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人との関わりから、広がっていく視野が成長の証。同時通訳者・田中慶子『言葉にすれば願いは叶う』インタビュー

人との関わりから、広がっていく視野が成長の証。同時通訳者・田中慶子『言葉にすれば願いは叶う』インタビュー

無意識のうちに進んだ、同時通訳者/コーチングの道

田中慶子

もともと通訳者には興味があったんですか?

自分が通訳者になれるとは、まったく思ってなかったです。大学時代に「同時通訳になるためには20歳ぐらいまでに訓練を始めないとダメらしいよ」っていう間違った情報も聞いてましたし。ただ、私はアメリカの大学で学んでいるので、いわゆる経済とか政治とかの知識が全部英語で入ってるんですよ。それを日本語で言おうとすると出てこなくて、こういうとき同時通訳の人はどうしてるんだろう?っていう素朴な疑問があったんです。だから、エステってどんなことするんだろう?とか、オーロラって実際見るとどうなんだろう?っていうのと同じノリですね。それで知り合いに紹介してもらった学校に行ってみたら、たまたまCNNの同時通訳者育成校だったんです。

で、通訳学校に通い始めたら、とにかく楽しかったんですよ。心が傷ついているから、何か打ち込めることがあるのが嬉しかったし、久しぶりに勉強するということができて楽しかった。それで一生懸命勉強していたら、周りが「この子はよっぽど通訳になりたいんだな」って勘違いして、CNNのオーディションを受けないかと声をかけてくださったんです。それで記念受験のつもりで受けたら、まぐれで受かって。そこからフリーランスの同時通訳者になったという経緯です。

なるほど。でも、著書によると勉強を始める前に「あなたは同時通訳者になりなさい」と言われたこともあったんですよね?

そうなんです。NPOで働いていたとき、出張で行ったドイツで迷子になっちゃって。助けてくれた英語ペラペラのおじいさんに、そう言われたんですよ。

その方はドイツ系アメリカ人の同時通訳者の方で、同時通訳がいかに楽しい仕事なのかを、空港に行く電車の中でずっとしてくださったんですね。他にも、東西ドイツの歴史や社会の話で盛り上がって、空港で別れるときに“We need people like you”――君みたいな人が、この業界には必要だって言われました。そのときはNPOの仕事が天職だと思っていたし、自分が通訳になるなんて考えてもいなかったから鼻で笑っちゃったんですけど、そしたら、その半年後にNPOが破綻したんですよね。なので、そのおじいさんの言葉が心の中のどこかにはあったのかもしれないです。

あと、CNNでの仕事が軌道に乗ってきたころ、友達に「実は今、同時通訳の仕事してるんだよね」って打ち明けたら、「だって、やりたいって言ってたもんね」って返ってきて、ビックリしたこともあるんですよ。自分では記憶にないんですけど、同時通訳の学校に通ってるときに「なりたい」って言ってたみたいです。

そういうことって他にもあって。NPOに参加してたときも、アメリカの大学の単位が取れる制度があると聞いて、私、英語も全然話せないのに「どうやったら単位が取れるんですか?」ってスタッフの人に聞きに行ったことがあったんです。それで説明してもらって「アメリカで大学に行くこと考えてるの?」って言われたときに、私「YES」って答えたんですよ! 当時、アメリカで大学に行くなんてまったく考えてなかったから「なんで私は『YES』って言ってるんだろう?」って不思議に思ったのを、すごく覚えてます。

自分の無意識下にある願いが、意識をスルーして口から出たんでしょうね。著書のタイトル通り、まさに『言葉にすれば願いは叶う』。

それってコーチングしていると、よくあることなんですよ。クライアントさんの話を聞いて「つまり、これがやりたいんですよね」って指摘すると、よく「なんでわかるんですか!?」って驚かれるんです。いや、あなたさんざん自分で言ってましたよ?って思うんですけど、言った本人は気づいてない。そういった深層心理で願っていたり、悩んでいたりすることを引き出して、自覚させるのが、コーチの仕事のひとつなんですよね。

田中慶子『言葉にすれば願いは叶う』
言葉にすれば願いは叶う

だから私の中では、同時通訳とコーチングって、実は同じようなことをしているんですよ。通訳学校に通っていたとき、先生に「通訳は相手が何を言っているかを訳すのではなく、何を言わんとしているのかを汲み取って訳しなさい」と言われたんですが、つまり、通訳って「この言葉を言うことで、この人は何を言いたいんだろうか?」というのを常に考える仕事なんです。

