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建築は、人を動かし社会を変える。建築家ユニット・手塚貴晴+手塚由比の初エッセイ集『いのちの建築』インタビュー

膨大な人との出会いを背景に、つながりを育む

私からすると建築家というのも、かなりハードルの高い職業ですが。

手塚貴晴 私の父親が設計者だったんですよ。妻の方も。

手塚由比 私の父も建築家でした。

手塚貴晴 ただね、私って妻がいなかったら建築家として独立してないんですよ。私は割とイージーゴーイングで、留学するときも先生の勧めでスルッと留学して。

帰ってきてから仕事が舞い込んで、独立するかどうするかっていう状況になったとき、この人が「独立するんでしょ」って言ったんです。普通は妻が反対するじゃないですか。

手塚由比 私は父が独立していた建築家だったので、建築って独立してやらないと意味ないだろうくらいに思ってました。

会社勤めをしている建築士でも、いずれは独立したいと考えているイメージはありますね。

手塚貴晴 うん。やっぱり建築って独立しないと作家として発表できないし、会社で働いてると定年もあるじゃないですか。でも、本当は建築家って60歳からが本番だって言う人もいるくらい、すごく息の長い職業なんですよ。

手塚由比 みなさん、最後の最後までやってらっしゃいます。

その理由は何なんでしょう?

手塚貴晴 建築って1人でできないんですよ。建築ってものすごくパーツが多いんですよね。住宅でも5万パーツとか言われていて、大きな建物になると100万パーツとかになる。そんなの1人ではできないんですよね。

ウチの事務所にも30人くらい人がいるし、家や事務所の外にもいろんな協力者がいて、ようやく成り立っていく。それを上手くまとめるためには、ある程度の年齢を重ねることが必要で、膨大な出会いが必要なんです。この本を書くに至った理由も、それを伝えたいからなんですよ。

なるほど!

手塚貴晴 ただ、そういう出会いってコンペとか入札で仕事を取っていると、巡り合えないんです。その点ウチは――。

手塚由比 「やってください」という依頼を受けて、初めてやるんですよ。

手塚貴晴 だから他の建築家とは違うんですよね。ほとんどの日本の建築家というか建築事務所って、基本的に「指名願い」を出してコンペに参加するんです。だけどコンペだとウチって負けるんですよ。そもそもコンペだと自分たちの意図が伝わらないでしょ?

手塚由比 私たちはクライアントの方と話しながら、それを建築として深めていくという手順を踏むので、その対話抜きにボンって出さなきゃいけないコンペだと負けてしまう。理解されないんです。

手塚貴晴 それこそ行政側の人、例えば、ある学校の校長先生から「ぜひお願いしたい」と依頼が来ることもあるんですよ。だけど「公共の建築物だからコンペにせざるをえないので、コンペに出してください」と言われて出すと、書類審査で落とされちゃう。

運よくコンペで取れた場合でも、一番上の責任者と話さないと落ち着かないんで、今やってる世田谷の児童館でも、区長さんとシンポジウムをしていたり。やっぱり対話なしに、私たちは造れないんです。

もちろんデザイナーでもあるから、窓枠がどうとか取っ手がどうとかも気になるんだけど、それ以上に「これは一体誰がどういう意図で使うんだろう?」っていうことを理解するのが僕らには大事なことなんですよね。

そういうかなり変わった建築家なんで、キャパシティに限界があるんです。普通だったら地鎮祭やって竣工式に行くだけでいいのに、例えば、北九州で一泊して、ご飯食べて飲んで騒いで、翌日はホームレスの方と会って話したりとかやってると、1年間があっという間に過ぎちゃう。

ヒマラヤの孤児院とか、行って帰るだけで2週間とかかるんですよ。だから商売としては効率が悪いし、実際そんなに儲かってるわけじゃない。もらっただけ使っちゃいますしね。昔、60万円で買った車を延々58万キロ乗り続けているし、ウチがフェラーリを買うことはない。

だけど、誰よりも人とのつながりを育むことはできたかなと思うんです。で、命ってつながりなんですね。命は1人では成り立たないんだっていうことを、本当に実感してきたんです。

みんなと一緒に生きていくからこそ幸せになれる

お2人が求めているものは、きっと効率とかお金じゃないんでしょうね。

手塚貴晴 いや、お金は欲しいですよ!

