地方クリエイターが単価を上げるために必要なことは?吉本ユータヌキさんに聞く「SNSで自分の価値を高めるコツ」

フリーランス3年目の小沢あやが、さまざまな業種のフリーランスに仕事術を聞く連載『フリーランスな私たち』。今回のゲストは、3人のお子さんを持ち、育児エッセイ『おもち日和』で知られるマンガ家・吉本ユータヌキさん。

長年勤めた会社を昨年退職し、滋賀での創作活動をスタートした吉本さん。地方でも仕事をしっかり掴むために心がけていることや、広告などの高単価案件を獲得するコツを伺いました。

profile
●吉本ユータヌキ/コルク所属でマンガを描いてます。3児の父親→娘5歳、息子3歳、息子0歳。子どもたちの話『#おもち日和』
●小沢あや/フリーランスのコンテンツプランナー / 編集者。「つんく♂のプロデューサー視点。」編集長。芸能人や経営者のインタビューのほか、エッセイも多数執筆。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。豊島区公認の池袋愛好家としても活動している。

地方のクリエイターはどう働く?

小沢

吉本さんは昨年、ご家庭の事情で滋賀に移住されたんですよね。クリエイターとして地方で働くうえで、都心にいた頃とどんな仕事の変化がありましたか?
仕事に関しては、僕の仕事は場所を問わず創作できるマンガがメインなので、特に仕事量が減ったと感じることはないですね。むしろ、今の生活の中でできた付き合いの中で仕事につながることも増えました。滋賀の企業からお仕事をいただいて、それが行政の仕事につながったり、地元の企業のパンフレットのマンガを描いたりしています。

吉本さん

小沢

新たな仕事が広がったんですね。地方のクリエイターさんにお話を聞くと、「東京と比べるとデザインやイラスト、文章の仕事に価値を感じてもらいにくい」という悩みが飛び出すことがあるんです。実際のところ、どうでしょうか?
やっぱり、東京と比べるとギャラの相場は低いかなと思います。あと「SNSでRTしてください」と気軽にお願いされることもあるんですが、僕も企業からPR案件を受けている以上、なんでも無償でRTするのは正直厳しくて……。

吉本さん

小沢

そんなときは、どうやってお断りしているんでしょうか?
バッサリ断るんじゃなく、しっかりと理由を添えて説明するようにしています。自分と先方の価値観をすり合わせていくことが大事なので、少しずつ、ゆっくりやっていけばいいのかなと感じています。今はできるだけクライアントと直接顔を合わせて、人付き合いを深くしようとしているところです。

吉本さん

小沢

地元の企業とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
ギャラなどの目先の利益で判断しないことが大事かなと思っています。長期的に考えると、地元の仕事をしっかり広げていくのがいいなと。地元の企業のパンフレットに描いたイラストを見た別の企業から声がかかることもありますし。地方はクリエイターが少ないので、競合がいないのもメリットですね。今はSNSとはまた違った、ローカルなお付き合いの心地よさも楽しんでいます。

吉本さん

地元企業とのお仕事一例。吉本さん独特のやさしいタッチが良い味出してます

小沢

地方でも戦えるクリエイターになるために重要なことは、何だと思いますか?
地元の企業との付き合いを大切にすることですかね。そのためにも、いろんなところに顔を出したり、相手が持っていない情報をどんどん提供してあげたりすると良いと思います。僕も、SNSの使い方がわからない企業さんにはどんどんアドバイスしています。

吉本さん

小沢

コンサル料金をいただくのではなく?
はい、料金はいただかず、惜しみなくやっています。今はそれでいいかなと。先行投資の感覚です。やっぱり、東京と比べると「コンサル」っていう概念がピンとこない方が多いんです。「お金払って教えてもらうの?」みたいな。でも、ちゃんと価値を感じてもらえたら、いつか仕事につながるんじゃないかなと考えています。だから、焦りとかは感じないようにしています。

吉本さん

単価を上げて、優良取引先を掴むコツ

小沢

吉本さんはPR案件もたくさんやっていますよね。単価が良い広告・企業案件をとるコツはありますか?
自分にとって何が武器になるかを把握することですね。僕の場合は情報拡散の仕事が多いので、引き続きTwitterのフォロワー数を増やしていくつもりです。あとは、PRマンガを描くときは商品の魅力が伝わるように描きます。新規開拓営業はしていないので、その分、今のお取引先の満足度を上げられるようにしています。

吉本さん

小沢

具体的には、どんなことを意識していますか?
PR案件では、事前に企業さんが何を求めているのか聞くようにしています。情報拡散なのか、知名度アップなのか、SNSでの反響なのか、ご要望をできるだけ詳しく伺うんです。そして、キャンペーン終了後には、できるだけ僕のフォロワーからの反響をまとめてレポートしています。

