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続けるためには、好奇心を保つこと。ヘアメイク業界のトップを走る青木理恵インタビュー

青木理恵

青木理恵さんは業界の花形ともいえるCM畑で大活躍する、業界トップクラスのヘアメイクさん。テレビや映画や雑誌のクレジットを注意深く見る人なら、必ずどこかで目にしたことのある名前のはずです。

筆者は一度だけ写真集の編集を担当したことがあり、そのときにご一緒しました。圧巻の仕事ぶりに感服したのはもちろん、緊張していたわたしにとても親切に接してくれたのも思い出深いです。ベテランでありながら、いまも技術と知識のアップデートを欠かさない、心から尊敬するプロフェッショナルです。

profile
青木理恵(あおき りえ)
東京都出身。カネボウ化粧品入社後、美容師サロンを経て、矢野澄夫氏に師事し、ヘアメイクとして独立。テレビCM、映画、雑誌、化粧品プロデュース、メイク講師などを手がける。
参加映像作品は『ラッフルズホテル』(1989年)、NHK『ダメ田十勇士』(2016年)、『龍が如く 魂の詩』(2016年)、『ガチ星』(2018年)、近年の参加CM作品は「大林組 おおばや氏とぼく」「ジャンボ宝くじ」「DHC 濃密うるみカラーリップクリーム」「FANCL MILD CLEANSING OIL」「花王」など多数。
http://soup-web.jp/

師匠が言った「この仕事は遊びだよ」

ほぼ芸能関係専門のヘアメイクさん。みんなが憧れる花形ですよね。

いちばんおいしいところですね(笑)。ヘアとメイクの両方を手がけるのがヘアメイクなんですけど、テレビ局に所属する「局メイク」からブライダル専門の人まで、本当にいろいろなんですよ。メイクだけをやるメイクアップアーティストもいますしね。

昔わたしはカネボウ化粧品にいたので、フェイシャルやボディもできるのが特徴かもしれないです。できるだけしっかり土台を作って、それからメイクしてヘアを作ります。

カネボウにお勤めだったんですね。

社内のメイクアップコンテストでけっこう賞をとって、「もしかしたらできるのでは?」と思ったのが勘違いの始まりです(笑)。それで調べてみたら、アシスタントにつかなきゃいけないとか、美容師免許も必要だとか、やることがたくさんあったんですよ。親に相談したら一度は反対されたんですが、粘り強く頼み込んだら「やる限りは必ず成功しなさい」と背中を押してもらえました。そこがスタートですね。22歳のときでした。

メイクに興味を持ったのは?

子供のころから好きでした。母も祖母も親戚のおばちゃんもいつも身なりをきれいにしていて、それで興味を持ったんだと思います。実家の並びにあった美容室によく遊びに行っては手伝っていたんですよ。初めはお使い程度でしたけど、そのうちシャンプーとかも覚えて、どんどんできるようになっていって(笑)。そこの先生が「やらせればなんでもできる子だ。うちにほしい」と言い出して、大先生、つまりその人の先生がかつての赤坂プリンスホテルの美容室にいて、「うちに来て」と誘ってくださいました。

天才ヘアメイク少女じゃないですか!

でも美容師になりたくはなかったんですよ。そんなある日、地下鉄の駅で資生堂の大きなポスターを目にして「こんな仕事がしたいな」って憧れて、姉の手引きで化粧品メーカーに入社したんです。でもやっぱり会社の仕事って違うじゃないですか。もっとクリエイティブな仕事をしたくて、絶対にヘアメイクになると決意しました。

勤めをしながら学校に通って美容師免許をとって、さっき話した家の近所のサロンでインターンをやってアルバイトをして。親に反対されてのスタートなので、絶対に成功しなきゃいけないと思って必死で、一切遊んでなかったです。彼は常にいましたけど(笑)。

退職後はどなたかのアシスタントに?

