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武田砂鉄インタビュー「フリーランスにとって大切なこと」とか意識せず、来たオファーに全力で応えるだけ

マチズモを削り取れ』(集英社)が、第4刷の発売が確定するヒット作となり、現在も多数の媒体で連載を持つフリーライターの武田砂鉄さん。その鋭い着眼点や独特の切り口から、受ける仕事の選び方や方向性にはこだわりがあるのかと思いきや、意外にも「来たオファーを打ち返すだけ」と軽やかに笑います。

そんな砂鉄さんに、仕事への考え方や自分の文章との向き合い方、フリーランスとしての将来像など、「仕事論」をたっぷり聞かせていただきました。

profile/武田砂鉄
1982年生まれ・東京都出身のフリーライター。大学卒業後は出版社で書籍編集に携わり、2014年よりフリーランスに。インタビューや書籍構成、コラム執筆など幅広く手がける。 デビュー作『紋切型社会』をはじめ、『マチズモを削り取れ』『偉い人ほどすぐ逃げる』など著書が次々と話題に。現在は毎週金曜日にTBSラジオ『アシタノカレッジ』のパーソナリティも務める。cakes・女性自身等の媒体で連載中。
https://twitter.com/takedasatetsu
インタビュアーprofile/てれびのスキマ-戸部田誠
1978年生まれ。ライター。テレビっ子。 主な著書に『タモリ学』、『1989年のテレビっ子』、『笑福亭鶴瓶論』、『全部やれ。』など。『週刊文春』「水道橋博士のメルマ旬報」「読売新聞」などでも連載中。
https://twitter.com/u5u

来たオファーを打ち返す、フリーランスはそのくり返し

砂鉄さんは本当に幅広く活動なさっていますが、中でも核となる活動は何でしょう?

核となる仕事を決めているわけではなくて、依頼があったものを受けるっていうことの連続ですね。自分の専門分野を決めている人もいれば、来たオファーをとにかく打ち返していくっていう人もいると思うんですが、僕は後者です。自分にオファーしてきたってことは何かしらの理由があるだろうと考えるようにしています。もし知識がなかったとしても、関連書籍を多く読むなどして、受けたからにはきちんと応えてみようという感じです。

後ろにたくさん本が見えるんですけど、やはりかなりの数の本を読んでいるのかなと。本を選ぶときの基準ってありますか?

いや、全然ないですね。後ろの本棚から適当にピックアップしてみると、佐村河内守さんの本もありますし、滝川クリステルさんの本もありますし、本当にジャンルはさまざまです(笑)。こういう本がいつか必要になるかもしれないな、と思って集めたり読んだりしている感じです。よく「本棚を覗かれると自分の頭の中を覗かれたような気がして嫌だ」って言う人もいるんですけど、僕は全然大丈夫。後ろの本棚はごく一部ですが、この本棚が僕の頭の中っていうわけではなくて、自分の頭の外にある感じですね。インタビューや対談の前には、相手が何を考えているのかっていうのを、その人の本を読んで追いかけるようにしています。そんなの、当然のことかもしれませんが。

崩れそうなほどの大量の本と砂鉄さん

元々は出版社に勤務して書籍編集者をしていたんですよね。入社の動機は?

大学時代から音楽雑誌に投稿していて、雑誌に原稿を書くような仕事をしたいとずっと思っていたんです。就職活動の時には編集者とライターの違いをさほど考えずに、とりあえず片っ端から出版社を受けたんですけど、全然受からなくて。唯一内定をもらったのが、河出書房新社でした。河出書房新社は雑誌よりも書籍寄りの出版社だったのですが、先輩編集者はなかなかの曲者揃いで、それぞれの分野で「この編集者を知らない人はいない」というような人たちが揃っていたんです。営業と編集の掛け持ちで9年半ぐらい在籍したんですけど、その人たちから吸収したものはいまだに糧になってますね。

書籍編集者の仕事は、やりがいも大きかったですか?

売上がある程度見込めれば何でもやっていいという社風でしたから、企画を立てるのは大変だったんですけど、楽しかったですね。自分がライターになっていろんな出版社と仕事をするようになって、改めて、自分はいい環境で仕事ができたんだなと思います。

そんな中で、なぜフリーランスになろうと?

ちゃんとした理由と、ちゃんとしてない理由があるんですけど(笑)。ちゃんとした理由は、編集者としていろんな本を手がけていると、売れた本・話題になった本とそうでない本が出てくるんですね。で、そうでない本に対して「まぁしょうがないな、次行こう」と思っちゃっていた。それって、本や著者に失礼ですよね。でも自分の周りの編集者は、本への愛着や忠誠心みたいなものが強くて。

他の編集者との温度差みたいなものを感じていたわけですね。

はい。それと同時に『cakes』などいくつかの媒体で書き始めて、朝日出版社から本を書かないかというオファーをいただいて、それがデビュー作の『紋切型社会』という本になるんですけど。「独立してもやっていけるかな」って思うタイミングが重なったというのもありますね。

「ちゃんとしてない理由」、も聞きたいですね(笑)。

僕が会社を辞めたのは31歳のときなんですけど、そのまま10年くらい働いていたら、自分の実績とは関係なく、管理職になっていたかもしれません。管理業務が出てくると今までみたいに自分の好き勝手ができないし、人の上に立って仕事なんかできないなという無責任さもありましたね。

フリーランスになるにあたって、勝算はありましたか?