吉本さん

反響のあった案件の一例。心温まるストーリーを添えることで、商品の魅力を引き出す

小沢

投稿して終わり! じゃなく、プラスの仕事で周囲と差をつけているんですね。
そうですね。クライアントが複数の漫画家さんに同じ案件を依頼しているケースも多いので、差をつけられるように工夫しています。でも、SNS経由の仕事は水物。人気がなくなったら、発注もなくなります。僕も、どこかで仕事の受注が落ち込む瞬間が来ると思うんです。だからこそ、今は地元の仕事にタネを蒔いています。もしSNSで自分の価値がなくなっても、仕事が続くように意識してるんです。

吉本さん

行き詰まらないように、他人の客観的な意見を取り入れる

小沢

創作をよりよくするために、意識していることはしていますか?
僕が描いているのは育児マンガなので、普段から女性の意見を積極的に拾うようにしています。SNSで見かける炎上の中で、なんで炎上しているのか理由がわからないことって、正直あるんです。だからこそ、僕は人の意見を取り入れて、自分が発信するものの内容を分析するようにしていますね。

吉本さん

読んでいると、心がほっこりする。吉本ユータヌキさんのnoteより

小沢

人の意見というと、例えばどんな?
前、小沢さんに僕のコラムを編集してもらったときに「家事を手伝う」って書いたら、赤文字をいただいたことあったじゃないですか?「『手伝う』じゃなくて、主体的な表現にしたほうがいいのでは?」って。

吉本さん

小沢

ああ!普段あんまり家事育児をしてない男性に見えてしまって、誤解されちゃうんじゃないかと思ったんですよ。
「なるほど」と思って。それをきっかけに、「この内容を主婦の方が読んだらどう受け止めるのかな?」とか、考えるようになりました。

吉本さん

小沢

ちょっとでも他人の目が入ると安心できることって、ありますよね。
はい。だから僕は、率先して他の人の意見を聞くようにしています。フリーランスってひとりだから、どうしても凝り固まってしまうんですよね。一時期は「不安がないものを作ろう」と考えるあまり、当たり障りのないアウトプットが続いてしまったなとも感じているんです。今は周囲から客観的な意見がもらえることで、以前より深いものが作れるようになった気がしています。

吉本さん

小沢

作家エージェントと契約した理由も、そこにあるんでしょうか。
フリーランスになって1年経った頃「このままでいいのかな?」って思うようになったんですよね。ちょうど新型コロナウイルスの影響もあって、仕事も70%くらい減ってしまって。そのタイミングで、先延ばしにしていた創作マンガを始めたんですけど、なかなか思うようには描けなくて。

吉本さん

小沢

そうだったんですね。
やっぱりプロの編集さんに見てもらって、自分にはない考えをもらえるといいなと思ったんです。作っていく途中で「これってどういうことなんですか?」って聞いてもらえるのも「あ、伝わってないんだ」ってわかるので、ありがたいですね。

吉本さん

コルクに所属するきっかけをマンガに。吉本ユータヌキさんのnoteより

小沢

なるほど。私も、人に原稿を見てもらいたいって思うこともあります。個人事業主のまま、エージェントと契約するのも、手段としてありですね。
これまでは1〜2年先のことしか考えてなかったんですけど、エージェントと契約してからは「30年後どうなっていたい?」って、しっかり話し合えるようになったのもありがたいです。

吉本さん

小沢

確かに、先のことを一緒に考えてくれる人がいるって心強いと思います。
育児マンガ「おもち日和」も、娘が「マンガにされるの嫌」ってなったら終わるし。でも、その後もずっと仕事は続けたい。僕は家族優先で仕事をしたいと思ったからフリーランスになったんですが、仕事の量を増やすと家族との時間が減ってしまうんですよね。マンガはどうしても絵を描くのに時間がかかってしまうので、原作を考える方にシフトするのもありかなと思っています。今はシナリオを勉強中です。

吉本さん

#編集後記

吉本ユータヌキさんとは以前、編集者として一緒にお仕事をしたことがあります。メディアの読者層に合うコラムとイラストをしっかりと納品してくださり、とても心強かったです。
クリエイターは作品が第一ですが、人柄やビジネス観も重要なポイント。今回のインタビューで、吉本さんにたくさんのクライアントから声がかかる理由がわかりました。

まずは、目先の利益にとらわれず、信頼関係を築き上げること。自分のやりたいことや軸はしっかり持ちつつ、他人の意見を柔軟に取り入れるのも、愛される作品を生み出し続けるうえで大切ですね。

取材・文/小沢あや(@hibicoto