに留まらず、自社のニーズに合ったサービスを検討してください。
返済計画の策定:資金繰り計画の重要性
返済計画においては、RBFに限ったことではありませんが、無理のない返済計画を立てる必要があります。特にRBFは、将来の売上により資金調達しますので、売上計上の確実性が非常に重要です。返済計画を立てる際は、売上計上の確実性を正確に見積り、無理のない計画を立てていきましょう。
まとめ
将来の売上を資金調達の手段とするこの方法は、新たなビジネスの資金ニーズに対応できる魅力的な手法です。RBFを活用することで、企業の成長を後押しすることが可能となり、スタートアップ企業としては、資金調達のひとつの手段として、重要な選択肢になります。
デメリットも事前に認識し、自社のビジネスに活用できそうな場合は、挑戦してみるとよいでしょう。