相手の口から出た言葉を「つまり、こういうことが言いたいんですね」と他の言語に訳してアウトプットするのが通訳なら、コーチは相手から出てくる言葉を読み解いて、その人の頭の中にあるけれど、まだ言語化されていないことを「つまり、あなたが今、悩んでいること、願っていることはこれですよね」と通訳していく。あくまでもクライアント本人に見つけてもらうことが目的なので、コーチはアドバイスもしないんですよ。そこがカウンセラーとは違うところですね。

そもそも同時通訳の仕事をしながら、コーチングの勉強を始められたキッカケは何だったんでしょうか?

私、とにかく人の話を聞くのが好きで、子どもの頃から新聞の日曜版に載ってる悩み相談とかを読んでたんですよ。人が何を考えて、何を悩んで、どういう人生を生きているのか?ってことが、聞きたくて仕方なかった。通訳もアウトプットに至るまでは人の話を聞ける仕事なので、だから楽しいんですよね。例えば、長距離フライトで隣に座った見ず知らずの人に深刻な悩みを打ち明けられて、相談に乗ることもよくありました。通訳の仕事も移動時間などにクライアントさんと雑談をしていると、愚痴や悩みをポロッとお話ししてくださることがあるんです。

だけど、通訳って守秘義務が厳しい仕事だから、言えないことも多いんですよ。例えば「上司が嫌いで我慢できないから会社をやめようと思ってるんです」って言われた、その上司が実は3カ月後に異動になることを、通訳で入った別の会議で聞いていたりすることもある。人の話を聞くのは好きだし助けたいけど、言えないことが多すぎるのが苦しくなってきちゃったんです。

そんなときに、NPO時代の後輩が当時、日本に入ってきたばかりのコーチングの話をしてくれて。「アドバイスはせずに、ひたすら話を聞いて、その人が自分で解決するのを助ける仕事」と聞いて、「これだ!」とピンときちゃったんですよね。それで最初は日本で学校を探してたんですけど、知り合いに「コーチングはアメリカが本場なんだから、アメリカで学んだほうがいいんじゃない」と言われて、コロンビア大学でやっていた社会人向けプログラムでコーチングの資格を取りました。現地に行く必要があるのは最初と最後の集中講義だけで、基本はオンラインだったから、日本にいながらでも参加できたんですよ。

結果、今では仕事のうちコーチングの占める割合が、かなり多くなっているとか。

はい。でも、最初は仕事にするつもりはなかったんです。ただ、名刺に「コーチ」って併記していると、興味を持たれて「じゃあ、やってください」とお願いされたり、あと、同時通訳者でコーチって書いてあると「英語を教えてくれるんですか?」と聞かれたりもするんですよね。それで、例えば急に英語でスピーチしなきゃいけないとか、国際会議に出なきゃいけないとかって方に対して、コーチングのアプローチで「何を勉強すればいいのか?」を探っていく、いわば英語とコーチングを融合させたようなことも今はやっています。

そしてコロナ禍の時には、本当に先が見えなかったから、その中でdecision making(意思決定)しなきゃいけない経営者の方々の間で、コーチングのニーズがすごく高まったんですよね。

経営者の方って重要な意思決定を担わなければいけませんから、どうしても何かに頼りたくなりがちで、それこそ占い師に頼る方も多かったりしますよね。

そうそう! 優秀な経営者の方って、誰かと話しているうちに自分で答えを見つけることができるんですよね。だから、話を聞くことのプロフェッショナルであれば、何を頼ってもいいと正直なところ思ってるんです。そういう意味では、私個人としては占い師も、カウンセラーも、コーチも、銀座のママも、みんな同じ。

余談ですけど私、人生120歳まで生きて、100歳を超えたら占い師になるって決めてるんですよ(笑)。通訳もコーチも相手の話を聞いて、何を言えば相手にとってベストなのかを常に考える仕事だから、最後は自分の独断と主観だけで言いたい放題言える仕事につきたいなって(笑)。

