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ヘイトにはラブを。マインドギャルの「ウケる」自己肯定力とは?詩羽(水曜日のカンパネラ)インタビュー

詩羽(水曜日のカンパネラ)

自然と身についた「LOVE myself」

詩羽(水曜日のカンパネラ)

話せる範囲でいいんですが、学校でイヤなことがあったんですか?

学校は全然好きじゃなかったです。よくインタビューで話してるのは、校則で縛られるのが得意じゃないんですよね。だから口にピアスを開けたり髪を刈り上げたり、見た目を変えることで自分のアイデンティティを見つけたっていうのもあったし、家庭環境も大変だったときもあるし……とにかくひととめちゃめちゃぶつかりやすくて。学校に行かなかった時期もあるし、親に言わないでサボったこともありました。うまく逃げられたり逃げられなかったり、自分なりに戦ってた10代なのかなって。その経験を通して、生きやすくなるための方法を自然と身につけていったんだと思います。

その方法が「LOVE myself」という考え方なんですね。

普通って言葉はあんまり好きじゃないけど、もともと普通に校則を守って、みんなと並んでたら通り過ぎられるような人でした。でも見た目を変えることで安心できたっていうか、自分のことを認めることができたと思うので。ただ、自分はそうしてアイデンティティを簡単に見つけられちゃったけど、ひとと話してると意外と難しいんだなって思います。いまわたしが一緒にいる友達でも、うまく言葉にできない人たちが多いんですよ。「どうやって見つけるの?」って聞かれたら難しいけど、ひとと同じである必要はないってことをもっとみんな実感してもいいんじゃないかな、とは思いますね。

詩羽(水曜日のカンパネラ)

逆にノーマルがアイデンティティっていうのもいいと思うんです。わたしからしたら、普通に勉強して普通に大学に行ける人たちって普通にすげーなって思うし(笑)。わたしにはできないことだから。「自分なんか普通だし」って卑下するんじゃなくて、「平均的にできちゃう自分ってすごくない?」みたいに受け止めたほうが早いなって。そうやって自分のいいとこどりを自分でしちゃって、自分で自分をほめちゃうのが、アイデンティティの見つけ方なのかなって思います。

自分のいいところを見つけたり、ポジティブに解釈したりね。

みんなもっと自分のことほめていいのに。「自分は……」っていう話ができない人が、わたしの世代含めて多いんですよ。「あんたの友達がなんて言ってようが、彼氏がなんて言ってようが、親がなんて言ってようが、あんたはどうなの?」ってわたしは思うし、自分の意見をうまく確立できれば、アイデンティティも自信もちゃんと生まれると思います。

ラブをもらったら、ラブを伝える

詩羽(水曜日のカンパネラ)

いまこういう活動ができているのはうれしいことですか?

そうですね。この立場だからこそ発信できることはすごく多いし、届く範囲も広がってるので。かつての自分と似たような境遇の人って、注目されないだけで数えきれないほどいるはずなんです。だから自分が前に立つことで「意外とこんな感じでも生きていけるんだな」って思ってもらえたらいいし、ラブが足りない人たちに「あんたたちのこと大好きだよ」って気持ちが少しでも届けばいいなって。それは自分にとってもいいことなので、需要と供給が合ってるなって思います(笑)。

ファンの方からラブのメッセージをもらうことはありますか?

めちゃめちゃもらいます。本当にうれしいし、純粋にパワーになるし、わたしもできる範囲で返信したり、ライブでお客さんにラブを伝えるようにしてます。もらった分を返したいと思うのは自然なことなんだなって、自分がいろいろもらえるようになって思いました。

人前に出るようになって1年ほど。慣れてきましたか?

どうなんだろう……SNSでラブが届くのは純粋にうれしいから自然と慣れましたけど、それこそバズってから街でめちゃめちゃ見られたり、声をかけてもらえることが増えたんですよ。自分のなかには芸能人とか一般人みたいな線引きがないので、変な感じはありますね。「すっごい見られるなぁ。あ、わたし水曜日のカンパネラやん」みたいな(笑)。

話しかけられること自体はすごくありがたいんですけど、人として当たり前にひとりでいたいときもあるし、疲れてるときもあるので、みんなの意見も聞いた上で《基本 詩羽1人の時は話しかけないで欲しい!!》ってお願いしてます。

明快でいい基準ですね。TikTokで向けられるヘイトを、ラブに変換していくにはどうしたらいいと思いますか?

