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ラジオディレクター・石井玄が独立して見つけた『「自分でやらない」ほうがうまくいく』仕事術とは?

ラジオディレクター・石井玄が独立して見つけた『「自分でやらない」ほうがうまくいく』仕事術とは?

若手の得意を伸ばし、チームで勝つ。独立後の会社設立と「自分でやらない」仕事術

石井玄

独立にあたって、個人事務所ではなく従業員を抱える会社「玄石」を立ち上げられましたが、最初からその構想があったんですか。

全くないです。税理士さんに“株式会社にしますか、合同会社にしますか” と聞かれて、“株式会社って作れるんですか。じゃあかっこいいからそっちで”と(笑)。それだけです。

独立後、思いのほかバンバン仕事が来て。最初は後輩とか、知り合いのディレクターを外注で雇っていたんです。その人たちに仕事の仕方を教えているうちに、“俺、なんで競合相手に教えているんだろう、何の得もないな”と(笑)。

でも自分で雇った人を育てて一人前にすれば、自分は仕事しないで済む。あとこの業界に20代の有望な若手が少ないという問題意識もありました。後天的にチームで仕事した方がクオリティは上がるなって思っていくんですけど、その時点では全く考えてなかったですね。

独立後、仕事を選ぶ基準は変わりましたか。

基本、全受けですね。報酬が見合っていれば。物理的、スケジュール的にできない、金銭的に折り合わない場合以外は受けています。会って喋っちゃうと断れなくなると気づくまで、時間がかかりました(笑)。

独立した立場でお金の話を切り出すのは難しいという声もよく聞きます。石井さんは実際のところ、ギャラの交渉をどうされていますか。

プロデューサーだったので最初にちょっと低めに言ってくるのを知っているんです(笑)。だから“これもうちょっといけますよね”と細かく交渉してたんですけど、そのうち面倒くさくなりました(笑)。ただ、ギャラなしのオファーもあったので、ギャラのない仕事はやらないと決めています。

スタンスが明確ですね。そうした仕事の進め方にも通じるお話として、本書のタイトルでもある「『自分でやらない』ほうがうまくいく」と思えるようになったきっかけを教えてください。優秀であればあるほど“自分でやった方が早い”となりがちかと思いますが。

物理的な限界ですね。ディレクター時代に、オールナイトニッポンを4本、収録の番組を1本、TBSラジオで1本、武道館ライブなどイベントの準備、24時間の特番のラジオを作って、チーフとして全体をまとめるっていうのを同時にやって、“無理じゃん”となって。それで先輩にも“もう無理だからやってください”とキレ気味に振り始めたら、うまくいった!と。それが成功体験で、上の人にも下の人にも仕事を振るストレスがなくなりました。

限界を迎えて“無理だからやってください”と渡したのが成功体験になったのですね。先輩や上司に仕事を任せる上で、コミュニケーションなどで何か気をつけたことはありましたか?

何をやってほしいかを明確にすることですね。“具体的にこれをやってほしいです。あなたが得意だからお願いします”と。

24時間のラジオ(『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』)で、ベテランのディレクターに森脇健児さんがマラソンで走ってくる企画を任せたら、僕の想像以上のものになりました。逆にノープランの中継を別の先輩に丸投げしたら「無の時間」が生まれてしまって(笑)。丸投げしていい人と、ちゃんと詰めて渡さなきゃいけない人がいると分かりました。

自分を客観視できると、相手も客観視できると思います。自分よりスキルや経験の少ない若手をどう活かしますか。

何も得意なものがない人はいないので、いろいろやらせて、失敗させて、得意を見つけていきます。これが得意なんだと、本人も気づいてなかったりするんで。長所を伸ばすのは簡単ですが、短所を直すには5年、10年かかる。だから得意を伸ばしておいて、その間に苦手を修正していくと、任せられる部分が増えていきます。

もう一つは、やりたいことをやらせること。表向きはいい話ですけど、実は「人質」を取っているんですよ。“やりたいって言ったよね?”と(笑)。やりたくないことをやらせるとサボったり逃げたりしますから。

「人質を取る」というのは非常に実践的ですね(笑)。本書では、そうしたチームで働くための独自のメソッドが「7つのルール」としてまとめられていますが、石井さんがその中で特に大事にしているものはどれでしょうか?

