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やる気が続かない! 目の前の仕事を「先延ばし」しないための工夫とは。外山美樹『すぐやる人の頭の中 心理学で先延ばしをなくす』インタビュー

やる気を邪魔する“環境”に飲み込まれないために

例えば、本書の執筆の際にも「締め切りに間に合わなかった未来」なんてものを想像したりされたんですか?

そこはこの本を担当してくださった編集者の方が素晴らしくて、1週間に1回必ず打ち合わせを入れてくださったんです。そうなると、次の打ち合わせまでには何かしないといけないなという気持ちになるんですね。

7つのキーワードを決めて1週間で学べるようにするという枠組みから一緒に決めて、実際の執筆は1週間に1章のペースだったので2カ月くらいでしたけど、おかげで何も苦しむことなく、楽しく執筆できたんです。なので、そういった環境設計は本当に大事なんだなと身をもって実感しました。

実際、私が所属している筑波大学は、学生さんも教員も研究とか学問に対して真摯に向き合っている方が多いので、そういったところからポジティブな影響を受けることも多いんです。

自分で上手く計画を立てられないときは、そうやって周りに頼るのも良いことですよね。ただ、逆に“周り”がモチベーションを阻害してくる場合は、どうしたらいいんでしょう?

それは本当に難しいと思います。やる気だったり目標に向かうための自制心は、個人の内面から生まれるものであると同時に、やはり社会的に共有されて影響し合うものなので、ポジティブな影響だけでなくネガティブな影響も受けやすいんです。

同じ目標を持った人間と常に切磋琢磨していける環境というのが本来は望ましいですが、まったくそうではない環境に置かれてしまうこともありますからね。

とはいえ、そこでスッパリ人間関係を絶つことも難しいでしょうから、少なくとも心理的には距離を取るであったり、自分なりの工夫が必要なのかなというふうには思います。

良くない誘惑に引っ張られてしまわないように、常に自分の目標を言葉にして目に入るところに掲げておくとか、もし誘われたときはこうかわすという実行意図をあらかじめ決めておくとか。周囲がネガティブな場合、自分1人の意志の力で乗り切るのはすごく難しいので、環境に飲み込まれにくい仕組みを作ることは必要でしょうね。

環境が行動に影響を及ぼすとなると、外山さんが指導されている学生さんは当然こういった心理学やモチベーションの研究に携わっているわけですから、先延ばしせずレポートもキチンと提出されているのでは?

どうなんでしょう?(笑) モチベーションの研究をやりたがる人は、もともとモチベーションに困っている人が多いんです。心理学を研究している人って自分の問題を研究しているケースが多いので、例えば人間関係で困ってる人は、人間関係を良くするためにはどうすれば良いのか?というテーマに取り組んでいたりする。なので、研究テーマを見れば、その人がどんな人で何に困っているのか、ある程度わかるんですよ。

だから私が指導している学生さんも、モチベーションで悩む方も少なくないんですけれど、少しずつ「こうすればいいんだな」とか「こういう工夫ができるんだな」ということを学んで、改善はされていっているんじゃないかとは思います。

それを伺って腑に落ちました。本書に何度も「私は意志が弱くて」とか「つい先延ばしにしてしまう」と書かれていたので、先延ばしの研究をされている方ご自身に先延ばし癖があるなんて珍しいなと思っていたのですが、きっと逆ですね。先延ばし癖があるから、それを解消するための研究をしている。

もちろんそうです。モチベーションの研究をしていると言うと、一般の方には「モチベーションに溢れている意欲満々な人なんだろう」と思われがちなんですが、まったくそんなことはない。だから、いかに効率よくモチベーションを高められるか?ということを研究しているわけで、もともとモチベーションの高い人は、モチベーションの研究をする必要なんてないんですよ。

結果よりも成長を。失敗を恐れず学びを得よう

おっしゃる通りですね。そして「自制心は枯渇する」ということともう1つ、本書で個人的に衝撃を受けたのが「不必要な目標に資源を割く必要はない」ということだったんです。高い目標を掲げて達成するように頑張ることって、無条件に“良いこと”だと捉えがちですが、実現不可能なほど高い目標を追うのはエネルギーの無駄遣いであり、加えて、その目標を達成することで本当自分は幸せになれるのか?ということを考えるのは、非常に重要なことだと改めて気づかされました。

特に、日本は努力が美徳だとされている文化なので、とにかくガムシャラに頑張ればいいと考えている方も多いですが、本当にこの目標は自分の為になっているのか?という問いかけは、常に大事なんじゃないかと思います。

例えば「痩せなきゃ」と望む理由が健康的な生活を送りたいからであれば、その目標を追求することは大事でしょうけれど、他人の目が気になるからなのであれば一度、手放してもいいかもしれません。やはり、あくまでも主軸は自分ですので。