どうしたらいいんですかね。完全にゼロにすることはできないにしても、現実的に一つ考えられるのは年齢制限じゃないのかな……って思います。

マナー以前にルールですね(笑)。

あとは「SNSはそういうものだから」って諦める人が減ったほうがいいんじゃないかな、とは思いました。それって傷ついてる人たちに我慢させてるだけじゃないですか。承認欲求は誰にでもあるし、自分を表現してる人たちは何も悪くないのに。「傷つくならSNSに向いてないんじゃない?」って言う人もいますけど、わたしからしたら「ひとを傷つけちゃう人こそSNSに向いてないんじゃない?」って(笑)。

結局、自分が標的になって自分が傷つかないとわかんないんですよ。だから自分みたいな立場の人が「わたしだって傷つくんだよ」ってわざわざ発信していかないといけない。より多くの人が「ひとを傷つけるようなことを言うのはやめろよ」って言える社会を作っていかなきゃなって思いました。許してちゃダメだなって。

心のなかのギャル=「マインドギャル」

詩羽(水曜日のカンパネラ)

詩羽さんはこれからさらに活躍してスーパースターになって、コーチェラ(※)のヘッドライナーに……。

いきますよ!!(笑)。

※アメリカで毎年4月に開催される世界最大級の音楽フェス、Coachella Valley Music and Arts Festival

そこまでいったら影響力もケタ違いだし、ドキッとする人も増えそうですね。

そうなんですけど、場合によっては「うるせーな」って思うだけのこともあるんで(笑)。いちばん怖いのは、顔も見えない、何歳なのかもわからない、何の意味もないヘイトなんですよ。話をしたい意思を感じる人には「それはおまえの意見ね」って言えるんですけど。不特定多数からの意味不明なヘイトがいちばん怖いんだなって実感しました。

「詩羽、嫌い」みたいなコメントだったら逆に平気だけど……。

あーもう全然。「え、ウケんね」ってくらいです(笑)。「好き」を強要したいわけではないので。「おまえの嫌いなものはおまえの嫌いなものでいい。わたしの好きなものはわたしの好きなもの。わざわざ押しつけんな」ってだけです。

詩羽(水曜日のカンパネラ)

いま「ウケんね」が出てきましたが、詩羽さんの発信を拝見して前から思っていたのが、「ギャル」が重要なキーワードになっているということです。ギャル文化の全盛期はかなり昔ですが、どうして心にギャルを飼うようになったんですか?

「ウケんね」ってめちゃめちゃ使い勝手がいいんですよ(笑)。「ブス!」も「バカ!」も「え、ウケる」で返せて、ものすごくいなせる言葉なんですよね。

ギャルって自分のことを好きでいるために自分磨きをして、やりたいことを追求してる人が多いと思うんです。気が強いから「怖い」って言われることもあるだろうけど、それだけ自信があるんだと思うし。「マインドギャル」って言い出したのはわたしの友達なんですけど、何ごとについても否定的じゃないっていうのが大きくて、どんなことも「え、ウケんね」「え、いーじゃん」「え、やば」ってポジティブに、なおかつ軽く変換するのがマインドギャルなのかなって思います。HSP(※)や繊細さんたちも「マインドギャルが効果的」って言ってる人が多いですね。

※Highly Sensitive Personの略で、生まれつき非常に敏感な気質を持つ人のこと

マインドギャルの肯定力で、ひとの手を借りずにネガティブな現実に対応できると。

わたし自身、弱い自分がちゃんといるので、ヘイトをばーっと向けられて「悲しい、傷つく」ってなったあとに、心のなかのギャルが「いやいや、ウケね?」って言い出して、自分のなかでめちゃめちゃ会話するんです。そうすると「はぁ、傷ついた……」から「いや、待てよ」ってなれるんですよ。「あいつあんなこと言ってるけど、わたし、あのチャートで何位だしな」みたいな(笑)。マインドギャルがいなかった時期はマイナスにマイナスを重ねることしかできなかったけど、いまは最終的に「ウケね?」ってなれるんです。マインドギャルはめちゃめちゃでかいですね。

ギャルに出会えたきっかけは何だったんですか?

何だったんですかね? 仲のいい同世代の友達と「やっぱギャルだよね、うちら」って言い合うようになって、見た目は全然ギャルじゃない人もいるんですけど、中身がギャルだから「あ、これマインドギャルか」って言って、その言葉を使うようになったんですけど。ネガティブなものを向けられても「ウケんね」でいなしてポジティブでいられるようになったのが大きくて、自然とマインドギャルの偉大さを伝えるようになりました(笑)。

僕も詩羽さんにならって心にギャルを飼おうと思います。マインドギャルを携えて、コーチェラのヘッドライナーに向かって爆進ですね。

すぐですよ、フフフ(笑)。そのときはまたお願いします!

詩羽(水曜日のカンパネラ)

撮影/中野賢太@_kentanakano