Contents
音楽を続けていく理由

ジャケットにはプロの手を借りているわけで、そういう部分と手作り部分のバランスがいいですね。
しんごさんっていう方が作ってる「ごんし人形」っていうシリーズが前から大好きなんです。しんごさんの作品ってどれを見てもすごく余白があるんですよね。説明臭さが一切なくて、不思議な魅力があって。
自分がいま理想としている、余白がたっぷりあって、受け取り方はみなさんに委ねてるけど、でも本人の色は確かにある、みたいな感じにぴったりくると思って、「ごんし人形はなをジャケットにしたいんです」ってお話をしました。
余白というのはピンときます。変な話ですが、メジャーとの契約が終わったタイミングで「音楽やめようかな」とかは思いませんでしたか?
わたしそれ、契約期間中に思いました。そもそもの話をしますと、わたしが音楽を続けていきたいと思った理由は、自分のことを好きになれるかもしれないって思ったからなんですね。
幼少期に転校がすごく多かったのもあって、当たり障りのないコミュニケーションやその場しのぎのスキルみたいなものがよくも悪くも得意になっちゃって、みんなが思う花ちゃんと家に帰ってひとりになったときの自分に乖離があるみたいな。でも、みんなが思う花ちゃんを押しつけられてるわけでもなく、みずから進んでやってるんですよ。だからずっと楽しいし、友達もずっといっぱいいたし、孤独なことなんてたぶんなかったのに、勝手に孤独を感じてるっていう(笑)。
それがイヤだったんですけど、曲を書き始めて、曲の中でだけは本音が言えるっていうことに気づいて、「これを続けて、聴いてくれる人がひとり、ふたりって増えていったらもっと楽に生きられるかもしれない」と思って。みんなの前にいるときの自分と本当の自分との乖離がなくなれば、自分のことを好きになれるだろうと思って続けてたんです。
それが原初的なモチベーションなんですね。
メジャーに入るとき、1枚めのアルバムはJ-POPをやりきる、2枚めはセルフプロデュースでずっと一緒にやってきたメンバーと作る……とかプランを立ててたんですけど、それもできたし、信頼できる仲間もいるし、なんかもうやりたいことはやりきっちゃったな、って、2枚めの『また会いましたね』ってアルバムを作り終えたころに思ったんです。
それと同じぐらいのタイミングで、人から言われる数字みたいなことによくも悪くも興味がない自分に気づいたんです。人前に出て知ってもらうことが自分を好きになれる近道だと思ってた時期もあったし、そのためにテレビに出るとかいろいろ試したこともあるけど、結局、自分が好きな人やかっこいいと思う人が「花ちゃん、すばらしいよ」って言ってくれれば、わたしは満足だったんだなって。「やりきった。自分のこと好きになれた。我が音楽人生に一片の悔いなし」みたいな感覚になっちゃったんです。
とはいえライブは大好きだから、ツアーに出れば大丈夫だろうって思ったんですけど、やっぱりどっか燃え尽き症候群っぽい感じが拭いきれなくて。ツアーファイナルのMCでも話してると思うんですよ。「やめてもいいなって思ったんですけど……」って。「いまはどんな形でもできるといえばできるから、やるんだとは思います」みたいな。
まぁ「やめた」とわざわざ宣言する必要もありませんしね。
そうそう、要するにそういうことです。わたし、ステージでは嘘がつけないんで(笑)。「この環境でできることはもうないかな」って思ったとき、次にどんな曲を書けばいいかわからなくなったんです。
それでユニバーサルの担当の方に「次、わたしのどんな曲が聴きたいですか?」って聞いたら「応援歌を聴いてみたい」って言ってくださって、「ほう」と。「期待してるよ 頑張れよ そんなことまず言わないだろう」(「もしも僕に」)とか歌ってるわたしに応援歌、なるほどと。
それで何カ月か頑張ってみたんですけど、やっぱり無理だったので、「一旦リセットしよう」と。「一般的には応援歌の部類に入らなくてもいいから、もう何も気にしないでわたしがわたしを鼓舞し続けられる曲を書いてみよう」と思ってできたのが「わるくない」だったんです。それのときに「これは世に出したほうがいいけど、出すんだとしたらここの環境じゃないな」って思った、という流れです。
感情にフタをせず、向き合うことの大切さ

