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夫は共同経営者で、子どもはお客様。エッセイスト・下田美咲が『株式会社 夫婦』で描く、令和の新しい家族のかたち

夫は共同経営者で、子どもはお客様。エッセイスト・下田美咲が『株式会社 夫婦』で描く、令和の新しい家族のかたち

高額設定で炎上も? 累計3億円を売り上げたnoteのシビアで泥臭い戦略

エッセイスト・下田美咲

実際、下田さんは複数の著作を出版していると同時に、noteで、億単位の金額を売り上げているセルフプロデュースの達人ですよね。

あくまで私の感覚ですが、書籍に換算すると300万部売れたくらいの収入になるんじゃないかと思います。ただ、noteと書籍とでは、読者にとっての「手に取りづらさ」の理由がまったく違うんです。

noteというプラットフォームに馴染みがなく、少し警戒してしまう層もいますし、シンプルに買い方や決済方法がわからない、クレジットカードがないという人もいます。だからnoteでお金を払ってもらうことって、コンテンツの中身に関係なくハードルがものすごく高いんです。

一方で書籍の場合は、レジに持っていきづらいタイトルやカバーだと、リアル書店での売れ行きが伸び悩んだりしますよね。口コミで広がるためには当然内容も大事ですが、初速はほぼパッケージの力で決まると思っています。

でもnoteの場合は、パッケージが良かろうと内容が良かろうと、それだけじゃ売れないんですよ(笑)。もっと泥臭く売っていく必要があるんです。副業でnoteをやるのが流行っていますけど、マジで本業に時間を使った方がいいって思うくらいシビアな世界ですね。

では、下田さんはどんなきっかけでnoteを書き始めたんですか?

「(飲み会)コールの女王」としてメディアで取り上げてもらっていた時代に、Twitter(当時)で一問一答をよくやっていたんです。そこで“悩み相談の解決力が高い”と結構バズって。直接相談に乗ってほしいという声にお応えして、マンツーマンで1時間お話しする「カウンセリングルーム」というイベントを始めました。

ただ、そこでスキンケアに関する質問がすごく多くて。毎回同じ話をするのは面倒だし、お互いの時間の無駄遣いじゃないですか。それなら、マニュアル的なものを読んでもらったほうが早いなと。そうすればイベントに参加できない人にも共有できるし、空いた時間で別の悩み相談にも乗れますよね。それで執筆した「美肌の非常識」というnoteが爆売れしたんです。

カウンセリングルームが1時間1万円で、スキンケアについて話すとだいたい2時間かかる内容だったので、noteの価格は2万円に設定しました。10人くらい買ってくれたらいいかな、という感覚だったんですが、まさかの数千万円を売り上げたから、“え?”って自分でも驚きましたね。

そもそもnoteが売れると思っていないのに、数字がふくれあがっていったんですね。

マジで“何が起こった?”という感じでした。美容アカウント界隈で、“バカみたいな値段のnoteを売り出した奴がいる”と炎上して。当時は数百円が相場だったところに高額で設定したことで、逆に興味が集まったんですね。

その後、ダイエットや体型管理の相談も多かったので、「管理食」という食べ物や食べ方に関するnoteを書いたら、それも爆売れして。美肌・ダイエット・食事の3つの投稿が売れ続けました。

そのうちに、よく聞かれるセックスのやり方なども取り上げるようになって。“値段はどこまでいけるんだろう?”と試す感覚で、売れる確信や勝算はなくても自分の基準で譲れない金額をつけて、3万円や5万円の作品を出しても、どんどん売れていったのが最初のフェーズでした。

さきほど、noteは泥臭く売っていくものだとおっしゃいましたが、どんなことをやられたんでしょうか?