また、目標は高すぎても低すぎても行動の持続には繋がりにくいことがわかっているんです。自分の現実的な能力や状況に照らし合わせて、ちょっと背伸びが必要なくらいの目標が最も効果的なので、例えばTOEICで500点の人が、すぐに800点を狙うのは難しく、途中で勉強が続かなくなりがちです。そもそも、そういった成果目標というのは成功すれば達成感がありますけど、ダメだったときの失望感も大きいんです。

なので、例えば「3カ月で5キロ痩せる」というような成果目標ではなく、「週に3回ジムに行く」といったプロセス目標を掲げたほうが、自分の行動でコントロール可能なぶん、続けやすくて成功体験にも繋がりやすいと言われているんですよね。

なるほど。ジムに通った結果として5キロ痩せられれば、それがベストですもんね。

そうです。もちろん人によっては成果目標のほうがやる気が出て、失敗してもリベンジに燃えられるタイプの人もいますから、一概に成果目標が悪いということは言えませんが。ただ、理想の結果を出せたか否かではなく、やはり自分がいかに成長したか?ということに目を向けることも大切です。

結果よりも成長を実感できることがモチベーションにも繋がりますし、失敗したらダメなわけじゃなく、失敗しても自分なりに学びがあればいい。そうやって考え方をシフトした結果、その人が少しでも楽になったり、より良い人生を送れるようになっていただければ、私も研究者としてやりがいを感じられるんですよね。

もしかして、それが外山さんの究極の目標なんでしょうか? ご自分の研究を通じて社会だったり、同じ時代に生きている人間が、少しでも良い方向に向かってほしいという。

最終的な目標は、やっぱりそこだと思います。モチベーションを維持するとか、先延ばしを回避するとか言っていますけど、結局は「人が少しでもより良い人生を送るためにはどうしたら良いのか?」というのが、究極的なテーマになっているのかもしれない。おそらく心理学者は、そうなんじゃないかと思いますね。

特に、私が研究しているモチベーションは、教育とか組織マネージメント、福祉、メンタルヘルスといった幅広い分野と接点があるので、将来的には学問と実社会の橋渡しをする“実践できる研究者”という役割になれるといいなとは考えています。そういったタイプの研究者が、今後はより求められていくのではないかなと。

いわゆる研究室だけに籠もって座学だけをしているのではなく、研究で得た知見を実社会にフィードバックできる研究者ということですね。研究者の重要な役割の1つとして、後進を育てるということもありますが、そちらに関してはいかがですか?

そもそも私は教育が好きなので、後進を育てることを仕事として捉えているというよりも、やりがいを持って楽しくてやっている感覚のほうが強いです。

さっきも少し言いましたが、人が変わるのを目の当たりにすると、本当に感動を覚えるんですよ! なので知識や技術を伝えるだけではなく、いろいろな問いを立てる力だったり、研究を面白がる感性を一緒に育てていくことを重視しているんですね。

そこで失敗を恐れずに挑戦し続けたり、自分なりの問いを深めていく姿勢を育てるには、私自身も常に学び続ける必要があるので、刺激も受けますし魅力も感じるんです。よく「育てることは同時に育てられることでもある」と言いますけれど、そこに私は生き甲斐を感じていて、そういう意味でも今、自分が置かれている環境は本当に幸せだなと思っています。

ちなみに、今回は“先延ばしをなくす”ということをテーマに書かれましたが、次にまとめてみたいテーマってあったりしますか?

何でしょうね。今回は、やる気はあるのに行動に移せないという現象に焦点を当てたので、例えば、やる気がない人に対してはどうしたらいいのか?とか。あとは頑張りすぎることの弊害とか、同じモチベーションの分野でも、いろいろな視点があるのではないかと思います。研究はすごく好きで楽しいので、そこで得られた知見を今後も社会のみなさんと分かち合っていきたいですね。

好きなことを仕事にした結果、それが好きでなくなってしまったという話も、フリーランスの間ではよく聞くのですが、外山さんはそういった経験もなく?

はい。私は本当に研究者という仕事が面白くて飽きることがないので、好きなことが嫌いになった経験はないですね。ただ、好きなことが嫌いになったのなら、それを無理に続ける必要はなくて、また別の好きなことを見つけられればいいのではないかというふうには思います。そういえば、私は「目標を諦める」という研究を、ずっとしているんですよ。

「諦める」がテーマとは、それは非常に面白そうですね!

日本人って1つの目標を追求するのが大事だと刷り込まれている部分もありますが、追求するのと同時に“諦める”というのも、すごく重要なことなんです。ただ、やっぱり今までやってきたことを諦めるというのは、すごく難しいことなんですよね。じゃあ、どうやって次の目標にシフトできるのか?というのを、今、ちょうど研究しているところなので、ただ諦めるだけでなく、別の新しい目標を見つけられれば、まったく問題ないと思います。このあたりのことも、いつかまとめて世に出せればいいですね。