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未来は変えられる。心に届く作品を創る ― 道草晴子『よりみち日記2』インタビュー

道草晴子

“きっとできるよ”って言いたい

具体的に、何が違います?

一番重要なのは“心”があるかどうかですね。例えば、映画や音楽、空間、食べ物屋さんでも、経済優先でお客さんのことを無視してるものには近づかない。逆に『よりみち日記2』にも出てくるカフェのJ-COOKみたいに、心を込めた仕事をしているお店は大好きなんです。

愛とか心とかハートって数字で測れるものじゃないので、そんなに大事にしていない人も多いけれど、会社勤めのストレスで心が硬直してしまったとき、私を癒してくれたのも心のこもったアートや作品だった。なので、人と仲良くなるときも心をかなり重要視していますし、一度友達になったら畑仕事に何年もかけるように信頼できる関係性を育んでいくので、何でも正直に話すんですよ。人に対する観察癖もあるから、そこで自分が感じたことはハッキリ言う。そのおかげで信頼を得られることもあるし、ただ、逆に衝突することもあるっていうのは……悩みどころですね。

ハッキリ言いすぎて、相手を傷つけてしまうということでしょうか?

そうですね。人それぞれに人生の物語ってあるじゃないですか。私も自分の物語に現れた人の一言が、悪い意味で心に残ってしまった経験もあるので、相手の物語を壊さないように気を付けてはいるんです。特にフリーランスで仕事をしている以上は、人と協調することが大事なので、時には空気を読むとか忖度することも必要になりますし、とはいえ意図的に人に好かれようとすると、あまり好かれないですよね。

過剰に気を遣うとストレスにもなるし、やっぱり正直であることは大切だと思うんです。特に私は“相手の人生が良くなってほしい”という想いが常にあるから、どうしても耳が痛いことだったり、相手の意に沿わぬことを言ってしまったりしがちなんですよ。その場しのぎで“きっと大丈夫だよ”って言っても状況が良くなるわけでもないし、“みんな上手くいってないから大丈夫”って愚痴り合って傷を舐め合っても、何も変わらないじゃないですか。ただ、別に状況を変えなくてもいい、単に愚痴りたかっただけ……って人もいるので、どこまで言うべきかバランスが難しいところですね。

“真実が正解ではない”ってやつですね。

そう。だから悩み相談をされることも多い反面、バシッ!と言って嫌われることもあります。ただ、私は思いやりを持って厳しいことも言ってくれる方が良い友達だと思うし、例えば、誰かに言われた一言がトラウマになって“あの人のせいで”って恨んだりする人がいますけど、別に聞かなきゃいいんですよ。傷つく可能性のある言葉だったとして、それをどう受け止めるかはその人次第だし、“家庭環境が悪かった”とか“イジメに遭ったせいで人生メチャメチャになった”とかも、こだわったところで何の得もない。だから過去の問題に執着せずに、ここからどう未来を生きていくか?を考えるべきだと思うんです。

例えば今のコロナ渦も変えようのない現実でわたしも暗い気持ちになってしまうこともあるんです。けど嘆いてばかりいても何も変わらないし、今の状況の中でいろいろな人の話を聞いたり自分の頭を使って、ここからどうしていくかを考えるしかないんですよ。暗いニュースが立て続くと引っ張られて暗い未来しか想像できなくなるけど、どんなに過去が悪くても自分には明るい未来があるんだって思い描いてほしいんですよね。

私も入院したことで“自分の未来は暗い”って決めつけていたし、マンガを描こうとしたときも“そんなことできるわけない”って、ホント周りには笑われましたよ。そう言われても私は耳を貸さなかったし、実際こうしてマンガ家になれたから“きっとできるよ”って言いたい。生きづらさを感じていたり、辛い経験をしてる人に勇気を与えたいんです。

社会や文化にあるべき“揺らぎ”

まさに道草さん自体が、辛い過去を明るい未来に変えるロールモデルになりつつありますよね。しかし、そうやって自分が悪役になってまで“相手の未来のために”と利他的になれるのって、いったい何故なんでしょう?

