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フリーランスが“法人化”するとどうなるの?人気イラストレーター・サタケシュンスケさんの場合

FREENANCE サタケシュンスケ フリーランスな私たち

独立3年目の小沢あやが、さまざまな業種のフリーランスに話を聞く連載『フリーランスな私たち』。今回のゲストは、イラストレーターのサタケシュンスケさんです。カラフルでポップ、そしてどこかレトロなキャラクターイラストで人気のサタケさん。2007年からフリーランスとして活動してきましたが、2021年9月、株式会社ひととえという会社を設立したそうです。

個人事業主からの法人成りは、フリーランスにとって気になる話題。法人化してからの仕事・心境の変化や、今後の野望を伺いました。

profile
サタケシュンスケ/2007年よりフリーランスとして活動開始し、2021年に法人化。デフォルメした動物や人物の絵を描き、国内外で数々の作品を出版。イラレ芸人・フレスコ芸人・京都芸術大学講師・AdobeMAX登壇・2014/2017年にグッドデザイン賞を受賞。3児の父、天然パーマ。
作品集PRESENT(玄光社) http://amzn.to/2CHsbRi
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小沢あや/コンテンツプランナー / 編集者。芸能人や経営者のインタビューのほか、エッセイも多数執筆。「ワーママのガジェット育児日記」などの連載のほか、「つんく♂の超プロデューサー視点!」 編集長も担当。2021年にピース株式会社を設立。

法人化することで自分の中で責任感が大きくなった

小沢:サタケさんは今年9月に個人事業主から法人化されたそうですね。仕事をするにあたって、メリットやデメリットを感じることはありますか?

サタケ:企業の中には、個人事業主とは取引できない場合もあるので、そういうとき、これまでは代理店やマネジメント会社に間に入ってもらっていたんです。法人化したことで企業とも直接やりとりができるようになって、より仕事をスムーズに進めることができるようになりました。

株式会社ひととえ
サタケさんが設立した株式会社ひととえ(https://hitotoe.net/)

小沢:まさに私も最近会社を作ったのですが、それは大きなメリットだと感じます。個人事業主時代よりも規模の大きな仕事が来るし、直接取引が増えた分、収入面での変化もありますよね。

サタケ:そうですね。あとは会社名で仕事をするようになったことで、個人事業主時代よりも自分の中で責任感が大きくなった気がします。

サタケシュンスケ
オンラインで取材に応じてくれたサタケさん

小沢:私、これまでは「なんでもやります」的に、フットワークの軽さを売りにしていたところがあるんです。けど、会社にしたことで、外から見るとその軽さがなくなってしまうんじゃないか……とちょっと心配もしています。

サタケ:僕も、法人化したら個人のお客様からの依頼は減るだろう予想していました。仕事の内容にもよりますけど、依頼主がほぼ個人という場合は、会社にしてしまったら逆効果になるかもしれない。僕の場合は、個人事業主の頃から企業からの依頼で仕事をすることが多かったので、法人化することで「これからがんばりますよ!」的なアピールにもなったのかなと思っています。

フリーランスの価格交渉、法人化でどう変わる?

小沢:法人化すると、請ける仕事の価格交渉もより重要になってきませんか?

サタケ:僕は既存のお客さんに、再度、金額交渉をするようなことはほとんどないですね。既存の仕事の単価を上げていくよりは、より高い評価をしてくれる新規のお客さんを増やしていくことが大切だと思っています。

サタケシュンスケ
これまでのクライアントワークの数々(https://naturalpermanent.com/illust/work/)

小沢:もし想定よりも低い金額を提示されたら、どうします?

サタケ:僕はあまり仕事を断らないし、なんでもやるタイプなんです。フリーランスって一度仕事を断ると、次がないと感じることもあったし、そのあたりはできるだけ融通をきかせるようにしてますね。でも一度自分が納得いく金額を提示して、「このくらいの金額を頂戴できれば、こんなことができますよ」と交渉はするようにしています。

小沢:クライアントと継続的に関係を構築する上で気を遣っていることはありますか? 