手塚由比 食べていくためには必要ですよ(笑)。

手塚貴晴 だけど、いくら名前が売れても、建築家は設計料が高くなったりもしないんですよね。それにウチって不思議なことに……。

手塚由比 比較的お金がない人が依頼してくることが多いんです。希望のまちだってね、13年前に始まったときの予算はゼロでしたから。

手塚貴晴 孤児院もゼロです。

裏を返すと、お金がないにもかかわらず「人のための建築を造りたい」と依頼をしてくるような人たちだから、スケールが大きいんでしょうね。

手塚由比 そうね。社会を変えたい人って、人のためにお金を使う人たちなので。

手塚貴晴 それ、あるかもしれないね。お金があって、人のためにお金を使う人たちに来てほしいんですけどね。ビル・ゲイツとか来てほしい! ただ、面白い人も来ましたよ。カニエ・ウェストさんも来たし。

あのラッパーのカニエ・ウェストですか!?

手塚貴晴 そう。いろいろ話しているうちに、やっぱり違うかなということになって、実現はしませんでしたけど。彼もパフォーマンスは奇行じみているけれど、すごく夢があって、社会を変えようとしている人ですよ。そういう人たちと出会えるってすごいですよね。

手塚由比 この前も『いのちの建築』の刊行記念シンポジウムをやって、奥田先生とか加藤園長先生とかに話してもらったんですけど、来てくださっていた建築家の方に「みんな熱量が同じだね」って言われて(笑)。確かに、割と似たもの同士的なところがありますね。

だから子どもに関わる建築の依頼が多いのかもしれませんね。子ども関係の仕事をされている方って、命や未来に対する思いの強い人が多いように感じるので。

手塚由比 うん、それもありますよね。教育が変わらないといけないという機運が高まっている今の時代、変えるためのツールとして、やっぱり建築ってすごく大事なんですよね。そこで私たちに希望を託してお願いしてくださる方が大勢いるという感じです。

手塚貴晴 世の中の教育って、みんなヒエラルキーを作るように教えてるじゃないですか。できるだけ早く算数をわかるようになった子が、英語が喋れるようになった子が優秀だって具合に。だけど人間って、本来1つの尺度で測れるものじゃないんですよね。

例えば料理を作る天才もいれば、木を削るのが上手な子どももいて、もしかしたら人を慰めるのが得意な子もいるかもしれない。なのにランキングすることばかりしているから、そういった人間の多様性を忘れちゃってるんですよね。

その根本的な原因のひとつは、学校がknowledge(=知識)を教える場所になってしまっていること。もともと学校はwisdom(=知恵)を教えて、お互いシェアすることを学ぶ場所であったはずなんですよ。

これはジャムセイ・ガッツァのゲンナさんって人から教わったんだけど、LOVE&COMPASSION(愛と思いやり)が基本であるべきだと。要はシェアして、お互いに与え合えば、もっと豊かになるってことですね。

人に序列をつけることをせず、在るがままに認める、受け入れるという姿勢は、本書にも書かれていた始まりも終わりもない“円相”の概念にも通じますよね。

手塚貴晴 そういう意味で私の根本にあるのは、兄が障害を持っていたということかもしれません。こころみ学園っていうところに通っているんですけど、そこで入所者が造っているワインが日本一になって沖縄サミットで出されたり、JALのファーストクラスのワインになったりしてるんです。

人間、そうやってお互いが役に立っているはずなんですよね。こころみ学園の先生が、私の母親に「この子たちは他の子にできない親孝行をします」と素晴らしいことを言っていて、いわゆる知的障害を持っている子というのは親元を離れないんですよ。いつも親に愛情を与えるし、兄弟に対してもいろんなことを教えてくれる。兄のおかげで自分も生きられているんです。

私は苔寺として知られる西芳寺の研究もしているんですが、苔は共生で出来上がっているんです。こっちの斜面とあっちの斜面で生えている苔が全然違っていて、でも、全部に意味があるんですね。人間社会も同じなので、それに気がつかないでいると、たぶん、滅んじゃうんですよ。

人が手を加えたりせず、在るがままを受け入れることによって、全てが共生し、つながって、また在るべき場所に収まっていくという西芳寺の苔の話は、本書の中でも特に感銘を受けたエピソードでした。

手塚貴晴 ただ、人間は苔と違って森では生きていけない。そこをつなぐものが建築なんですよ。建築という殻というか、何か一つの機会を得ることによって、人間というのは自然と一緒に生きることができる。

この本を書いたのも、皆さんの命というのは、さまざまな人や生き物と一緒に生きているということを感じてほしかったから。「どうすれば人間は仲良くなれるのか?」という根本的なメッセージを伝えたかったからなんです。なので、建築を学んでいる、学ぼうとしてる人たちに限らず、ぜひ読んでみてください。そうすれば、たぶん生きている意味が見つかると思います。

手塚由比 私たちは建築をやりながら、人は1人では幸せになれない、みんなと一緒に生きていくからこそ幸せになれるということを、本当に実感してきたんです。その機会を与えてくださったクライアントの方々にも、感謝の気持ちを伝えたいですね。


撮影/中野賢太@_kentanakano