一つの売れるフェーズって、大体3年で終わるんですよ。そこで二つ目のフェーズとして当たったのが、Instagramの質問箱を経由する売り方でした。質問箱で答えられることってたかが知れていて、noteとは情報量が全然違いますよね。だから、“この悩みの人はこれを読んでね”って紹介すると、すごく売れたんです。

その次のフェーズでは、安心してnoteを買ってもらえるような工夫をしました。本と違って立ち読みができないから、読者としては買って失敗するのが怖いじゃないですか。そこでInstagramのライブ配信を活用して、中身を説明し、その不安を取り除くようにしたんです。

実際、“このノウハウを書籍化しませんか”というオファーもいただいたんですが、「副業でnoteをやろう!誰でも稼げるよ!」とは少しも思ってないので、お断りしました。私がやってきたことはかなりストイックで、片手間でやれることではないし、誰でも実践可能と謳えることはほとんどないので。

なるほど。エッセイストになることをずっと目標にしてきたからこそ、とことん書いたし、読まれるため、売るために120%を注いでいますもんね。その熱意をもってしても、エッセイストとしてデビューするには、担当編集者とのめぐり合いが必要だったんですね。

これまで編集者さんの役割がイマイチよく分からずにいて。一緒に動くことで化学反応が起きたり相乗効果で作品がより良くなるって感覚より、私一人で考えたものより分かりづらくなってしまう危機感の方が強くあって。だけど本屋さんにしか足を運ばない読者と私の文章をマッチングさせるために、どうしても書店の流通に乗せないといけないから組むしかないけど……っていう感じで。編集さんと組むことによって自分一人で作るよりも作品がパワーアップする、っていう実感がなかった。

だから、今回の担当編集さんとの出会いは、恋愛だったら即結婚しているくらいの、自分の結婚のときと同じくらい感動したんです。この本の企画書と編集会議は、タレント時代から誰もプロデュースできなかった私に、“チーム戦ってこういうことなんだ”という驚きを与えてくれました。

一年半アプローチしていた間に、サンクチュアリ出版でリアルイベントや動画プロジェクトをやったりと、いろんな形で社内に出入りしていたので、企画が立ち上がる頃には、広報や営業の方々も私のことを知ってくださって。関わる全員が本気になったタイミングで”本が走り出した”感覚があって、それがチーム戦をさらに熱くしたんだと思います。

相手がやらかしても想定内。私の世界を広げてくれる夫は「共同経営者」

エッセイスト・下田美咲

下田さんは傾聴と言語化をすごく大切にしている印象です。パートナーである「なおくん」はどんな方ですか。夫婦になってギャップはありましたか?

先にお伝えした通り、私は「魔界」みたいな家庭環境の出身なので、人間の行動に関して予想外なことってあんまりないんです。彼が何かやらかしたとしても、だいたい予想の範囲内。“あなたがついてこれないなら、お互いの幸せのためにバラバラの道を歩もう”と告げる準備はいつも出来ています。

でも、そこで毎回“いやいや、いけますね。俺いけますから”と食らいついてきてくれるのはすごいなと。世の中、ガッツがある人間ばかりじゃないことはよくわかっていますし、ちゃんと話し合いができる人間も少数派ですよね。だから、こうも幸せでいることにストイックな私と夫婦としてしっかり成立しているのはすごいことだと思います。

ただ、子どもに関しては私たちがこの世に招待した「お客様」なので、彼には“しっかりもてなしなさいよ”と、ことあるごとに伝えています。

そうか、お子さんたちはおふたりがこの世に招いたお客様ですね……! ご本の第1章での金魚騒動が、よりあざやかになりました。

金魚のエピソードは、私もお気に入りです。あの予想の上を行く感じや独特の図太さは、エッセイストの旦那として“めちゃくちゃ「ばえる」じゃん”って。もちろんそんなことを見込んで結婚したわけではないので、なんかすごい生き物だな、みたいな感覚ですね。

下田さんは赤裸々に日常を描いていますが、なおくんをはじめ、ご家族からストップがかかったことはありますか?