「わるくない」は大事な曲ですね。独立を発表したときに「力になりますよ」「何か一緒にやりましょうよ」と言ってくれた人はたくさんいらしたんじゃないですか?
はい。本当にありがたいし、うれしいです。かつ、それを変にプレッシャーに感じることもなくて。わたしのまわりの人はわたしの気まぐれをたぶんわかってると思うから、仮にやめたとしても「こんなに声かけてくださったのに本当にすいません」とかも思わないだろうし。そう思えたのはひとりになってからなんですよ。結局、責任は自分が取るしかないので、そこはあんまり考えすぎないようにしてます。
わたしは食べていくために音楽をやるんだったらやめたいタイプなんです。やりたいからやってるだけで。この前、インストアライブでも言ったんですけど、正直、手売りでCD売ったほうが実入りはいいんですね。けどわたし、まだCDにロマンめっちゃ見てるんですよ。育った時代のせいもあると思いますけど、CDショップで偶然誰かが自分のCDに目を止めて手に取ってくれるとこを想像とやっぱりうれしいから、流通は定期的にしたい。
そこのバランスが崩れそうになったらやめると思います。誰かに寄りかかりながら活動してる状態は自分にとってすごいストレスで、自分が素直に「かっこいいな」って思える活動のし方をしたいなって。生きるために必死なのを否定する気はまったくないし、むしろかっこいいと思うし、いつか自分がやるときも来ると思うんですけど、音楽というフィールドの中でわたしが見てる美学はたぶんそれとは別にあるんです。
「ステージでは嘘がつけない」とさっきおっしゃいましたものね。
たぶん自分はちょっとでも誰かに後ろめたさを感じながら何かをやった瞬間に、単純にクリエイティビティが下がると思います。求められるものを作んなきゃ、とかになると、らしさを失うし。
アルバムの最後の「会いたくて」っていう曲にも書いてますけど、片手で足りるくらいの「この人たちさえいれば」みたいな人たちに出会えたな、と思えたときに、自分のことを好きになれたんですよね。「このかっこいい人たちがかっこいいって言ってくれてる自分なら、たぶん間違ったことはしてないだろうな」っていう自信はあります。
花さんがかっこいいと思うのはどんな人ですか?
うーん……違和感と向き合う人。ちょっとした違和感を覚えたときや、すごく傷ついたときに「この感情を出すのはひとりよがりだよな」とか「ここは笑顔で乗り切らないといけないんだろうな」ってフタをしてやり過ごしちゃう人は多いと思うんですけど、5年後でも10年後でもいいから、その違和感とちゃんと向き合って、経験を学びに変えられる人ですね。
花さん自身と言ってもいいかもしれませんね、それは。
わたしはたぶんそうです。だから自分のことも好きになれたんですよ。昔はその違和感にフタをして当たり障りなくやっちゃってて、そんな自分が嫌いだったので。
好きな人たちが自分と似ていると気づくと、ちょっと自分を肯定できる気がしませんか? 「あんなにかっこいい人たちに似てるんだったら、わたしもオッケーかもな」みたいな(笑)。
そうですそうです。ほんと、そんな感じです。
花さんはすごい才能をお持ちだと思うので、単純にやめたらもったいないというか、就職しても、結婚しても、出産しても、歌い続けてくれるとうれしいですね。
歌を作ったり歌ったりすることをやめるということは、音楽を嫌いにならない限りないし、嫌いになることはたぶんこの先ないかなって気がしてます。ひとりになるって決めてからのほうが、自分の過去の曲とも向き合えるようになって、全部かっこよかったなと思いますし、インタビューも読み返しましたけど、変わってないなって。最初からいい意味で別にドラマチックな希望は見てなかったし、いまもそうなんですよ。
独立ハイみたいなものを差し引いても、永遠なんてないと思ってるのは、たぶんもう変わらないっていう(笑)。歩いたり走ったり、鉄棒にぶら下がったり空を飛んだり、いろんなときがあったとは思うけど、わたしがわたしであったことは何も変わらないな、と思いました。これからも変わらないんじゃないですかね。
素敵なお話、ありがとうございました。最後に何か言っておきたいことがありましたら。
さっき言おうと思ってたんですけど、独立してから土日の喜びを知りました(笑)。土日ってメール返ってこないじゃないですか。ツアーグッズのデータ送っても工場が動かないから、金曜の夜でも月曜の朝でも同じ、みたいなことに「すごい……」ってなってます。
いままでは、平日はマネージャーさんと常に何かしら連絡とってたし、「週明けまでに返したいんで確認してもらえますか?」みたいな案件が土日にまとめてボンと来て、わたしがどれぐらい早く投げ返すかがその後の進捗に影響する、みたいなことがあって、携帯を手放せなかったんですよ。「もう土日はメールが来ないんだ!」って思うとめちゃくちゃ楽しくて、学校の同級生の子たちといまも仲がいいんで、けっこう毎週会ってます。
しかも土日にライブがあることが多いので、ライブの楽しみも増した気がするんです。「本業キター!」みたいな(笑)。「そうだ、この日のために平日わたしメールしてたんだ!」みたいになるとめっちゃ楽しいし、終わった後のビールもおいしいし、最高です。
「ごほうび仕事」みたいなジャンルってあるじゃないですか。ライターさんだと「作業的には大変だけど、あの人と仕事できるの最高! この日のために俺ライターやってきたんじゃん」みたいな。その感じが毎週あります。

撮影/中野賢太(@_kentanakano)
FREENANCE MAG 
