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他人と同じことをしてもつまらない
ただ、“他人がやらないことをやらないと面白くない”というのは、読ませていただいて一つの真理だなと感じました。仕事論というよりも人生論として。
他人と同じことをやるって、つまらないじゃないですか。それは映画評が“つまらない”と書かれた映画を観に行って、同じように“つまらないな”と思うみたいなもんでしょ。何だかくやしいですよ。そこはどうにか自分なりに面白さを発見したいもの。“つまらない”と決められたことを“つまらない”って思うことほど“つまらない”ことはないでしょ。
だから世で“つまらない”とされているものに、新たな価値観を付加していくことをされているんですね。『「ない仕事」の作り方』の中に、何度か“俺が買わないと誰が買うんだ”という言葉が登場したのも納得です。
その言葉の真意は“俺でさえ欲しくないものが何で売ってるんだろう?”ですかね(笑)。ま、世間から見て“くだらないもの”が小さい頃から気になっていたのは確かで、そのなんとも哀愁のある感じにグッときてしまうところはあったんだけど、“俺でもこれ買わないな”ってものがこの世に存在しているところにその不思議さがあるわけで。これはほっとけないなと……ね。
なるほど。みうらさんが目をつけるものって、とかく哀愁や切なさが漂っている理由がわかりかけてきました。
哀愁は基本ですよね。あとは、もうみんながすっかり忘れてるものですよね。“そんなに人って簡単に忘れられるんだ”っていう疑問がある。僕は一回好きになったものはなかなか捨てられないし、小学校のときから残すために生きてきたつもりです。万物流転、諸行無常はわかってるけど、切なすぎるじゃないですか。だから、せめて好きになったものや事柄に対しては、生きているうちぐらい好きでいたいなと。
さすが、スケールが大きい。
いやいや、飽きてないフリをしてることも多いんですけどね(笑)。じゃ、好きでい続けるためにはどうすればいいか? 僕の場合、それがたまたまグッズだったってことで。だから旅先には土産物屋さんがあるわけで、なのに、そういう旅の思い出が詰まったものを買っては捨てる“これは切ない!”と。確かに土産物の中には、買っても貰ってもあまり嬉しくないものはたくさんあるけれど、それを嫌って捨てるんじゃなくて、おかしいから愛でてみたらどうかな?と思って“いやげ物”とネーミングしたんです。するとね、すごく好きになってきてね。だから自分を洗脳するためのネーミングも必要になってくるわけで。
世の中で忘れ去られるもの、打ち捨てられるものに対する、それは一つの“愛”なのでは?
いやぁ、愛なんて大それたものじゃなく、ただおかしいんだよね。そういうものを必死で集めてる自分を含めてのおかしさが、たまらなく好きになってくる。だから、その滑稽さに気づかないと、「ない仕事」は成立しないとも言えます。傍から見たら“DS(=どーかしてる)”としか思えない域にまで、ギリギリ崖の淵まで追い込んだところに、ものすごいおかしさがあると思い込む。そこでやはり必要なのが、無駄な努力と無駄なお金ということになりますよね。例えば“この土産物、千円もしたんだよ”って言うより“5万円したんだよ”のほうが面白いじゃないですか。
わかります。DS度が高いですよね。
そこで人は“どーかしてる”って判断するんですよね。だから、その本にも書いた“Since(シンス)”に関しても、いろいろ無駄な努力をしました。Sinceについてラップで歌ってみたりね。それを『ザ・スライドショー』で初公開したときはお客さんもね、呆れて爆笑でした。それが「お前にはそれしかない」エンターテインメントってことなんですよね。“どーかしてるよ”って言ってもらってナンボなんで、“またやってんの?”では足りないんですよね。“まだやってんの?”って濁点がついてこそです。
そのために、今も無駄な努力を続けていると。
もう、マイブームって造語で流行語大賞をいただいたときからね、次々と新ネタを言わないと許してくれないような状態になってるんでね(笑)。もう、そのとき思いついたことを言ってから、必死に好きになろうとしてたことも随分ありました。ま、そこでまわりの反応を見ながら“どーかしてますね”って言われるものを探してたところもありますから。やっぱりそれは独り善がりじゃダメなところもありますからね。
そして、マドロス
と、言われたところで聞くのも心苦しいのですが……では、そんなみうらさんの今のマイブームは?
出ましたね(笑)。そうですね、2年くらい前のことかな。街を歩いててね、靴の紐がほどけてるのに気づいて、ちょっと高いコンクリートの台に片足のせて結んだときに“これってマドロスだよな”って思ったことがあったんですよ。ほら、波止場の船を繋ぐリーゼントみたいな型の船止めに片足上げて、パイプ咥えてるマドロスのポーズ。
で、背中になんかしょってますね。
そうです。無意識にしたポーズがそれで、やたら気になってきてね、『マドロス演歌』という7枚組のボックスCDを買って聴いてみたんだけど……まだ全然好きになれなくて。どうしたもんかと今度は子供の頃によく駄菓子屋で買ってたチョコレート味のパイプを思い出して調べてみたんだけど、その商品名が“マドロスパイプ”っていう名称だったんで、箱買いしてみたんです。それに当然マドロス帽を買って被ってみたりね(笑)。
でも、宝塚歌劇ではマドロスって、今でもモテキャラの扱いですよ。
やっぱりね(笑)。 でも、なんでマドロスがカッコいいのかよくわかってないでしょ?
言われてみれば、確かに……。
思い返せば漫画のポパイも水夫だったもんね。まだ飛行機なんて一般人が乗れなかった時代に、世界に出るといえば船だったに違いないから、そこでグッとくる存在がマドロスだったんでしょうね。
きっとそうでしょうね。
今はコロナ禍なんで無理ですけど、昔だったら絶対飲み屋にはマドロス帽を被っていって、友達の反応を確かめたと思うんだよね。
空前のマドロスブームが来るかもしれない。
来ないと思ってるでしょ?(笑)。ま、僕もそれに同感ですけど、数年後に何かすごいアレンジが加わって、例えば“ゴムヘビマドロス”とか“仏像マドロス”とか、とんでもないものに化学変化する場合もあるかもしれません。
それが本書にも書かれていた“A+B=C”の図式ですよね。
それです。単に答えがABじゃなく、“なんでココからこんなことになってるわけ? どーかしてるよ!”のCが出たときに、「ない仕事」が発生するんですよね。
結局、“一人電通”と言ってもね、一人で考えて一人でやってきたことなんて少ないです。“こんな友達と”とか“こんな編集者と”っていうのもAかBの要素でもある。好きになるためには協力者も大切ですよ。だから“好きなことがなくてつまんない”とか言ってるんだとしたら、それは無駄な努力が足りないだけなんですって。
好きなものが多いほうが人生絶対豊かになりますから、それは全ての人間にとって有益ですよ。
人生を豊かにするとは限らないけど、かなり暇はつぶれることは確かですよ(笑)。