いや、今思うとなかったです。スキマさんは勝算ありました?

いや、全然(苦笑)。

確たる勝算というよりも、勝算らしきものがちょっと遠くに見えるかな、ぐらいですね。自信があったということではなくて、「なんとかなるんじゃないかな?」ぐらいの。ちなみに砂鉄というペンネームは大学時代から一緒に活動していた仲間で、現在、『CINRA.NET』を運営している会社がまだ学生の集まりで、同人誌のようなものを作っていた時に一緒だった友人が考えてくれたんです。こんなに長いことこの名前を使うと思ってなかったですね。みんな「砂鉄さん」と呼んでくれるけど、僕自身はまだしっくり来てないところもあって(笑)。自分とペンネームにやや距離があるようで、それもちょっと面白いですけどね。

友人が書いてくれたこの書は、今でも部屋の片隅に貼ってあるそう

ラジオでレギュラー番組も持っていますが、自分がラジオでパーソナリティをするようになるなんて想像されていましたか?

いまだに、放送が始まる直前に、何でここで自分が喋ろうとしてるんだろうって思いますね(笑)。ラジオには慣れることがなくて、毎回「うわっ」て思ってます。こういうラジオの「慣れなさ」って、日々の暮らしの刺激にはなってるかなと。僕はわりと常に最悪のことを考えるんで、ラジオの前日はお腹が痛くなるとまずいからアイス食べるのやめようって思ってます。生放送だから。今までアイスを食べてお腹が痛くなったことはないんですけどね(笑)。

自分の原稿を自分で酷評する。『自分SM』と呼んでいます(笑)

フリーランスとして軌道に乗ったのはいつ頃ですか?

会社をやめた1年後に『紋切型社会』を出しているんですが、そこから仕事が広がった感じですね。この本は朝日出版社から出しているんですが、業界内ではよく知られている営業部員の橋本さんが入ってくれて、本が出る前からいろいろな営業活動をしてくれたんですよ。新人の本をそこまでプッシュしてくれて、本当にありがたかったです。もっと大きな出版社から出していたら、数ある新刊本の一冊で終わってしまっただろうから。最初の本を朝日出版社から出せたのは、幸いなことでしたね。

フリーランスのライターとして活動する中で、自身が編集者を経験していたことって役に立っていますか?

そうですね。自分が編集者をしていて良かったと思うのは、自分の文章をどこか客観的に読めること。自分の原稿を「何これ、こんなにつまんないこと書いて」と、わざとサドっけのある感じて見るっていうのは毎回やっています。「自分SM」と僕は呼んでるんですけど(笑)。この「自分SM」は、自分が天狗になっていないかどうかをチェックするにも有効なんですよ。編集者をやりながら、急に注目度が上がったり売れっ子になったりした人を見て、「あ、このひと天狗になったな」って感じたことが何度もあったんですよ。自分はそうならないように、常に自分の原稿を厳しく見るようにしています。

今は、ポジティブな意見だけを吸い取ろうと思ったら吸い取れるわけじゃないですか。SNSなどで何かを発信すれば、賛同や賞賛する意見を集めやすい。自分で情報を発信すればするほど、賛同の度合いを高められる感じになっちゃってる。僕は、自分にとっての厳しい声もそれなりに受けとめるようにしていますね。みうらじゅんさんがよくおっしゃってるんですけど、“権威・濃すぎ(ケンイ・コスギ)”になっちゃいけないっていう。

「ちょっと言うだけで叩かれる」社会でも、声をあげ続けることは大事

もし自分への批判を見ても、ダメージはないですか?

いや、もちろん実際に見たら嫌な気持ちになるし、ダメージはくらうんですけど、それを警戒するあまりに何も見ない・何も言わないっていうことはしないようにしてます。

著書『マチズモを削り取れ』でも書かれていますが、今は「ちょっと言うだけですげー叩かれる」社会じゃないですか。そんな中で砂鉄さんはハッキリ自分の意見を表明していると思いますが、それに対するリスクは考えますか?

ある芸能人が子どもをあやしている画像をアップしたら、「近くにあるタンスの角が危ない」みたいなことで炎上したことがあったんですよ。それに比べればマシなのかなと(笑)。自分が言われてることなんて、大きな「嫌なサイクル」に比べたら、ちっちゃなもんです。「よくそこまではっきり言えるね」って言われることもあるんですけど、そんなに大したことを言ってるつもりもないです。僕はよくアベノマスクの話をしているんですけど、なぜか我が家には届いていないんです。そりゃみんなに配るって言ったのに来なかったら、普通に「来ないよ」っていう。それは別に、何の勇気でもない。だから怖さも感じないですね。

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