フリーランスや個人事業主の事業で得た資金を投資に運用した場合、事業の経費として認められるのでしょうか。投資には、不動産投資・株式投資・FX投資(外国為替証拠金取引)・投資信託などがあり、税務上の扱いもそれぞれ異なります。
この記事では、フリーランスや個人事業主が行う投資の費用が、「事業の経費」となるのか解説します。確定申告における注意点や、投資との賢い付き合い方についても触れていますので、今後の事業運営と資産形成にお役立てください。
Contents
投資が経費となる条件
投資にかかる費用は、原則として事業に関係のない個人的なものであり、支出は経費になりません。まずは、投資にかかる費用が「必要経費」として認められる条件を確認していきましょう。
投資とは?
投資とは、将来的な価値の増加を期待して、自己の資金をなんらかの対象に投じる行為です。対象は、有価証券(株式や債券など)、不動産、貴金属、あるいは事業そのものなど多岐にわたります。
事業関連性が重要
税法上の「必要経費」は、所得税法で「売上原価、収入を得るために直接に要した費用、販売費・一般管理費その他業務について生じた費用の額」と定義されています。
つまり、「事業を行う上で直接必要になる費用」です。そのため、投資費用を経費とするには、投資活動が本業と密接に関連している必要があります。
収入を得るためか資産形成のためか
経費として認められるかの重要な判断基準は、投資の目的が、事業からの直接的な収入か、将来的な資産形成かにあります。
例えば、事業用機械を購入するための投資は、事業との関連性が認められ、減価償却(※)という会計処理を通じて必要経費に算入されます。しかし、老後の生活資金や個人的な目標のために行う投資は、個人の資産形成であり、事業とは無関係です。
「必要経費」と認められる基準
所得税法では、家事上の経費(プライベートの支出)および家事関連費(自宅兼事務所の家賃等)は、「必要経費」に認められていません。
ただし、以下のものは、家事関連費であっても必要経費とみなされます。
- その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その部分を明らかに区分できる場合
- 青色申告の承認を受けており、業務の遂行上直接必要であることが明らかな部分
つまり、必要経費とするには、その支出が事業の収入を得るために直接的に必要である、もしくは事業上で通常なら必要な費用であることが求められます。
税務調査でチェックされるポイント
税務調査では、投資経費の計上が適切か、「事業との関連性」「取引の記録」「合理的な金額であるか」が厳しくチェックされます。
- 事業との関連性(投資目的や事業収入との結びつきを具体的に説明できるか)
- 取引の記録(契約書・領収書・取引履歴などが適切に保管されているか)
- 合理的な金額(経費計上額が、事業規模や投資内容から見て合理的な範囲内か)
日頃から、投資の目的や事業との関連性を明確にし、関連書類を適切に保管しておきましょう。
不動産投資と経費計上
フリーランスや個人事業主が、賃貸収入などを得るために不動産投資を行うケースもあります。不動産投資では、一定の費用を経費計上することが可能です。
不動産投資の基本的な仕組み
不動産投資は、主に賃貸物件(マンション、アパート、貸店舗など)を購入し、それを第三者に貸し出して賃料収入を得ることが目的です。
この賃貸収入は、所得税法上の不動産所得となるため、確定申告が必要になります。
また、不動産の価値上昇による売却益も目的のひとつです。この売却益は譲渡所得となるため、こちらも確定申告の対象となります。
経費計上できる項目(管理費、修繕費、減価償却費など)
不動産投資は、物件の維持管理や運営にかかる費用を経費計上できます。主な項目は以下のとおりです。
- 管理費 共用部分の維持管理費
- 修繕費 物件の価値を維持するための修理・改良費用。ただし、価値を高める大規模修繕(資本的支出)は、原則として資産計上し、減価償却の対象になる
- 固定資産税・都市計画税 不動産の所有にかかる税金
- 損害保険料 火災保険料や地震保険料。1年以上の保険料を一括払いした場合は、期間按分が必要
- 減価償却費 建物の資産は、時間の経過とともに価値が減少するため、この価値の減少分を、建物の種類・構造に応じて定められた「耐用年数」に基づき、毎年費用計上する。土地は原則として減価償却しない
- 仲介手数料 入居者募集や管理委託にかかる手数料
- ローン金利 不動産購入のための借入金の利息部分。元本は経費にならない
- 交通費 物件の管理や打ち合わせに必要な交通費
- 通信費 入居者や管理会社との連絡に必要な通信費
- 新聞図書費 不動産投資に関する書籍や資料の購入費用
- 修繕積立金 マンションなどの区分所有物件で、将来の大規模修繕に向けた積立費用
これらの費用は、賃貸収入を得るために直接的に必要であれば、原則として経費として認められます。
経費計上できない項目(物件購入費用など)
