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本物の光
とんでもねえ開会宣言から始まった「ひろくんとお友達になろうの会」。
会場がとんでもねえ空気になっていることに一切気づかず、ひろくんは喜々としてタカラヅカの素晴らしさと娘役の素晴らしさについてアツく語っていた。
ひろくん「僕は、舞台の一番奥の端っこにいてもキラキラと輝いて夢を届ける娘役さんを心から尊敬しています☆彡」
演者からしたらとても嬉しい言葉……なのだが、私は対象外(笑)なので、なんとか私も尊敬される対象に入れないかどうかジャブを打ってみた。
天真「それは、男役も同じなのでは?」
するとひろくんは、再び曇りなき眼で言い放った。
ひろくん「男役さんは僕なんかが応援しなくても、応援してくださる方が沢山いらっしゃいますから☆彡」
……この、たった一回のラリーで、
「この人は、揺るがない」
そう、細胞レベルで感じ取った。
本来ならこの後「そんなことはありませんよ」とかなにかしら会話を続けることも考えられたが……
天真「ほう」
私は、たった二文字で返事した。
なんというか、言い返したところで面倒なことになるのが目に見えていたからだ。
その後もアツく語るひろくん。そんなに喋ってる人の顔見る必要ある?ってくらいに相手の目を見ている。眼圧が相手の瞳の向こう側まで到達している気がする。
そんなひろくんのアツさとは裏腹に、終始安らかな空気に包まれている会場。
ヤバイ。この場の空気をなんとかせねば……!焦った私は話題を変えた。
天真「最近、事故物件のサイトにハマってて……」
……あの時の私に伝えたい。
話題を変えようと思ったのはわかる。わかるよ。けど、事故物件て。膨らむ気が全くしない話のタネを蒔いてしまった自分を恥じた。
ヤバイ。もっと明るい話題を……。
そう思った瞬間、ひろくんが高らかに笑った。
ひろくん「日本は歴史上合戦を繰り返してきているのだから、生きとし生けるすべての土地が事故物件だよ☆彡 ほらここも☆彡」
そう、自分が今いる足元を指差しながら爆笑していた。
あまりにも、あまりにも光属性すぎる。笑いのツボが未知数すぎる。再び安らかな空気に包まれる会場の中で、私はひとり
「陽キャって……こういうタイプもいるんだ」
と、なぜか深く感心した。
そんなこんなで「ひろくんとお友達になろうの会」は終演し、その後二度と開催されることはなかった。
その日の帰り道。
ゆめ様は歩きながら「今日はなんか……ごめんね」と言った。
友達になるのは保留でいいよと言いたそうな口ぶりだった。
でも。
「ひろくんと友達になりたい」
私は、そうゆめに告げた。
お友達とは
そんなこんなで私はひろくんとお友達になった。
理由はただ一つ、「おもしれー男」だったからである。
ただ、お友達になってからというものの、今回群馬で再会するまでお友達らしいイベントは一切なかった。
ひろくんは2005年の私の初舞台公演『NEVER SAY GOODBYE』 から、2018年の退団公演である『MESSIAH/BEAUTIFUL GARDEN』まで、バウホールなどの小劇場公演も含めほぼすべての公演を観劇していた。
……にも関わらず、私のことは一切見ていなかった。清々しいほど、自分のポリシーに忠実な人物だった。
なので私も「どうせ男役はアウトオブ眼中なんだから、私もひろくんのことは見なくていっか」と、本当に一度も客席に座っているひろくんを見たことがなかった。
ただ、13年間の在団中に出演した作品の中で、唯一、本当に唯一ひろくんのお眼鏡に叶った役がある。
それが……『オーシャンズ11』の「ブルーザ―」だ。
地毛をツーブロックにし、髪を重力に反してツンツンに立てた「モヒカン」で挑んだ役。
確かに、ブルーザーの時はお巡りさんにも職務質問されたし(書籍『こう見えて元タカラジェンヌです』参照)、男性の目に留まりやすかったのかもしれない。
……そんなこんなで、私は宝塚歌劇団を卒業。
その後、私は地元の関東に戻ったので、関西在住のひろくんとはあまり会えず、どちらかというと、ひろくんのお父様である先生の方と定期的にお会いしていた。
その間、ひろくんのことなど脳裏にひとかすりもせず、過ぎ行く時の中で自然と風化していった――。
ラブストーリー(仮)は突然に
というわけで、自分の記憶の中でだいぶセピア色の存在になっていたひろくんが、どういうわけか目の前に立っていた。
天真「久しぶり!何してんの」
ひろくん「大学院を卒業して、こちらに戻ってきたんです☆彡」
天真「へえ」
久しぶりの再会に、話が弾むかと思いきや……1.5ターンで終了した。
直後、先生と奥様(ひろくんのお父様とお母様)のもとへ駆けつけ、再会の喜びを分かち合い、まずは久しぶりに食事でもしながらゆっくり話そうと先生の運転する車で目的地へと向かった。
道中、会えなかった期間がとても長かったこともあり、話が弾みに弾んだ。話の流れで、ひろくんのお母さまに「最近どうしてるの?」と聞かれたので、
「脱サラしてフリーランスになり、マイホームを購入したので、これからは家を守るために生きていきます(※詳しくはまたの機会に)」
と今北産業で伝えた。
すると、お母さまが
「それも素敵だけれど……晩年は誰かが隣にいた方がいいんじゃない?」
続けてこう言った。
「そうだ……ウチのひろと結婚したらどう?」
天「……(pardon me?)」
瞬間、車内はお見合い会場と化し、2年ぶりに再会した友人は突如「花婿候補」に。
こうして、私はひろくんと、ある意味運命の再会を果たしたのだった――。
「フリーランスたそのお仕事日記~たそ、結婚するかもよ~」
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