FREENANCE MAG

『ねほりんぱほりん』で得た手ごたえ、繋がる仕事の輪。人形操演・山田はるかインタビュー

FREENANCE 山田はるか

幼い頃から極度の人見知りで、人形とテレビの子ども番組が心の支えだったという山田はるかさん。憧れの番組を制作したいとADになった現場で、人形を動かしていたのは人間だったと知り、“私がやりたかったのはこれだ!”と人形劇団へ。8年の修行ののちフリーランスとなり、現在はNHK Eテレを中心に『ねほりんぱほりん』『おげんさんといっしょ』『星野源のおんがくこうろん』『機界戦隊ゼンカイジャー』等、数多くの映像作品で人形操演を担当しています。その数は、なんと年間300本以上!

昨秋にはNHKのドキュメンタリー『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演して、一躍スポットを浴びた人形操演という職業。その実態と仕事に対するスタンス、そして人形への尽きせぬ“愛”について、お話しいただきました。

プロフェッショナル 仕事の流儀
放送時のTwitterより
profile
山田はるか(やまだ はるか)
東京都出身。フリーランスで活動する人形操演。NHK Eテレを中心に『ねほりんぱほりん』『おげんさんといっしょ』『星野源のおんがくこうろん』などのレギュラー番組を多数担当し、ミュージック・ビデオやCM、ライブ、舞台にも出演。
https://twitter.com/zazie0809
http://haruka-puppet.jp/

人形操演の“源”

ねずみのシーモア

出演された『プロフェッショナル 仕事の流儀』を拝見して、人形に対する情熱が素晴らしいなと感じたんですが、その“愛”の源ってどこから来ているんでしょう?

子どもの頃から好きだったので、立ち止まって改めて考えたことがなかったんですが……言われてみると人間より心を許せる、信用できる存在だったんですよ。子どもの頃から誕生日とかクリスマスとか、何かあるたびにどんどん買ってもらっていて、可愛がりすぎてボロボロになってしまった人形もあります。

大人になっても変わらずぬいぐるみや人形を買っているので、傍から見ると“ちょっと大丈夫?”みたいなところもあるかもしれませんが、フィーリングというか雰囲気というか“これだ!”と思うと買ってしまうんですよ。

そもそも人形を好きになったキッカケって覚えてます?

人形を好きになったルーツは、『おかあさんといっしょ』の人形劇『にこにこぷん』、ほかに『どきんちょ!ネムリン』(1984~85年放送の特撮番組)だと思います。とにかく愛らしいネムリンが大好きだったんです! 夢中で観ていて、本当に生きて動いていると思っていたから、人形だっていうのも後から知ったくらい。

ネムリンが動いて喋っているのに、家にいる人形がそうではないことに疑問はなかったんですか?

自分としては、家にいる人形とも普通に会話が成立しているつもりだったんですよね。よく従姉妹とは勝手に人形たちの設定を考えたりして遊んでいて。弟にも自分で作ったお話や絵本みたいなものを読んでもらったりもしていました。余談ですが、その中に“失われた太陽を取り戻しに行く”っていうお話があったんですが、中学の頃にそのお話をゲーム会社の脚本コンクールに送って賞金をいただいたこともあります。

やはり生まれ持って想像力が豊かなんですね。

昔から想像力だけは豊かでした。本を読んでは描かれてないところまで想像して、勝手にスピンオフを作ったり、一人で想像したり空想する時に、人形を相手に話しかけたり遊んでいる子どもでした。さすがに今は仕事が始まる前に“よろしくね”、“ありがとう”、 “おつかれさま” って心で語りかけるくらいですが。

フリーランスとしてのプロフェッショナルな意識

ねずみのシーモアが旅先で撮影した
スナップショットを紹介するYouTube
GOOD LUCK SEEMORE

番組制作をする中で、ご自身の意見を伝えることはあるのでしょうか?

フリーランスになったばかりの頃は何も言えなかったんですよ。ディレクターさんに意見をちゃんと伝えている先輩を見ては、ずっと“私にはできない”って思っていて。でも、ちゃんと意見を言えるとより良い作品にしていくことができるってことがわかってからは、大事な意見がある場合には伝えるようになりました。

結局すべては良い作品、良い人形の見せ方をするためのものですもんね。

そうですね。あと、良い作品を作るにはコミュニケーションはマストだと思っているので、制作スタッフさん、技術スタッフさん、大道具さんなど多くのスタッフの方々と仕事以外でもちょっとした会話をするように心がけています。

その信念があるから、人見知りでもやれると。しかし、ここまで来るのには相当な苦労があったんじゃありません? 特に金銭面とか。

お金は無かったです! フリーになった当初は、アルバイトのかけもちをしていても、月末になると口座に30円とか100円とかしかなくて、親や弟に借りたり。あと、当時は自分で人形を作ることもやっていたので、ホントにお金をどこで借りればいいのか?っていう状態でした。人形を作るのって、その形態にもよるんですが複雑なカラクリがあるものだと結構お金がかかるんですよ。

きっと工賃が高いんですよね。

そうですね。材料費も結構かかりますし、あと打ち合わせのために途中で何度も確認のために時間を作ったり、手直しをする部分もあります。私は今は人形を自分で作ることは滅多になくなりましたが、新番組などで美術さんがいる現場で人形デザインの段階から打ち合わせに参加することはよくありますね。どういう人形にしたいとか、こうしたほうが操演としては動かしやすいと意見を出したりしています。

その打ち合わせ期間のギャラって発生するんでしょうか?