タイトルの「『自分でやらない』ほうがうまくいく」もありますが、第4章の「最適解ではなく最上解を目指す」ですかね。エンタメを生業にする限り、コスパを重視したらおしまいだと思っています。

非効率であることが一番効率的だと思うんです。意味がないとされたことも、一回やってみる。そこに活路があるかもしれない。どこかで“もういいかな”としたプロジェクトは、終わった後あまり覚えていないんですよ。

裏方も発信する時代。次なる「やりたいこと」 

石井玄『「自分でやらない」ほうがうまくいく 信頼されている人だけが知っている7つのルール』(PHP研究所)

本書の中でパーソナリティに“愛してくれている”と褒められ“愛してません”と答えたエピソードが印象的でした。とかく「愛がある」ということが免罪符のようになる風潮をどう思いますか。

愛があれば何でもいいのか、となりかねないですよね。僕は“お金をもらっているから”とはっきり言います。好きでやるのには限界があって、それを超えて結果を出そうとする時に生まれるのがプロ意識だと思うんです。プロ意識を「愛」で片付けられちゃうと、ちょっと納得いかない部分がありますね。

その姿勢は、石井さんの発信スタイルにも表れているように感じます。以前のインタビューで“裏方の人間が、SNSなどで目立つ発信をしていくことが大事”だと語られていましたが、特に日本では「裏方は黒子に徹すべし」のような美学があります。この点についてはどのように考えていますか?

僕がSNSで発信を始めた理由は、“一人でもいいから聞いてくれ”という思いからなので、黒子に徹せられる人は逆に羨ましいです。そんなこと言っていられないところにずっといるので。でも、それが必要じゃないコンテンツなんてもうなさそうだなとも思います。チーム総出で仕掛けないと届かない時代ですから、何も発信しない裏方は責任逃れをしているとさえ思います。だって、発信する方が面倒くさいですもん。

本書で書かれているルールは正しいなと思いますが、それを厳密にやると、周りから疎まれる可能性もあるんじゃないかと思いますが。

そうらしいですね(笑)。若い頃は嫌われたくなくて、みんなに合わせて仕事を増やしましたけど、増えすぎてクオリティが下がっていったんです。これはマズいなと思ったから、やんわり嫌われに行った。自分のやり方に変えて、合わない人との仕事が減ったら、ちょうどいい仕事量になったから嫌われるって大事だなって。

全員に嫌われてないということは、誰にも好かれてもないんじゃないかという説があって、数人に嫌われることを恐れて、仲良くなりたい人や一緒に仕事をしたい人から「別に好きでも嫌いでもない」とされるより、そちらに好かれた方がいいと思っています。やり方が嫌なら、僕と仕事をする必要はないんです。

“お前のこと嫌いだ”と言ってくる人はほぼいないんで、嫌われている実感はない(笑)。きっと嫌われてるだろうなって思って生きてますけど、面と向かって言われたのは1回くらいしかない。

1回はあるんですね(笑)。

“ありがとうございます!”って思いました。“こっちも嫌いなんで!”って(笑)。鏡みたいなものなので。

会社を辞めて、世の中にはこんなに無数に会社があるんだと思いました。苦手な環境なら、別の環境に行けばいい。その価値観を日本はもう少し持った方が、みんな楽に仕事ができると思います。

基本、オファーを受けるというスタンスだと思いますが、それ以外で、自分から今やりたいことはありますか。

東京ドームライブを作るのが面白かったので、いろんな人がやった方がいいと思っています。決まってから実現まで1、2年かかるので、先を見据えて、何人かに“東京ドームで何かやったら”とけしかけています。僕が中心ではなく、あの楽しさを一緒に仕事をしてきた人たちに味わってほしいんです。

もう一つは、音声が主役の、もっと広く楽しめるコンテンツで勝負したい。今はコアな人向けのものが多いですが、ポッドキャストがもう少し流行れば、物語なども作れるかもしれない。僕に物語は作れないので、仲間との出会いが大事。そういう人たちのところに行って、打ち合わせに出て帰ってくる、ということを始めています。

本書で「若い人たちに薪をくべて火をつけ、燃やすのが今の自分の仕事」と書かれていますが、最後に、若い世代に伝えたいことを教えてください。

今の子たちこそ、嫌われるのを嫌がるし、かといって面倒くさいこともやりたくない。でも一つでいいから、やりたいことを見つけてほしいし、若いうちは上の人から仕事を振られた方がいいと思います。そうしないとこの国では、最初のうちはできないことが多いので。だから、いろんなことをやって、自分がやりたくてやった方がいいことを探してほしい。それがないと、「自分でやらない」ほうがうまくいくことも見つからないので。

石井玄『「自分でやらない」ほうがうまくいく 信頼されている人だけが知っている7つのルール』(PHP研究所)

撮影/中野賢太(@_kentanakano)