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売れっ子フリーランスでも悩みは尽きない?WEBライター・カツセマサヒコが語る「煩悩」。

カツセマサヒコ

独立3年目の小沢あやが、さまざまな業種のフリーランスに話を聞く連載『フリーランスな私たち』。今回のゲストは、WEBライター・小説家のカツセマサヒコさん。カツセさんは2020年6月に上梓した初の長編小説『明け方の若者たち』が、6.8万部の大ヒット。

「WEB編集・ライターはどう生きるべきか?」をテーマに、新ジャンルの仕事に挑戦した理由や、WEBライターの処世術を伺いました。

profile
●カツセマサヒコ/ライター/小説家。1986年東京うまれ。大学を卒業後、2009年より一般企業にて勤務。ブログをきっかけに編集プロダクションに転職し、2017年4月にフリーライター、編集者として独立。2020年6月、初の著書となる小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)を刊行。

●小沢あや/フリーランスのコンテンツプランナー / 編集者。芸能人や経営者のインタビューのほか、エッセイも多数執筆。「ワーママのガジェット育児日記」などの連載のほか、「つんく♂の超プロデューサー視点!」編集も担当。

小説を書くために、緻密な「種まき」

小沢

『明け方の若者たち』、読みました。WEBライターとして人気をしっかり掴んでからの小説家デビューだし、作中の固有名詞の使い方が絶妙で。「これ、たぶん実体験だけじゃなくて、取材したんだろうな」と思って。これまでのキャリアが全部詰まっていて、本当にすごいです。
うれしいです。同業者は、みんな「これまでやってきたことが全部つながったね」っていう目線でコメントをくれるんですよ。

カツセさん

小沢

小説の企画はご自身で出版社に持ち込んだわけではなくて、出版社の方から書いてほしいと声がかかったそうで。
カツセマサヒコ
いつかは小説を出したいなと思っていて、「声かけられ待ち」をしていました。

カツセさん

小沢

他の版元からも声がかかったのでは? 初めて出す本って、版元・担当編集者が超重要だと思うんですよ。どうやってタッグを組む相手を決めたんですか?
「ツイートまとめやエッセイ本を出しませんか」という提案はたくさんいただいたけど、「長編小説出しましょう」と言ってくれたのは、幻冬舎さんが最初でした。ちょうどWEB上でショートストーリーの創作の仕事を増やしていた時期だったんです。その中から、あんまり反響はなかったけど僕自身は手応えを感じている記事を、幻冬舎さんが褒めてくれたんですよね。

カツセさん

小沢

あ〜、それはうれしいですね! アルバム曲も聴いてくれている、濃いファンっぽい感じ。
小沢あや
そうそう、口説き文句の相性が良くて決めたんです。

カツセさん

小沢

でも、いきなり小説何万字も書くの、しんどいですよね。WEB記事はだいたい5000字くらいだし、すぐ結果が出るけど、小説ってとてつもない長距離走。
ずっとしんどかったですね。コラムだったら、見出しが思い浮かべば書き切ることができるけれど、小説はプロットを書いてもどんどんズレていっちゃうし、煮詰まる。「カツセさん、季節は変わりましたが、進捗いかがですか」と、編集者から追っかけを受ける感じで(笑)。

カツセさん

小沢

でも、最初から書き切る自信があったから受けたんですよね。カツセさんはWEBライターから、「創作」という他の領域に行ったのがすごいなって。取材記事や妄想ツイートをしていた頃から「小説への種まき」、意識していたんですか?
1作目の書籍をいつ、どんなかたちで出すか、どうしたらWEBライターから一線画すものが出せるんだろう?とずっと考えていましたね。小説ならインパクトもあって、箔もつくし、そもそも憧れだったので。

カツセさん

明け方の若者たち
カツセマサヒコ さんのTwitterより
小説を出したいと心に決めてから3年半ぐらい、実際に声をかけてもらってから2年半ぐらい、種まきみたいに出版を意識していたかな。その間は、あまりお金にならない仕事でも、小説の糧になるものだったらやりました。反対に、ブランディングに沿わない仕事は断っていますね。新商品のPRをツイートするだけで30万円もらえる仕事とか(笑)。

カツセさん

小沢

イメージやブランディングを最優先して、欲に眩まないのがすごい!

このままWEBライターとして生きるのか

小沢

WEB編集者・ライターって、書いたらすぐに読者からの感想が聞けるし、テンション上がるじゃないですか。小説は、本を出すまで一切反応がわからない。執筆中のモチベーションは、どうやって維持してたんですか?
「この1冊を出すことで訪れるであろう、今よりマシな未来」に賭けてみる、ってだけですね。このままWEBライターでいっても、何歳までもつか分からないし。

カツセさん

カツセマサヒコ

小沢

カツセさんでもそんなこと思うんですね?
いただく原稿料は上がってきているけれど、体力は落ちてくるし、明らかに老けてもきている(笑)。いつまでこの仕事できるのだろう……WEBライター以外のキャリアをつくっていかなくてはいけないな……っていう焦りは、常にあります。

カツセさん

小沢

あー、その焦りは分かります。食えていないわけではないけれど、どこに向かっていけばいいのか迷っちゃう。私、この連載で先輩フリーランスの方々に、毎回ガチ相談しています(笑)。
えー、小沢さんも? 

