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人生100年時代は、シームレスなキャリアを築くべき。元AERA編集長・浜田敬子インタビュー

浜田敬子

中学生の頃から記者を志望し、大学卒業後に朝日新聞社に入社した浜田敬子さん。地方局や『週刊朝日』編集部を経て、47歳で『AERA』初の女性編集長に起用されるという順風満帆なキャリアを積む中、浜田さんに大きな転機が訪れます。

それは『LIFE SHIFT』の著者リンダ・グラットンさんからの、「現在の超高齢化社会では80歳ぐらいまで働くことを考えた方がいい」というアドバイス。この言葉がきっかけで自身の働き方を見直し、転職を決意。そして2021年1月からはフリーランスのジャーナリストとして活躍しています。

そんな浜田さんに、フリーランスとしての仕事観や人生100年時代におけるキャリア構築において大切なことなどを伺いました。

profile/浜田敬子(はまだけいこ)
朝日新聞社に入社後、『週刊朝日』『AERA』編集部で記者として活躍。2014年にAERA初の女性編集長に就任。2017年に同社を退社後、オンライン経済メディア『Business Insider Japan』の統括編集長を経て、2021年1月よりフリーランスに。フリージャーナリストとしてTV番組のコメンテーター等を務めるほか、ダイバーシティや働き方改革についての講演も多数行っている。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)。

新たなスキルを身につける一番の近道は、場所を移すこと

浜田さんは朝日新聞社で紙媒体に携わってきたと思いますが、そこからデジタルメディア『Business Insider Japan』に転職されたのですね。

私は、自分が好きな仕事を長く続けたいと思っています。自分が何をしているときに一番ワクワクするんだろうと考えたときに、それはニュースメディアに携わっていることだったんです。『AERA』の編集長時代から、ニュースの世界はデジタルが主流になっていました。ニュースメディアで生き残っていくには、自分に足りないデジタルメディアの能力を身につけることが必須だと思いました。そんなときにちょうど、オンライン経済メディア『Business Insider』の日本版統括編集長に就任しないかとオファーをいただき、転職を決意しました。

長年勤めた会社を辞めて、50歳で転職することへの不安や葛藤はなかったですか?

私くらいの年代の人は、新卒で入った会社にずっと勤めることが少なくありません。特に大企業に入ると、50代になると動けないんですね。金銭的な事情はもちろんですが、動いたときに自分の能力が他で通用するのかという不安もあると思います。定年まであと10年くらいであれば、新しいことへの挑戦はできれば避けたいという思いもあるのかもしれません。でも私の場合は、自分にとって足りない能力を身につけるためには自分自身が場所を移すしかないと感じたのです。

実際に、転職によって新しいスキルは習得できましたか?

はい。改めて、新しい技術や知識を習得するための一番の近道は「場所を移す」ことだと確信しました。新しく場所を移して、そこで足りないものがあれば必死で習得するしかありませんから。時代が大きく変化している中で、新卒から積み上げてきたスキルや人脈だけでは乗り越えられない壁がありますし、40代後半から50代になると若い人のように新しい技術にすぐに馴染めないこともあります。でも強制的に自分のいる場所を移せば、学ぶことの必要性に迫られるので、比較的に学びやすくなるのではないでしょうか。

また、『AERA』はブランドとして確立されているメディアだったので、「ゼロからメディアを作る経験」も私には足りないと感じていました。『Business Insider Japan』では、それが経験できたことも大きな学びとなりましたね。10人程のメンバーで新たなブランドを生み出すことは非常に大変でしたが、その経験から得られるものも大きかったです。編集部のメンバーが20〜30代中心でしたから、若い世代の考え方を体感できたのもよかったですね。

デジタルメディアに関わってみて、紙媒体との違いを最も感じた部分はどこでしたか?

紙のメディアは「パッケージ」丸ごと買ってもらう感覚なんです。例えば『朝日新聞』や『AERA』の中には何十本と記事がありますが、 多少自分には興味関心のない記事があっても、そのブランドが好きなら「福袋」みたいな感覚で買うんですね。対して、デジタルメディアは記事の「バラ売り」になりますので、1本1本が直球勝負だなということに気づき、それからは記事の作り方を工夫するようになりました。

浜田敬子

仕事もプライベートも、シームレスで楽しむ人生の後半戦

ところで浜田さんは、冒頭で「長く働きたい」とおっしゃっていましたが、ご自身が何歳くらいまでお仕事を続けるイメージを持たれていますか?

