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保育士・てぃ先生に聞いた「現役」の意味と「辞める」選択

てぃ先生

現役の保育士として勤務しながら、保育園での愛らしい子どもたちの言動をつぶやいたツイートで人気となり、今年4月からはNHK Eテレ『ハロー!ちびっこモンスター』にレギュラー出演するなど、メディアにも多数出演されている、てぃ先生。YouTubeでは子育てにまつわるお役立ち情報を紹介していたりと、令和の保育の現場から子育てに関する実用的なアイディアを幅広く発信するだけでなく、他園で保育内容へのアドバイスを行う「顧問保育士」の創設・就任など、保育士の働き方・活躍の場を広げる取り組みも積極的に実践しています。

そこに至る経緯や、活動を続ける理由をうかがう中で飛び出してきたのは「僕のやりたいことは、保護者の“余裕”というものを、どうやったら作れるか?ということ」という言葉。親、子ども、保育士の三者がWin-Win-Winになれる保育環境の実現を目指して、“てぃ先生だからできること”を追い求めてきた今、現在の本音を語っていただきました。

profile
てぃ先生
関東の保育園に勤める保育士(呼び方は“T”先生)。子どもたちの日常をつぶやいたTwitterが好評を博しフォロワー数が50万人を超え、子育てや保育に関する役立つ情報を発信したYouTubeチャンネルも登録者数が70万人以上。SNS総フォロワー数は140万人超と、保育士としては日本一の数をほこる。育児本『てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』などの執筆活動に加え、講演・メディア出演も多数に及ぶ。
https://twitter.com/_happyboy
https://www.youtube.com/channel/UCEip3Uo6j4d9Hgal-wdmfuw
https://www.instagram.com/tsenseidayo/
https://tsensei.com/

保育士を「辞めたい」と思った

てぃ先生

つい先日、アミューズとマネジメント契約されることが発表されましたが、保育士としては現在、どのような雇用形態で働かれているんでしょう?

自分の会社を持っているので、業務委託に近いですね。ただ、自分の担任のクラスは持っていますし、てぃ先生としての活動は、その間を見つけて、という感じです。

マネジメント契約は、あくまでもメディア活動におけるサポートを受けるためで、「てぃ先生としての活動が保育士としての活動を上回らないことは絶対的なルール」とも仰っていましたもんね。

単純に、タレントじゃないですからね(笑)。タレントになりたいわけでもないし、ただ、いくら“違う”と自分が言い張っても、メディアに出ることで世間からはそう見られる可能性もある。じゃあ、僕がタレントでないことの一番わかりやすい指標は、どれだけ保育に時間を割いているかだろうと。

なるほど。保育士を志して専門学校に入ったとき、あまりの男子学生の少なさに驚かれたと以前インタビューで話してらっしゃいましたが、そもそも保育士になられたキッカケって、やっぱり子どもがお好きだからなんですよね?

もちろん好きですけど、大抵の人は子ども好きじゃないですか(笑)。子どもが好きだから保育士を職業に選んだというよりは、もともと専門職に就きたかったのと、かつ自分に興味・関心があり、現実的な仕事という条件に合致したのが、たまたま保育士だったんです。“子どもが好き”ってだけで続けられる職業じゃないですから。実際「辞めたいな」って思ったこと、1万回以上ありますよ。

その理由は、やはり待遇面でしょうか?

うーん……どちらかというと、負担面ですかね。保育士に過重な負担がかかっていること自体もそうだし、それを改善しようとしない施設側の旧態依然とした怠惰さもそうだし。でも、そういう問題って別に保育園や幼稚園だから起こっているわけではなく、どんな一流企業でも同じだと思うんですよ。よく“保育士は人間関係で職場を辞める人が多い”とか聞きますけど、どこの業界だってそうでしょうし、保育士に特有の問題ってわけでもない。

それくらい特別な業界ではないと仰いつつ、現在では講演会だったりテレビ等のメディア出演をされたりするほど注目を集めるようになったのって、なぜでしょう?

子育てとか保育って、誰にでも語りやすいんですよ。本来、専門的な話になればなるほど語れる人が少なくなるから、そのテーマって広がらないんです。保育とか教育も本来は専門家の領域のはずなんですけど、教育ってプロの人たちに限らず、誰でも受けてきているんですよね。

確かに!

自分が保育や教育のプロでなくても、子育てをしたことがなくても、物心がつく年齢にさえなっていれば、自分が今までに受けてきた保育や子育てがあるじゃないですか。だから、みんなに興味・関心があるとか、子どものことを宝物みたいに考えてるとかっていう綺麗なことじゃなく、あくまで自分が語れる話だからってことに尽きると思います。

とはいえ、年齢が上がれば上がるほど自分の経験は今の状況からかけ離れていくし、自分が今の保育園や幼稚園の状況をわかっているわけでもないから、例えば「通園バスに子どもを置き去りにしないために土足禁止にしたらどうか」という案もでる。ただでさえ保育士の仕事に余裕がなくてパンパンのところに、さらに一人ずつ靴をはかせて人数を確認して……という手間を取れる園なんて、実際わずかです。命を守るより大事な業務はありません。ただ、だからと言って無闇に保育士の負担を増やすことは、別の業務への皺寄せにもなります。「バスへの置き去りは無くなりました。でも負担が増えたことが原因で別の事故が増えました」は本末転倒ですから。

世間の人たちにアイディアを出してもらえるのは有り難いけれど、キチンと情報の精査をして、実際問題できることとできないことがあるんだっていうのは、現場の誰かがちゃんと言わなきゃいけない。今のところはそれを僕以外に目立って言える人がいないから、やらざるをえないって話ですね。黙ったままでいて社会の声に押された結果、実践して被害を被るのは現場側・子ども側ですから。

理想的なアイディアと、それを実際に運用できるか否かは別問題ですもんね。そういった現場の声を発信することで、同業者の方々から何かしらの反応もあります?

