『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』を発表したライターの和田靜香さん。インタビュー後半では、「書かずにいられなかった」という同書が刊行されるまでの背景や、フリーランス人生についても伺いました。
「人の幸福とは?」を政治家に聞きたい
個人的に感銘を受けたのが、和田さんの「私はいろいろな政治家から幸せについて聞きたいです。菅さんにだって聞きたい」という一節でした。僕も聞きたいです。
本を出した後、ある編集者に「幸福追求権って日本国憲法第13条に書いてありますよね」って言われたんですよ。憲法に書かれているほど、国民が幸福であるというのは重要なことであり、政治のど真ん中にあるべきことなんですよね。なのにほとんど語られてないなって思うんですよ。小川さんも「人の幸福が軸」って言ってたから、これは絶対に最後に聞こうと決めました。
和田さんがもっとも印象に残っているのはどんな光景ですか?
いっぱいあるけど、やっぱり小川さんが泣いちゃったことかな。あそこは本当はもっといっぱい話してほしかったんですよ。バイトをしながら生きてるわたしのような人間の思ってることを直接伝えるって、あんまりない機会じゃないですか。でも言えば言うほど泣くから、さほど聞けなかった(笑)。涙をぬぐうとかじゃなくて本当に号泣で、だからあそこはわたしがひとりでベラベラしゃべってるんです。
本当に純粋な人なんですね。
ありのままだし、正直ですね。裏表が全然ない。この本が出てすごく喜んでいて、いっぱい読んでもらいたいって言ってます。わたしもいいツイートとか見つけると全部LINEで転送してるんですよ。「こんなこと言われてた! キャー!」とか、普段のままですね。そうすると小川さんも「ありがたいですね」とか言って「いいねしてきましたよ」とか返してきます(笑)。
和田さんの人間力が小川さんに好影響を与えている気がしますね。偉そうにするつもりはないでしょうけど、どうしても優秀な人だから庶民とは距離ができがちですし。
わたしも最初はすごい距離ありましたからね。だって超エリートじゃないですか。高松高校で普通に3年間野球やって、ストレートで東大の法学部に合格した時点で頭はものすごくいいし、八代田さんとか秘書の人もお連れ合いもみんな高校の同級生なんだけど、「学年でも飛び抜けて頭がよかった」って言いますね。若いころはきっともっとトンがってたでしょうけど、年を重ねて丸くなったと想像します。
本を読んで得た小川さんの印象は、優秀なのは当然として、ちょっと線が細いけれど、正直で人情味豊か、という感じです。ぜひ総理大臣になっていただきたい。
自民党の総裁選をめぐる権力争いとか、みんなもううんざりしてるじゃないですか。こないだ作家の星野智幸さんとも話したんですけど、これからは国を引っ張るっていうよりも、主権者と一緒に歩んでいく新しいリーダー像をわたしたちが作っていかないとやっていけないと思う。小川さんは強力なリーダーではないかもしれない。泣くしね(笑)。でも、そういう面も正直に見せながら、みんなと一緒に悩んで話し合いながら歩んでいくリーダーにはなれると思うんです。それをみんなが望むかどうかですね。
「あきらめない」ではなく「あきらめたくない」
最後に和田さん自身のことも少し伺いたいんですが、正社員経験ゼロの完全フリーランス人生なんですよね。
高校時代からミニコミを作って『ミュージック・ライフ』誌の編集部に送りつけたりしてたんです。「原稿を書いてみないか」って連絡がきて、書き始めたのが19歳ぐらいかな。そのあと20歳のときに音楽評論家の湯川れい子さんの事務所でバイトし始めたんですけど、それも湯川さんがやってたラジオの『全米トップ40』にハガキを書いてたのがきっかけ。今回の本も手紙から始まってるから、だいたい手紙で人生が決まってるんですよ(笑)。湯川さんのところには6年半くらいいて独立して、それからは執筆とラジオの構成でしばらく食べられてたんですけど、だんだんと仕事が回らなくなって。
そしてアルバイトを始めたと。和田さんはどんな経験も本にしてしまうのがすごいですよね。通院(『でたらめな病人VSつかえない医者』文春文庫PLUS)、アルバイト(『おでんの汁にウツを沈めて』幻冬舎文庫)、相撲(『スー女のみかた』シンコーミュージック)などなど。
転んでもただでは起きない女って言われてますから、はっはっは。どれも極めないんですよね。どんどん移っていく。たぶん政治も同じで、また次に何か来るんですよ、きっと。飽きっぽいんだけど、興味を引かれたことは書きたくなるというか、書かずにいられないんですよね。小川さんのことも絶対に本にしたかったから。