サタケ:手一杯なときに新規の依頼をいただくこと、ありますよね。自分が少し寝ずに作業できるくらいのボリュームだったらがんばりますけど、そうでない場合は納期を調整してもらえるか交渉したり、それでも無理な場合は断る理由をきちんと伝えています。「忙しいから」だけではなく、自分の現在の状況をきちんと伝えて、「本当は受けたいんだけど」って気持ちもわかってもらって、相手を追い返さないように心がけています。

小沢:「この条件で、ここまででしたらお請けできます」と伝えるとかも大事ですよね。見積もりを出すときなどは、どうしていますか?

サタケ:イラストって、制作費や使用料、あるいは展開範囲で金額が大きく変わったりするんです。全国展開する広告と、ひとつの地方の街でしか展開しない広告は、イラストの作業量として同じでも、価格には差をつけないといけないなと思っています。だから価格表みたいなのは作ってなくて、一件ごとに話しをお伺いしながら決めていきます。

小沢:法人化して、取引先の構成比に変化はありますか?より大きい仕事を狙うようになったとか。

サタケ:いや、むしろ今は個人事業の頃より、細かい仕事を取りに行くようになりました。法人になると、毎月入ってくるお金にかかわらず、自分に固定給を払わなきゃいけなくなるじゃないですか。

小沢:役員報酬って、1年間決めたら変えられないですもんね。

サタケ:「毎月このくらい稼がなければいけない」というプレッシャーがあるので、以前より貪欲になりましたね。これはメリットなのかデメリットなのかわかりませんが(笑)。

小沢:「ひとり社長ならフリーランス時代と変わらない」と思いきや、事業規模に関わらずプレッシャーはありますよね。

サタケ:やっている仕事自体は、個人事業の頃と変わらないんですけどね。「会社の社員としてちゃんとしないと」と背筋が伸びるというか。仕事に前向きになれたんで、プレッシャーを良い方向に活かすことができればいいなと思っています。

サタケシュンスケ
タンバリン付きうたの絵本。一度見たら忘れないカラフルな世界観が魅力(https://naturalpermanent.com/illust/work/9436/)

小沢:自分にマッチする仕事をいただくために、工夫したり、線引きしている部分はありますか?私、自分のサイトに、経歴・実績や得意分野・やりたいお仕事のほか「こういう仕事はできません」という、やりたくないことリストも載せていて。

サタケ:仕事を選ぶ線引きという意味では、会社の方針に納得できないケースは慎重になりますね。ただ、反社会的、人道に反するようなものでなければ、柔軟に、あまり息苦しくならないようには心がけたいですね。

SNSを通じてポジティブなコミュニティを築く

小沢:さきほど、法人化してから積極的に仕事を取りに行くようになったとおっしゃってましたけど、サタケさんは「営業」してますか?

サタケ:駆け出しの頃は売り込みをすることもありましたが、徐々に紹介やネットで僕を知ってくださった方から仕事が広がっていきました。あとは、僕が好きなフォトグラファーさんやデザイナーさんなど、自分が関わっていきたいと思う方に対して、SNSを通じて積極的にアピールするようになりましたね。

サタケシュンスケ『PRESENT』
駆け出しの頃の思い出や作品も綴った作品集『PRESENT』

小沢:アピール、とは?

サタケ:例えば、そういう方が「記事を書くときにちょっとしたイラストがほしい」とSNSでつぶやいていたら、すぐに「描かせてください」とリプライしてみるとか。そこから実際に仕事につながることもありました。新型コロナウイルス感染症の影響でいろいろな人と直接会える機会も少ないですし、自然とこういうやり方になっていました。

小沢:サタケさんのSNSをみると、いろいろな職種の方をフォローされていますよね。自分と違うジャンルの界隈にも飛び込むように意識されているんですか?

