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フリーランス最初の年は『所得0円』。それでも「自分のご機嫌を最優先で」“青年失業家”田中泰延が語るフリーランス論

田中泰延

独立3年目の編集者・小沢あやが、さまざまな業種のフリーランスに話を聞く連載『フリーランスな私たち』。今回のゲストは、電通にコピーライターとして24年間勤務された後、「青年失業家」を名乗り、さまざまな媒体に寄稿をしている田中泰延さん。

著作『読みたいことを、書けばいい。』は16万部を超えるヒット作に。どうしたら自由気ままに、「読みたいこと」を書き続けられるんだろう?田中さんのフリーランスな仕事論を探りました。

profile
●田中泰延(たなかひろのぶ)/1969年大阪生まれ。1993年に株式会社 電通に入社し、CMプランナー・コピーライターとして活躍。24年間の勤務を経て2016年に退職し、フリーランスとして執筆活動を開始する。『街角のクリエイティブ』で連載した映画評「田中泰延のエンタメ新党」、コラム「ひろのぶ雑記」は累計500万PVにも達する人気企画に。

●小沢あや/フリーランスのコンテンツプランナー / 編集者。芸能人や経営者のインタビューのほか、エッセイも多数執筆。「ワーママのガジェット育児日記」などの連載のほか、「つんく♂の超プロデューサー視点!」編集も担当。

フリーランスは、自分のご機嫌最優先でいい

小沢

田中さんの著書『読みたいことを、書けばいい。』。まず、タイトルがいいですよね。書きたいことを書く人も多いと思いますが、読みたいことなら需要が必ずあるな、って。
田中:まあ、タイトルは編集者がつけてくれたんですけど(笑)。「需要」といっても、知らない他人の需要じゃなくて、自分の需要なんです。あの本のタイトルをフルで言うと、『自分がお金を払って読みたいことを、自分でなんとかして書けばいい』ですからね。自分で書いたら、タダで読めますから。

田中さん

小沢

なるほど!自分がお金を払いたいと思えるクオリティのものを書くって、結構難しいですから。田中さんは、ところどころで自由に話が飛びながらも、結果的には相手に求められる文章を書き続けていらっしゃる印象です。書き手としての信頼は、どうやって得ていったんですか?
いや、そんなスムーズじゃないよ(笑)。原稿依頼されて、図書館に行って資料を調べまくって、やっと1万4000字を書き上げたら「2000字ぐらいになりませんか?」って編集者から言われることもある。「そんなんWEBなんだから文字数関係なく載せたらええやん!」って返して、揉める(笑)。

田中さん

小沢

面白い(笑)。
「WEBでコラムを頼んだら、2000字ぐらいで出てくるやろ」という固定観念があるだけだよね。「いや、俺に頼んだよね?自由に書いて言うたよね?」っていう感じよ。そんな1日や2日ぐらいで書いた程度の2000字の文章、みなさん読みたいですか?って思っちゃう。

田中さん

小沢

それでも、結果的に仕事が尽きないってことは、発注者と読者が求めていることを書けているんだなと思います。「自分が読みたいものを書く」というスタンスと、決裁者にお伺いを立てるバランスが絶妙なんでしょうか。
いやいや、他人にお伺いを立てる必要なんてまったくないですよ。なんで僕が電通辞めたのかって、人にお伺いを立てたくないからですよ。他人の機嫌をとるのが人生で一番無駄だと思います。だって、機嫌が悪い人はその人の都合で機嫌が悪いんですよ。それなら、自分を大切にしたほうがいい。自分のご機嫌をとれるのは、自分だけです。

田中さん

SNSは「呼吸」するようにやればいい

小沢

フリーランスって働いたら働いた分だけ稼げるけれど、オーバーワークになりがちだなーと、つくづく思うんです。田中さんはとてもマイペースに働かれている印象なんですが、欲とキャパシティのバランスをどうとっているんですか?
基本的に、仕事は言われたことしかやらないですね。自分から売り込むことは一切しません。

