この10年で得られたもの

そんなアメリカで過ごした日々が今回の写真集にも収められていますが、では、この10年で一番得られたもの、変わったことって何だと思います?
何だろう? なんか、助けを求めるのは恥ずかしいことじゃないっていうのは、すごく感じました。あと、失敗も恥ずかしいことじゃなくて、何かをやればそれは成功/失敗で終わるものじゃなく、すべて学びなんだなというのは、すごく実感しましたね。
僕は、もともと人にお願いをすることが超苦手なんです。でも、この10年間で、人に何かお願いするのは恥ずかしいことではなく、それを通して自分も得られるものがあるし、やっぱり人と人というのは関わりを持つことによって、どんどん変化していくんだなということは学びました。
どんなスターだって裏で支えている人たちがいるわけですし、人との関わりの中で自分があるんだということに改めて気づかされたんですね。
そうですね。あと、自分は10年以上前からSNSの活動をしているのもあってか、何においても“関係性”というものをすごく考えるようになった気はします。今、何事もオーバーシェアリングの時代なので、ご飯を食べたり何かするとき、みんな、人にシェアするということにプライオリティを置いて行動することが多かったりしますけど、結局それって記憶にも残らなければ、心の中で幸せも感じられないと思うんです。
例えば僕は、ありがたいことにギフティングとかでいろいろなものを頂いたり、常に新しいものを試す機会にも恵まれているんですけど、そんな速いスピードの中で生きていて、本当に何も覚えていない1年があったんですよ。だから人間関係にせよ行きたい場所にせよ、いろんなことに対して今はスローダウンをして。SNSで投稿するときも、少し時間を置いてからポストすることを心がけるようになりました。

本書でも“プロセス”を大事にしたいと書かれていましたもんね。これだけITが発達して、結果がすぐに出る便利な社会にもかかわらず、デジタルネイティブのkemioさんが、そこに着目されていることはとても心強いです。
今って本当に便利を追求しすぎている時代で、それこそ自分の頭で考えなくても生きていけるようになってきているから、みんなが「何のために生きているんだろう?」という疑問にぶつかるときが、遅かれ早かれ来てしまう気もするんですね。なので、自分はご飯を食べに行くにせよ、時間がかかっても何かしらの過程を経るようにはしてます。
写真集の中にはkemioさん自身の「カメラロール」の写真も多数収録されていますが、それも、この10年のプロセスそのものと言えますよね。
ホントこの10年、めちゃくちゃ早かった気がするんです。1年で日本とアメリカを26回往復したときもあったぐらいで、移動も多かったし、1週間前の記憶が1カ月前に感じてしまうこともありました。
この10年間のカメラロールを見返してみると、アメリカに来たばかりの頃って、自撮りばっかりだったんですよ。でも、徐々に他人に撮ってもらう写真だったり、友達とどこかに行ってる写真が増えていって、やっぱり自分の20代の人生は自分で作っていったんだなぁっていうのが目で見てわかったんです。それは、すごく納得のいくプロセスの1つでしたね。
人生の被害者になりたくない

つまり、kemioさんにとって本書の制作は、20代の10年は自分で作り、自分自身に贈ったギフトであることを確かめる作業だったのかもしれない?
そうですね。あとは、この10年で僕が遊んできた友達とか場所とか、「僕が1人で家を出ていったのにはこういう理由があったんだ」というのを、祖母に見てほしいという気持ちもありました。
実際、おばあちゃんに「こういうことをやるんだ」って伝えたら、「たぶん私が見たことのないものばかりの10年なんでしょうね」みたいに言われて。この10年、おばあちゃんには「自分勝手なことしちゃったかな?」って何度も思ったんですけど、これを見ることによって「良かったな」とか、何か受け取ってもらえる気持ちがあればいいなっていう想いが大きいです。
2023年発行のエッセイ『ウチらメンタル衛生きちんと守ってかないと普通に土還りそう』でも「普通に知ってるだけの人99%ではなく、1%の大切な人に時間を割きたい」と書かれていたのが印象的だったんですが、まさに有言実行ですね。アメリカという離れた場所にいることで、その想いもよけいに強くなりそうですし。
あと、結構早い段階から「今あるものは永遠ではない」と感じる瞬間が、僕はすごく多かったんです。それこそ両親の死もそうですけれど、自分を取り巻く環境の変化するスピードが速すぎて、おかげで「どうバランスを取っていけばいいんだろう?」ということを考えるタイミングが人より早かったのはある気がします。