『なぜ君』を見て感動してから1年足らずで1冊書き上げてしまったのはすごいですよ。
小川さんはわたしのことを「ド厚かましい」って言ってて、「その通り! なんて名言なんだろう」と思ったけど(笑)、実は「もう本、出せないかも」って思う瞬間は何度も何度もあったんですよ。曲がり角はいくつもあって、どこかひとつでも曲がってたら出せなかった。でも、最初からずっと言ってたのが「絶対にあきらめたくない」ってこと。それは小川さんが言ってたことでもあるから、この本のテーマですね。「あきらめない」じゃなくて「あきらめたくない」。それだけでした。本もたくさん読まなきゃいけないし、この本を作ってる間ずっと、毎日毎日、息がつまるぐらい苦しかった。でも、できたから。まったくゼロのわたしが(笑)。あきらめなければできるし、あきらめたら終わり。もちろんいろんな人に助けてもらって初めてできたものですけどね。
本の中でシスターフッドに言及していますよね。女性が束になって男性である小川さんにグイグイ迫っている構図が痛快でした。
最初に小川さんに会わせてくれて、本の宣伝動画を作ってくれた前田亜紀さん、秘書の八代田京子さん、相談に乗ってもらった金井真紀さん、編集の立原亜矢子さん……女性同士の連帯のおかげですね。もしひとりだったら、とてもとても乗り越えられなかったと思います。
そのひとりでも欠けていたら生まれなかった本でしょうが、でもやっぱり主役は和田さんですよ。絶対に和田さんの本だこれは、と思いました。
絶対に守りたかったんです、この本を。何があろうと、誰に何を言われようと、自分の思うのと違う形には変えたくない、わたしのやり方で完遂したい、っていう絶対的な思いがありました。小川さんいい人でね、版元の人たちに「和田靜香さんをよろしくお願いします」って頭を下げてくれたんですよ。わたしのために国会議員が。そのときはけっこう感動して、家に帰ってから「小川さんありがとー!」ってLINEしました(笑)。
和田さんとは久しぶりにお話ししましたが、いい意味で変わっていませんね。やっぱりありのままが一番だなとあらためて思いました。
ありのままにしてないと疲れちゃうから。硬いことはできないし、頭よさげに振る舞うこともできないし。編集さんが「この人と対談しませんか?」とかいっぱい提案してくれるんですけど、絶対に負けるのがわかる。みんな頭がよくて、自分のおっしゃることに確信を持たれてるから。わたしは「なんとなくこう思うけど……」ってあやふやなことしか言えない。
そのあやふやさが小川さんの個性とぶつかってスパークしたんですね。「国民と政治家が車の両輪として、お互いに頭を打ったり、膝を擦りむいたり、けん引し合って成長していくしかない」という小川さんの言葉を読んで、これが民主主義だよな、と思いましたが、この本自体がそれを一冊かけて体現していると思います。
みんなも両輪になろうよ。小川さんは最初の選挙で「一緒に歩んでいきましょうよ」って言ったけど、それをみんなでやろうよ、わたしたちが。この本を作る中でわたしが学んだ一番大きなことは、「わたしが主権者なんだ」っていう自覚なんです。それを全員が持たないと、「どうせ誰が総理大臣になったって同じだよね」とか言ってたら、いつになっても世の中はよくならない。「枝野ダメだよね」で終わっちゃいけない。枝野さんがダメなら、どうしたらよくなるか自分も考えないと。けっこう厳しいけど、政治に知らん顔をしていたら生活は破綻していく一方だと思うから。わたしはそう感じてます。
GOMES THE HITMANの山田稔明さんがFacebookに「和田さんにこの本をつくらせたのは確実にR.E.M.だなあと思う」と書いていましたよね(※)。その意味では音楽ファン、音楽ライターとしての経験が生きたともいえる。
まさにR.E.M.ですよ。政治的なバンドだし、社会的な活動もして当たり前だし、ヴォーカルのマイケル・スタイプはいつも「僕はミュージシャンだけど、その前に一市民なんだ」って言ってたんですよね。大統領選挙と同じ日にアルバムをリリースして「アルバムを買って選挙に行こう」ってキャンペーンをやったりして。そういうことをわたしはいちいち全部覚えてるから、政治的・社会的活動の敷居は全然高くないんです。自分で考えて動いて新しいことをやるのを恐れない、というのもR.E.M.のおかげかもしれない。学んだというより身についてた感じ。マイケルズ・チルドレンだね(笑)。