社会を見ていると、比較的上手くいっているのは利他的な人で、自分の利益ばかりを追求して他人を尊重しない人は、目先は良くても結局は淘汰されていくよう気がするんですよ。自分の利益だけを追い求めることは結局自分の首を絞めてしまう。なので相手のためになる行動っていうのは、私自身が淘汰されないためのものでもあって、お互い利益があるようにしていきたいんですね。例えば、お店で注文せずに長居するのは相手の利益を損ねるので、時間が経ったら追加注文するとか。常に相手に利益が出るように振る舞うっていうのは、孤立しないための重要な要素でもあると思うので、周りに無関心な人とか新しいものを取り入れない人は苦手なんです。

なるほど。やはり、とことん能動的。

とにかく現実をしっかり見据えて、自分の力で能動的に動きたいんですよね。だから受動的な要素が強いテレビは観ないし、“いつか高学歴高収入の王子様がやってくる!”みたいな志向の女性もホントによくわかんない。そういう受け身で夢見がちな幻想だけ見せて、現実に置き去りにすることのほうが残酷じゃないですか。何の疑いも持たず既存のシステムに依存する生き方も怖いし、今の社会って強者の原理で作られているから、私は弱者の経験を踏まえた上で、そういった社会構造の問題点を指摘していきたいんです。

というのも私自身、入院したりしたけれど、社会に出てみたら、逆に“社会が狂ってるんじゃないか?”と思ったんですよ。自分さえよければどうでもいいみたいな風潮があって……それって異常じゃないの?って。

今、日本の社会を支配している強者って、そのほとんどが生まれたときからレールを外れたことのない、いわば弱者の気持ちがわからない人だからでしょうね。

そうなんです。例えば、来年から導入されるというインボイス制度にしても、ただでさえコロナ禍で困窮している飲食店とっては大きな問題で。そのせいで“これは良い仕事をしているなぁ”と感じるお店だったり、心を込めた職人の仕事というものが全部失われてしまうんじゃないか?って、すごく不安なんです。

私自身いろんなお店や人との関わりの中で作品を描いていて、飲食業をやっている友人もすごく多いんですね。マンガ家として一人で作業していても、そういう場所に行くことで力を貰っているから、なくならないでほしい。ただでさえコロナ禍で人との関わりが減っているなか、人と関われる場だったり居場所が失われるというのは大きな問題ですし、経済や合理性ばかりが優先されて社会や文化に“揺らぎ”がなくなっていくのが怖いんですよ。

揺らぎとは?

それぞれの人や物の内側から滲み出る独自のカラーだったり、情緒だったり、それが集まることで生まれる多様性だったり。完璧なレールに乗って安定していたら絶対に得られないもの、ですね。

今の私の状況だって上手くいってるのかどうかわからないですけど、そんな現実の不安定さとか揺らぎを実は大切にしているんです。だから、インボイス制度についても自分の意見を持っていたいし、フリーランスにとっても無関係の制度ではないので、ちゃんと関心を持って幅広い人の意見を聞いてほしいですね。そもそもフリーランスとしてやっていく以上、経済の仕組みとは無関係じゃないので、そういったことを学ぶのは必要だと思うんです。

確かに。今日は力強い言葉をたくさん頂けて、こちらも大変励みになりました。

私は学歴のように社会から保証されたものを持っていないですし、学校に行ってないとか入院していたということで、正直、自分を信じられないところもあるんですよ。ただ、そんな中でもコミュニケーションを通じての信頼関係を私は仕事に繋げてきたし、これからの時代は学歴やシステムよりも、そっちのほうが大事になるような気もするんですね。

何より私は伝えたい目的があるので、それを伝えていきたいし、自分の弱さをもって人が本来持つ強さを引き出していけたらなと。そのために現実を見据えて、自分の外側にある物事の“本質”を、しっかりと見つめていきたいと思います。