矢野澄夫さんの下で2年半。もう亡くなったんですが、なんにも教えてくれない師匠でした。質問しても「そのうちわかるよ」って(笑)。その師匠にアシスタント初日からメイクさせられたんですよ。しかも当時の大スター。「できないよー!」って思いながら頑張ってやったら、ご本人がすごく喜んでくださいました。それから仕事がどんどん入ってきて、アシスタントと並行してやっていました。そんな日々が2年ぐらい続いたんですが、早くやめたいのになかなかやめさせてくれなくて、半年延ばして円満退職。独立当初から仕事は順調で、収入には一切困らなかったです。

師匠がよく言っていたのが、「この仕事は遊びだよ」って。その言葉は忘れられないですね。遊びが収入を生み、その人を作っていくわけじゃないですか。趣味を生かしてどこまで這い上がれるか、期待してくれていたんじゃないですかね。

趣味というか好きなことを仕事にすることの意味合いを伝えてくれていたんですね。

わたしの人生のほとんどは仕事の時間でしたし、いまもそうです。友達と旅行をするみたいなこともないし。仕事している時間が何よりも楽しいんですよ。自分でこの仕事を選んだ以上、とことん追求することが自分の人生を豊かにすると思っています。生みの苦しみはもちろんあるけど、後から思うと、そんなときがいちばん幸せなんですよ。大変な課題を与えられれば与えられるほど燃えますし。

それだけ自信がおありだということですね。

いやいや、毎回いっぱいいっぱいですよ。ただ、わたしは他人にできないことをやりたいんです。誰でもできることには興味がない。ヘアメイク仲間で「そんなの絶対無理だよ」と言い合っていると、「フフフ、やってやる」と思っちゃいます(笑)。仕事って付加価値じゃないですか。ある程度キャリアがあるとだいたいできることは一緒なんですけど、「でも、青木さんだったら何かプラスしてくれるかも」と期待して発注してくださるわけですよね。それには絶対に応えないとダメだと思うし、手の内は全部出します。

職人は絶対に手を抜かない。どの職種でも同じですね。

時間がない、お金がない、ないない尽くしの仕事もありますけど、関係ないんです。日程が重なったらもちろんお断りしますけど、一度引き受けたら、後からどんなに条件のいい話がきてもそっちは断りますし。受けた以上はちゃんと応える。それがわたしのスタンスです。仕事って、やっぱり人ですね。フリーランスは特にそれが大事だと思います。

仕事は「人」距離感の大切さ

仕事をとりまく環境は昔と変わりましたか?

なくなれば違う仕事が増えるだけなので、さほど変わらないですね。昔は写真集のお仕事が多くて、ずいぶんいろんなところに行かせてもらいました。成田空港までアシスタントに来てもらって、スーツケースを交換してそのまま次のロケ先に飛んだりしていましたからね(笑)。いまは写真集はほとんどないですけど、その分CMが入ってきました。いまもCMがメインです。わたしがお世話になるタレントさんはみんないい方なんですよ。

青木さんがいい人だからでしょう。ヘアメイクさんってタレントさんと同じ鏡を見てけっこうな時間を共有するから、いわゆるコミュ力も物を言いそうです。

いろんな話題に対応できるように、新聞はよく読みます。ある程度、年配の方とも話さないといけないですからね。主人との世間話もそういうときに生きてきます。

僕らインタビュアーは相手の方に心を開いてもらうのが必須で、聞けばカメラマンも同じだそうです。ヘアメイクはどうですか?

同じです。ヘアメイクの場合は直接、肌に触るので、けっこう心を開いてくださいますね。特に女性は。初めて担当するときは失礼があったらいけないから緊張しますけどね。

どんなメイクが合うか、どんなメイクを望まれているか、といったことは?

現場でコミュニケーションをとりながら探っていきます。誰にでも短所というか、ご本人が気にしているところってあるじゃないですか。そこを引き出せるとうまくいくことが多いですね。例えば「わたし眉が左右段違いなのよ」と言われると、「じゃあちょっと描いてみますね。こんな感じはどうですか?」「あ、ほんとだ! すごくいいわね」みたいに、ちょっとずつ心をほぐしていくんです。

青木さんとご一緒したときのことでよく覚えているのは、タレントさんがメイクが終わって出てきたとき、その前とまったく顔が違ったことです。いかにも「メイクしました」感じは全然ないのに、顔に明かりが灯ったみたいにきれいになっていて。

それはありますね。メイクしていると顔がみるみる変わって、どんどん自信がついていくんですよ。タレントさんも一緒にメイクしてくれているんですよね。メイクを通した人と人とのコミュニケーションなので、それは通じ合えたってことじゃないですか。ひとりじゃ成り立たない仕事なので、そうしてみんなで一緒に作り上げていくのが本当に楽しいんです。