かつては週刊誌の編集部で多忙な日々を送っていたので、「60代になったら半分は自分の好きなことをして、もう半分はフリーランスでジャーナリストやライターとして活動しようかな」というイメージでした。しかし講演会でリンダ・グラットンさんとお会いする機会があって、「あなたの世代の平均寿命は94歳くらいになるのよ。80歳くらいまでは働いた方がいいわよ」と言われたんですね。

そのときに改めて自分の老後について真剣に考えたのですが、60代にリタイアしたら90代まで30年もあることに改めて気づいたんです。30年といえば、私が朝日新聞社に勤めていた年数とほぼ同じです。私もまだまだ働けそうだな、と思いました。

60代で第一線で活躍されている方も多いですもんね。

そうですよね。私も、健康や体力面の問題もあるので今と同じ仕事量をこなすことは無理だと思いますが、75歳くらいまでは何らかの形で働くんだろうなとイメージしています。私は、フリーランスになってまだ1年半くらいなんですよ。原稿を書いていると「時間が足りない!」と思います。何カ所にも取材をしていると、1本の原稿を書くのに時間がかかりますから、長い原稿だと1年に10本ぐらいが限界です。すると、自分はあと何本の原稿を書けるのかな?と考えるんですよね。まだフリーランスとして活動し始めたばかりなので、少なくともあと10年、15年は働きたいです。

会社員時代の時とは、リタイアする時期のイメージが変わったわけですね。

そもそも、「リタイア」という言葉のとらえ方が変わってきました。これまでがむしゃらに働いてきて、特に週刊誌の編集部にいると、ゴールデンウィークやお正月など合併号のときにしかまとまった休みはとれないので、「休み」というのは恋い焦がれる存在だったんですね。当時は、自分は人生を楽しめているのか?と疑問に思っていました。それがフリーランスになった今は、仕事の日と休日をはっきり分けず、シームレスに仕事をしています。そうなると、「これからはもう仕事をしない」という、いわゆるリタイア時期を決めなくてもいいのかなと思います。

シームレスに仕事をする、とは?

たとえば地方での講演があると、「同じタイミングで、行かない?」と女友達を誘って、旅行を兼ねることもあるんです。私が講演している時間は、友人たちは観光を楽しんで、夕食は一緒にとったり。旅先で仕事をすればいいだけですから、何日間も休みをとらなくても旅行が楽しめるんですよね。それが実現できるのは、フリーランスになったことに加えて、リモートワークが一般化したことも大きく関係しています。打ち合わせや取材も、オンラインでできますから。

「連休やリタイア後じゃないと無理」と会社員時代には諦めていたことを、諦めなくてもよくなったんです。仕事のためにプライベートを犠牲にすることがなくなった今は、「ここからがリタイア」という線引きはありません。プライベートも仕事もシームレスに楽しむ、というのが私にとっての人生の後半戦の目標ですね。

大切なのは「次」につながる仕事

フリーランスの中には年齢を重ねると仕事が減るかもしれない、という不安を抱いている人もいるかと思いますが、それについてどうお考えですか?

私は、そんなことはないと思います。20〜30代はまだ経験も少ないので、フリーランスとして信用されるのがなかなか難しいのではないでしょうか。40代以降の方が経験やノウハウが蓄積され、人脈もあるので、キャリアが活かされる時期だと思います。20〜30代の若い世代は会社員として経験を積み、40代でフリーランスとしてデビューするのも理想的でしょう。どのタイミングでフリーランスになるかは人それぞれです。実績を積んでから独立する人もいれば、若さを武器に独立する人もいます。会社員時代に楽しく仕事ができていて、チャンスに恵まれている人であれば、実績を積んでからフリーランスになる方がいいのかなとは思いますね。

浜田さんのように、できるだけ長く働きたいと考えるフリーランスも多いと思いますが、長く仕事を維持するために大切なことはなんでしょう?

編集者時代に多くのフリーライターさんたちと触れ合う機会がありましたが、みなさんが口を揃えて言っていたのが「仕事を断らない」ということでした。私もフリーランス1年目は、どうしてもスケジュールが合わない仕事を除いて、ほぼすべて引き受けました。その時の仕事が、現在につながっていることも多いんですよ。例えばあるアワードの審査員をしたことで、さまざまな方と知り合えましたし、受賞した企業の存在を知ることもできました。仕事選びはギャラだけで判断すべきだとは思いません。その仕事が次につながることも多々あるので、その仕事だけを見るのではなく、多角的な視野が必要だと考えています。あとは、基本ですが、納期を守ること。

なるほど、やはり納期を厳守してくれる人は信頼できますか?

