FREENANCE MAG

フリーランスを応援するメディア「フリーナンスマグ」

東京・原宿の新スポット「ハラカド」のコミュニティマネージャー、桜木彩佳が取り組む“場の編集”とは?

東京・原宿の新スポット「ハラカド」のコミュニティマネージャー、桜木彩佳が取り組む“場の編集”とは?

表参道と明治通りが交差する神宮前交差点に4月17日、東急プラザ原宿「ハラカド」がオープンしました。「創造施設」を標榜し(※)、原宿を一望できる屋上テラス、パブリックスペース「ハラッパ」や高円寺の老舗銭湯の2店舗目となる「小杉湯原宿」の出店、雑誌アーカイブライブラリー「COVER」など、個性的なテナントが居並ぶこの施設で、コミュニティマネージャーを務めるのが桜木彩佳さんです。

東急プラザ原宿「ハラカド」4月17日開業 企業・クリエイターと連携し体験型の様々なイベントを展開 ―新しい体験価値を享受できる場所「創造施設」へ―|ニュースリリース|東急不動産

桜木さんは、青山のライブハウス「月見ル君想フ」のブッキングスタッフからスタートし、2016年から3年間限定で開業したイベントパーク「下北沢ケージ」や2020年に開業した「BONUS TRACK」の運営に関わってきました。

桜木さんのSNSのプロフィールには「場の編集」と記されています。その意味するところも、そもそも「コミュニティマネージャー」とはどんなお仕事なのかも、遠目に眺めているだけではわからないところについて、お聞きしました。

取材後、コミュニティマネージャー直々のご案内でハラカドの全フロアを巡るという贅沢な体験をさせていただきましたが、規模も業種もさまざまなテナントがひしめき、若いお客さんがいっぱいの活気あふれる「ヤカタ」でした。

profile
桜木彩佳(サクラギアヤカ)
1986年生まれ。多摩美術大学卒。ライブハウス・月見ル君想フ、株式会社TASKOを経て、株式会社東京ピストル(現・株式会社BAKERU)にて下北沢ケージ現場責任者・HOLSTER管理人を担当。現在はBONUS TRACKにて企画ディレクター、ハラカドにてコミュニティマネージャーを務める。バンド・1980YEN(イチキュッパ)ではダンスと歌唱を担当。趣味はコラージュ作成。
https://twitter.com/ayaka__sakuragi
https://linktr.ee/ayaka_sakuragi

コミュニティマネージャーとは?

桜木彩佳

ハラカドに関わりはじめたきっかけから教えていただけますか?

下北沢のBONUS TRACKという商業施設にも関わってるんですけど、去年の夏ごろに運営会社の社員から業務委託に切り替えてもらって、他の仕事もできないかな、と思ってたんです。そしたら年末ごろに、日本仕事百貨っていう求人サイトで「ハラカドのコミュニティマネージャー募集」を見かけました。こういう「ヤカタ」にコミュニティマネージャーを置こうとしてる人たちがいるんだ、と印象に残って、自分が何をできるか脳内でシミュレーションを重ねて、〆切間近に応募してみたんです。

その「コミュニティマネージャー」というのが具体的にどんなお仕事なのか、想像がつきにくいんですが……。

わたしのなかでもいまっぽすぎて実態がつかめない印象がありました。わたしがお客さんとかテナントさんの立場で「コミュニティマネージャーです」って言われたら身構えるなと思ったので、自分からはずっと名乗らないようにしてたんです(笑)。場所の運営に関わってはきたので、「BONUS TRACKの人です」みたいに場所の名前で「いろいろやってます」的な言い方をしてきたんですけど、結局何をする人なんだろう、みたいなことは、フリーランスになる上でもうちょっと言語化できないといけないな、と思ってたんですね。

「コミュニティ」という言葉が、ずっと自分のなかで腑に落ちていなかったんです。15年前は使われてなかったと思うし。いまはSNSで「桜木彩佳@コミュニティマネージャー」みたいに肩書きとして使っている方もいっぱいいますけど、実際にやってることはいろいろで、わりと名前が汎用的なんですよ。自分がそれなのかはまだわからないな、って思っていたところだったので、「ハラカドのコミュニティマネージャー募集」と言い切ってる求人を見て、なるほどと思うところがありました。

桜木彩佳

「コミュニティ」がしっくりくる書き方だったんですね。

東急不動産さんは《新しい体験価値を享受できる場所として、「商業施設」ではなく「創造施設」を目指します》という言い方をされてるんです。かつて原宿セントラルアパートがあって、クリエイターが出入りしていろんなカルチャーを生み出していたという、この場所の歴史を踏まえているんですね。お客さまの消費とテナント間の競争に特化した既存の商業施設と一線を画するには、フロアを横断してテナントさん同士をつなぎ、コミュニティ化していかないと……という思いのもと、誰かがそれをマネジメントする必要があったんだと理解しています。

ということは、業務委託元は東急不動産なんですか?

東急不動産と管理会社の東急不動産SCマネジメント、あとコミュニティマネジメントを社業にしているファイアープレイスっていう会社を合わせた三つが運営主体で、わたしはファイアープレイスの業務委託メンバーなんです。

ハラカドをひとつの「コミュニティ」にしていく役割を担うのがファイアープレイスなんですね。

同じ立場の者がもうふたりいて、3人で現場を回ってコミュニケーションを取ってるんですけど、それも自分にとって初めてのことなんです。これまではヤカタにコミュニティマネージャー的な人がひとりっていう規模感の仕事ばっかりでしたけど、こんな縦に長い建物を担当するのも初めてですし、チームで取り組むのも初めてなので、ワクワクしています。

桜木彩佳

自分の役割を言語化する

ハラッパ(ハラカド)
東急プラザ原宿「ハラカド」4階のパブリックスペース「ハラッパ

それぞれ担当が決まっていたりするんでしょうか?