サタケ:はい、ただ「違う」といっても、やっぱりクリエイティブ業界、デザイン関係の方のつながりが多いです。絵を動かしてムービーを作っている方に、自分の絵を動かせるかどうか相談してみるとか、自分ができないことを誰か他の方の力を借りて作る感覚ですね。何かあればお互いに声を掛け合うなど、チームを意識して動けるようになりました。

たとえば、最近は3Dイラストを練習している様子をTwitterにアップしているんです。そうすると、3D界隈の方からフォローされたり、情報が入ってきたり、見える世界が変わってきましたね。

小沢:ポジティブなSNSの使い方ですね!とはいえ、SNSには色々な方がいますし、初めてコンタクトをとるクリエイターさんに対して、「こちらからいきなり距離を詰めていいのかな?」とか考えちゃうこともあるんです。サタケさんが意識されていることはありますか?

サタケ:やっぱり「いかにあなたの作品が好きか、リスペクトしているか」を伝えるようにしています。僕はSNSを自分の愛を語る場所としても使っているので、誰かを褒めることで相手も僕の存在に気づいてくれたり、お互いに作ったものを見せ合ったりとか、できるだけポジティブな良い関係を築けるツールとして使っています。

小沢:素敵な関係ですね!

サタケ:あと、ClubhouseやDiscordが流行りだしてから、作品は知っていたけど話したことがなかったような関係の人と音声でやりとりすることも増えて、一気に横のつながりができました。そこで得られる情報は役に立っていますし、仕事と関係なくても、週に1回時間を決めてDiscordでなんとなく皆でおしゃべりをするような時間も大事にしています。

才能が集まった「チーム」のような会社が理想

小沢:サタケさんは今後「会社を大きくしていきたい」などの野望はありますか?

サタケ:あります。せっかく法人化したんだし、会社を使ってできること、そのメリットをもっと活かしたいとは考えています。個人でできない企画やイベントだとか、イラストを主軸にしながらいろいろな展開をしていけたらいいですね。僕はイラストレーターですけど、デザイナーさんやライターさん、いろんなスキルを持っている人が集まった会社にしたいと考えることもあります。あくまで理想の話で、具体的に何が決まってるわけじゃないですけど。

小沢:制作会社のようなイメージですね。イラスト以外に挑戦してみたいこともあるんですか?

サタケ:イラストレーターと企業のマッチングなどのマネジメントも興味があります。自分の周囲の作家さんをみていて、「もっとこういうふうにすればいいのに」と思うことはあるので、そこをサポートすることで皆が楽しく仕事ができるようになるんじゃないかと。

あるいは、自分が歳を重ねて仕事量を維持することが難しくなったら、マネジメント側に回るという方向もあるのかもしれない。年齢とキャリアでできることが変わってくると思うので、今後はもう少し社会貢献というか、周りのことを考えた仕事のことも意識しています。

小沢:さきほどおっしゃっていた「SNSを通じたチーム」の発展型のような。

サタケ:僕は新しいもの好きで色々なことに興味があるけど、全部一人でできるわけでもない。いろいろな専門家が同じ組織の中にいたら、本当に楽しいだろうな、と思うんです。

自分が社長としてやっていけるのかと考えると、まだそこまでの覚悟はありませんが、憧れはあります。才能のある人たちにしっかりお金がまわる、皆で楽しく稼ぐようなチームというか、会社が作れたらいいなと思っています。

#編集後記

イラストの可愛らしさはもちろんのこと、ご本人の穏やかな笑顔と落ち着いた語りが印象的だったサタケさん。親しみやすさと安心感が、作風やクライアントとのやりとりにも活きているのでしょうか。リモート取材でしたが、カメラとレンズもしっかり用意してくださったため、こちらも大変助かりました。新たなガジェットやツールを使いこなし、どんどん次の一手につなげている様子、尊敬です。

取材・編集/小沢あや(ピース)
構成/藤谷千明

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