依頼する側は納期までに納品物が届く前提でその後をスケジューリングしていますから、遅れると全体に影響が出ます。納期を守ることは、相手のスケジュールを狂わせないことでもあります。体調不良などでどうしても間に合わない場合は、早めに伝えることが大事ですね。早めに伝えれば、依頼者はスケジュールを組み替えられますから。

次に大切なのは健康管理ですね。会社員であれば、体調不良などで休むとメンバーがカバーしてくれますが、フリーランスの場合は自分が動くしかありません。一定の体調で働くことが大事です。それから「交渉力」も。金額の交渉はもちろんですが、嫌なことは嫌だとはっきり言うことです。私の場合は、依頼されるときに後から追加で条件を小出しにされると困るので、「最初にすべて提示してください」と言うようにしています。

浜田さんはこれまでに培った人脈も、仕事をする上での武器になっているかと思います。人とのコミュニケーションで、浜田さんが大切にしていることはありますか?

誰かと対談させていただく機会があったら、対談相手の著書を読んだりインタビュー記事を読んだりして、事前にその方の主張や考えを知っておくことが非常に大切だと考えています。これによって、すごく話が弾むんですよ。2021年12月にあるオンラインイベントで『マイノリティデザイン―弱さを生かせる社会をつくろう』の著者・澤田智洋さんとご一緒したんです。イベントでは議論が白熱し、イベントの後に澤田さんからすぐに連絡があり、「楽しくて話し足りなかった」と言っていただいて。そうなると、次のご縁につながりますよね。お互いに「もう少し深く話したい」と思えるような会話をして、一回のご縁で終わらせないことが大切です。

ポストコロナ時代の働き方がチャンスになる

独立して、ライフスタイルや家族とのコミュニケーションなどに変化はありましたか?

独立はもちろんですが、リモートワークをするようになった影響も大きいですね。コロナ禍になるまで、家族3人で夕食を食べたことはほぼありませんでしたが、この2年は家族3人で食事をすることが定着して、新たなライフスタイルとなっています。コロナ禍でなくても、フリーランスであれば家で仕事ができますから、気持ちにゆとりができますね。

最後に、現在フリーランスとして働いている方々に浜田さんからメッセージを。

私は企業の経営者や関係者に向けて講演させていただくときに、「ポストコロナ時代の働き方がチャンスになる」というテーマをよく扱っています。たとえば、リモートワークを定着させれば東京の企業でも地方の人材だけでなく、海外の人材も活用できます。また、多くの企業が副業を認めれば優秀なフリーランスが増え、フリーランスのスキルを活かしやすくなります。

浜田敬子

私は、ポストコロナ時代において働き方が多様化していくのは、フリーランスにとってチャンスだととらえています。会社員かそれ以外という線引きが、どんどん薄くなっていっているんですね。会社員でも週休3日であれば、残りの日はフリーランスとして働けます。普段はフリーランスをしているけれど、1日だけ会社員として働くというパターンも可能になってきますよね。

確かに、働き方の幅は広がっていきそうですよね。

法整備や社会保障などの面でセーフティネットをもう少し整えてほしいという要望はありますが、キャリアの幅という意味では、フリーランスが今まで参加できなかったプロジェクトに入れるなど、仕事のチャンスは広がると思っています。日本は今後人手不足になると思うので、人材の奪い合いになるでしょう。フルタイムでの雇用を望んでいない人、住む場所を自由に選びたい人たちも増えています。企業もそのような人材を逃さないために、働き方に対して柔軟になるべきだと考えています。実際に、働き方を変革している企業は少しずつ増えてきていると思います。

そしてフリーランスの人も、今までの働き方とは違う形を自分で作ってアピールいていく方がいいですね。待っているだけでは仕事は来ませんから。まずは自分の知人や友人にでもいいので、自分のスキルをアピールしたり、「週に1日なら出社して働けますけど、どうですか?」と提案したり。働けるチャンスを自身で探していくことも大切だと思います。そうすることで「仕事がなくなったらどうしよう」という不安も軽減すると思いますよ。

取材・文/山本真悠子(やまもとまゆこ)


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朝日新聞社に入社するも、自称ダメ記者だった著者は、やがてAERA初の女性編集長へ。メディアの最前線で三十年以上働き続ける中、女性を巡る職場環境はどう変わった/変わらなかったのか。「女性初」と言われるメリット・デメリット、〝ワーママ〟の葛藤、男社会である会社との付き合い方……。今以上に男女格差があった環境下で奮闘してきた均等法世代の体験記、そして次世代へ贈るメッセージ!(集英社文庫 2022/2/18)
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