家族が私の本や文章を読むことは禁止しています。身内に読まれることを前提とすると、かなり書きづらいので。夫だけでなく、家族は誰も読まないで欲しいと思っていて、noteの高額な価格設定は「身内ブロック機能」も兼ねてたりします。

ただ、本に関しては親に読まれちゃってますね。母に読まれるのが夫の次に気まずかったんですけど、とくに内容へストップがかかったことはありません。

著作『新型ぶりっ子のススメ 彼に恋させる、計算ずくの恋愛戦略』(2016年 / KADOKAWA)で結婚の経緯が明らかになっていますね。

2冊目の出版がなかなか決まらなくて、本当に苦労していた時期でした。私の恋愛論がネットでバズっていて、内容も状況もそろっているのに、“美人だからうまくいくだけですよ”なんて言われて、企画が流れることが続いていたんです。

当時のなおくんは、「セフレ」で「ホスト」。多くの人が悩まされる、難しい恋愛のキーワードですよね。そのカードを持つ彼と結婚すれば、企画を通せるかもしれない。だから、出版目当てで結婚を決めたところがあります。

もしすぐに離婚したとしても、2冊目の本を出せた実績は残るし、ファンも納得してくれるし、いいことずくめじゃないですか。朝の6時にプロポーズされて、その日の昼にはもう企画書を書いて売り込みを始めました。入籍日を本の発売日に合わせたのも、売り込みの段階で切っていたカードです。

そのセルフプロデュースのノウハウや企画力は、どこで培われたんですか?

こればっかりは、特別になにかを学んだわけではないんですよね。自然と道筋が見えるというか、思いつくというか。バズることも、実はあんまり狙っていません。シンプルにずっとこのままの人間なので、小学校の同窓会に行くと“マジでお前のままじゃねえか”って言われるくらいです。世に出ている「下田美咲」は全部素なんですよ。

磨き続けた天性のセンスをもってしても、いわゆる「2冊目の壁」の突破は難しかったという捉え方もできますね。

うまくいかない状況のなかで、まずは書店の「棚」を取りに行かなければいけないことは理解できたので、企画にいろんな要素を乗せていきました。それでも結果はハウツー本止まり。くやしいけれど、エッセイの出版にはたどりつけなかったんです。

株式会社 夫婦の代表取締役社長は、名刺を模したブックカバーにもある通り、下田さんですが、なおくんは共同経営者ですか? それとも従業員ですか?

まさに共同経営者ですね。私が絶対にやりたくないママ友との交流をはじめ、彼が担ってくれているパートがたくさんあるし、彼の発想が私の世界を広げてくれています。

ファンのみんなはnoteですでに読んでいるんですが、『株式会社 夫婦』には収録しなかった「その先の話」がいくつもあるんですよ。たとえば、収録されている「つまらないデート」にも実は続きがあって。最終的には楽しくなるんですが、あえてそこはカットしました。

え! それはかなり印象が変わりますね。本を面白くするための編集ですか?

はい。サッカーの話にも続きがあって、実は彼、今サッカーのコーチをやっているんですよ。そのチームに息子もノリノリで所属してて。だから、この本を作っているときに当時のことを思い返して、“あのとき頑張って、乗り越えてよかったね”とすごくうれしい気持ちになったんです。

その続編も書籍化してもらいたいなあ。では、最後に下田さんのファンからの反応を教えてください。

ファンのみんなも、今回の書籍化を本当に喜んでくれています。ただ、本を出版する前にX(旧Twitter)で記事を公開したときは、実は少し忍びない気持ちだったんですよ。今まで有料で読んでもらった内容を、無料公開するわけですから。だから、“これは下田美咲を「廃盤」にしないために必要な施策なんだ”と、きちんと文章で説明させてもらいました。

でも、そんな私の心配をよそに、みんな大喜びしてくれて。“本になったら布教しやすい”とか、“みさきちゃんの考えが世の中のスタンダードになる日を待ってるから、私たちが課金したことは気にせず無料でどんどん広めてください”といった温かい反応をくれたんです。

まるで、無名時代からアイドルを支え続けてきた古参ファンのようですね。

本当に(笑)。“この記事もネットに流すべき! バズらせて!”という推薦もバンバン出てきて。自分では忘れていた“あ〜これあったね〜!”という記事のラインアップをリマインドしてもらいました。

これまでずっと1人でやってきたつもりだったけど、noteでの8,000記事という宝の山は、実はファンのみんなと一緒に作ってきたものだったんですよね。これを糧にして、ゆくゆくはシリーズ3部作として『株式会社 親子』、『株式会社 自分』も出版していきたいです。

エッセイスト・下田美咲

撮影/須合知也(@tomoyasugo)