一方で、「物件購入費用(土地・建物本体の価格)」「ローンの元本」「個人的な利用にかかる費用」のような支出は原則として経費にはなりません。
- 物件購入費用(土地・建物本体の価格) 収益を生むための資産取得価額であり、建物部分は減価償却を通じて徐々に費用化される。土地は減価償却の対象にならない
- ローンの元本 借入金返済のうち、元本は経費にはならず、借入時の借入金も収入計上しない
- 個人的な利用にかかる費用 自宅兼事務所など、事業と私的な利用が混在する場合は、合理的な割合(使用面積の割合など)で按分が必要
青色申告での不動産所得の扱い
青色申告を行うフリーランスや個人事業主は、不動産所得でも事業所得と同様の控除を受けられます。
例えば、青色申告特別控除(最大65万円または55万円)、専従者給与の必要経費算入、純損失の繰越控除などです。これらの控除は節税効果を高めます。
ただし、不動産所得だけで最大65万円の青色申告特別控除を受けるには、該当する不動産貸付に一定の事業規模が必要です。一般的に、不動産貸付が事業的規模に該当するかの判定基準は以下のとおりです。
- マンション、アパートであれば10室以上の貸し付け
- 独立家屋であれば5棟以上の貸し付け
この基準に満たない場合は、10万円の青色申告特別控除となります。
フリーランス・個人事業主の事例
例えば、WebデザイナーのAさんが、事業拡大のためにオフィスとして使用する建物を購入し、一部を賃貸に出しているとします。
賃貸部分にかかる賃貸収入、管理費や修繕費、減価償却費などは、不動産所得の収入および必要経費です。ただし、Aさんの住居費用は必要経費になりません。
株式投資の経費計上
株式投資の目的は、購入した企業株式の値上がりによる売却益や、配当金を得ることです。原則として、その費用は事業所得の必要経費になりません。
株式投資で発生する費用の種類
株式投資を行う際には、以下のような費用が発生する可能性があります。
- 取得費(株式取得の払込代金と委託手数料)
- 売買手数料(株式売買時に証券会社へ支払う手数料)
- 情報収集費用(企業分析レポートの購入費用や投資セミナー参加費)
- 書籍代(投資関連の書籍購入費)
株式投資の関連費用は経費計上できる?
投資に関係する費用は、事業所得の必要経費として認められません。株式譲渡にかかる所得は、原則として「分離課税」(※)となり、事業所得や不動産所得とは別に計算されるためです。
譲渡所得の計算上、収入から差し引けるのは、資産の取得費(株式の取得費)と譲渡に要した費用(売買手数料)のみになります。情報収集費用や書籍代は、譲渡所得の計算上も、収入から差し引けません。
ただし、例外的に、信用取引による所有期間1年以下の株式譲渡で発生した所得は、事業所得または雑所得とする規定もあります。
特定口座とNISAの違いと税金
株式投資で得た利益(譲渡益や配当金)は原則として、20.315%(所得税・復興特別所得税と住民税)の税金がかかります。
ただし、「特定口座(源泉徴収あり)」(※)の場合は、証券会社が自動的に税金を徴収・納付するため、原則として確定申告は不要です。
一方、「特定口座(源泉徴収なし)」や「一般口座」(※)の場合は原則として、確定申告が必要になります。
また、NISA(少額投資非課税制度)は個人の資産形成を支援する制度のため、一定の投資額までの利益が非課税です。そのため、NISAの取引にかかる費用は事業の必要経費になりません。
事業として株式投資を行う場合の注意点
極めて例外的なケースですが、デイトレーダーのように株式投資を本業とする場合は、関連費用が事業所得の必要経費になる可能性もあります。
ただし、その投資活動が事業として認められるかは、客観的な証拠や継続性、規模などに基づき厳しく判断されるでしょう。個人が趣味の範囲で行う株式投資が、事業として認められるのは非常に稀です。
フリーランス・個人事業主の事例
例として、「ITコンサルタントのBさんは、顧問契約を結んでいるクライアント企業の株式を保有している」場合は、関係構築のための個人的な投資とみなされ、事業所得の必要経費になる可能性は低いでしょう。
また、この株式を売却して得た利益は、個人の譲渡所得として課税されるため、売却収入から購入費用を差し引いて、株式の譲渡所得を計算します。
FX投資と経費計上
FX投資(外国為替証拠金取引)は、通貨の価格変動を利用した取引です。この場合も、関連費用が事業の経費として認められることは原則としてありません。
FX取引に関わる費用の種類
FX取引を行う際には、主に以下のような費用が発生します。
- 取得費(FX会社に支払う手数料 / 買値と売値の差額“スプレッド”が手数料となる場合も)
- 情報収集費用(FXに関する書籍 / セミナー参加費 / 情報サービス利用料)
- 取引ツール利用料(高度な分析ツールや自動売買システムの利用料)
経費計上の可否と判断基準