こんなことを言ったら不謹慎かもしれませんが……ご両親が早くにいらっしゃらなくなってしまったことは、もちろん悲しいことですけれど、kemioさんにとっては気づきのきっかけになったり、語弊を承知で言わせていただくなら1つのギフトでもあったのかもしれませんね。
ありがとうございます。ホントにそう思います。僕、人生の被害者になりたくないんですよ。「こういう経験があるからこれはできない」っていう被害者には絶対なりたくなくて、自分の環境のせいには絶対にしたくない。
人生っていうのは何事もやり方次第、自分次第でどうにでも変えられるし、自分が主役じゃないですか。自分にそういう過去があるからこそ、今、その経験を語ることができるし、それを通じて「僕も頑張ってみよう」と背中を押せるメッセージを送れているかもしれないので。
ネガティブな経験や環境のせいにして、逃げたくはないと。
はい。ただ、そういった経験について、誰かに共感してもらいたいと思うことはあまりないんです。人それぞれ人生は違うし、その経験を自分自身がキチンと抱いてさえいれば、進んでいけるし強さになるわけなので。
冷たい言い方になってしまうかもしれないですけど……世の中、そんな他人の悲しい話なんてどうでもいいじゃないですか。ネット上でも誰それが失敗したとか炎上したとか、そういったドロドロしたニュースのほうが人は興味を持つし。結局は、自分の中で大切にして理解してあげることが一番大事なのかなと思うので、その時間は作るようにしてきました。
20代を閉じる、決心

おっしゃる通りですね。今日お話をうかがって、kemioさんが若い世代から絶大な支持を受ける理由がわかりました。ちなみにエッセイパートは日本語と英語の両方で書かれていましたが、もしかして、今は英語のほうが書きやすかったりしません?
思考は英語のほうが多いかも。ちょっと英語寄りになってるっていうのは、自分でも感じます。
となると、今後はアメリカの若者たちにもアプローチしていきたいという考えもあったります?
もちろんアメリカでも仕事をしたいとか、今、日本でやっていることをアメリカでもできるようになりたいという気持ちはあります。今回、英語でも文章を入れたのには、英語圏の方にも読んでもらいたいという想いがあったからですし。ただ、アメリカをメインにアプローチしたいと考えたことはないですね。
日本で生まれ育ったkemioさんの感性で、ワールドワイドな発信を期待しています! そういう意味でも『kemio by kenta』は、kemioさんの重要なマイルストーンになりそうですね。
30歳に自分の写真集を出して自分の写真展をやるって、自分が好きすぎだろう!って感じじゃないですか。言ってしまえばナルシストみたいな(笑)。そんなセレブレーションを叶えてくださったPARCO出版さんには、まず、すごく感謝してます。
やっぱり20代から30代になるってビッグステップだと思うんです。歳を取ることに関して恐怖はないんですけど、時間の過ぎるスピードに恐怖はめちゃくちゃ覚えていて。でも、この写真集を制作するというプロセスを通して、ようやく自分の中で20代を閉じれるなという決心がついたことにも感謝したいです。
20代って自分が自分に最高のギフトを与えられる、大きなチャンスの10年だと思うので、これを読んでいる人の中に20代の方がいらっしゃれば、いろんな経験をして、いろんな自分になってほしいし、いろんな人と出会ってほしいし、どんどん失敗してほしいし、炎上もしてほしい(笑)。そんな経験を積んでいった最後に、本当に自分の好きなものとか、なりたかったものにシェイプされていく10年だと思うので、そんなギフトをみんなが自分にプレゼントしてあげられるきっかけに、この本がなってくれたら嬉しいです。
kemio photo exhibition「裏アカ」内観撮影/Yoshimi Seida
撮影/中野賢太(@_kentanakano)
FREENANCE MAG ![映画監督は、人を好きになれる仕事。阪元裕吾『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』インタビュー](https://freenance.net/media/wp-content/uploads/2025/10/20250911_freenancemag-0158-160x160.jpg)