「本当の学びの豊かさは人との関わりからこそ得られる」

田中慶子

占い師だからって言いたい放題言えるわけじゃありませんよ(笑)。ただ、お話を聞いていて、この『言葉にすれば願いは叶う』を田中さんが書かれた理由がわかってきました。人の話を聞くことが好きだと、自然と相手の幸せを願う気持ちが芽生えますよね。本書は、まさにその願いを叶えるための最高のガイドになりそうですから。

ああ、そうかも。この本に載せているフレーズって、私が心の支えにしている言葉ばかりなんですよ。全部誰かが私に言ってくれた言葉で、もちろん、この人の支えに……なんて意識して言ってくれたわけじゃないだろうけど、無意識でポロッと話したことが誰かにとって大事な言葉になる――そういうことってあるじゃないですか。

「言霊」という日本語がありますが、言葉にすることで、まずは自分自身が自分の願いを自覚できる。そして他者とも共有できる。そういう言葉の力を、この本を通して感じてもらいたかったんですよね。で、それが英語だと、ちょっとお得な気持ちになるじゃないですか? 読んでみて仮につまらなかったとしても、英語のフレーズを1個覚えられたから、まぁ、いいやってなれるし(笑)。

あと個人的には、そんな大切な言葉をくれた人たちのことを、知ってほしいという気持ちもあります。みんな別に有名人でもなく、大半は普通の人たちだけど、こういう素敵な人たちって、絶対に誰の周りにもいるはずなんですよ。そういった人との関わりの中で、例えば影響されて何か勉強を始めたりとか、人間って成長し、作られていくものなんですよね。

わかります。本書の中で私が一番感銘を受けたのも、田中さんの「本当の学びの豊かさは人との関わりからこそ得られる」という文言でしたから。

ただ、人との関わりといっても、そんな大げさなものじゃなくて、まずは自分の半径1メートルにいる身近な人を大切にしようってことなんです。自分の周りの人が幸せじゃなかったら、絶対自分も幸せになれませんから。

そして通訳の仕事やコーチングを通して人が成長していく姿を見ていくうちに、自分の“身近”の半径が広がっていくことが成長なんだと感じるようになったんです。子どものときの身近な人って家族や友達だけだったのが、会社員になれば部署の人、社長になれば社員全員が幸せじゃないと、自分も良い仕事をしたことにならないから満足できないですよね。そうやって自分の視野が広がっていくことが、成長なのかなぁって思うんです。

それこそ「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざ通り、自分とは遠い世界のように見えること――例えば中東問題とかウクライナの戦争とかにしても、今、私の生きている世界で起こっていることで、何らかの影響が自分にも必ずある。それを知らずして、私が幸せでいられるんだろうか?といった広い視野を持てるようになることが「成長」なんだと思うんですよね。

まさに、そういった自分を成長させる“人との関わり”を収めたのが本書ですもんね。それにしても『言葉にすれば願いは叶う』というタイトルは言い得て妙で、本文中には出てこないフレーズなのに、どこから付けられたんでしょう?

みなさんに褒めていただくんですが、これは出版社の方が決めてくださいました(笑)。表紙も紙もフォントもデザインも「素敵だね」って言っていただくんですが、それも全て出版社の方がやってくださって、これだけ丁寧な“プロの仕事”をしてくださる方々とお仕事できたことは、すごく幸せでしたね。

ただ、タイトルの「かなう」は最初ひらがなだったんですけど、そこだけは「叶う」と漢字にしてほしいと、私からお願いしました。「叶」という字は「口」と「十」で出来ていて、つまり口に十回出すことで願いに近づけるという意味があるんですよね。だから、ここだけはどうしても漢字にしてほしかったんです。

素敵なメッセージですね。取材の際、いつも最後は「フリーランスの方、フリーランスを目指している方に一言」とお願いするのですが、フリーランス云々は関係なく胸に刺さりました。

私も、よく「独立したい」とか「フリーランスとして生きていくには、どうしたらいい?」って聞かれるんですけど、フリーランスって目指すものじゃないと思っているんですよ。目標ではなく、あくまでも手段だから、働き方の選択肢くらいに考えたほうがいい。

例えば、私は団体行動ができないから会社員は窮屈だったけど、逆に組織に帰属してる方が安心する人もいますよね。だから、どっちがいいって話じゃない。まず、自分は何をしたいのか?を考えて、そのためにはどういう働き方がいいのか?を考えるほうが近道なんじゃないかと思います。

田中慶子

撮影/中野賢太@_kentanakano