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武田砂鉄インタビュー「フリーランスにとって大切なこと」とか意識せず、来たオファーに全力で応えるだけ

FREENANCE 武田砂鉄

武田砂鉄さんインタビュー。後半では、フリーランスを取り巻く環境についてや、フリーランスとして第一線で活躍し続ける上で大切なことなどをお聞きします。

フリーランスを取り巻く制度は、声をあげれば変えることもできる?

ところでフリーランスを取り巻く環境について少し話をお聞きしたいんですが、コロナ禍では政府からフリーランスがフリーターかのように扱われたことは記憶に新しいですよね。

ええ、個々の生活がここまで見渡せてないんだなっていうのが、この2年間で思い知らされましたね。

フリーランスってローンが組みにくかったり、いろんな部分で社会的信用が低く見られたりしがちじゃないですか。でも、個人で頑張って仕事してる人をなぜ信用できないんだって思いますよね。自分一人で生業を立てている人を、なぜ信用しないんでしょう。だって会社に勤めている人が、急に会社が倒産して、その後も10万円の家賃を払えと言われたときに、貯金がなかったらめちゃくちゃビビりますよね。でもフリーランスは、ある月の収入がゼロになっても「まあなんとかなりますよ」って言える人も多いと思うんです。そういう覚悟でやってきたわけですから。

インボイス制度なども始まりそうですが、フリーランスを取り巻く環境はどうなると思います?

今回のコロナ禍で子どもの小学校等が一斉休校になったときの補償も、最初はフリーランスのことなんて考えられていなかったけど、徐々に考慮されるようになりましたよね。声を上げることによって制度を変えることもできたので、そういうことの蓄積によって、少しでも変わってくれればいいなと思うんですけどね。しつこく声をあげ続けることが大切なのかなと思います。

武田砂鉄

声をあげる際に、今は「当事者性が大事」みたいな風潮があるじゃないですか。それについてはどう思いますか?

もちろん、当事者の声を拾い上げて伝えていくということはメディアにとって非常に大事なことだと思います。同時に、人間は何かの当事者である限り、何かの当事者でないわけです。当事者性だけを引っ張りあげても、その全体像が見えるわけではありません。

小さな子どもが被害にあった悲しいニュースに対して“2児の母”のコメンテーターが語ると「すごく切実だな」と思いますよね。一方で、僕は2児の父ではないけどそのニュースを見ると「本当に悲しい事件でこんなことが二度と起こらなければいいな」と思う。“2児の母”であるコメンテーターが言うことと、2児の父ではない僕の言うことは共に切実だと思いますが、「当事者である」ということがのっかった時に、そちらの言うことの方が全てになってしまってはいけない。当事者性を大事にしながらも、非当事者のこともどこか頭に置いておきたいです。

「フリーランスとしての心がけ」とか考えてないし、考えない方がいいのかなって

フリーランスとして、将来像みたいなものはありますか?

全く何もないですね。一つひとつの仕事を丁寧にやっていけば、どこかに行き着くのではないかっていう思いしかないです。あんまり相撲のたとえって好きじゃないんですけど、やってよかった仕事とそうじゃない仕事のバランスが、15勝0敗じゃなくても8勝7敗くらい、つまり大幅に負け越しにならなければいいかなと。うーん、やっぱり相撲のたとえって説得力が出るからよくないですね(笑)。でもどうですか、スキマさんは自分が60歳になったときのことなんか考えてますか?

いやぁ、まったく想像できないですね。怖くて。

怖いですよね。じっくり考えれば怖いことしかないですよね。だって僕が日頃仕事をしている雑誌とラジオって、のぼり調子ではない産業の中の一つですから。数年前に、Web媒体でエモい記事みたいなのがやたらと流行ったじゃないですか。ああいうのは、なかなか定着しなかったですよね。だから変に感情を盛ったりイイ話にしようとしたり、「こういうこと書いてあの人が拡散してくれたらバズるかも」とか考えたりせず、力まずに書くようにしてます。

これまでいろいろなフリーランスの方に会われてきたと思いますが、お手本にしている方とかはいますか?

ベテランのライターやエッセイストを見て、「なんでこの人はこんなに長くやってこられたのだろう」と考えますね。その人たちを見ながら、長くやっていける理由を自分なりに考えてます。バズる記事を書くライターって結構いると思うんですけど、バズるのを目指し続けて疲弊する人も多いと思うんですよ。そうならずに長くやってる人って、何が違うのかなって。自分もライターやってる限りは長く続けたいなと思うから。

ありがとうございます。では最後に質問ですが、フリーランスとして第一線で活躍し続ける上で大切なことって何でしょう?

いやどうでしょうね。フリーランスとして歩いていくと、いろんな人が声をかけてくれたり、逆に足を引っ掛けようとしてきたりするんです。それに立ち止まったり避けたりしながら歩いていると、自分の歩く道がどんどん変わってきたりする。僕は「フリーランスとしての心がけ」なんてあんまり考えてないし、その方がいいのかなって思います。

そもそもこの『FREENANCE MAG』を否定する可能性がありますけど(笑)、あんまりこういった記事を読んで「フリーランスってこういう感じなんだ」みたいに、影響を受けない方がいいんじゃないかなと思います。本当にその人のケースでしかないから。こういう記事は斜め読みしながら、やや薄目で見るぐらいでいいと思いますよ。「あーこういう考えの人もいるんだな」ぐらいの感じで。だって僕がこう話しているのも実はウソで、本当に心がけていることなどは、こういうところで言わないようにしているのかもしれませんしね(笑)。

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