心に浮かんだことを書き留めて、残したい――この気持ちこそが、エッセイストや作家のみならず、名もない人々がつづる「よしなしごと」に至るまで、多くの日本人が日記文学や随筆をこよなく愛する理由なのかもしれません。
会社員を経て、フリーランスライターからエッセイストに転身した中前結花さん。4冊目となる新刊『日々のお星さま。』(文藝春秋)が、2026年9月26日(土)に出版されました。Webメディア『ほぼ日』で連載したエッセイを一部含む、16話で構成された本作は、ご自身の日記に残した日々の余韻、「小さなきらめき」を読み物へと昇華。過去・現在・未来の中前さんがつむいだ言葉には、あたたかな魔法が込められています。
おしゃべりのような、心地よくやわらかな言葉づかい。そこに、著者ならではの視点で気持ちのありかをさぐる眼差しが重なる本作について、くわしくうかがいました。
兵庫県生まれ。東京在住。2017年、Webメディアに掲載されたエッセイが話題となったことを機にさまざまな誌面やサイトで執筆を開始。会社員を経て、現在はエッセイストとして活動。著書に『好きよ、トウモロコシ。』(hayaoki books)、『ミシンは触らないの』(hayaoki books)、『ドロップぽろぽろ』(講談社)。目標は、強くてやさしい文章を書くこと。
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ささやかな日常に隠れた「輝き」を日記から見つけ出す

『日々のお星さま。』の柱となったエッセイは、「ほぼ日5年手帳」がきっかけで始まったそうですね。
私が「ほぼ日5年手帳」を使っていることを知ったほぼ日の方が“5年手帳を題材にエッセイ書いてみたら?”と提案してくださったんです。「日記を書くことで、良いことがある」と伝えることが、連載のコンセプトでした。
自分で言うのもなんですが、私、すごく良いユーザーだと思うんです(笑)。5年手帳が今はこんなにふくらんで、ぱんぱんになってもう閉まらなくなっちゃってます。たっぷりと書いていることを面白がってもらいました。

私にとって日記はごく当たり前の習慣で、中学1年生ぐらいから今の形式でずっと書き続けているんです。日々は、パッとしない、面倒くさいことばかりだと思っていても、書いた日記をつぶさに見てみると、ちっちゃい自分なりの輝いているものや嬉しいことが、本当にささやかだけれど確かに存在しているんですよね。
暮らしのなかをよーく見てみれば、よーく振り返ってみれば、ちょっとでも嬉しかったこととか、誰かに言ってもらった言葉や、“あ、これが実は伏線になってたんだな”と思わせる出来事……自分なりの、輝くものがあることを伝えられるようなエッセイを書きました。
中前さんは、日記にポジティブなことだけを選んで書いているのでしょうか。それとも、ネガティブな気持ちも含めて書き留めていますか?
嬉しいことや良かったことを振り返るように書いていますが、嘘を書いても仕方がないので、ネガティブなこと――こういうことがあって、すごく困って嫌だったとか――も残しています。5年手帳には写真を貼ったり、イラストを描いたりするスペースがあって、そこに真っ黒な紙を貼っている日もありますよ。あまりに嫌で、いっそ忘れたいような日。
5年手帳のいいところは、ひとつのページで、1年前や2年前の日記をあらためて読めることです。忘れたい日だって、時間が経てば全然平気になる。“そんなに悩まなくても、どうでもいいことだよ”と過去の自分に声をかけたくなります。
ネガティブなことを書いた日を振り返ると、くよくよしていたり、ささいなことをつらく思っていたりする過去の自分を“愛しい、可愛い”と思えます。振り返ればとてもちっぽけなこと、でも当時の自分にとってはすごく大きなこと、時が経つのって面白い。これも日記の効用ですね。
“大人になったらそんなの平気だよ”という想いが、この本を通して伝わればいいなと思っています。私が日記に励まされるように、読んでくださった方にも、“大丈夫”と思ってもらえたら。そんな気持ちを、この本では大切にしました。
まるで音楽アルバムのような、余韻と読後感へのこだわり

幅広い世代の人を勇気づける1冊であることは間違いありません。だからこそ、時系列におさめずに、1冊の本として、収録順を大切にしたことがわかります。
読み方は自由ですが、1話目から順番に読んでいただけたら嬉しいです。私にとって、書籍は音楽アルバム、ライブのセットリストなんです。
あったかい読後感のものに続くのは、ちょっと面白いもの。切なく終わる後にはカラッと明るいものとか、そういう盛り上がり、緩急がつくように組みました。今までの本も全て、性別や年代にかかわらず、どんな方が読んでも懐かしさを感じてもらえるものを目指しています。
ユーミン(松任谷由実)みたいな文章を書きたいんです。聴き終わったら、ちょっと切なくて、すごくあたたかい気持ちになる。昔のことを思い出して、余韻が残る。10代が聴いても、過去のことを思い出すんじゃないかな……。そういう音楽を聴いたときのような読後感だといいな、と思っています。
本を読み終えたとき、読者をどこに連れて行くのか、どんな余韻を与えるかを考える構成は、たしかに音楽アルバムに近いですね。「ロマンチックあげるよ」で“夫はロマンチストじゃない”とあるように、中前さんのエッセイにはご家族やご友人が登場しますね。
「ロマンチックあげるよ」を読んだ夫は“2人だけの思い出だったのに”とちょっと不機嫌でした(笑)。
ところが、“よく考えたらこれは名作だから、俺はどんどんシェアしていこうと思う”と、今では周りの方からいただいた感想を全部伝えてくれます。また、書籍のどこに収まるのかを楽しみにしてくれていたようで、“おお、いいところ、いい位置に来てるな”“やっぱこれはメインコンテンツだからな”と本当に喜んでくれています。
一方で、友達や夫、家族のことを書く時は、当人が嫌な気持ちになるようなことは絶対に書かないと決めていて、いつもラブレターを書いているような気持ちでつづっているんです。夫の話は私なりの彼へのラブレターですし、父について書いた「しあわせな家」でも、面と向かっては言えない感謝や愛情を本を通じて伝えています。私にとって書籍は、“好き”という気持ちを伝えるツールになっているのかもしれません。
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