「源泉徴収」とは、支払者が所得税を徴収して納付する制度です。個人事業主やフリーランスとして初めて報酬を受け取る際、請求書に源泉徴収税額を記載する必要があるのか、迷った経験のある方は少なくないでしょう。また、フリーランス側から税理士へ報酬などを支払う際、源泉徴収税額を差し引いて支払うよう指示を受け、戸惑った方もいるかもしれません。そこで本記事では、フリーランスが知っておくべき源泉徴収の基礎知識と、知っていると便利な「源泉所得税の納付の特例」について詳しく解説していきます。
Contents
源泉徴収とは?
源泉徴収の概要
所得税は、収入を稼いだ所得者自身が、その年の所得金額(儲け)と、これに対する税額を計算し、自主的に申告して納付する、いわゆる「申告納税制度」が建前とされています。
ただし、特定の所得については、その所得の支払い・受け取りの際に「支払者が所得税を徴収して納付する源泉徴収制度」が採用されています。
なお、2013年(平成25年)1月1日から2037年(令和19年)12月31日までの間に生じる所得のうち、所得税の源泉徴収が必要となる所得については、所得税に加えて復興特別所得税を併せて徴収して納付する源泉徴収制度が採用されています。
※参照:No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収|国税庁
※参照:4. 申告納税制度|国税庁
源泉徴収義務者とは?
源泉徴収を行う支払者を「源泉徴収義務者」と言い、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税を徴収して国に納付する義務があります。
源泉徴収の対象とされている所得の支払者は、それが企業や協同組合である場合はもちろんのこと、学校、官公庁、また、個人や人格のない社団・財団の場合など、すべての者が源泉徴収義務者となります。
ただし、常時2人以下の家事使用人にのみ給与等の支払いをする個人や、給与や退職金の支払いがない個人の場合は、源泉徴収義務者に該当しません。この詳細については後述します。
どのような場合に源泉徴収が行われるのか
報酬・料金等の支払いを受ける者が個人の場合は源泉徴収が必要、法人の場合は源泉徴収は不要です。
法人から仕事を請けているフリーランスの方であれば、概ね源泉徴収されることとなるでしょう。源泉徴収が必要となる主な報酬や料金等は以下の通りです。
源泉徴収の対象となる範囲
- 原稿料や講演料など(※)
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
※ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています。
参照:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
源泉所得税の計算方法
報酬料金を支払う際に、源泉所得税を計算する方法は、報酬金額により税率が異なります。
簡単には、報酬が100万円以下の場合は10.21%、100万円を超える場合は20.42%です。
源泉所得税の計算例
報酬の支払者(Aさん)
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
支払報酬 | 11万円 | 普通預金 | 9万9,790円 |
― | ― | 預り金 | 1万210円 |
合計 | 11万円 | 合計 | 11万円 |
報酬の受取者(Bさん)
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
普通預金 | 9万9,790円 | 売上 | 11万円 |
事業主貸 (源泉所得税) |
1万210円 | ― | ― |
合計 | 11万円 | 合計 | 11万円 |
報酬の支払者(Aさん)
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
預り金 | 1万210円 | 普通預金 | 1万210円 |
合計 | 1万210円 | 合計 | 1万210円 |
報酬の受取者(Bさん)
- 仕訳なし
フリーランスにおける源泉徴収の注意点
フリーランスの場合、源泉徴収に関する注意点は、報酬の支払者か受取者によって、異なります。それぞれを見ていきましょう。
報酬の支払者の場合
フリーランスの場合、源泉徴収義務者に該当しないことも!
フリーランスの場合は上述した通り、源泉徴収義務者に該当しないことがあります。源泉徴収義務者に該当しない場合の要件は以下2つです。
- 常時2人以下の家事使用人(家事使用人とは、家政婦・家政夫とも呼ばれる職種で、個人宅に出向き、掃除・洗濯・料理などの家事業務に従事する人を言います)のみに対して給与等の支払いをする個人
- 給与や退職金の支払いがなく、弁護士報酬などの報酬・料金だけを支払っている個人
よって、フリーランスで従業員を雇っていない場合、上記の「2」に該当することが多く、源泉徴収義務者に該当しないことが考えられます。自身が納税義務者に該当するか否かについて、注意が必要です。
報酬の受取者の場合
報酬の受取者(フリーランスとして仕事を受ける)の場合、仕事の発注者に対して発行する請求書において、源泉所得税を明記するようにしましょう。その際に注意すべき事項は、以下の2つです。
1. 源泉徴収の対象となる報酬か?
仕事を受けるフリーランス自身の報酬が、源泉徴収の対象か否かの確認が必要です。フリーランスで該当しそうな報酬は、原稿料や講演料及び広告やWebデザインに対する報酬となります。自身の報酬が源泉徴収について必要か否かを確認するようにしましょう。
2. 相手方が源泉徴収義務者か?
仕事の発注者がフリーランスの場合、源泉徴収義務者でない可能性があります。そのような場合は、事前に源泉徴収義務者であるか否かを事前に確認するようにしましょう。
確定申告書への記載
源泉徴収で支払っているのは所得税となります。よって、フリーランスが自身の確定申告を行う場合、確定申告書に源泉徴収税額を記載しないと、二重で所得税を払うことになりかねません。源泉徴収は、所得税の前払いの性格を有しますので、確定申告の際は、記載漏れに注意が必要です。
源泉徴収する側なら「源泉所得税の納付の特例」を知っておこう
あなたが、源泉徴収義務者に該当する場合は、「源泉所得税の納付の特例」についても押さえておくと便利です。
源泉所得税の納付の特例とは?