カツセさん

小沢

ありがたいことに、自分で企画を提案させていただけるメディアさんもありますけれど、なんでもかんでも自由気ままにやれたり、書籍出せたりするレベルではないし。「この先のキャリアは?追いかけるジャンルやテーマは何に設定する?」っていう。
あー、なるほど。そういう意味では、僕は作家性みたいなものに逃げたんでしょうね。専門外でも「これ、個性だから許してね」ってスタンス。でも作家性みたいなものって、専門性には勝てないし、柔軟性がないんです。いろいろな媒体からお声がけいただくわけでもない。このまま40歳、50歳と年を重ねていくのか……どうしよう、と思っていた時にちょうどこの対談連載を読みました。

カツセさん

小沢

え!うれしい。どの記事ですか?
吉田豪さんと対談している記事です。それを読んで、「やっぱりお金使って、たくさん勉強するしかないんだな」って思った。振り返ると、今の僕は20代の頃の遺産で食ってるんですよ。小説も、過去の経験やインタビューを通じて見聞きしたことで作った物語。つまり、40代以降楽しく働くためには、30代の今、どれだけインプットするかにかかっている。ここで金使わないとだめだな、自分の趣味や関心を広げたり深めたりする必要があるなと思っています。

カツセさん

小沢

ちなみに、どのジャンルに投資しているんですか?
僕は映画、小説、音楽にできるだけ時間とお金をかけていきたいですねえ。そうしないと、あまり好きな言葉じゃないけど、クリエイティブが死んでいくのを感じるんですよ。

カツセさん

小沢

『明け方の若者たち』の中にも、好きな音楽がたくさん詰まっていましたよね。

売れていくこと、消耗されること

小沢

30代フリーランスとしての悩みって、なんでしょう?
僕のまわりはみんな将来に悩んでますね。あと、健康。

カツセさん

小沢

急にリアルな回答。まあ、30代ですからね。
みんな「この先、このペースで働くのはしんどい」って言っていますね。 。徹夜とか無理だし、サウナだけじゃ回復できない。僕の周りのフリーランス友達はみんな「おっさん化」していってる。

カツセさん

小沢

あー、それでいうと私もおっさん化してます。この先、どうしていこうか漠然と悩んでる感じ。
小沢さん、どんなイメージでフリーランスやっています? 岩を避けながら荒野をサバイブしている感じ?それとも、自由が丘の綺麗な遊歩道を優雅に歩いています?

カツセさん

カツセマサヒコ

小沢

うーん、自由が丘ほど綺麗ではないし、表参道みたいな派手さないけど、下北沢の緑道ぐらいのイメージ?かなぁ。
下北沢の緑道、いいじゃないですか。ずっとそれが続きそうなら、よくないですか? 自分の人生がどこまで整地された状況にいるのか、そしてそれが続くのかどうか。それを考えてイメージすることが大切だと思っています。

カツセさん

小沢

現在地を意識していく、ということ?
そう。1年前より道が整備されていると感じるなら、それは売れているっていうことだし、去年より大きい仕事をしていたら、きっと売れているんですよ。でも去年と同じ規模の仕事しかやっていなかったら、それはきっと売れているようでいて、実は消耗しているだけ。売れていることと消耗していることを間違えちゃいけないんです。消耗していくと寿命は短くなる。気をつけないといけないですよね。

カツセさん

「僕はまだまだ『何者か』になりたい」

小沢さんはずっとハロヲタで、その趣味が高じて今はつんく♂さんのnoteの担当編集者もやっているじゃないですか。趣味が仕事を呼んで、全部つながっていってますよね。

カツセさん

小沢

ハロプロが人生の軸になってるし、本当にありがたいですね。でも、もちろん編集者ってご本人ありきの裏方だから「どこまでが自分が胸張って言える実績なんだろう」ってわからなくなることばっかり。もちろん、編集の仕事は大好きなんですけど。
ああー、わかります。僕も安達祐実さんが大好きで、インタビュー記事を2本書かせてもらったことがあります。でも、あれはやっぱり安達祐実さんの記事で、自分の実績にはならないですよ。あの仕事は自分の中で大きくて、ちゃんと自分の名義の作品がほしい、0→1側になるんだということを意識するきっかけになりました。

カツセさん

カツセマサヒコ
カツセマサヒコ さんのtwitterより

小沢

確かに、0→1への憧れはありますね。今、私が名前を出している仕事は編集のほか、インタビューが中心なんですけど、同業の方から「小沢さんは自分の仕事しないの? 小説とかエッセイとか」って言われることも結構あって。「インタビューは自分の仕事じゃないのか〜」って、ちょっと迷いが出てきたんですよね。記者、って経歴でもないし。
あー、なるほど。