キャラクターもキャリアも三者三様なんですよ。わたしはカルチャーっぽい人とかクリエイターみたいな人と何かするのがたぶんハマりやすいし、他のふたりは経営者向けのコーチングをやっていた人と、「渋谷の観光大使になりたい」と言うぐらいの渋谷大好きっ子で、広告業界に知り合いが多い人と。3人の特性を生かせるような分担のしかたと、あとご覧の通りフロアが分かれてるので、全体に目と足が届くようにするにはどうすればいいか、いま話してるところです。

こういう商業施設にコミュニティマネージャーみたいなものを置くこと自体に先行事例がないので、具体的に何をすれば効果的なのかということも、特に今年1年はやりながら模索していくことになりそうです。

まだ開業1カ月ですものね。出勤日はどう過ごされていますか?

出勤したら荷物を置いて、各フロアを回りながらテナントの皆さんと挨拶をして「何か困ってることはないですか?」とか「何かやりたいことはありますか?」とヒアリングしていくんですけど、実はテナントさん同士でコラボしたり、一緒にノベルティを作ったりという動きはもう生まれていて、そういう種をできるだけキャッチして育てていくのがわたしたちの任務ですね。

開業前にはテナントインタビューと称して、75店舗入っているテナントさんと30分ずつZoomミーティングを組んで、「なぜ出店することにしたんですか?」とか「ハラカドにどんなことを期待してますか?」とか「関わってみたいテナントさんはありますか?」とか「ハラカドの中でこういうこと起きたらいいな、こういう景色が見れたらいいな、みたいなビジョンがあれば教えてください」みたいに聞いて回ってたんですけど、そのとき具体的なテナント名をあげる方もいたので、両思いのテナントさんをおつなぎしたり。

桜木彩佳

「関心がある領域が近そうだな」とか「企業ミッションの相性がよさそうだな」みたいなことを見つけたら「何階にこういうテナントさんがあって、こういうことをおっしゃってるんです。御社と近くないですか?」とか「開業したら一緒に飲みましょう」みたいな話をするところから始まって、向かいのオモカドという商業施設の中で、テナントさん同士の交流会を企画したり。

以前の東急プラザ表参道原宿が、ハラカドの開業とともに “東急プラザ表参道「オモカド」” に改称したんですよね。

はい。交流会には、ハラカド開業直前の忙しいタイミングにもかかわらず、100人くらい集まっていただきました。いまは開業して間もないのでまだお店のことでいっぱいいっぱいの方も多いと思うんですけど、例えばテナント横断的な交流会とか勉強会とか部活みたいなものとか、この中でいろんなことを共有し合っていくことで、結果的にヤカタ全体のお客さまが増えて、みんながやりたいことを表現できるようになるのを目標として、そのための種まきや声をかけ合いやすいムード作りをするのがわたしたちコミュニティマネージャーの役割なんじゃないか、と。現状はそういう理解でいます。

すばらしいご説明で、さすがお話が上手ですね。知らない人同士のコミュニケーションを促したりするのはお得意そうな気がします。

ありがとうございます(笑)。酒席で「気が合うと思います」とかイベントで「ご紹介します」とか、これまでも自然にやっていたことですけど、ハラカドではそれがメインの仕事みたいなところがありますね。そうなるとそのパフォーマンスを上げなくちゃいけないので、これまでやってこなかった役割の言語化をいまやろうとしてるんです。

例えば「隣人」と名付けているカテゴリーがあるんですけど、それはテナントさんのことなんですね。ヤカタにとっての隣人という。その先に「パートナー」と呼んでいる枠組みがあって、それは隣人の取引先や会員さんのことを指すことにしています。ヤカタの中で出会う方々を「隣人が何人、パートナーが何人」といった形で整理しようとしてます。

桜木彩佳

あと、例えば「○○さんが××さんと一緒に手ぬぐい作れたらいいなって言ってた」みたいなことを「妄想」と呼んでて、アイデアが具現化してリリースや進行が決まった時点で「企画」に変わるんです。いっぱいある妄想のうちの何個かが企画化するわけだから、妄想の種が生まれやすいようにしよう、みたいに話したりとか。こうして説明するとイヤな感じがするかもしれませんけど(笑)。

そんなことはありませんが、ビジネスのシーンに「妄想」という言葉が入ってくるのが面白いですね。

そうなんです。東急さんと「これは妄想、これは企画と定義づけましょう」といった風に以前から話していて、ある意味、KPIの設定みたいにそういった言葉たちが普通に会話に出てきてるのが面白いし、自分がこれまでなんとなくやってきたことをそうして定義化することで、こういう仕事がこの世にあってもいい、みたいなことの1事例になれたらいいなという気持ちもあって。

最初に「想像しづらい」と言いましたが、それはこれまでなかった新しいものだから、とも言えますよね。新しいものを作っていく仕事と思うと、とても楽しそうです。

自分でもちゃんと言語化しきれてないんですけど、わたしみたいな役割がいる場所といない場所では絶対に何かが違うと思ってるんですね。じゃあどう違うのか、いたらどんないいことが起きるのかを、わたしがもっと自分自身で体現できたり説明できたりするようになると、そういう場所が増えて、世の中がもっと豊かになったらいいな……みたいなことを、抽象的には思ってます。そしたら後に続く人も出てくるかもしれないし。

フリーナンスはフリーランス・個人事業主を支えるお金と保険のサービスです