【フリーランス法律相談】受注した案件が消滅!業務委託契約の解除になる?契約書がないと泣き寝入り?

フリーランスなら誰もが一度や二度は、受注した(受注できそうだった)案件が立ち消えてしまった、なんて経験があるのでは?その場合、フリーランスとしてどんな対処法があるのでしょうか。弁護士の細越善斉さんに、フリーランスなら知っておきたい、業務委託契約の基礎知識についてお聞きしました。

今回の相談者
ライターTさん(40代):フリーランス歴21年。主に雑誌やWebメディア、企業広告の企画・構成・ライティングを手掛けている。最近、受注後に案件が消滅・規模縮小する事態が立て続けに起こり、売り上げに大打撃を受けたことが目下の悩み。

受注した仕事が立て続けにまさかのキャンセル!

Tさん:フリーランスのライターを生業として20年以上になるのですが、最近、受注に関してショックな出来事が立て続けに起こりまして……。

細越さん:具体的にどんなことでしょうか?

Tさん:依頼された仕事が途中でキャンセルになるということが立て続けに起こったんです。しかも3件も。簡単に概要をまとめると……

1件目:1年間継続する予定の案件の獲得に向けて尽力し、獲得に成功したものの3か月で「外注する予算が出せなくなってしまった」と打ち切られてしまった.

2件目:作業概要を聞き、見積書を出して受注。ところが、実作業に入ったら「当初よりも制作物の規模を縮小する」ということで、業務量が激減。最終的に見積額の1/4の報酬しか得られなかった。

3件目:依頼を受けてスタートを待っていたら「この案件、なくなりました」という連絡が。それなりにボリュームのある仕事だったので、スケジュールを確保していたこともあり大打撃。

Tさん:という感じです。これは業務委託契約を一方的に解除された!ということになるのでしょうか。

細越さん:いずれも、個別の案件ごとの業務委託契約書を交わしましたか?

Tさん:いいえ、交わしていないです。この場合は泣き寝入りするしかないのでしょうか?

業務委託契約書のない口頭での依頼は法律ではどうみなされる?

細越さん:フリーランスの方々にこのような問題があることは私も認識はしているのですが、正直なところ、業務委託契約書などの証拠がないと、すごく不利になってしまうということが少なくありません。

CST法律事務所 代表弁護士 細越善斉さん

Tさん:契約書がない=契約は成立していないということになってしまうんですか?

細越さん:いえ、口頭での「お願いします」「承りました」というやりとりでも、契約の申込みと受諾の意思表示が合致したといえますので、口頭で契約が成立します。

Tさん:契約書がなくても会話だけで、すでに契約は成立しているのですね!

細越さん:はい、業務委託契約は成立します。ただし、口頭だけの場合ですと、後からどのような契約内容であったのかということを立証することのとても難しいのです。例えば1件目の事例ですが、1年間継続する予定だったとのことですが、『契約期間は1年間です』というやりとりがありましたか?

Tさん:ありました。関係者が集まった会議で。それなのに3ヶ月で終了したので納得いかないんです。

細越さん:うーん、会議の出席者が証言してくれればいいですが、発注者側の方なので協力してくれないことがほとんどでしょう。そうすると、「契約期間を1年間とする合意が成立していました」との事実を立証することは、すごく難しいと思います。

Tさん:契約書がないと厳しいということなんですね。

細越さん:はい、正直、厳しいことが少なくありません。ですので、契約書はできるだけ取り交わすことをお勧めします。ただし、契約書さえあれば万全というわけではなく、どのような内容の契約書を交わしているかが重要になってきます。一口に業務委託契約といっても、その内容が『委任型』なのか『請負型』なのかによって、適用のある民法の条文も違ってきます。

「フリーランスへの発注内容」によって法的な解釈が変わる

細越さん:まず、『委任型』は一定の作業を行うことを委託する場合です。それに対して『請負型』は成果物を作成し、納品することを委託する場合です。ライターさんの原稿制作やデザイナーさんのHP制作、エンジニアさんのシステム開発などは基本的に『請負型』にあたります。『請負型』の場合、成果物を納品することが報酬の条件になるため、原則として、制作していないモノに対しては報酬を請求することができないのです。

『委任型』と『請負型』とで解釈が異なる可能性も

Tさん:つまり、2件目としてお話した、見積りの時点よりも依頼された業務内容が減ったというようなケースでは、成果物を納品していない部分に対する費用は請求できない、ということですね?

細越さん:基本的にはその通りです。そして『委任型』『請負型』いずれの場合も、中途解約の規定があればそれに基づき解約できますし、中途解約の規定がない場合でも、民法上、発注する企業側は途中で一方的に契約を解除することが可能なのです。

ところで3件目の、依頼をされたもののスタートを待っている間に案件がなくなった、というケースでは、実際に何か作業はされましたか?

Tさん:打ち合わせに出向いて、説明を聞いて少しアイデアを出したぐらいです。この時点では具体的な私の作業内容も確定していませんでした。

細越さん:そうなると、3件目のケースは具体的な委託業務すら確定していませんので、弁護士の立場からすると、業務委託契約が成立したとは言いにくいケースになります。実際のところは、契約成立に向けた当事者間の打ち合わせ、という意味合いになるのでしょう。

Tさん:そうなのですか?詳細未定の段階で、打ち合わせに呼ばれることも少なくないので驚きました。以前は案件がなくなったときには、なにがしかのカタチで、費用の一部を払っていただけることも多かったのに最近はそういうこともなくなってしまって。打ち合わせに出向いた時間や交通費、空けていたスケジュールなどの損失を強く感じるようになりました。

細越さん:企業としてもコンプライアンスを遵守するようになっていますので、そのような「なにがしかのカタチで費用の一部を支払う」というような費用の捻出の仕方が難しくなっているということもあるのかもしれませんね。

業務委託契約書なしでもフリーランスが自衛することは可能

細越さん:とはいえ、業務委託契約書の重要性を説明しておきながらですが、フリーランスの方が発注者との間で契約書を取り交わすことがなかなか難しい、ということも理解はしているつもりです。

Tさん:確かに、現実的ではないですね。「明日、打ち合わせに来てください」のような急を要する案件も少なくありませんし。契約書を締結している時間がないこともありますよね。

細越さん:ただ、打ち合わせからなし崩し的に業務に取り掛かってしまうと、具体的な業務内容や納期、報酬額といった部分が、少なくとも証拠上明確ではなく、後でトラブルになった場合に、自分の身を守ることができなくなってしまいます。だからこそ、その部分を客観的に証明できるようにしておくことが大事なのです。

Tさん:はい、肝に命じます。

細越さん:Tさんが一番不満に思っているのは、作業を見込んで時間を空けておいたのにその時間が無駄になった、ということですか?

Tさん:そうですね。ボリュームがありそうな案件の場合、作業時間を空けておく必要がありますので。口頭やメールで「お願いします」「承ります」というやりとりをした以上、時間を空けておかなくてはと考えますし。後から別の企業から別の仕事を依頼されても、お断わりすることもあります。

細越さん:そういうことでしたら、業務委託契約書を取り交わしていないケースでも、ある程度は自衛策を講じることが可能です。

Tさん:え?自衛策があるのですか?ぜひ、教えてください! 

<後編>【フリーランス法律相談】業務委託契約書のない案件でトラブルが発生…事前に備える方法はあった?

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CST法律事務所 代表弁護士 細越善斉: 大企業からベンチャー企業・フリーランスまで、幅広い業種の顧問弁護士の実績を有する。遺産相続に関する情報サイト「相続ONLINE」(https://souzokuonline.jp/)を運営中。