先ほど解説したように、報酬等を支払う際に源泉徴収を行った場合、原則として翌月の10日までに税務署に納税しなければなりません。ただし、一定の要件を満たしていれば、源泉所得税の「納期の特例」を利用できます。納期の特例を利用する場合の納期限は以下です。
源泉徴収を行った時期 | 納期限 |
1月~6月に源泉徴収した所得税 | 7月10日 |
7月~12月に源泉徴収した所得税 | 翌年1月20日 |
なお、源泉所得税の納付について、原則と特例の方法のいずれを選択しても、納税額が変動することはないため、どちらかが有利になることはありません。
フリーランスが納期の特例を利用するメリット
源泉所得税の納期の特例を利用すれば、本来は年12回行うはずの源泉所得税の納付手続きを年2回にまで減らすことができ、事務手続きの負担を軽減することが可能です。また、納付回数が減ることで、納付の遅れに伴う延滞税等のリスクも軽減できます。
一方、納付時期が半年に1回となりますので、毎月納付する場合とくらべ、納付自体を忘れるリスクがあります。1月と7月には、納付の手続きが必要であることを忘れない仕組みを作っておきましょう。
フリーランスが納期の特例を利用するデメリット
納期の特例を利用する場合、デメリットもあります。その代表例が資金繰りです。
半年分の源泉所得税をまとめて納付することで1回に納める金額が大きくなり、資金負担が重くなる可能性があります。特に、従業員を雇っているフリーランスの場合、源泉所得税を従業員からの預り金として、フリーランスの口座にプールした状態となっていますので、納税の際に、速やかに納税できるよう資金を確保しておく必要があります。
納期の特例を受けるための要件と手続き
納期の特例を受ける場合の要件と手続きについて、解説します。
要件は?
源泉所得税の納期の特例を利用したい場合、利用できる要件は、「給与等の支給人員が常時10人未満であること」です。判定の要件は、給与を支払う人数によって判断されるため、フリーランスの場合、多くの方が該当すると考えられるでしょう。
手続きはどうする?
源泉所得税の納期の特例を利用したい場合、税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することにより利用することができます。なお、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書は、国税庁のWebサイトでダウンロードすることが可能です。
申請書の提出時期による納付期限
納期の特例を利用する場合、この申請書を提出した月の翌月末日までに税務署長から承認または却下の通知がなければ、この申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとされます。税務署より承認があれば、申請の翌々月の納付分から納期の特例が適用できます。
例:2月中に申請書を提出した場合
源泉徴収した時期 | 特例の適用 | 納付期限 |
2月 | なし | 3月10日 |
3月 | あり | 7月10日 |
4月 | ||
5月 | ||
6月 |
源泉徴収にまつわるよくある質問
業務委託契約の場合、必ずしも源泉徴収票を取得する必要はありません。
源泉徴収票とは、従業員に対して給与等を支払った場合に、従業員が1年間で得た総収入金額と源泉徴収し納付した所得税額が記載されている書類です。所得税法226条において交付が義務付けられています。
ただし、上記の規定は、あくまでも雇用契約における給与を従業員に支払った場合の義務であり、業務委託先であるフリーランスへの交付義務はありません。
源泉徴収義務者の厚意により、源泉徴収票が送付されてくるケースも多いですが、基本的には、業務委託の支払者へ発行した請求書で税額を確認すれば問題ありません。
源泉所得税は、所得税の前払いのような意味合いで徴収されています。よって、受け取る報酬から源泉所得税が差し引かれている場合、確定申告書に記載することで二重に納めることを防ぐことができます。確定申告の際、「㊽」欄に源泉徴収税額を記載する欄に1年間で源泉徴収された金額を記載することで、税額が差し引き計算されます。
フリーランスの場合、確定申告を行うことで、1年間の納めるべき所得税額が計算されます。その際、1年間の納めるべき所得税額より源泉所得税額の方が多い場合は、納めるべき所得税額を超えた源泉所得税額は還付されることとなります。
副業の場合の源泉徴収ですが、たとえ副業であっても上記で紹介した講演料や原稿料などの支払いを受ける場合には、源泉徴収の対象となります。よって、本業・副業を問わず、源泉徴収の対象となる収入を得た場合には、源泉徴収が行われます。
フリーランスが報酬を受け取る場合や支払う場合、請求書における消費税の記載方法によって、源泉徴収の計算方法が異なります。
例:フリーランスが税理士報酬の11万円(税込)を支払う場合
請求書に「報酬金額の税込金額のみを記載」するか、「税抜金額 + 消費税額を記載」するかで源泉徴収税額の計算方法が異なりますので、注意するようにしましょう。
報酬と合わせて旅費交通費を支払う場合、原則は源泉徴収が必要です。たとえ、請求書等に旅費交通費が区分されていたとしても、源泉徴収しなければなりません。
ただし、以下の場合は源泉徴収不要です。
- 支払者が直接、ホテルや鉄道等の乗車券を手配した場合
- 受取者が乗車券等を手配しているが、領収書のあて名を支払者にして、実質的に支払者が手配したのと同様の場合
ケースによって源泉徴収の取り扱いが変わりますので、旅費交通費を受領する場合は、事前に金額の受け渡し方法を確認するようにしましょう。
まとめ
フリーランスの方であっても、源泉徴収が必要な報酬と、源泉徴収が不要な報酬があります。まずは、ご自身の報酬が源泉徴収の対象か否かを確認してみてください。また、報酬を支払う場合も、源泉徴収義務者に該当するか否かの判断が必要です。
自身の売上が源泉徴収の対象となる場合や、自身が源泉徴収義務者に該当する場合は、請求書の記載内容により源泉徴収税額の計算方法が異なることも。請求書の記載方法や計算方法を、事前に確認しておくことが重要です。実際に報酬の受け取りや支払いを行う際には、専門家の活用や税務署のWebサイトを参照し、間違いのない処理を心掛けましょう。