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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~第18話 フリーランスたそのお仕事日記~静寂の中で生まれたもの〜

こう見えて元タカラジェンヌです~遅れてきた社会人篇~

静寂の中で

差出人は同期のタカラジェンヌだった。

近況報告や普段の他愛もないことなど、なんでもコンスタントに連絡を取り合う仲で、このような状況下になっても、

「先の見えない戦いだけど、必ず舞台の幕は上がると信じて頑張ろうね」

と、互いに支え合える存在だった。

しかし、出演する公演が開催延期になり、やっとの思いで初日を迎えた直後に公演中止になり……何度も何度も迫りくる試練に、何かが折れてしまったのかもしれない。

私には、かけるべき言葉が見つからなかった。

タカラジェンヌたちの人生は、ゴールのないマラソンのようだ。

一つの作品の公演期間が終われば、少々の休憩を挟んだあとすぐに次の作品の稽古が始まる。初舞台というスタートを切り、卒業というゴールを自分で決めるまでの間、ほとんど「立ち止まる瞬間」がない。

終らないマラソンの中で、いつだって「ステージの上から夢を届ける」ために日々努力し続けている。

でも、ある日突然「立ち止まらなければならない瞬間」が現れた。再び走り出していい、と言われるのがいつなのか、誰にも分らない。

立ち止まっている間、誰とも会ってはいけないという過酷なルールを強いられ、すぐにでも走り出したい気持ちを押し殺しながら、ひとりで過ごす。

きっとこの間に、ほぼすべてのタカラジェンヌが、半強制的に己と向き合うことになったのだろう。

来る日も来る日も己と向き合い続けて、様々なことを思いながらも自分自身にエールを送り続けて、「公演再開」という明るい未来を目指して頑張ってきたのに、突然「公演中止」が言い渡されて。

また、己と向き合って……。

私が在団していた時とはまったく違う角度からの試練が、同期をはじめ、緊急事態宣言下のタカラジェンヌたちに襲い掛かったのだと思う。

一体どうしたら良いんだろう……。同期を、ステージで輝く人達を応援する方法はないものか……。

それからは来る日も来る日もそのことを考えて過ごした。

でも、私一人では「どうしたらいいのか」あまりいい答えが見つからなかった。悩んだ末、私はこの疑問をオンラインサロンの方々へ投げかけてみた。すると、オンラインサロンの方々は物凄く親身に一緒に考えてくださった。

「大好きなものに対して自分たちに何ができるのか」

様々な意見が飛び交ったが、すべての意見に共通するのが「タカラヅカへの感謝」だった。

こんな状態だからこそ感謝の想いを伝えたい。みなさんがそう思っていることに、大きな感銘を受けた。自分ひとりで抱えていると思っていたことが、そうじゃなかったと気が付いた。

そして、このサロンの開催意義でもある「観劇」が叶わない現状の中でもできる活動についての意見が出た。

それからは、公演再開の日のために体力づくりをしようと、毎朝ラジオ体操をすることになった。さらに、オンラインサロンのメンバーそれぞれがおススメするステージのDVDや俳優さんを紹介し合ったり、来る観劇の日に向けて作品を予習したり……舞台の再開を信じて自分にできることをするようにした。

そんな日々を過ごしていたある日、サロンの方にSNS上で「#愛してるよ宝塚歌劇団」というハッシュタグがあるということを教えてもらった。

そこには公演の再開を願う、宝塚歌劇団への愛に溢れたメッセージが沢山あった。すべてに目を通しながら、あまりのあたたかさに心が震えた。

「私も、みなさんと想いを共有したい」

エアはいからさんが通る

そう強く感じた時にふと、数日後が、中止になってしまった花組公演『はいからさんが通る』の初日であることに気がづいた。

せっかくなら、想像の中だけでも初日を迎えられないかな……。

「公演中止」は、あまり触れたくない、悲しいできごとでしかなかったのだが、サロンの方々と過ごすうちに、この公演を待ち望んでいる人たちが沢山いるということを伝えるには、この日しかないと思った。

そして、想像で初日を迎える、「#エアはいからさんが通る」の開催を考えた。

私は早速サロンの方々へアイデアを伝えた。すると、再び様々な意見が飛び交い、アイデアが一瞬にして形になっていった。

(こうして形となった「#エアはいからさんが通る」の模様がこちら)

せっかくなので予約ではなく、リアルタイムで投稿することにした。

タカラヅカを愛する方々の一日の始まりはすごく早いので、最初の投稿は朝の7:30にしようと決めた。

すると、オンラインサロンの方々は、私が朝に弱い事を知っている方も多かったので、朝の7時から、サロンを通して起きているかの確認までしてくださることとなった。

そのおかげで、なんとか時間通りに登校(?)することが出来た。

投稿を重ねていくにつれ、思った以上に沢山の方に賛同していただいた。

これだけ多くの方が、タカラヅカを必要としていて、公演再開を待ち望んでいる。

この想いが、現役タカラジェンヌたちへ届くといいなあと思った。

待望の再会

「#エアはいからさんが通る」から約2ヵ月後。

緊急事態宣言は解除された。

そして2020年7月17日、待ちに待った『はいからさんが通る』の初日が迎えられた。

この日の模様は、部分的に「タカラヅカ・スカイ・ステージ」で生中継された。劇団の大いなる愛に感激し、モニターに穴が開くくらいの勢いで観劇した。花組のみなさんは、モニター越しでもわかるくらいキラキラと輝いていた。

悩んだ末に、ステージの上から夢を届けることを選び、その想いがすべてパフォーマンスに表れている。そんな姿を見ながら、やっぱり自分はタカラヅカを観るのが好きだなあと、強く感じた。

これからもずっとタカラヅカを大好きだ、と確信した日でもあった。

そして、これからはさらに、一人ひとりのパフォーマンスに込められたメッセージを深く噛みしめていこうと心に誓ったのだった。

もう一つの再会

私自身の仕事も、止まっていた案件が動き出したりと、少しずつ元の日々を取り戻していった。

そんな再び動き出した案件のひとつに、「群馬での歌唱」があった。

この時はまだ知らなかった……。

この仕事の最中に、人生の伴侶が見つかるということを……。

次回予告
次回、遅れてきた社会人篇
「フリーランスたそのお仕事日記~ラブストーリー(仮)は突然に~」

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