はい。例えば保育園とかって、壁にお飾りがメチャメチャ貼ってあるものだったんですけど、僕がずっと「あんなの必要ない!」って言い続けていたら、少なくなってきたとか。もちろん僕の発信だけが理由ではないんですけど。実際に何かが変わるかはさておき、「それは本当に必要なものなのか考えたほうがいい」って発信してくれる声の大きな人がいるっていうだけで安心しました、っていう声もいただきますね。

有意義な選択肢は多いほどいい

てぃ先生

そうやって有意義な発信をされつつ、影響力の大きさのあまりテレビ出演時の発言が本意とは違う方向に曲解されてしまったりと、ご苦労も多いですよね。

あれは「独身の保育士は育児のアドバイスをするな」と言われたことから始まっているんですよ。僕が「このやり方が絶対に正しいから、僕の言う通り育児したほうがいいですよ」って言ったんだとしたら、独身で自分の子どももいないのに……って批判されても当たり前かなと思います。だけど僕、そんな発言は一回もしたことがなくて、「こういう方法が保育園で上手くいったので、お家でもやってみたらどうでしょう」っていうだけなんですよね。

その方法も一つだけじゃなくて、10個でも20個でも選択肢があればあるほど“いざ”っていうときに助かるから、頭の片隅にでも入れておくといいのでは?っていう提案でしかない。

すべての子どもに当てはまる解決法なんて存在しないですから、選択肢は多ければ多いほど良いに決まっていますよね。

その通りです。保育園という場所でいろんなタイプの子どもに接して、知識や経験を積めば、当然アイディアもたくさん見つかるし、提案できることの数も増えてくるわけで。そこに結婚しているか否か、子どもがいるか否かなんて関係ないじゃないですか。

子育てと保育のどっちが上かを決めたがる人もいますけど、そんなのも無い。僕が保育園で得たアイディアを提案しているように、逆に、家庭で上手くいったことを保育園で実践したっていいわけですよね。「こういう方法でご飯食べてみたら上手くいったので、保育園でうちの子が食べなかったら、この方法を試してもらえませんか?」も全然アリなわけで、別にどちらがすごいって話でもないんです。

選択肢という話に関連して、今、保育の現場に男性保育士が極めて少ない現状については、どんな風に考えていらっしゃいます? 例えば男児には、やはり男性保育士のほうが対応しやすいと感じているとか。

その質問よく受けるんですけど、まったく増えなくていいと思います! 保育園で必要なのは男性保育士ではなく優秀な保育士であって、それが男性であろうが女性であろうが関係ないんですよね。男性保育士だから男児の気持ちがわかるかって言ったら、そんなことはない。あくまでも“その子”にとっての理解者になれるかどうかということで、そこに男女の性別は関係ないと思います。

一人ひとりに合わせた保育をするというのがメチャメチャ基本的な話であり、でも、それができている保育園・保育士って実は少数のように感じるんです。だから、本当の意味でその子にとってのベストを、きちんと再現性高く行える保育士っていうのが、恐らく“良い先生”なんじゃないでしょうか。すごく良い対応をしてくれるけど、その当人にしかタイミングがわからないのではいけない。それをちゃんと言語化・可視化できれば、他の先生も再現できるし、園全体の質が上がりますよね。

保育や教育の分野だけじゃなく、他の畑から来た人でもいいかもしれないですね。でも現状では他の畑から保育・教育業界に入ってくるメリットが、やりがいくらいしかないのが難しいところですが。

言語化能力が高くて、自分のスキルを他人と共有できる力のある人ということですね。ちなみに“メリットはやりがいだけ”という言葉が出ましたが、てぃ先生の感じる保育の“やりがい”って何でしょう?

それは実際に働いてみた先生がどうなのか?によりますよ。一般的には“子どもの成長を感じられるのがやりがい”とされていますけど、僕は子どもというより、保護者の方が喜んでくれるのが一番嬉しいんです。でも、そう言うと「いや、子どもを一番に置かないなんて!」って驚く人もいるわけだから、そこは人それぞれですよね。

“保護者が喜ぶのが嬉しい”というのは、思うに、それがダイレクトに子どもの喜びに直結するからじゃありません?

それはその通りです。子どもに対して保育士は当然ベストを尽くすので、保育園の中で良い保育をするっていうのは当たり前のことなんですよね。じゃあ、それ以上にどうしたら保育士として、その園としての価値を上げられるかというと、やっぱりご家庭で良い子育てができるお手伝いをすることだと思うんです。

そこで重要なのが“余裕”で、お父さんお母さんたちに余裕があったら、僕みたいな人間がアドバイスしなくても、たぶん楽しく子育てできるんですよ。例えば、あと1分後に家を出なきゃいけないってときに、子どもが玄関で「靴はきたくない」って泣いたら、たぶん誰でもイライラしますよね。でも、あと1時間後に家を出ますっていうときに、同じように子どもが泣いたとしてもイライラしない。余裕があるから。じゃあ、その余裕というものを、どうやったら作れるか?っていうのが、たぶん僕のやりたいことなんですよね。

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