田中さん

小沢

では、自然と声がかかる人でいるために、SNSを頑張るとか?
いや、「SNSを頑張る」っての、全然よく分からないなあ。頑張って日常生活している人、いないでしょ?Twitterも、常に知り合いと喋っている気分でやってます。「発信を頑張って仕事につなげよう♪」っていう人、気持ちが悪いんですよ。玄関を一歩出たら営業?そんな人、友達になりたくないでしょう?人は、友達になりたい人と一緒に仕事がしたいと思うはずなんですよ。

田中さん

田中泰延

小沢

私もインターネットって基本的に普段の何気ないことをつぶやく場だとは思っているんですけど、Twitter経由でいただくお仕事もたくさんあるので、気を遣うこともあって。田中さんはフォロワー6万5000人もいますけど、どうですか?
なんにも考えたことないね。そりゃ、電通のコピーライターだったら多少気を遣うと思うよ。キリンの担当でアサヒの飲料飲んでいる様子をアップしたらまずいかなって(笑)。まぁでも、僕は電通時代からそんなに気にはしていなかったですけど。

田中さん

小沢

本当に、気負わないで自由にやっているんですね。
SNSは、呼吸するようにやってます。思ったことを書くだけ。他人のツイートとか読んだことないもん。知り合いならともかく、どうでもいい人のどうでもいい意見って、本当にどうでもいいじゃないですか。

田中さん

小沢

たしかに、私も結構ミュートしてるし、自分もされているだろうなあ……とは思います。
なにより、他人はそんなに自分のことを見ていないですよ。ときどき炎上することもあるけど、僕に関心があるんじゃなくて、「コイツは叩いていいんだ」と盛り上がった人たちが、わざわざ暇つぶしをしているだけなんだと考えてますね。

田中さん

小沢

ちなみに田中さん、なんでブログはやらないんですか?最近は、ネットがポートフォリオになる部分もあると思うんですが。
僕、編集されてない文章は、文章じゃないと思っているんです。ブログって誰かが編集するわけじゃなくて、自分がアップした瞬間に公開されるでしょう?投げ銭で20万円集まる人もいるかもしれないけれど、それはプロじゃないと思っているの。ただ歩道橋で演奏するだけの人になりたいんだったらいいけど、そのクオリティを判断できる人にプロデュースされて、勝負の場に到達するまでは、結局趣味なんじゃないかな。

田中さん

一緒に仕事をするなら、自分と同等の熱量がある人

小沢

「基本的には言われたことしかやらない」ということでしたけど、信頼されて、仕事を頼まれ続けるためには、どんな姿勢が大切なのでしょう。田中さんは、いつもどんな経緯でお仕事の依頼が来るんですか?
過去の人間関係の中から依頼がくるか、Twitter経由でポロッと来るか。でもまあ、人からの紹介がほとんどですね。

田中さん

小沢

人から紹介されたお仕事なら、基本は全部引き受けていますか?
知人からの紹介ならだいたい大丈夫だし、「Twiterを10年フォローしています」とか「記事全部読んでます」とか言ってDMを送ってくる人も、一応僕を知ってくれてるんだと思うので受けようと思います。一番中途半端なのが、上司から「バズっている書き手を探せ」とかなんとか言われて、なんとなく声をかけてきたヤツね(笑)。僕のこと知らないのに頼んでくるのは、相手にしたらダメですよ。

田中さん

小沢

信頼できるかできないか、嗅ぎ分けるためにはどうしたらいいんでしょう。
少しでも危険だなと思うなら、やめておくのがいいんじゃない?だって、普通は一緒に仕事する人のこと、調べるじゃないですか。僕、とあるミュージシャンにロングインタビューしたときも、すべての音源を聴いたし、30年前からの過去記事も含めて、10万円ぐらい関連資料を取り寄せて読んだの。その人が影響を受けたミュージシャンがいれば、その音楽だって聴いたし。たった1回1時間インタビューするのに、1週間まるまる使っているんですよ。一緒に仕事をするなら、それと同じぐらいの熱量がある人じゃないと。

