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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~第18話 フリーランスたそのお仕事日記~静寂の中で生まれたもの〜

こう見えて元タカラジェンヌです~遅れてきた社会人篇~

華麗なる宝塚歌劇団で「癖のあるおじさん役」を究めた天真みちる=「たそ」による大人気連載『こう見えて元タカラジェンヌです』に、待望の続編が爆誕!退団後すぐに「サラリーマン」として企業に就職した「たそ」が、タカラジェンヌとして過ごした15年間と一般社会のギャップにおののきつつ、タンバリンと付け髭を手に第二の人生を突き進む!知られざる「宝塚OG」のリアルライフを描く爆笑エッセイ。(提供元:左右社)

どうも。

iPhone14の発売開始直後に13proに機種変した天真です。

特に深い理由などはございません。

それではまいりましょう。

断食道場から帰ってきたら日常が無くなっていた件

2020年初春。

夏のオリンピック開催へ向けて活気づく日々の中、「それ」は突然現れた。

「それ」は瞬く間に世界中に広がり、猛威を振るい、「脅威」となった。

今まで当たり前だと思っていた、「誰かと話す」ことが「命を奪う」行為へつながる。

だから、「自粛」する必要があった。

「誰かと話す」機会を減らすために、「不要不急」の範囲で「誰かと会う」ことが自粛され始めた。

はじめのうちは、「まあ、いうても1ヵ月位我慢すれば元に戻るよね」と、楽観視していた……が、1ヵ月経っても事態は収拾せず、段々と「不要不急」の範囲は広がっていった。

予定していた仕事が次々と延期になっていった。

テレビのラインナップが再放送ばかりになっていった。

仕事終わりに営業している飲食店がなくなっていった。

そして……楽しみにしていた雪組公演『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』の観劇前日、突如公演中止が発表された。

「一体何が起きてるというんだ……?!」

ここに来て初めて「ただごとじゃない」と感じた。

というのも、宝塚歌劇団の公演が止まるなんて……ありえないからだ。

私が宝塚歌劇団に在団中、東日本大震災が発生した。(書籍『こう見えて元タカラジェンヌです』参照)

当時、ライフラインが奪われ苦しむ人々の気持ちを汲み、様々なイベントが「自粛」されていった。

でも、その中で宝塚歌劇団はいち早く公演を再開させ、タカラヅカの観劇を心の支えにして生きている方々へ「公演という希望の光」を届けていた。自分自身も、当時の、並ならぬ想いで公演再開へ挑んだ日々のことは鮮明に覚えている。

だからこそ、タカラヅカが公演を自粛することなどありえないと思っていた。

しかし、公演は止まった。

「不要不急」の範囲は、「公演」と「観劇」のどちらをも飲み込んでしまったのだ。

私は突然、哀しみの淵に突き落とされた。

卒業してからこれまで、全5組の公演をほぼ全て見逃すことのなかったこの私が……のぞ様(※当時の雪組トップスター・望海風斗様)の公演を観れない、だと……?

ありえないんだが!意味わからんのだが!……ありえないんだが!!

どこにもぶつけられない哀しみを胸に、翌日は横浜でのアパレル売り子の仕事へ向かった。

向かう途中で今日の仕事内容についてSNSで呟こうとスマホを操作する……が、

「こちらとしては『仕事』でお店の売り子として店頭に立っている……でも、洋服を買いに来るという行為は『不要不急』なのだろうか……」

そんな問いかけに、スマホを打つ手が止まった。

受け取る側にとって「不要不急だ!」と思われるかもしれない行為を呼びかける事は……私にはできなかった。

そうこうしている間にも、パンデミックの勢いは増していく。世界中で悲しい出来事が相次ぐ。「不要不急」の範囲はどんどん広がって行く。「自粛」は自分の判断で行うものではなく、「要請」されるようになっていった。

そして……新年度を迎えるころ、緊急事態宣言が全国へ向けて発動。

「外に出ること」は、ほぼ不可能になった。

不要不急、とは

2020年4月はじめ。

自宅から一歩も出ない生活が始まった。

この生活は自分自身にとっては……ぶっちゃけ、悪くはなかった。

一身上の都合とかじゃなく、合法的に毎日休めるなんて。

今日も明日も明後日も、朝から晩まで覚者としてポーンと共にゴブリンぶっ倒し続けて良いなんて。

突然の長期休暇を棚ぼたで貰えたような気がした私は、この状況に速攻で馴染み、速攻で休みを謳歌していた。

しかし、1ヵ月を過ぎたころ……2019年の夏に感じた不安(16話参照)とはまた別の不安が私を包み込んでいった。

……正直、ここまで「先の見通せない戦い」になるとは思ってもみなかった。

請け負っていた案件はほぼすべて「無期限延期」になった。

事実上の無職……になりかけていた私だったが、『こう見えて元タカラジェンヌです』の連載だけが緊急事態宣言下でも奇跡的に続いていた。

ライフラインとなった存在に深く感謝しつつ、その割には〆切前日にほぼ一夜漬けで書いて送り、次の日泥のように眠るというデンジャラスな日々を繰り返していた。

そんなデンジャラスな日々の中で、「開店休業の危機」を迫られた、MOSTオブデンジャラスな案件があった。

それが……「観劇ライフを楽しむオンラインサロン」だった。

自身のライフワークでもある「舞台観劇」を、同じ志を持つ方々と「一緒に」楽しむ。そんな趣旨の元、2020年1月にオンラインサロンをオープンした。

……のにもかかわらず、わずか3ヵ月足らずで、サロンを運営していくうえで大前提である、「舞台公演」自体が無くなった。

……こんなこと、一体誰が想像できただろう。

「舞台公演」が中止になる直前、さまざまな意見がネット上で飛び交った。

(私も含め)観劇が生きて行くうえで必要不可欠と考える人もいるが、そうじゃない人もいる事を改めて思い知る。

勿論、自分自身にとって観劇は生きて行くうえで必要不可欠だと考えているけど、そのせいで混乱を招きたいわけじゃない。

家の中でただ一人悶々とそんなことを考えていると……スマホが光り、1通のメッセージを受信した。

「もう、どう頑張っていったら良いのかわからない」

液晶にはそう、映し出されていた――。

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