高校時代のVine投稿をきっかけに、若い世代から絶大な支持を受け、現在はニューヨークを拠点に活躍しているデジタルクリエイターのkemioさん。これまで2冊のエッセイ本を出版し、今回、30歳を目前に初の写真集『kemio by kenta』(PARCO出版)を刊行。また、これを記念した写真展〈kemio photo exhibition「裏アカ」〉をPARCO MUSEUM TOKYOで開催中です(2025年10月20日まで)。
『kemio by kenta』には、東京とニューヨークで撮り下ろされた写真のほか、20歳のときに渡米してから現在までに撮りためられた35万枚を超えるご自身のカメラロールからも厳選収録されており、まさにkemioさんの20代を総括した1冊となっています。さらに、この10年を振り返って綴られた文章には、20代を終えようとしている今だからこその想いと、読者にとっては人生の指針となる言葉の数々が。
「人生の被害者になりたくない」と語るkemioさんの信念を、20代という自身への“ギフト”が詰まった本作から紐解いていきました。
1995年生まれ。高校時代、6秒動画アプリVineで注目を集める。2016年に海外に拠点を移し、YouTube配信を本格的にスタート。2025年3月公開の映画『ウィキッド ふたりの魔女』で初めて吹替作品に挑戦するなど、クリエイター、モデル、俳優など幅広い分野で活躍している。
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“自分のもの”が減ってしまった感覚
20歳で渡米して約10年。この10年間をまとめた写真集を出すことにした、一番のキッカケは何だったんでしょう?
僕、20代で自分の人生が本当にスタートしたな、っていう感覚があるんですよ。17歳の頃に今のお仕事をスタートしてから、2、3年ぐらいかな? 日本の芸能界でお仕事をさせていただいてたんですけど、インターネットでポッと出の自分には語れるものがなくて、「こんなんでいいのかな?」って疑問を持ったのをきっかけに、アメリカに1人で引っ越したんですね。
アメリカなら自分のことを知ってる人もいないし、23歳のときに出した本でカミングアウトした自分のセクシャリティのことを知ってる人もいない。もちろん言葉も勉強しなきゃいけないし、全部が新しかったんです。だから、この10年は本当に自分が自分にあげたギフトだなと思えたので、この10年をまとめてみることにしました。
Instagramでも、アメリカに渡ったときのことを振り返って「“自分を知りたくて、自分を証明したくて、誰かになりたくて、自分を受け入れたくて”走り始めた旅だった」と書かれていましたが、自分を知りたいからこそ誰も自分を知らない場所に行きたかったのかもしれませんね。
あとは「逃げたい」っていう感覚も強かったのかなと思います。自分がいる環境に満足していない部分もありましたし、何も知らない、何も助けがないところに行ったら、自分がどう行動するのかな?っていうことに対しての興味もあったんですよね。
その決断って、すごく勇気のいることじゃありません? 1人で誰も知らないところに行くって、やりたくても怖くて実現させられない人がほとんどなのに。
たぶん、そこまで深く考えてなかったんだと思います。芸能界でお金稼げてラッキー! 何に使おう? ANAでチケット買っちゃおう!みたいな感じ。もちろん、当初は留学の名目で渡米したので、学生ビザだと仕事もできないし、今後お金はどうしよう?っていうのはありましたけど、それ以上に、今、日本から逃げたいとか、消えたいとか、何か新しいことがしたい、何か刺激が欲しいという気持ちが強かったんです。
この活動を始めてから“自分のもの”が、自分の中で減ってしまった気がしたんですね。最初は趣味で始めたVineも、仕事になると「1日数回更新してほしい」とか言われたり。テレビに出るようになったらカンペがあって、「こういう発言をしなきゃいけない」とか「こう振る舞わなきゃいけない」とかっていう縛りもあることに、18歳ぐらいの頃ビビってしまったんです。
だからアメリカという知らない場所に経験をしに行って、自分の口で語れるものとか、自分で決められるもの、自分のものだと思えるものを増やしたかったんですよね。なので、不安はあまりなかったです。
セーフスペースとしての「裏アカ」
渋谷PARCOでの写真集刊行記念展に〈裏アカ〉と名付けられたのも、そこに通じるものがありますよね。裏アカのことを、よく「自分だけのセーフスペース」とSNSでもおっしゃっていますし。
確かに。もしかしたら、そこから1周して「このタイトルつけよう」ってなったのかもしれない。
一方で写真集のタイトル『kemio by kenta』からは、本名である黒澤健太がkemioを作っているようなイメージも浮かびました。
別に多重人格というわけではないんですけど、昔から他人の顔色をうかがうような子どもで「人に好かれたい」という気持ちは強かったので、そこから自分のオルターエゴをみたいなものを作ったのかな。それが気づいたら、プライベートと仕事の境目がどんどん無くなっていってしまったんです。SNSにあげてる投稿の内容とかもそう。
こんなことを言ったらひどく聞こえてしまうかもしれないですけど……こっちが見せれば見せるほど、見てる側の人ってアクセス権があるように捉えがちじゃないですか。「あの人の生活に対して口出ししてもいい」っていう、それをすごく感じるようになってきて、だから自分のセーフスペースとして裏アカを持つようになったりしたんですね。自分の守るものをどんどん作っていきたい、健太とkemioのバランスを取っていきたいという意味もあって、このタイトルにしたのかなと思います。
『kemio by kenta』には写真だけでなく、エッセイも挟み込まれていますが、そこにも「バランス」という単語がキーワードのように散りばめられていますよね。ただガムシャラに進んだり、自己肯定感を高めることを良しとするのではなく、バランスを取ることの重要性をちゃんと認識されている。そして、そのバランスが取れるようになるために、すべての出会いや経験には意味があるんだという思想が本当に素晴らしいなと思ったんですが、それも10年にわたるアメリカ生活の賜物なんでしょうか?
それもありますね。最初にアメリカに引っ越したときは友達もいないから、1人で過ごす時間がすごく多くて、考え事をしている時間もすごく長かったんです。なので、そういう時間から生まれてきた部分もありますね。
あとは、アメリカってセラピーに行くことがすごく普通なんですよ。僕の周りの友達もみんなセラピーに行ってるし、むしろ、そのほうが「この人は自分と向き合ってるんだな」って好印象を持ってもらえる。ここ1年くらい僕も週1でセラピーに通っているので、そのおかげも大きいんじゃないかな。
頭の中で考えていることって、書き出したり人に話すと、よりまとまったり、解決の糸口が見えたりするじゃないですか。だからセラピーを受けることで、自分が悩んでいることや思っていることの出口を探すお手伝いをしてもらってる感じです。回答をいただくというわけではなく、一緒に探してもらってる。
FREENANCE MAG 



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