打ち合わせ代として“ちょっと乗せますね”とか言ってくださることもありますが、そこは状況によりという感じではありますね。でも、打ち合わせに参加しないで出来上がった人形を渡されるだけだと、やっぱり動かしづらいことがあってパフォーマンスの質にもだいぶ影響が出るんですよ! だから、できるだけ最初から参加したいんです。

素晴らしいプロ意識! ただ、当初に比べると、今は操演のスタイルもかなり変わったそうですね。

昔は人形の動きとか振りとか全部決めて、リハーサル前に全部台本に書き込んでました。フリーになる前にいた劇団では、自分もお化粧をして人形を持って人前で演じる“出遣い”というスタイルだったので、映像の現場で使っている棒遣いの人形を扱った経験がなかったんですよ。そんな中、NHKの『人形劇 シャーロックホームズ』(2014~5年放送)という作品に棒遣いの人形の役で参加させていただいたとき、棒遣い未経験だったため自信が全くなくて、ちゃんとやらなきゃ!っていうプレッシャーの結果、全部に振りを付けちゃってたんです。

なるほど。まだ技術もなくて、どうしていいかわからないから、すべて決めてしまおうと。

はい、そうです。映画の『フルメタル・ジャケット』に、担当する役に似てるなと思うキャラクターがいたから、何度も映画を観て動きを真似て。でも、そのやり方だと演出家に“ちょっと動きが違う”って言われたときに、どうしていいのかわからなくなっちゃうんですよ。自信ないくせに“これがいいのに”って頑なになったりもして。そんなとき先輩の台本を見たら、何も書いてなかったんです。

その先輩が、どんなボールを投げても返してくれる、いわばちゃんと会話ができる人だったので、そこで“動きじゃなく気持ちが大事なんだ”ってことに気づいたんですよね。そこからは“もう稽古しかない!”って、家に人形を持ち帰って鏡の前でひたすら練習してました。机の前で考える時間を減らして、とにかく人形を自分の手に馴染ませて動かせるようになるしかない……って。

傍から見ていても、人形操演で使う筋肉って特殊ですもんね。腕や脚への負担も大きいでしょうし、それに特化した鍛錬は必要な気がします。

人形操演に適応した身体にならないと思い通りに動かせないので、もう稽古しかなくて。あと、ストレッチを朝晩欠かさずやることもルーティーンになっています。腕をずっと上げているから、先輩にも“四十肩や五十肩にはならないよ”って言われるんですけど、中腰などで無理な体勢をとってるので、身体の歪みはどうしても出てきちゃうため、そういう自分で治せない歪みを整体で治してもらっているんです。整体には月4で行ってるんですけど、行けることならもっと行きたい!

休みも完全に不定期でしょうしね。逆に仕事がバッティングして、やりたい案件を断ることも?

山ほどあります! でも、なんとか引き受けたいから“ちょっと時間ずらせませんか?”って交渉して、パズルみたいにスケジュールを組んでいっています。最近は、前以上に人形操演の重要性がわかってもらえつつあるというか、以前だったら“じゃあ他の人に頼みます”って断られてた場合にも、簡単に替えが利くものではない、操演の方それぞれに個性があるんだってことが浸透してきて、結構交渉の末に時間を調整してもらえるようにもなってきました。

以前は予算の関係からADさんが人形を動かしていたこともよくあったようなんですよ。でも、去年の10月に『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演して、この仕事が認知されるようになってからは、“やっぱりプロの人にお願いすると違うんだ”っていうことがわかってもらえたのか依頼も増えました。

「人形」だからこそ伝わるもの

操演の個性って、例えばどんな違いがあるんでしょう?

例えば女性の役が得意な方、男性の役が得意な方、変態性のあるキャラの役が得意な方とか、それぞれの得意分野っていうのがやはりあると思うんですよね。『ねほりんぱほりん』では放送開始からチーフとして操演のキャスティングも担当しているので、そういった私以外の操演の方々のそれぞれの特徴を私なりに見極めながらやらせていただいてます。

ちなみに、山田さんご自身の得意分野は?