カツセさん

小沢

インタビューでいくなら、吉田豪さんみたいに「聞き手」として価値が出るくらいにバカ売れするしか道はないのかな?って。
僕も、ずっと好きだったMr.ChildrenやRADWIMPSにほんの少し関わる仕事ができて、ちょっとは満たされるかなと思ったんですけど、全然違って。「あぁ、僕はRADに関する仕事をしたかったんじゃなくて、RADと並ぶか、もしかしたらRADになりたかったんだな」って、気がついちゃった(笑)。

カツセさん

小沢

カツセさんの欲、半端ないなー(笑)! でも、欲が向上心になって前進できてるんでしょうね。カツセさん、そもそも、なぜ文章で勝負する道を選んだんですか?
文章の天才にはなれないなとずっと前から気づいていましたけど、それでも自分にできることがそれしかなかったから。でもライターみたいな「1→10」の仕事ではなく、「0→1側」になれないと満たされないなというのは、小説を書き始める前から薄々気づいていたんです。人の欲って、無限ですね。僕、まだまだ「何者」かになりたいですもん。怖いくらいです。

カツセさん

小沢

すごい。私、「何者」かになりたい欲があんまりないですよね。ただ、労働市場でモテたいだけ。だから、エンジニアさんとかの方が圧倒的に羨ましいし、なりたい(笑)。労働市場での価値、すごく高いじゃないですか。今は自分が勝てる領域を必死に探して、隙間にスッと入るぞ!って思考が強いですね。
そうなんですね、自分と全然違う思考でびっくりした(笑)。自分が勝てる領域を持つってことは、フリーランスとして賞味期限を延命するということですよね。それは、ひとつの答えだと思いますね。

カツセさん

経済・メンタル・ブランディングのバランスが大切

小沢

カツセさんは、大手印刷会社の総務職から、編プロを経由して、フリーの編集者・ライターに転身。自分をブランドにして仕事をしている一方で、企業のnote運用など完全裏方もしてますよね。
精神的にも経済的にも保険をかけているんですよ。書籍を書いていた昨年は年収、激低いです。売上20万切った月もあったし。でも、前年にいろんな企業と業務委託契約して必死に働いていたから、一年くらいは執筆に集中できたんです。

カツセさん

カツセマサヒコ
仕事を選ぶ際は、経済とメンタルとブランディングのバランスを、どのようにとるかが大事だと思います。僕の場合、無記名でやってるんですけど、経済的理由で請けた仕事は結構ありますよ。今も、企業案件の企画編集・ライティングをやっているし。

カツセさん

小沢

小説デビュー後も?SNSでは全然告知していないですよね。
ベンチャー企業に「こういう記事出したらいいと思いますよ」と売り込みして、つながって。知り合いの知り合いにまた依頼してもらうサイクルで続けていますね 。

カツセさん

小沢

確かに、法人から依頼いただく案件の方が、売り上げも立てやすいですよね。
そうそう。でも、ちゃんと選んでます。僕、尊敬している人と、裏切っちゃダメな人と、こいつはいつか見返してやる! っていう人がいるんですよ。オファーを請けるか悩むときは、 その人たちの顔を頭に浮かべて、問題ないか確認しています。

カツセさん

小沢

意外と、他者の視線を気にしているんですね。
すごい気にしてますよ!エッセイストや作家のような、湧き出るマグマがないタイプの人間なんで。でも「あの人にいつか横並びで会うためには、どんなスタンスで生きて、どんな仕事選ぶべきなんだっけ」って、超真剣に考える。「この仕事、ダサいと思われるかな」って。

カツセさん

小沢

ダサいと思われたくない相手って、誰ですか?
今は、アーティストや作家さんですかね。それこそ、小説の帯を書いてもらったクリープハイプの尾崎世界観さんとか。尾崎さんとはラジオ番組のゲストで呼ばれたんですけど、インタビューする・されるの関係ではなく、同じ登壇者としてお会いできたことが本当に嬉しかったですし、裏切りたくないなって思ったんです。でも同時に、来年はもう誰も声をかけてくれないかもしれない、飽きられないようにいようって気持ちも、抱えています。

カツセさん

小沢

何回も言うけど、カツセさんみたいに仕事が順調そうな人でも悩むんですね〜。
又吉直樹さんクラスに売れていて悩みがなかったら、今日この対談に来ていないです(笑)。30代フリーランス同業者として、小沢さんと語りたかったから来たんです。お互い、これからも頑張りましょう!

カツセさん

小沢

頑張りましょう〜〜!

#編集後記

実はまだお互いに会社員だったころ、カツセさんとWEBコンテンツ制作のお仕事をご一緒したことがあります。裏方・編集者としてのホスピタリティーがすごかったカツセさんが、まさかこんなにも「何者」かへの憧れを抱えていたなんて……!
他人に嫉妬するわけでなく、その憧れが向上心に昇華しているからこそ、フリーランスになっても仕事が途切れないのだろなと再確認。
煩悩も欲も、エネルギー。前のめりに口に出しちゃった方がいいのかもしれません。

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