FX取引は投機性が強く、個人の資産運用とみなされるため、取引手数料や情報収集費用が事業所得の必要経費として認められることはないでしょう。
FX取引に直接的に関連する費用は、必要経費としての計上が可能です。主に、取引手数料、通信費、情報収集費、パソコン(家事按分や減価償却が必要な場合もある)などが挙げられます。
事業としてのFX取引と副業としてのFX取引の違い
本業とは別に、個人的な趣味や資産運用としてFX取引を行う場合は上述のとおり「雑所得」として扱われます。
一方で、海外との取引が多い場合、為替レートの変動が事業に大きく影響する可能性も低くありません。そのリスクヘッジとしてFX取引を行う場合は、事業との関連性が認められる可能性も考えられます。
フリーランス・個人事業主の事例
例えば、翻訳業のCさんが個人的な資産運用としてFX取引を行う場合、その取引費用は経費になりません。
一方、Cさんが海外と頻繁に取引を行い、事業収益に影響を与える為替リスクをヘッジするためにFX取引を行う場合は、事業に関連する費用として認められる可能性があります。しかし、あくまでも可能性であり、慎重な判断が必要です。
投資信託と経費計上
投資信託は、原則として、その関連費用は事業経費になりません。
投資信託の基本と発生する費用の経費計上
投資信託には、購入時手数料、運用管理費用(信託報酬)、解約手数料などの費用が発生する場合があります。投資信託は、一般的に個人の資産形成を目的とするため、これらの費用は、事業所得の必要経費になりません。
投資信託の税金に関する基礎知識
投資信託から得られる普通分配金と譲渡益は、株式投資と同様、原則として20.315%の税金がかかります。特別分配金は元本の払い戻しのため、課税対象とはなりません。
株式投資と同様に特定口座(源泉徴収あり)を利用すれば、証券会社が源泉徴収を行うため、確定申告が不要となる場合があります。また、NISA(少額投資非課税制度)を利用した場合は、一定の投資額までの利益が非課税です。
フリーランス・個人事業主の事例
ライターのDさんが、事業で得た資金で毎月積み立て型の投資信託を購入しているとします。
この場合、Dさんが支払う購入時手数料や運用管理費用は、事業と直接的な関連性がないため、原則として経費計上はできません。また、投資信託から得られる分配金は、Dさんの個人の所得として課税されます。
その他の投資形態と経費計上
近年では、暗号資産(仮想通貨)投資、ソーシャルレンディング、クラウドファンディング、NFT(非代替性トークン)など、さまざまな新しい投資形態が登場しています。これらの投資に関する費用の経費計上についても、基本的な考え方は変わりません。
暗号資産投資の場合
暗号資産の取引による所得は、原則として雑所得として扱われます。所得金額は、以下の計算式で求められます。
所得金額 = 総収入金額(※1) ― 必要経費(※2)
※1 売却価額、交換時に取得した暗号資産の時価など
※2 購入費用、取引手数料など
ただし、一定の要件を満たす場合には、事業所得として扱われることがあります。例えば、年間の収入金額が300万円超で、暗号資産取引にかかる帳簿書類の保存がある場合などです。
この場合、取引の頻度、期間、労力、人的・物的資源の投入状況、営利性・有償性の有無などを総合的に勘案したうえで、暗号資産取引が事業として認められる必要があります。
また、暗号資産マイニングを事業として行う場合や、暗号資産を事業用資産として保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として使用する場合も、事業所得になる場合があります。
ソーシャルレンディングの場合
ソーシャルレンディングは、個人がインターネットを通じて企業などにお金を貸し付け、利息を得る投資です。
得られた利息は、原則として雑所得になりますが、貸し付けにかかる手数料などは、雑所得の必要経費として差し引けます。
クラウドファンディング投資の場合
金銭的なリターンを目的とした投資型クラウドファンディングの場合でも、その出資金や関連費用は、原則として個人の投資活動とみなされます。
事業所得の必要経費にはならず、得られた利益は雑所得や配当所得などとして課税されます。
NFTなど新しい投資形態の場合
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)の税務上の取り扱いは、その取引や性質によって複雑になる場合があります。個人の場合、主に以下のポイントが重要です。
NFTの取引によって生じた所得は、その状況に応じて以下のいずれかに区分されます。
NFTの取引によって生じた所得の区分
- NFTを売却(転売)して利益を得た場合
⇒ 譲渡所得 - NFTの制作・発行者が譲渡した場合(継続的に行っている場合や事業として行っている場合)や、NFTの取引を反復継続して行い、営利を目的としている場合、役務提供の対価としてNFTを取得した場合など
⇒ 雑所得、事業所得、給与所得 - 偶然性のある一時的な所得(例:懸賞の賞品としてNFTを受け取った場合など)