自分では正確にわからない部分もあるんですが、男の子とか女の子とか、子どもの役が得意といえば得意かもしれません。でも、どんな役というわけではなく、実際の誰かを再現したときにすごく合っていると言われることも多いですね。『ねほりんぱほりん』でコスプレイヤーの方の回があったのですが、その時は自分でも鳥肌が立つくらいご本人に動きが似てたから、これは身バレするんじゃないか?と思うこともありました。

『ねほりんぱほりん』ではゲストの方の人生を背負ってやっているため、毎回毎回一生懸命やっています。最初の頃は今よりも下手くそで、先輩とも比べられるし、それ以前に何をどうしたらいいのかわからなかったんですけど、番組が始まって1年くらいの頃かな? 養子の回のときに本人になるというか、その方の気持ちになれた瞬間があって、そこから変わっていったんです。

しかし『ねほりんぱほりん』も7年くらい続いている番組ですし、そう考えるとフリーになって割と早い段階から重要なポジションを任せられているのがすごい。

いや、最初はホントに下手すぎて! 人形操演の仕事を仲介してくれる会社さんがあるんですけど、下手な上に映像の操演の経験が浅すぎることもあって私はあまり呼んでもらえなかったんです。それが本当にくやしくて、でも本番をやらないと上達しないことは自分でもわかっていたから、それで小さな劇団を友人と作ったり、いろいろと自分で動き始めたんですよね。

つまり、自分で場数を作った?

そうです。当然ながらフリーになってすぐに場を与えてもらえるわけではなかったので自分で場を作って、声をかけてもらったらどんな仕事でも引き受けるうちに、だんだん仕事が増えていって。そうしているうちにその仲介会社さんから“メインの人形をやってほしい”って声がかかったときは、すごく嬉しかったです(笑)。

やはり“自分で動く”ことが大事なんですね。

そう思います。受け身が一番良くないというか、仕事って待っていても来ないんですよね。だから、貰った仕事一つひとつに対しても一生懸命やって、期待される以上のパフォーマンスを見せていかなきゃいけない。そのために台本を読み込んで、キャラや設定を理解して臨むことが必要なんですよね。そういった中で一緒にお仕事した方が別の番組を紹介してくださったりもして、私の仕事が増えたのも『ノージーのひらめき工房』のレギュラーがキッカケだったんです。番組プロデューサーの佐藤(正和)さんが人形が登場する番組をたくさんやってくださって、そこから『ねほりんぱほりん』へと繋がったんですよ。

一つひとつの仕事を大事にすることで、人脈が繋がっていったと。人見知りなのに、人に活かされてますね。

はい、そう思います。

そもそも人形を使った番組自体、今、かなり増えてません?

そうですね。例えば教育番組だと人間より人形が教えてくれたほうが子どもは受け入れやすいっていうのもあるでしょうし、CMとかのお仕事でも企画書には『ねほりんぱほりん』の写真が載っていることが増えたように思うんですよ。“人でやるのは簡単だけど、人形にしてこそ伝わるものがある”ということに最初に佐藤さんが気づいてくださって、そこから人形を使った番組が増えていって。でも、過去には人形より、CGのほうが多い時代もあったんですよ。

いや、CGでは『ねほりんぱほりん』の味は出ませんし、人形のほうが温もりありますよね。

人間の手でやってますからね。例えば『機界戦隊ゼンカイジャー』とか、私が担当しているリッキーは人形とCGが共存していて、CGのリッキーもメチャメチャ可愛いんですけど、第44回の1シーンは人形だからこそできたのかなと思います。“兄貴を助ける!”って庇うシーンとか、グッと魂が入って、あのシーンの動きは“人形でやれて良かった!”って何度も観返しました。

そうやって自分が演じたお仕事の映像を観返すのも、やはり次の仕事に活かすため?

もちろん最初の数回は“次はもっとこうしよう”って反省しながら観ますけど、最後は楽しんでますね。やっぱり人形が大好きだから、いくらでも観ていたいんです。

まさに“好きこそ物の上手なれ”ですね。

はい。もともとずっと映像の現場で人形操演の仕事をしたかったという点は、私の強みなのかもしれないです。『プロフェッショナル』を観ていただいた方から“人形操演をやってみたい”という問い合わせもたくさんあったので、そもそもこういう仕事があるっていうことも、まだまだ知られていないと思うんです。だから、この世界に情熱を持って飛び込んでくれる人が、これから増えたらいいなって。

ちなみに人形操演にスポットが当たって注目されるようになって、ギャラも上がりました?

上がってないです。でも、それはあまり気にしていないというか、やっぱり起用されてこその職業だし、もっともっとたくさんの人形をやりたいので。とにかく今はいただいた仕事を一生懸命やるだけですね。


執筆者profile
清水素子
東京都生まれ、広島&横浜育ち。早稲田大学商学部卒業後、女性向けコミック/小説誌、音楽誌の編集を経てフリーランスのライター&編集に。得意ジャンルは日常から離れた世界のもの。
FREENANCE
今すぐ無料登録
会費ずっと
0