そうするとコロナ禍の影響はありますよね。

かなりありますね。ヘアメイクってただ顔にメイクをするだけの仕事じゃなくて、リラックスして少しでも幸せな気持ちになってもらうには、そういう雑談も大事なんです。いまはマスクやフェイスシールド越しだし、メイクが終わればすぐ距離を保って、ムダ話もできないじゃないですか。それはちょっと寂しいですね。

「仕事している時間が何よりも楽しい」とさっきおっしゃっていましたが、本当に仕事が好きなんですね。

「短所を閉じ込めて、長所を引き出す」というのは誰もが望むことで、それが仕事ですからね。ただ、いくら技術があっても、こうすればああなるっていうものじゃない難しさもあります。ご本人の気分もありますし、あんまり入り込みすぎてもダメだし。ひとつ絶対にしないと決めているのが、タレントさんとプライベートで食事に行くことなんですよ。誘われても、必ず断ります。本当は行きたいんですけどね(笑)。仕事のためにはつかず離れずの距離感が必要だと思うんです。距離感ってどんな関係でも大切ですよね。

やり続けるには努力しかない

前にお話ししたとき、常に新製品について調べて、自腹で購入して試すんだとおっしゃっていたことにも感銘を受けたんですが、いまも続けていますか?

もちろん。結果を出し続けるためには好奇心をなくしちゃダメだし、常に新しいことにチャレンジするのが大事。そうすることが技術を高め、幅も広げてくれると思います。……とも言えますけど、どっちかというとクセですね(笑)。知らない自分がイヤなんですよ。化粧品ってすごく高価ですけど、買わないと使えないので、買って自分で試します。で、よくなかったら絶対に仕事では使わない。そうこうしていたら商品開発のお話をいただいて、新製品をいくつか作らせていただいたりもしました。

このお仕事って若手もベテランも横一線ですよね。そうした中で現役を貫くために心がけていることはありますか?

やっぱりスキルアップですね。新しいものを試すだけじゃなく、崩れた場合にどうするかも大事じゃないですか。そういうシミュレーションや練習をけっこうしています。例えば、わざと部分的に崩して、そこをリタッチするにはどうするか。そういうときって時間がないことが多いので、短時間でうまく直す方法を考えたり。

それにはきっかけになった出来事があるんです。肌のツヤを出すとき、ローション系、ジェル系、オイル系といろいろ使い分けるんですけど、マイブームでジェル系を使っていたときにたまたまスタジオがすごく乾燥していて、ボロボロになっちゃったんですよ。「あらゆる条件に対応できないとダメなんだな」と反省して、いまだに試行錯誤しています。

知識と技術を増やしていくのがお好きなんですね。

自信にならないと怖いんです。だってフリーランスって仕事がなかったらゼロじゃないですか。それをゼロにしないためにも日々練習です。夫がよく言うんですけど、「寝てる間にも撮影してるよ」って(笑)。寝言を言っているみたいです。でも仕事をやり続けるには努力しかないですよね。「これくらいで大丈夫だろう」とか油断していると必ず失敗しますし。この仕事は死ぬまでやりたいです。

いちばんやりがいを感じるのは?

信頼されていると感じるときですかね。ビューティーのCMだとクライアント指名がいちばんうれしいんですよ。タレントさんとか監督からの指名もうれしいけど、「ここは絶対に青木さん」ってひとつのCMを任せてくださると、続けてきてよかったなと思います。

それはそれは丁寧に仕事をしますよ。ふだんの努力は必ず映像に出るので、時間がなくても絶対に手を抜かず、アイライナーひとつも「このCMが成功しますように」「商品が売れますように」と心を込めて描きます。

最後に、ヘアメイクアーティストを目指す若い人に伝えたいことなどありましたらお願いします。

昔は映像を見られるのは映画やテレビだけで、ヘアメイクも限られた人しかできませんでしたけど、いまはYouTubeにInstagramにTikTokと、すごく多様化して、一般の方たちがどんどんヘアメイクに挑戦していますよね。それってすごくいいことだと思うんです。時代は変わっても、物事の基本っていつの世も変わらないじゃないですか。そこをきちんと押さえて、自分のものにつなげていってもらいたいですね。

執筆者profile
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばで育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
https://twitter.com/tapiocahiroshi
https://www.tapiocahiroshi.com/
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