⇒ 一時所得
なお、NFTの購入手数料、販売手数料、制作費、出品手数料などといった、NFTの取引や制作にかかった費用は所得計算上、「必要経費」として控除できる場合があることも覚えておきましょう。
NFTの税務上の取り扱いはまだ新しい分野であり、今後の法令や解釈の変更によって変わる可能性があります。最新の情報を常に確認するように心がけてください。
個々の取引の状況によって、適用される税法や所得区分が異なる場合がありますので、税務に関する判断に迷う場合は、税務署や税理士への相談を強く推奨します。
そのほか、新しい投資形態については、今後の税制改正によって取り扱いが変わる可能性もあるため、最新の情報を常に確認するようにしましょう。
投資を事業として行う場合の経費計上
原則として個人の資産形成を目的とした投資は必要経費にはなりません。しかし、例外的に「投資」そのものを「事業」として行うと認められる場合には、関連費用を経費計上できる可能性があります。
「投資」を「事業」として行う条件
投資活動が「事業」として認められるためには、一般的に以下の条件を満たす必要があります。
- 自己の計算と危険負担において行われている
他者の指示によるものではなく、自身の判断と責任において投資活動を行っている - 営利性・有償性がある
利益を得ることを目的としており、対価を得てサービスを提供していると認識されている - 反復継続性がある
一時的な活動ではなく、長期間にわたって繰り返し行われている - 業務的規模である
単発的あるいは小規模な投資ではなく、継続的かつ相当程度の規模で行われている。社会通念上、事業として認識される程度の活動が必要
業務的規模と継続性の基準
金融商品等の投資については、「業務的規模」や「継続性」の具体的な基準は明確に定められているわけではありません。
とはいえ、社会通念上の「事業」として認識される程度の活動を行っている必要があります。単に少額の取引を繰り返しているだけでは、事業とは認められない可能性が高いでしょう。
事業として認められた場合の経費計上方法
投資活動が「事業」として認められた場合、その事業を行ううえで直接的に必要となる費用は、事業所得の必要経費として計上できます。
例えば、投資に関する専門的な知識を習得するための書籍購入費、セミナー参加費、情報収集のための通信費、業務に使用するパソコンの購入費などが考えられます。ただし、事業との関連性を明確に説明できなければなりません。
確定申告時の注意点
投資によって収益を得た場合は、原則として確定申告が必要です。
投資収益の申告方法
投資の種類によって、「不動産所得」「事業所得」「譲渡所得」「配当所得」「雑所得」といった所得の区分があり、投資の種類ごとに適切な所得区分で申告を行うことが重要です。
- 不動産投資の賃料収入は?
- 不動産投資による賃料収入は不動産所得。経費を差し引いた所得金額を計算し、収支内訳書を作成して確定申告書と一緒に提出。青色申告の場合は、青色申告決算書の作成も必要。
- 投資が事業として認められる場合は?
- 投資による収入が事業として認められる場合は、事業所得として申告。年間の総収入金額から必要経費を差し引いた所得金額を計算し、収支内訳書を作成して確定申告書と一緒に提出。青色申告の場合は、青色申告決算書の作成も必要。
- 株式や投資信託などの売却で得た利益は?
- 株式や投資信託などの売却によって得た利益は譲渡所得に該当。特定口座(源泉徴収なし)や一般口座で取引を行った場合は、年間取引報告書などを基に譲渡所得の金額を計算し、確定申告書に記載する。
- 株式や投資信託の配当金は?
- 株式や投資信託などの売却によって得た利益は譲渡所得に該当。特定口座(源泉徴収なし)や一般口座で取引を行った場合は、年間取引報告書などを基に譲渡所得の金額を計算し、確定申告書に記載する。
- FX取引や暗号資産取引で得た利益は?
- FX取引や暗号資産取引などで得た利益は、原則として雑所得として申告。必要経費を差し引いた所得金額を計算し、確定申告書に記載する。
まとめ
原則として、個人的な資産形成を目的とした投資費用は、事業所得の必要経費になりません。経費になるかは、投資が本業の事業と密接に関連し、事業所得を得るために直接必要な費用であるかで判断されます。
事業に直接的な収入をもたらす不動産投資であれば、一部経費計上できますが、株やFXといった投資金融商品への投資は、原則として個人の資産形成とみなされ、必要経費として認められるケースは稀です。
また、確定申告では、投資の種類に応じた所得区分で申告を行い、投資によって得た収益も原則として申告が必要です。 投資と税金の関係は複雑で、状況により判断が異なる場合があります。不安な場合は、税務署や税理士に相談してみてください。正しい知識を身につけ、賢く資産を形成していきましょう。
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