田中さん

フリーランスになったなら、ゼロになる覚悟を持て

小沢

私、独立して3年目なんですけど「前年度より成長しないと!」っていう、超会社員脳なんですよ。目標を達成できていない自分が許せなくて、無理やり仕事を詰めてしまったり、「新領域の仕事をしなくては」と、焦ったりするんです。
全然平気ですよ。僕、電通を辞めた次の2017年、所得0円。その翌年の2018年は220万円ですわ。でも、好きなことやっていれば生きていけるだろうと思ってる。2019年は本が売れて急に4000万円くらいあったけど、2020年は新型コロナウイルスの影響もあって、まだ200万円いっていないです。

田中さん

小沢

しれっと年収告白が。フリーランスって収入や仕事量が安定しないものですが、過去の実績や前年度の自分に縛られない秘訣ってありますか?
1回、ゼロになる勇気を持つことかな。だって、僕も電通にいたら、毎年確実に給料は上がっていたはず。でも、フリーになったら所得0円のこともある。それでいいじゃない。嫌なことなんて何もないし、二度寝もできる。その勇気を持たない限り、ラットレースからは抜けられないですよね。せっかく会社辞めたんだから、腹をくくったほうがいいよ。

田中さん

田中泰延

小沢

これまで、筆が止まってしまうことはなかったんですか?
ありますよ。3年ぐらい連載していた映画評を、ぱたっと辞めてしまったのは、「もういいや」と思ったから。僕、自分が読みたいか読みたくないかだけが気になるんですよね。

田中さん

小沢

自分の気分がノらないというのはすごく分かるんですけど、一方で、期日までに一定クオリティのものを納品するのがプロだよな、という思いもあって。難しい……。
それは、あるあるだと思うよ。俺だって、最後は締め切りを守るんですよ。でもね、まず第一に、締め切りは相手の都合だってことを忘れちゃいけない。

田中さん

小沢

と、いうと?
締め切りが12/10だったとしても、別にその人自身が12/10に欲しいんじゃない。上長にリリース日を決められて、「逆算すると、だいたいそれぐらいに」と思っているだけ。12/10をワクワクして待ってくれている人なら、僕はその締め切りを守るけれど、そうじゃない人には「それはあなたの都合じゃないですか」って言う。

田中さん

小沢

原稿をワクワクしながら待ってもらえるクラスにならないとダメっていうことですか(笑)。
頼んだ人がワクワクしないものを書いてどうするんやと。めちゃくちゃ怒られて、お金を払わないと言われることもあるよ(笑)。繰り返しになるけど、僕は自分が読みたいものを書くから。めちゃくちゃは遅れないけども、「12/10は無理やけど、4、5日待ってくれます?」って言いますよ。

田中さん

小沢

ダメなときの進捗報告は大切ですね。田中さんが今の境地にたどり着いたのは、いつですか?
会社にいる間は、そんなことやったらおしまいですわ(笑)。でも、せっかくフリーランスになったんだから。会社を辞めたなら辞めたなりの生き方をしないと。永久ひとり平社員なんて、しんどいだけですやん。

田中さん

小沢

零細個人事業主なので田中さんみたいになったら仕事が来なくなっちゃいそうですが、もう少しハートを強く、自分のご機嫌を優先していこうと思います。
人の目を気にせずね。本当に、自分が思っているほど、他人は自分を見ていないからね。試しに、Twitterで「おっぱい」とかつぶやいてみてください。それで、「あ、誰も見ていないんだな」って実感してください(笑)。

田中さん

#編集後記

田中さんの働くスタイルは、自由そのもの。
でも、フリーランスって「わざわざ」リスクをとって会社を辞めたんだから、これくらい自分主義でもいいのかな?と、ちょっと気が楽になりました。
もちろん、実績あってのことですが、自分のご機嫌ファーストでいきます!

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